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異世界に召喚されたけど、戦えないので牧場経営します~勝手に集まってくる動物達が、みんな普通じゃないんだけど!?~  作者: 黒蓬


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第77話 不器用な守護神、ハクエンとの付き合い方

春の訪れを感じさせる穏やかな朝、白石悠真は牧場の柵に寄りかかりながら、遠くの森を見つめていた。冬の厳しさが和らぎ、木々には新芽が芽吹き始めている。


「悠真さん、今日も良い天気ですね」


リーフィアが二人分のハーブティーを持って近づいてきた。その後ろでは、ユキザルのユキが木の枝から枝へと軽やかに飛び移っている。


「ああ、春らしくなってきたな」


悠真がティーカップを受け取ると、牧場の反対側から大きな欠伸の声が聞こえてきた。振り向くと巨大な白銀の虎、ハクエンが伸びをしながら目を覚ましていた。


「おっと、起きたか」


『あぁ?なんだよ、人が寝起きの時にジロジロ見るんじゃねえ』


ハクエンは不機嫌そうに言いながらも、悠真の方へゆっくりと歩み寄ってきた。


「朝食の用意ができていますよ、ハクエンさん」


リーフィアが優しく微笑みかけると、ハクエンは不機嫌そうな顔を少し和らげた。


牧場に来てから一週間。最初は警戒していた動物たちも、少しずつハクエンに慣れ始めていた。特にシャドウとミストの子熊兄弟は、最初こそ怯えていたものの、今ではハクエンの背中に乗って遊ぶほどになっている。


『うわっ!こら、俺の尻尾で遊ぶな!』


気がつけば、シャドウが影からこっそり現れ、ハクエンの尻尾に飛びついていた。すぐ後からミストも加わり、二匹の子熊が尻尾を取り合うように引っ張っている。


「まぁまぁ、仲良くなったじゃないか」


悠真が笑いながら言うと、ハクエンは「チッ」と舌打ちをしたが、それでも子熊たちを振り落とすようなことはしなかった。


――――――


朝食後、悠真は納屋の修繕作業に取りかかっていた。冬の間に緩んだ板を打ち直し、屋根の一部を補強している。その様子をハクエンが少し離れた場所から眺めていた。


『なぁ。お前は、魔力を使えないのか?』


突然の質問に、悠真は手を止めた。


「ああ、使えないよ。俺はそういうのとは無縁の世界で生きてたからな」


『ふん、情けない。この危険な世界で、身を守る術もなく牧場なんてやってるのか』


ハクエンの言葉は厳しかったが、その目には不思議と心配の色が見えた。


「まぁな。でも、俺には俺のやり方があるさ」


『そうか……だが、最低限の護身術くらいは身につけておくべきだ』


そう言うと、ハクエンは牧場の広場へと歩き出した。


『おい、ついてこい。少しだけ教えてやる』


悠真は少し驚いたが、ハンマーを置き、ハクエンの後を追った。広場に着くと、ハクエンは振り返り、悠真を見据えた。


『まずは基本的な身のこなしだ。俺の動きをよく見ていろ』


そう言うと、ハクエンは軽やかに跳び、宙で回転してから着地した。その動きは、あんな大きな体とは思えないほど軽やかだった。


『さあ、真似してみろ』


「えっ……いや、俺にそんなことできるわけ……」


『できないと思うな。お前ほどの体格なら、基本的な動きは十分にこなせるはずだ』


ハクエンの励ましに、悠真は恐る恐る挑戦してみることにした。もちろん最初は上手くいかなかったが、ハクエンの指導は的確で、単純な跳躍や転がり方など、基本的な動きから丁寧に教えてくれた。


『そうだ、その調子だ。人間は弱いが、頭脳と俊敏さがある。それを活かせ』


次第に牧場の動物たちが集まり始め、悠真の特訓を見学している。アズールとラクルは空から応援し、ベルとヘラクレスも好奇心いっぱいの目で見守っていた。


「うわっ!」


足を踏み外して転んだ悠真に、ハクエンは鼻を鳴らした。


『集中しろ。危険な状況ではそんな隙はすぐに命取りになる』


厳しい言葉だが、どこか優しさも感じられる。悠真は立ち上がり、再び挑戦した。


「お二人とも、少し休憩しませんか?」


リーフィアが冷たい飲み物を持ってきた。二人の額には汗が滲み、時間が経つのも忘れるほど集中していたことに気づく。


「ああ、そうだな。少し休もう」


二人が休憩していると、牧場の入り口から声が聞こえてきた。


「悠真さ〜ん!おはようございます!」


ミリアムがいつものように元気に挨拶しながら、薬草の籠を持って歩いてくる。しかし彼女の姿を見たハクエンは、僅かに警戒するように身構えた。


『悠真、誰だあいつは?知り合いか?』


「あ、あぁ。彼女は友人だから大丈夫だよ」


悠真が慌てて説明すると、ミリアムはハクエンの姿に驚き、足を止めた。


「わぁ、すごい!……巨大な虎?」


「ああ、ハクエンっていうんだ。シギュラさんの友人で、彼も牧場に住むことになった」


『……友人じゃねぇよ』


「久遠虎?聞いたことがないですね。見た目だけでも、すごい種族なんだろうなぁというのは分かりますけど……」


ミリアムは興味を持った様子で近づいてきた。ハクエンは悠真の発言をご丁寧に撤回しつつも、じっとミリアムを見つめている。


「悠真さん、紹介してもらえますか?」


「ああ、もちろん。ハクエン、この子はミリアム。近くの村の薬草師見習いで、よく牧場に来てくれてるんだ」


ハクエンはそれを聞きながらミリアムを見ていたが、やがて少し落ち着いた様子で鼻を鳴らした。


「よろしくお願いします、ハクエンさん!」


ミリアムが元気よく挨拶すると、ハクエンは「ふん」と小さく返した。


「あ、そうだ!今日はこれを持ってきたんです!」


ミリアムは籠から美しい赤い実を取り出した。


「これはルビーベリーの新しい収穫です。お裾分けしようと思って」


「あぁ、ありがとう。これは助かるよ」


悠真がお礼を言うと、ミリアムはハクエンを見て少し考えるような表情を見せた。


「ハクエンさんも、もしよかったら食べてみますか?特に疲れを癒す効果があるんですよ」


ミリアムがそう聞くと、驚いたことにハクエンは興味を示し、慎重に近づいてきた。ミリアムが差し出すと、丁寧にそれを口に含んだ。


「どうですか?」


『……悪くないな』


短い返事だったが、ハクエンの表情は少し和らいでいた。


「悪くないってさ」


「よかった!今度また持ってきますね!」


――――――


特訓が再開されると、今度はハクエンが悠真に護身術の基本を教え始めた。単純な動きながらも、実戦で役立つ技ばかりだ。


『相手の力を利用する。弱点を見極めろ。それが生き残るコツだ』


ハクエンの指導に、悠真は真剣に耳を傾けていた。牧場の動物たちも興味津々に見学している中、突然アズールが「キュイ!」と鳴いて空を指差した。


見上げると、シギュラが舞い降りてくるところだった。


『おや、随分と仲良くなっているではありませんか』


シギュラが優雅に着地すると、ハクエンはぶっきらぼうに答えた。


『単なる暇つぶしだ』


『そうですか?とても真剣に指導されていましたが』


シギュラの冷静な声に、ハクエンは「チッ」と舌打ちをした。


「悠真さん、ハクエンはどうですか?牧場の皆さんとは上手くやれていますか?」


「ああ、最初は戸惑っていた動物たちも、今ではすっかり慣れてるよ。それに、意外と面倒見がいいんだ」


『あいつらが勝手に寄ってくるだけだ』


悠真の言葉に、ハクエンはそう言うと不機嫌そうにそっぽを向いた。


『そうですか、それはよかった』


シギュラは満足そうに頷くと、少し声音を変えて悠真の方を向いた。


『悠真さん、少しハクエンと話をしても良いでしょうか?』


「ああ、もちろん」


悠真が立ち去ると、シギュラとハクエンは少し離れた場所で話し始めた。何を話しているのかは聞こえなかったが、時折ハクエンが大きく頷いたり、不満そうに尻尾を振ったりする様子が見えた。


――――――


夕食の時間、リーフィアが作った野菜シチューと焼きたてのパンが食卓に並んでいた。ハクエンには、特別に肉の入ったシチューが用意されている。


「シギュラさんの話って何だったんだ?」


悠真が尋ねると、ハクエンは少し複雑な表情を見せた。


『ちょっとした昔の話だ。気にするな』


「そうか……」


食事を終え、牧場が夜の静けさに包まれ始めると、ハクエンは悠真に声をかけた。


『お前はなぜこんなところで、力もないのに牧場なんかやってるんだ?』


星空の下、二人は並んで座っていた。


「そうだな……突然この世界に召喚されて、最初はスキルのこともあって成り行きで牧場経営をすることになったけど……今は、動物たちと平和に暮らしたいからかな」


『……平和か』


ハクエンはそう呟くと、空を見上げた。


「ハクエンはどうして、シギュラさんと戦ったりしてるんだ?」


悠真の質問に、ハクエンは少し考え込んだ。


『……強くなるためだ。弱いものは淘汰される。分かり易いだろ?』


「弱いものは淘汰される……か」


『ああ。……だが、こんな場所に居ると自分の考えが揺らぎそうになるな』


そう言いながら、ハクエンは牧場の方向を見た。温泉の周りではクロロが温泉の色を変える能力を使って遊んでいる。その横では、アクアとテラが仲良く水遊びをしていた。


『ここは不思議な場所だ。お前の言う通り、平和がある。まぁ、シギュラの守護下にあるからってのも大きいんだろうがな』


意外な言葉に悠真は一瞬驚いた表情でハクエンを見たが、ふっと表情を緩ませて答えた。


「あぁ。なんだかんだでみんな仲も良いしな。それでも時々魔物が襲って来たりはするけど……」


二人が話している間に、シャドウとミストがそっとハクエンの側に寄り添ってきた。ハクエンは優しく鼻先で二匹を撫でた。


『明日からも鍛錬は怠るなよ。仮にも俺が印をやった人間があっさりやられたら、俺の沽券に関わるからな』


「ああ、分かったよ。守護神様」


悠真が茶目っ気たっぷりに言うと、ハクエンは呆れたようにしかし少し機嫌を良くして鼻を鳴らした。


『フン、勝手に言ってろ』


春の星空の下、牧場に広がる夜の静けさと、動物たちの安らかな寝息。そこに、新たな守護者の存在が加わった春の夜だった。


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