第58話 リオンの歓迎会
朝の牧場に、爽やかな風が吹き抜けていく。リオンは納屋の掃除を終え、額の汗を拭いながら空を見上げた。初夏の陽気が心地よく、動物たちも思い思いの場所でくつろいでいる。
「リオン、ちょっといいかな?」
振り返ると、悠真が納屋の入り口に立っていた。手には水の入った桶を持っている。
「はい、悠真さん!何でしょうか?」
「実はな、リーフィアと相談してたんだけど、今日はリオンの歓迎会をしようと思ってる」
リオンは目を丸くした。まさか自分のために歓迎会なんて。
「え、僕のために?そんな、大げさなことは……」
悠真は微笑み、桶を地面に置いた。
「遠慮することはないさ。ここに来てもう数日経つし、リオンの頑張りを皆で祝いたいんだ」
リオンが何か言おうとした時、銀髪が風になびく姿が見えた。リーフィアだ。
「おはよう、二人とも。リオン、悠真さんから話は聞いた?」
「はい、でも僕なんかのために……」
リーフィアは優しく微笑んだ。
「今日は私とアスターリーズの町へ買い物に行きましょう。牧場のことは悠真さんに任せて」
「え?でも、僕の仕事は……」
悠真が肩を叩いた。
「大丈夫だ。たまには息抜きも必要だ。気にせず行ってこい」
リオンは少し恥ずかしそうに、でも嬉しそうに頷いた。
――――――
アスターリーズの町は、リオンの想像をはるかに超えていた。石畳の道、カラフルな看板、行き交う様々な種族の人々……全てが新鮮で、目を輝かせずにはいられない。
「すごい……こんなに大きな町、見たことないです!」
リーフィアは懐かしむような表情でリオンを見た。
「私も初めて来た時は驚いたわ。月影村とは全然違うものね」
二人は市場を通り抜けながら、様々な屋台を覗いていく。果物、野菜、魔法の道具、冒険者用の装備……リオンは全てが新鮮で、立ち止まっては珍しそうに見つめた。
「これは何ですか?」
リオンが指差したのは、青く光る小さな瓶。
「あれは夜光水。暗い場所で光る水なのよ。小瓶一つで5銀貨するけど、一晩中光り続けるの」
リオンは感嘆の声を上げた。
「町って本当に不思議なものがたくさんあるんですね……」
リーフィアは微笑んで頷いた。
「さあ、歓迎会の材料を買いましょう。悠真さんが好きな香辛料と、リオンが好きそうな甘いお菓子も……」
買い物カゴが徐々に膨らんでいく。リオンは時々小さく「これは高くないですか?」と心配そうに呟いたが、リーフィアは「今日は特別な日だから」と優しく答えた。
――――――
日が傾き始めた頃、二人は大きな荷物を抱えて牧場へと戻ってきた。
「ただいま戻りました!」
リオンが元気よく声をかけると、意外な光景が広がっていた。縁側にはテーブルが出され、ミリアムが何やら料理の準備をしている。
「あ、お帰りなさい!ちょうどいいところよ」
ミリアムが明るく笑いかける。エプロン姿が可愛らしい。
「ミリアムさんまで……手伝ってくれてるんですか?」
「もちろん!リオンくんの歓迎会だもの。私も参加させてもらうね」
リオンは思わず顔を赤らめた。来たばかりの自分の為に、ここまでしてもらえるなんて考えてもいなかった。
「いらっしゃい」
悠真が納屋から出てきた。手には花束のような何かを持っている。
「これ、何ですか?」
「月光草の花束だ。リーフィアに聞いて、お前が好きだと思ってな」
リオンは感激して、そっと花束を受け取った。青白い花びらが、手の中で優しく光っている。
「ありがとうございます……僕の為にこんなに色々……」
悠真は照れくさそうに頭をかく。
「さあ、料理の準備をしよう。皆で作った方が楽しいだろ?」
――――――
夕暮れ時、牧場は賑やかな歓声で満ちていた。テーブルには様々な料理が並び、動物たちも集まってきている。ベルが首の鈴を鳴らし、アクアとテラは木の上から歓迎会の様子を見ていた。
「ニャァ」
ルナが鳴きながら、リオンの肩に飛び乗った。
「ルナも祝ってくれてるみたいですね」
リーフィアがワインを注ぎながら微笑んだ。
「動物たちも、リオンのことを仲間として受け入れてくれたのね」
ミリアムは大きな皿を持ってきた。
「さあ、これが私の特製ハーブローストよ!リオンくん、たくさん食べてね」
テーブルの上は次々と料理で溢れていく。リオンはこの光景に、思わず目頭が熱くなった。
「皆さん……本当にありがとうございます」
悠真がグラスを掲げる。
「それじゃあ、リオンの牧場生活が楽しいものになるよう、乾杯だ」
「乾杯!」
皆の声が夕暮れの牧場に響く。
――――――
食事が進み、談笑の輪が広がる中、リオンはふと窓の外に目をやった。
「あっ!見てください!」
窓の外、夜空にレインが優雅に泳いでいる。その体から放たれる光が、空中で美しい模様を描いていく。青や紫、金色の光が絡み合い、まるで天空の舞踏会のようだ。
「わぁ……綺麗……」
ミリアムが感嘆の声を上げる。レインは気づいたのか、より複雑な光の模様を描き始めた。
「レインも歓迎してくれてるみたいだな」
悠真が微笑む。光の渦が牧場全体を柔らかく照らしている。
「こんな風に皆で集まるのって、村でもあったよね」
「ええ、月へのお祈りやちょっとしたお祝いとか、懐かしいわね……」
二人の会話を聞きながら、リオンはこの場所の特別さを実感していた。不思議な動物たち、優しい人々、そして美しい自然。全てが調和して、牧場という小さな世界を作り上げている。
「悠真さん、リーフィア姉さん、ミリアムさん……」
リオンは深呼吸して、精一杯の笑顔を見せた。
「これからもよろしくお願いします!牧場のお手伝い、しっかり頑張ります!」
「ああ、頼りにしてるよ」
悠真の言葉に、リオンの胸は温かさで満たされた。窓の外では、レインの光の舞が続いている。新しい仲間を祝福するかのように、初夏の夜空に美しい光の花が咲き続けていた。




