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異世界に召喚されたけど、戦えないので牧場経営します~勝手に集まってくる動物達が、みんな普通じゃないんだけど!?~  作者: 黒蓬


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第81話 三本の尾を持つ火狐

朝日が牧場を柔らかく照らす中、悠真は家の前でヒエンのための小さな止まり木を作っていた。神殿で出会ってからすでに一週間が経ち、赤い小鳥は完全に牧場の一員となっていた。


「この高さでいいかな」


悠真が呟くと、肩に止まっていたヒエンが「フィー!」と鳴きながら飛び立ち、完成したばかりの止まり木に着地した。小さな頭を傾げ、あちこちを見回してから満足げに羽ばたかせる。


「気に入ったみたいだな」


悠真がほっとした表情を浮かべていると、遠くから轟音が響いてきた。山の方向を見ると、わずかに雲が揺れている。


「また始まったか……」


ハクエンは牧場に来てから、時々シギュラの住処まで行っては勝負を挑んでいるようだった。初めて再会した時のような激しい戦いではなく、鍛錬のようなものらしいが、それでもこの距離まで響く音は、二人の力の凄まじさを物語っていた。


「あの二人、本気を出したらどうなるんだろう……」


考えただけで身震いがする。そんな悠真の脇を、フレアが駆け抜けていった。赤い毛並みが朝日に映えて燃えるように輝いている。尻尾の先端の白い部分が印象的な火狐だ。


「悠真さん、お茶のお代わりどうですか?」


リーフィアが新しいポットを持って現れた。透き通るような銀色の髪が朝の光を浴びて輝いている。


「ありがとう。いただくよ」


悠真がカップを差し出すと、リーフィアは香り高いハーブティーを注いだ。


「今日もハクエンさんとシギュラさんの勝負が始まったようですね」


「ああ。シギュラさんは鍛錬みたいなものって言ってたけど、それでもここまで音が響いてくるんだから恐ろしいよな」


悠真が苦笑すると、リーフィアも微笑んだ。


「二人とも強いですからね。でも、牧場の皆には迷惑をかけないように気を使ってくれていますよ」


確かにそうだ。二人は必ず牧場から離れた山奥で戦っている。それでも響く音を思うと、その規模がどれほどのものか想像するだけで身震いがした。


朝食を終え、悠真が動物たちの様子を見回っていると、納屋の方からリオンが走ってきた。


「悠真さん!大変です!フレアが……フレアの様子が変なんです!」


「フレアが?分かった。すぐ行こう」


悠真はリオンについて急いで納屋へ向かった。納屋の中に入ると、アクアとテラが心配そうにフレアの周りに集まっていた。そして——。


「これは……」


悠真は目を見開いた。赤い毛並みが美しい火狐のフレアが、混乱したように円を描くように動き回っている。だが、驚くべきはその姿だった。いつもは一本だったはずの尾が、今は三本に増えていたのだ。しかも、それぞれの尾の先端から小さな炎がパチパチと燃え上がっている。


「ミュー!」


テラが心配そうにフレアに近づこうとするが、フレアが慌てて後ずさる。


「コン!コンコン!」


フレアの鳴き声には明らかな動揺が含まれていた。


「落ち着けフレア。大丈夫だ」


悠真がそっと手を伸ばしたその時、フレアの尾から小さな火の粒が舞い上がり、あっという間に納屋の壁に燃え移った。


「わっ!」


リオンが慌てて水桶を持ってきて火を消す。


「何があったんでしょうか?昨日までは普通だったのに」


リオンが困惑した様子で尋ねる。悠真も首を傾げた。


「分からないな……朝起きたらこうなっていたのか?」


「はい。朝食を配ろうとしたら、フレアの尾が増えていて……最初は驚いて悲鳴を上げちゃいました。そしたらフレアもびっくりして、尾から火が出て……」


リオンが説明している間も、フレアは落ち着かない様子で納屋の中をウロウロしていた。時折、尾から火花が散るたびに、フレア自身が驚いて飛び上がる。


「とにかく、外の安全な場所に移そう」


悠真たちが誘導して、フレアを納屋から出し、石畳の広場へと連れていく。そこなら火の心配は少ない。


「フレア、大丈夫だよ。落ち着いて」


悠真はゆっくりと近づき、フレアの頭を優しく撫でた。最初は身を固くしていたフレアだが、次第に緊張が解けていく。


「コン……」


少し落ち着いたようだが、三本の尾はまだ不安定に揺れ、時折小さな火の粒を散らしていた。


「悠真さん、これって成長の証なんでしょうか?」


リーフィアが近づいてきて、不思議そうに尋ねた。


「かもしれないな。エイドさんに聞いてみれば何か分かるかもしれないが……」


そう言いかけた時、遠くから聞こえていた轟音が止み、代わりに大きな風の音が近づいてきた。


「風?いや、これは……」


振り返ると、風と共に青い炎のような模様が走る純白の毛を持つ巨大な虎、ハクエンが戻ってきていた。


「ハクエンさん、お帰りなさい」


「今日はいつもより早く戻ってきたんだな」


悠真がそう言うと、ハクエンは琥珀色の目で直接彼を見つめ返した。


『あぁ、何か変な気配を感じたんでな』


そして、ハクエンの視線はフレアへと移る。


『原因はこいつか』


ハクエンは優雅な足取りでフレアに近づいた。フレアは身を低くし、警戒している様子だったが、逃げることはなかった。


『恐れるな。その力は祝福だ』


ハクエンがフレアの前で座り込み、静かに語りかける。


「ハクエン、フレアの状態を知っているのか?」


悠真が尋ねると、ハクエンは頷いた。


『火狐ってのは、才能がある奴ほど複数の尾を持つようになるんだよ』


「ということは、フレアは強くなったってことか?」


悠真が少し安心してそう聞くが、フレアは相変わらず戸惑った様子だ。尾から火花が散り、地面の草を焦がす。


『まぁな。だが、初めて尾を得たことでその力を制御できていないようだな』


ハクエンの言葉に、フレアは悲しげな声で鳴いた。自分の力で大切な牧場や仲間たちに危害を与えるかもしれないという恐れが見て取れる。


「何か方法はないのか?フレアが力をコントロールできるように」


悠真が問うと、ハクエンはしばらくの沈黙の後、静かに立ち上がった。


『面倒だが仕方ねぇ。俺が教えてやる。だが、やる以上手加減はしねえ。覚悟は良いか火狐、いやフレアだったか』


フレアは一瞬たじろいだが、すぐに決意したように頷いた。


「コンコン!」


「フレア、本当に大丈夫か?」


悠真が心配して言うと、フレアは悠真の方を向いて優しく鳴いた。


『よし、なら始める前に少しここから離れるか』


ハクエンが言うと、悠真も頷いた。修行なら、安全な場所で行うべきだろう。


「私も様子を見に行きます」


リーフィアが言い、リオンも「僕も!」と手を挙げた。


――――――


牧場の端にある小さな岩場。そこは以前からハクエンがくつろぐのを好む場所だった。水場からは離れていて、周囲には樹木も少ない。


『まずは呼吸だ』


ハクエンがフレアの前に座り、静かに指示を出す。


『力は呼吸から生まれる。深く、ゆっくりと』


フレアは言われるままに、目を閉じ、深い呼吸を始めた。最初は乱れていたが、次第に落ち着いていく。


『良いぞ。次に、尾の感覚を捉えろ。一本ではなく、三本全てを自分の一部として感じるんだ』


フレアの三本の尾がゆっくりと左右に揺れる。まだ完全には制御できていないようだが、呼吸に合わせて少しずつリズムが生まれていた。


「すごいですね」


リーフィアが小声で言う。悠真も頷く。


「ハクエンには教え上手な一面もあったんだな」


修行は続き、太陽が頭上に来た頃には、フレアは尾を静止させることができるようになっていた。しかし、感情が高ぶると制御が効かなくなるようだ。


『もう少しってところか……』


ハクエンは前足で地面を引っ掻き、小さな円を描いた。


『次はこの円の中だけで火を燃やせ。それ以上に広がらないようにだ』


フレアは真剣な表情で円を見つめ、集中し始めた。尾の先から小さな火の粒が現れ、円の中心に向かって飛んでいく。だが、火は強すぎて円をはみ出し、周囲の小石を焦がした。


「おっと」


悠真がすかさず水筒の水を取り出して消す。フレアは落胆した様子で鳴いた。


『焦るな。力の制御ってのは時間が掛かるもんだ』


ハクエンの声は厳しいながらも、どこか優しさがあった。フレアは再び挑戦する。何度も失敗を繰り返しながらも、少しずつ炎の大きさをコントロールできるようになっていった。


昼過ぎ、リオンが牧場に戻り、皆の昼食を持ってきた。


「お疲れ様です!ちょっと休憩してください」


サンドイッチとフルーツ、そして水の入った水筒を持ってきてくれた。フレアも疲れた様子で、岩の上に横たわっている。


「頑張ったな、フレア」


悠真がフレアの頭を撫でると、フレアは「コン」と小さく鳴いた。その声には達成感と共に、まだ残る不安も混じっていた。


『飯が終わったら、もっと実践的な訓練に移るぞ』


食事をしながら、ハクエンが静かに言った。悠真はハクエンの意外な一面を見て、少し驚いていた。いつもは孤高で、他の動物とあまり交わることのないハクエンだが、こうして熱心に教えている姿は新鮮だった。


『なんだ?』


ハクエンが悠真を見て尋ねる。


「いや、ただ……教えるのが上手いなと思って」


『ふん。別にそんな大したもんじゃねえよ。俺自身の経験を伝えてるだけだ』


その言葉に、悠真は微笑んだ。いつも高飛車なハクエンだが、責任感の強さを感じる。


昼食後、修行は再開された。今度はハクエンが実演して見せる。その背中の青い炎のような模様が実際に発光し、前足から小さな青い火の球を生み出した。それは完璧に制御され、空中にとどまっている。


『見ていたか?力の本質は意志だ。炎に形を与えるのは、使い手の心だ』


フレアはその演技に目を奪われ、自分も真似しようと尾を振った。最初は失敗したが、何度も挑戦を繰り返すうちに、少しずつだが炎を形作れるようになっていった。


午後の訓練はさらに実践的になり、動きながらの炎の制御、複数の場所への火の分配など、より複雑な技を学んでいく。フレアは何度も失敗し、時には尾から炎が暴走することもあったが、そのたびにハクエンは冷静に指導を続けた。


『もう一度だ。自分の力を恐れるな』


太陽が西に傾きはじめた頃、フレアはついに三本の尾からそれぞれ均等に小さな炎を出し、それを浮かせたまま維持することができた。


「やったね、フレア!」


リオンが喜びの声を上げる。リーフィアも嬉しそうに拍手した。フレアは誇らしげに三本の尾を振る。もう暴走することはなくなっていた。


『ようやく安定したようだな』


ハクエンの言葉に、フレアは感謝の意を表すように深く頭を下げた。


「一日でここまでできるなんて、フレアはすごいな」


悠真がフレアの姿を見て感心する。朝の混乱した様子とは打って変わり、今のフレアは自信に満ちていた。


『まぁ素質は悪くねえ。さらに尾を増やせるかはてめえの頑張り次第だろうよ』


その言葉にフレアは頷き、「コン!」と力強く鳴いた。


「これからも手伝ってくれるのか、ハクエン?」


悠真の問いに、ハクエンは少し考えるような仕草を見せてから鼻を鳴らした。


『気が向いたらな』


牧場に戻る途中、夕焼けが空を染め上げる中、フレアは三本の尾を誇らしげに振りながら歩いていた。もう朝のような恐れはなく、新たな力を受け入れた様子だった。


夕食時、牧場の動物たちは皆、フレアの新しい姿に興味津々だった。アクアは「チチチ」と鳴きながら、フレアの周りをぐるぐる回り、テラは「ミュー」と嬉しそうに飛び跳ねていた。アズールも小さな「キュイ」という声で祝福のようなものを送っているようだった。


食事を終え、牧場に夜の静けさが訪れる頃、悠真はベランダに出て星空を見上げていた。そこへフレアがそっと近づいてきた。


「調子はどうだ?新しい力には慣れたか?」


フレアは「コン」と穏やかに返事をした。尾は安定して、心地良く揺れている。もう朝のような不安定さはない。


「ハクエンのおかげだな。フレアを助けてくれてありがとう」


『礼なんかいらねえよ。ただ、俺の縄張りでいつまでも騒がれたら面倒だっただけだ』


ハクエンは「フン」と鼻を鳴らしたが、どこか誇らしげだった。フレアもハクエンの足元に寄り添い、感謝の意を表した。


夜空には満天の星。牧場は静かな夜を迎えていた。新たな力を得たフレア、そして思いがけず教師の一面を見せたハクエン。動物たちの新たな絆が生まれた一日だった。


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