第52話 スキルのレベルアップと牧場の進化
朝露が輝く春の陽光に照らされた牧場で、悠真はいつものように朝食を済ませ、外へと足を踏み出した。爽やかな風が頬を撫でる中、彼の頭の中に突然、青い文字が浮かび上がる。
【牧場経営スキルがLv4に上昇しました】
【新機能「畜産物品質向上」が解放されました】
【新機能「家屋の二階」が解放されました】
「ん?またレベルアップしたのか……」
悠真が呟きながら内容を確認していると、「二階?」という言葉に首をかしげ、思わず後ろを振り向いた。驚いたことに、昨日まで平屋だった家屋に、今朝はしっかりと二階が「生えて」いたのだ。
「え……?」
悠真が呆然と立ち尽くしていると、家のドアが開き、リーフィアが出てきた。銀色の髪が朝日に輝いている。
「あ、悠真さん、なぜか知らないうちにあそこに階段ができているんですけど……」
リーフィアの言葉が途切れ、悠真の驚いた様子を見て後ろを振り返る。そして彼女もまた、にわかに現れた二階に目を丸くした。
「これは……」
「どうやら牧場経営スキルがレベルアップして、二階が増えたらしい」
悠真はやや驚きが抜けきらないまま説明した。リーフィアも信じられないという表情で、ゆっくりと頷く。
「そう、なんですか……なんだか夢でも見ているみたいですね」
二人がまだ状況を飲み込めないでいると、遠くから元気な声が響いてきた。
「おはようございまーす!悠真さん、リーフィアさーん!」
ミリアムが小走りで牧場に入ってくる。亜麻色の髪が朝の光を受けて輝いていた。彼女は走りながら家に目をやると、急に足を止めた。
「えっ、二階建てになってるー!?いつの間に!?」
「おはよう、ミリアム。実はさっき、牧場のスキルがレベルアップして……」
悠真が状況を説明すると、ミリアムはますます目を輝かせた。
「すごい!やっぱり魔法の牧場ですね!その上、畜産物の品質向上もできるようになったってことですか?」
「ああ、どうやらそうらしい」
「ふぇ~、それじゃ、ますます人気が出ちゃいますね!白石牧場のミルクとか、いまでも評判なのに!」
ミリアムの言葉に、三人は思わず笑みを交わした。春の陽射しが彼らの笑顔を優しく照らしていた。
――――――
「そうだ。せっかくだから記念に残そうか」
少し落ち着きを取り戻したあと、悠真が突然思いついたように言った。
彼は家に戻り、魔像結晶を取り出してきた。かつてカメラマンだった彼にとって、大切な瞬間を記録することは自然な習慣だった。
「みんな、家の前に集まって」
悠真の呼びかけに、リーフィアとミリアムが家の前に立つ。さらに悠真は、近くにいた牧場の仲間たちも呼び集めた。ベルが「メェー」と鳴いて寄ってきて、アズールとシャドウも好奇心いっぱいの目で集まってくる。ウィンドは優雅に翼を広げ、テラは土から顔を出して「ミュウ」と鳴いた。
「はい、チーズ…、って分かんないか。皆、笑って!」
「チーズ?よく分からないけど、牧場っぽいですね!」
ミリアムがクスリと笑う。悠真も照れくさそうに笑いながら、魔像結晶を操作した。キラリと光が弾け、瞬間が結晶に記録される。
「よし、今日は皆の様子も撮ることにしよう」
悠真は次々と、リーフィア、ミリアム、そして動物たちの姿を結晶に収めていく。アクアが尻尾を振って水の結晶を作り、フレアが小さな炎を放ち、それぞれが個性を輝かせるポーズをとった。
「久しぶりだな、こうして写真を撮るのは」
カメラマンとしての感覚が蘇り、悠真は懐かしさと共に喜びを感じていた。最近は牧場の仕事や色々なことが起こっていたため、写真を撮る機会が減っていたのだ。
「流石、悠真さんの撮る写真は違いますね!生き生きとしてて、温かみがあります」
ミリアムが魔像結晶に映し出された画像を見て感嘆の声を上げる。リーフィアも静かに頷き、微笑んだ。
「悠真さんの目に映る世界は、美しいのでしょうね」
――――――
そのあと、三人は新しくできた二階へと足を踏み入れた。階段を上がると、木の温もりを感じる廊下と、いくつかのドアが見えた。
「二階は個室になっているみたいですね」
リーフィアが一つのドアを開けると、中には窓から光が差し込む小さいながらも居心地の良さそうな部屋があった。
「こんなにたくさん部屋があるなんて」
ミリアムが驚きの声を上げる。廊下の先には共同のバルコニーがあり、そこからは牧場全体を見渡せるようになっていた。
「これなら小さな宿屋くらいはできそうですね」
リーフィアが冗談交じりにそんなことを言った。
「確かに……でも、知らない人間があまりこの牧場にやってくるのもな。人手の問題もあるし、動物たちのストレスも気になるし」
悠真も色々と考えてみた結果、控えめな意見を返した。
「それもそうですね。それなら、一部屋はミリアムさんの部屋にしましょう」
「え?私の?」
リーフィアの意見に今度はミリアムが驚いた声を上げた。
「そうだな。ミリアムにはよく来て貰っているし、半分住人みたいなものだ。好きな部屋を使ってくれ」
悠真が笑いながら答えると、ミリアムは嬉しそうに飛び跳ねた。
「良いんですか?ありがとうございます!」
「それじゃ、どの部屋にする?」
「えっと……」
ミリアムは廊下を歩き、一番日当たりの良い部屋のドアを開けた。窓からは牧場の草原と、向こうに広がる森が見える。
「この部屋、素敵です!ここにしたいです!」
「了解。ここはミリアムの部屋だな」
リーフィアは微笑みながら二人を見ていた。
「他の部屋は?」
リーフィアの問いかけに、悠真は考え込むような表情を見せた。
「そうだな……エイドさんが観察に来ることもあるし、ドミニクさんが取引で訪れることもある。彼らが泊まることになった時の客室とかで良いんじゃないかな」
「それはいいですね。お客様が来られたときに、ゆっくりくつろいでいただける場所があるといいですから」
リーフィアは優しく微笑みながら同意した。
「私、お部屋のお掃除とか、お手伝いします!」
ミリアムが熱心に言い、悠真は苦笑いを浮かべた。
「そうか、ありがとう。部屋は自由にアレンジしていいからな」
「ありがとうございます!薬草を乾燥させる場所もできますね!」
ミリアムは嬉しそうに自分の新しい部屋を見回した。
「あ、そうだ!リーフィアさん、一緒にお部屋を飾りませんか?」
「いいですね。花を飾ったり、カーテンをつけたり……」
リーフィアもミリアムの熱意に引き込まれていく。
「じゃあ俺は他の部屋を整えておくよ。寝具とか必要だしな」
悠真が言うと、ミリアムは急に思い出したように声を上げた。
「あ!エイドさんが来るなら、観察道具を置く棚とか必要かもしれませんね!」
「確かに。あとドミニクさんなら、少し高級感のある家具の方が好みそうだな」
三人は笑いながら、それぞれの部屋をどう整えるか話し合った。春の風が窓から入り込み、カーテンを優しく揺らす。バルコニーに出ると、三人は並んで牧場の景色を眺めた。
悠真は少し後ろに下がると、魔像結晶を取り出して二人の横顔と広がる牧場の風景を一枚の思い出として収めたのだった。




