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異世界に召喚されたけど、戦えないので牧場経営します~勝手に集まってくる動物達が、みんな普通じゃないんだけど!?~  作者: 黒蓬


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第66話 グリーンヘイブンの収穫祭

 夏の暑さが徐々に和らぎ、木々の葉が色づき始める頃。悠真は窓から外を眺め、季節の移り変わりを感じていた。今日はグリーンヘイブンでの収穫祭の日だった。


「今年も収穫祭の季節か……」


 悠真は静かに呟き、カレンダーに赤く丸をつけた日付を見つめる。初めて参加した時の記憶が鮮明によみがえってくる。あの頃はまだ牧場も小さく、動物たちもほんの数匹だけだった。


 彼が回想に浸っていると、階段を駆け上がってくる足音が聞こえた。


「悠真さん!準備はできましたか?」


 ミリアムが息を弾ませながら顔を覗かせる。彼女は今日のために特別に用意したらしい、花の刺繍が施された淡い緑色のドレスを着ていた。


「ああ、もう少しでできるよ。そっちは?」


「はい!リーフィアさんとリオンくんも今、動物たちの準備をしています」


 悠真は頷くと、シンプルな白いシャツと茶色のベストに着替え、階下へと降りた。そこでは、リーフィアが小さなリボンを手に、フレアの首元に結びつけようとしていた。


「こうですね……少し右に寄せると、より綺麗に見えそうです」


 リーフィアの銀色の髪が朝日に輝き、彼女の周囲には不思議と神秘的な雰囲気が漂っていた。フレアは大人しく身を任せ、時折小さな炎を浮かべて遊んでいた。


「悠真さん、おはようございます」


 リーフィアが悠真に気づき、柔らかな笑顔を向ける。


「おはよう。フレアも随分と大人しくしてるな」


「はい。フレアさんも収穫祭を楽しみにしているのかもしれませんね」


 悠真が台所に向かうと、リオンがテラと一緒に何かを包んでいた。テラは「ミュウ」と鳴きながら、小さな手でリオンの作業を手伝っている。


「おはようございます、悠真さん!僕たちはお祭りに持っていくおやつを準備してるんです」


「なるほど、いい心がけだな」


 悠真が笑うと、足元でルナが擦り寄ってきた。彼女の黒い被毛は朝の光を吸い込むように艶やかだ。


「ルナ、今日は大人しくできるか?去年は屋台の魚をちょっと狙っていたよな」


 ルナは「ニャ」と鳴き、まるで「そんなことはない」と言いたげに首を傾げた。

 今年は、人目を惹き過ぎないように小柄な動物達だけを連れて行くことにしていた。


「よし、出発しよう」


 悠真の言葉に、皆が頷いた。日差しが心地よい朝、彼らはグリーンヘイブンへの道を歩き始めた。


――――――


 グリーンヘイブンは収穫祭でいつも以上に賑わっていた。家々の軒先には色とりどりの旗が飾られ、村の中央広場には大きな祭壇が設置されている。人々は最高の収穫に感謝し、冬を乗り越えるための祈りを捧げるため集まっていた。


「わあ!今年も賑やかですね!」


 リオンの声が弾む。確かに、祭りの規模は前年よりも大きくなったように見える。


「悠真さーん!」


 振り向くと、ミリアムと薬草師のローザおばあさんが近づいてきた。


「牧場の皆さん、よく来てくれたね。今年の祭りは特別なんだよ」


「特別、ですか?」


 リーフィアが興味深そうに尋ねる。


「そうさ。今年は例年以上の豊作でね。皆、感謝の気持ちでいっぱいなんだ。白石牧場からの特産品も、村の繁栄に大きく貢献してくれたからね」


 悠真は少し照れたような表情を浮かべ、頭を掻いた。


「大したことはしてないですよ」


「いや、謙遜しなさんな。さあ、今日は楽しんでいってくださいな」


 ローザおばあさんに背中を押され、一行は祭りの中心へと歩み入った。屋台が立ち並び、子どもたちが笑顔で駆け回っている。


 彼らが通り過ぎると、村人たちが次々と声をかけてきた。悠真の牧場の評判は、既にこの地域では知れ渡っていたようだ。


 一行は様々な屋台を巡ってお祭りを楽しんだ。ミリアムは色とりどりのリボンの屋台で長い間迷い、リオンは弓矢の的当てで見事な腕前を披露した。リーフィアは草花の展示に見入り、地元の農家と熱心に会話を交わしていた。


 昼頃、村の中央広場では伝統舞踊が始まった。花冠を被った少女たちが輪になり、豊穣を祝う優雅な舞を披露する。


「わぁ。素敵な踊りですね!」


 リオンが感動した様子で感想を述べた。その隣では、ミリアムが踊りの意味について説明していた。


「これは大地に感謝し、次の季節の豊かさを願う踊りなの。輪になるのは、命の循環を表しているんだ」


 リオンは感心したように頷いた。


 悠真の足元では、ルナが暇そうにあくびをしている。しかし、突然彼女の耳が立ち、何かに警戒するような素振りを見せた。


「どうした、ルナ?」


 彼が心配そうに問いかけると、ルナは「ニャ」と鳴き、小さな露店の方を見つめていた。悠真がその方向を見ると、少年が露店の商品を盗もうとしている場面が目に入った。


 ルナは一瞬にして距離を詰めると、少年の前に立ちはだかった。突然の出来事に少年は驚き、手に持っていた小さな飾りを取り落とす。


「わあっ!」


 少年が後ずさりすると、露店の主人が気づいて振り向いた。


「おや、その飾りに興味があるのかい?」


 少年は恥ずかしそうに頭を下げ、黙って立ち尽くす。悠真は静かに近づくと、落ちた飾りを拾い上げ、店主に差し出した。


「すみません、この子が興味を持っていたようで」


 店主は笑顔で頷き、少年に向き直った。


「欲しければ言ってくれれば良かったんだよ。今日は特別な日だ。ほら、持っていきなさい。次はこんな事しないようにな」


 店主は別の、より綺麗な飾りを取り出して少年に渡した。少年の顔に驚きと喜びが広がる。


「あ、ありがとうございます!」


 少年は深々と頭を下げ、嬉しそうに走り去った。悠真はルナを撫でながら、小さくつぶやいた。


「さすがだな、ルナ」


 ルナは満足げに「ニャ」と鳴いた。


 午後になり、祭りはさらに盛り上がりを見せた。フレアが屋台の炭火を手伝い、その見事な炎の扱いに村人たちが驚嘆の声を上げる。アクアは子どもたちのために、水晶のような尻尾で小さな氷の彫刻を作り、歓声を浴びていた。


「悠真さん!こちらです!」


 ミリアムが手を振り、悠真たちを呼んでいる。彼女の隣には大きなテーブルがあり、そこには豪華な料理が並んでいた。


「収穫祭の共同食事会です。皆で食べましょう!」


 テーブルを囲むと、様々な料理が目に飛び込んできた。新鮮な野菜のサラダ、焼きたてのパン、ハーブで香り付けされた肉料理。悠真たちの牧場から提供された材料も使われているようだ。


「いただきます!」


 皆で声を合わせると、賑やかな食事が始まった。村人たちとの会話も弾み、笑いが絶えない。テラは小さなカップで、特製のハーブティーを飲んで満足げな表情を浮かべている。


 食事が終わり、夕暮れが近づいてきた頃、祭りは最後の儀式へと移った。村の中央に大きな焚き火が用意され、人々が静かに集まり始める。


「今から始まるのが、収穫祭の最も大切な儀式なんです」


 ミリアムが小声で説明する。皆が円を描くように焚き火を囲み、静かに目を閉じた。完全な沈黙が村を包む。


 数分間の黙祷の後、村長が前に出て声を上げた。


「今年も豊かな恵みをもたらした大地と自然に感謝を捧げます。そして、これから訪れる冬を乗り越え、また新しい春を迎えられますように」


 村長の言葉に、人々が静かに頷く。


「さあ、皆の心配事を焼き捨て、希望だけを胸に抱きましょう」


 最初に村長が藁で作られた小さな飾りを火の中に投げ入れた。次々と村人たちが前に出て、同じように藁の飾りを火に投げ込んでいく。


 悠真の番が来た。彼は手にした飾りを見つめ、心の中でつぶやいた。


「魔王軍の心配も、全て焼き捨てよう」


 彼は決意を胸に、飾りを炎に委ねた。リーフィア、リオン、ミリアムもそれぞれの思いを込めて飾りを投げ入れる。


 全ての儀式が終わると、人々は夜空を見上げた。満天の星が村を優しく照らしている。


 その時、空に一筋の光が走った。続いて二筋、三筋と、まるで流星群のように光が広がっていく。


「え?あれは……レインじゃないですか」


 リーフィアが驚きの声を上げた。確かに、空を泳ぐイルカの姿が星空の下に浮かび上がっている。レインは優雅に空を泳ぎながら、光の軌跡を描いていく。それはやがて、大きな樹の形となった。


「レイン、ついてきちゃったのか。夜に見ると一段と綺麗だな……」


 リオンが感動した様子で呟く。レインはさらに光を操り、花や星、そして最後に大きな円を描き出した。それは満月のようでもあり、また希望の象徴のようでもあった。


 村人たちから感嘆の声が上がる。多くの人が初めて見る光景に、目を輝かせていた。


「レインは皆を励ましたかったのかもしれませんね」


 ミリアムの言葉に、悠真は静かに頷いた。


 光のショーが終わると、祭りも徐々に終わりへと向かっていく。人々は名残惜しそうに家路につき始めた。


「今年も素晴らしい収穫祭でした」


 リーフィアが夜空を見上げながら言った。彼女の銀色の髪が月明かりに照らされて輝いている。


「ああ、そうだな」


 悠真も満足げな表情で応えた。足元ではルナが伸びをし、フレアが小さな焔を吐き出している。テラは既に眠そうな目をしていた。


 帰り道、アクアが悠真の肩から小さな声で「チュ」と鳴いた。彼はアクアの頭を優しく撫でながら、穏やかな気持ちで歩を進める。


「悠真さん、今日の儀式では何を願いましたか?」


 リーフィアが静かに問いかけてきた。悠真は少し考え、空を見上げた。


「やっぱり平和な毎日が続くことかな。皆と一緒に、このまま牧場を続けていければ……それだけで十分だ」


 彼の言葉に、リーフィアは優しく微笑んだ。


「私もそう願いました」


 月の光が道を照らす中、彼らは静かに牧場への道を歩いていく。今日の思い出と、明日への希望を胸に抱きながら。


 牧場に帰り着くと、穏やかな夜風が木々を揺らし、動物たちの寝息が聞こえてきた。


「今日はいい日だったな。レインもわざわざ来てくれたし」


「えぇ、そうですね」


 この平和な日々が、これからも続いていくように——そう願いながら、悠真は家の扉を開けた。心に残る収穫祭の余韻と共に、また新しい一日が始まろうとしていた。

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