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異世界に召喚されたけど、戦えないので牧場経営します~勝手に集まってくる動物達が、みんな普通じゃないんだけど!?~  作者: 黒蓬


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第75話 遊び道具の贈り物

寒さも和らぎ、春の兆しが見え始めた牧場の朝。穏やかな風が木々を揺らし、冬の名残の雪が少しずつ溶け始めていた。


納屋の掃除を終えた悠真は、畑の様子を確認していた。温かくなってきたとはいえ、まだ肌寒さを感じる日々。彼は軽く息を吐き、白い息が空気中に溶けていくのを眺めた。


「悠真さん、見てください!ユキが玉転がしをしてますよ!」


リオンが牧場の端から駆け寄ってきた。リオンが指差す方向には、雪のように白いユキザルが小さな木の実を丸めて遊んでいる様子が見えた。


「あいつも随分と牧場に馴染んだな」


悠真が微笑むと、リオンも嬉しそうに頷いた。


「そうですね!今朝もレインに水をかけられたのに、怒らずに一緒に遊んでました」


そのとき、門の方から馬車の音が聞こえてきた。見覚えのある王国紋章が施された馬車。どうやら来客があるようだ。


「あれは……王国の馬車ですね」


リーフィアが家から出てきて、遠くの方に視線を向けた。その横でユキが「ウキッ」と好奇心いっぱいの鳴き声を上げる。


馬車が近づくと、そこから降りてきたのは王立アスターリーズ学院の研究員エイドと、ホビット族のミルフィ、そして意外な人物——バストリア王国第一王女のアリシアだった。


「お久しぶりです、白石さん」


アリシアが優雅に会釈する。風に揺れる淡い金色の髪が春の陽射しを受けて輝いていた。


「アリシア様、良くいらっしゃいました」


悠真が驚いた表情で答えると、エイドが一歩前に出た。


「私達は一先ずご挨拶だけで。また神殿の調査に行きますので」


「うむ。またあとで世話になるのじゃ」


ミルフィが腕を組みながら頷く。


二人が神殿の方へ向かう背を見送りながら、悠真はアリシアに向き直った。


「それで、アリシア様は今日はどういったご用件で?」


アリシアは端正な顔立ちに微笑みを浮かべて、馬車の中から飾り箱を取り出した。


「二つほど目的があって参りました。まず一つは、これをお持ちしたくて」


アリシアが手にした箱には、金色の装飾が施されていた。


「先日、古の剣を国に献上していただいたことへの、父上からの褒美です」


悠真はその言葉に少し戸惑いの表情を見せた。


「そんな、あれは偶然見つかったものですし……」


「いいえ、あれは貴重な歴史的遺物です。しかも、ご自分で発見されたにもかかわらず、国に寄贈して下さった。父上も大変喜んでおりました」


箱を開けると、中には美しい装飾が施された小さな水晶の球があった。それは淡い光を放ち、中で何かが優雅に動いているように見えた。


「これは『天候の雫』といいまして、持ち主の周りの天候を少し穏やかにしてくれる魔法の品です。劇的な効果はありませんが、牧場の動物達も過ごしやすくなるでしょう」


「こんな貴重なものを……」


「そして、もう一つの目的は……」


アリシアは再び馬車へと向かい、今度は大きな袋を数個取り出した。


「こちらは私の生物園で動物たちが使っている遊び道具です。白石さんの牧場の皆さんにも喜んでもらえるのではないかと思って」


「遊び道具、ですか?」


「はい。中には魔法の力を使った特殊なものもあります。動物たちの知性や運動能力に合わせて作られたものばかりです」


悠真は驚きと喜びで目を丸くした。


「こんなにたくさん……本当にありがとうございます」


「どういたしまして。是非、試してみてください」


――――――


悠真たちはさっそく動物たちに遊び道具を紹介し始めた。最初に取り出したのは、虹色に輝く柔らかいボール。


「これは何でしょう?」


リーフィアが不思議そうに手に取る。


「それは『バウンスバブル』といって、地面に落とすと自分で跳ね返り、動物の動きに合わせて速度や高さが変わるボールです」


リーフィアが庭に投げると、ボールは虹色の軌跡を描いて弾んだ。するとすぐに、フレアとシャドウが興味を持ったようで駆け寄ってきた。


フレアが尻尾を使ってボールを弾くと、ボールはより高く跳ね上がり、シャドウが影から現れてそれをキャッチした。二匹はまるで以前からこの遊びに慣れているかのように息を合わせている。


「わぁ、すごい反応ですね!」


リオンが感嘆の声を上げた。その横でアクアとテラも興味津々な様子で、次の遊び道具を待っていた。


次に悠真が取り出したのは、星の形をした七色に光る装置だった。


「これは?」


「『スターチェイサー』です。空中に小さな光の星を作り出し、それを追いかけて捕まえるとポイントが貯まる仕組みになっています」


アリシアがボタンを押すと、装置から複数の小さな光の星が飛び出した。それらは自在に方向を変えて、まるで意思を持っているかのように空中を舞った。


「キュイ!」


アズールが興奮した声を上げ、小さな翼をばたつかせて空に飛び立った。ラクルも翼を広げて追いかける。彼らは息を合わせるように星を追いかけ、アズールが氷の息で星の動きを少し遅くし、ラクルがそれをキャッチするという作戦を編み出していた。


「まるで前から知っていたみたいに上手に使いこなしてますね」


リーフィアの言葉に、アリシアは微笑んだ。


「きっと、人間が思っている以上に物事を理解しているのでしょうね」


次々と取り出される遊び道具の中には、セットで使うものもあった。木の形をした台座と小さなボールのセット。アリシアの説明によると、これは「フォレストメイズ」と呼ばれるもので、ボールを転がすと木の枝が動き、迷路のように変化するという。


ステラとルミがさっそくこれに興味を示し、二匹で協力してボールを転がし始めた。ボールが通ると木の枝が動き、新たな道を作り出す。親子で考えながら、最適な道を探している様子だった。


「あぁ、二人とも可愛い……」


「ウキッ!ウキッ!」


アリシアがそんな二人の様子にうっとりしていると、そこへユキが駆け寄ってきて、興味津々な様子で眺めている。ステラが優しくユキにもボールを渡すと、三匹での協力プレイが始まった。


「みんな楽しそうだな」


悠真の言葉に、アリシアは温かな笑顔を返した。


「気に入って頂けて良かったです。王都の研究機関が動物の知性と幸福度の関係を研究していて、適切な知的刺激が与えられると、より健康に過ごせるという結果が出ているんです」


悠真は牧場中に広がる動物たちの楽しそうな姿を見て、しみじみと感じた。


「こんなに喜んでくれるなら、もっと早く用意してやればよかったな」


「アスターリーズでも、こういった特殊な遊び道具を扱っているお店は多くありませんから。個人用ならともかく、これだけ様々な魔法生物に対応できるものとなると……」


アリシアは優しく微笑んだ。


「私も生物園を整えるようになってから、色々と調べたんですよ。だから、こうして共有できて嬉しいです」


――――――


昼食時、悠真たちはアリシアを家に招いた。リーフィアの作った野菜のシチューと焼きたてのパンが食卓に並んでいる。


「本当に美味しいです」


アリシアはリーフィアの料理を口にして、素直な感想を伝えた。


「ありがとうございます。今日は特別に、庭で採れた春の芽吹きを使ったんですよ」


テーブルの窓側では、ルナが静かに昼寝をしている。その傍らでユキがじっと外を見ている。窓の外では、レインが空を泳ぎながら、ウィンドと一緒に『バウンスバブル』で遊んでいた。


「皆さん、本当に仲が良いですね」


アリシアの言葉に、悠真は頷いた。


「これだけの動物達が集まっているのに、多少の喧嘩はあれど皆が仲良く暮らせているのは俺も驚いてますよ」


昼食後、アリシアは馬車の時間が近づいてきたと言って立ち上がった。


「今日は、本当にありがとうございました」


「こちらこそ、素晴らしいプレゼントをありがとうございます」


悠真がお礼を言うと、アリシアは馬車に乗り込む前に振り返った。


「またいずれ。宜しければいつかこちらにもいらしてくださいね。その時は私の生物園を案内しますわ」


「それは楽しみです。必ず伺わせて頂きます」


馬車が動き出し、アリシアが手を振る。悠真たちも見送りながら手を振り返した。


「ウキッ!」


ユキも高い木に登り、精一杯手を振っている。


馬車が遠ざかり、再び牧場に平和な時間が戻ってきた。しかし、それは以前とは少し違う。あちこちで動物たちが新しい遊び道具で遊び、より活発に交流している。


「やっぱり、こういうのも大切だったんだな」


悠真が呟くと、リーフィアは優しく微笑んだ。


「はい。みんな家族ですから、一緒に楽しめる時間が増えるのは素敵なことです」


夕暮れ時、牧場は優しい夕陽に包まれていた。新しい遊び道具で一日中はしゃいだ動物たちも、少しずつ落ち着き始めている。サクラとアクアは温泉に向かい、アウラとサフィアは水を浴びて小さな花を咲かせていた。


「みんな楽しめたようで良かった。アリシア様には本当に感謝しないとな」


悠真が空を見上げると、小さな星が一つ、まだ薄明るい空に輝き始めていた。牧場に賑やかな光景がまた一つ増えた穏やかな初春の夕暮れだった。

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