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異世界に召喚されたけど、戦えないので牧場経営します~勝手に集まってくる動物達が、みんな普通じゃないんだけど!?~  作者: 黒蓬


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第50話 春の宴に紛れる珍客

春の陽気が白石牧場を包み込み、木々や花壇に色とりどりの花が咲き誇っていた。牧草地を吹き抜ける風には、ほのかに甘い香りが混ざっている。


悠真は牧場の柵に腰かけながら、満開の桜の花を見上げていた。木漏れ日が彼の黒髪を優しく照らしている。


「リーフィア、ミリアム、おはよう」


二人の名前を呼ぶと、すぐに彼女たちが近づいてきた。リーフィアの銀色の髪が春風に揺れ、ミリアムは明るい笑顔を浮かべている。


「悠真さん!おはようございます!」

「おはようございます、悠真さん」


リーフィアが柔らかな声で尋ねる。彼女が月影村に戻り、記憶も取り戻してから、その表情はさらに穏やかさを増していた。


「せっかく春になったし、花見をしないか?リーフィアが村に戻れたことや、記憶を取り戻せたこと、祝う理由もたくさんあるしさ」


悠真の提案に、ミリアムが両手を合わせて目を輝かせた。


「お花見ですか、良いですね!私、お菓子を作りますよ!」


「私も何か作りましょう。月影村でお世話になった時の料理で、お礼の気持ちを込めて」


リーフィアもうれしそうに頷いた。彼女の碧色の瞳が、春の日差しを浴びて輝いている。


――――――


準備は予想以上に賑やかに進んだ。アクアが水晶化した水を使って特製のかき氷を作り、ヘラクレスは角から繰り出す穏やかな炎でちょうど良い温度のお湯を沸かしてくれる。フレアもそれに倣い、小さな炎を操って料理の手伝いをしていた。


「アズール、そこのお皿を持ってきてくれるかな?」


「キュイ!」


幼いドラゴンがせっせと皿を運び、テラはミリアムに言われるままに畑から新鮮な野菜を掘り出していた。


「皆さん、ありがとうございます」


リーフィアの言葉に、牧場の動物たちはそれぞれの鳴き声で応えた。陽気で、温かい、まるで家族のような光景。


悠真は満開の桜の木の下に、大きな布を敷き始めた。


「ここが一番いい場所だな。景色も良いし」


ウィンドが翼を広げて、風を起こすと、散り始めた花びらが舞い上がった。まるで春の精霊たちが祝福しているかのように。


――――――


「乾杯!」


牧場の仲間たちが集まり、それぞれの声で賑やかな宴が始まった。木漏れ日の下、花びらが舞い散る中、悠真はこの瞬間の幸せをかみしめていた。


「悠真さん、これ食べてみてください。月影村の秘伝のハーブを使った料理です」


リーフィアが差し出した料理は、見た目も美しく、香りも芳醇だった。


「うん、これは……すごく美味しい。なんだか体が温かくなるような」


「月の祝福を受けたハーブなんです。疲れた体を癒してくれるんですよ」


ミリアムも手作りのケーキを配っていく。ルナーホップのルミとステラは、彼女の周りをぴょんぴょんと跳ねながらついて回り、アズールとシャドウは、じゃれあいながら花見の輪に加わっていた。


「牧場の皆も、こうして集まると本当に賑やかだな」


悠真がそう言いながら牧場の仲間達を見ると、ふと違和感が走った。いつもと何かが違う。気になって視線を巡らせると——


「ん?」


仲間たちの中に、見慣れない存在があった。白い鱗で覆われた、細長い体。蛇のような生き物が、他の動物たちに混じって、ケーキの端を楽しそうに食べていた。


「えっ、おまえは誰だ……?」


悠真の視線に気づいたのか、牧場の動物たちも一斉にその蛇に注目した。視線を集めたことに気づいた蛇は、慌てた様子でぽしゃんと地面に潜り込んでしまった。


「え?今、地面に……」


ミリアムが驚いて立ち上がる。確かに、たった今まで居た蛇が、まるで水に溶けるように地面に消えたのだ。


「どこへ行ったのでしょう?」


リーフィアが静かに周囲を見回す。するとほんの少し離れた場所から、「にゅっ」と蛇の頭だけがのぞいた。まるで様子を伺うように、その赤い瞳が悠真たちを見つめていた。


「ははっ、地面に潜れる白蛇かぁ。また特別な能力を持ってる珍客だな」


悠真が優しく笑いかけると、蛇は少しずつ地面から体を出してきた。全身が現れると、その姿はより鮮明になった。体長は約1メートルほど、白い鱗に金色の模様が走り、背中には小さな翼のような鰭があった。


これまでのことで慣れていた悠真はさほど気にせず、白蛇にはゆっくりと手を差し出した。


「悪気はなかったんだろう?お前も、もしよかったらこの牧場に来るかい?皆と一緒に暮らすのは楽しいと思うけど」


蛇は一瞬悠真を見つめ、それから嬉しそうに首を縦に振って頷いた。


「キュイ!」


アズールが歓迎の声を上げると、続いて他の動物たちも思い思いの声で新しい仲間を迎え入れた。


「それなら、この子にも名前を付けてあげないとね」


ミリアムが笑顔で言った。


「そうだな。地面を自由に動けるみたいだし……アース、というのはどうだろう?」


「アースさん、よろしくお願いしますね」


リーフィアも優しく微笑んだ。新たな仲間「アース」は、嬉しそうに体をくねらせながら、再び宴の輪に加わった。


――――――


夕暮れ時、春の宴もお開きになりつつあった。茜色に染まる空の下、悠真は新たな仲間となったアースを見ていた。


「そういえば、アースはどこからきたんだ?」


悠真の問いに、アースは首を振り東の方を指した。


「……牧場の東の方ってことか?」


悠真が理解しようとすると、アースは嬉しそうに頷いた。


「東側には、まだ手つかずの場所があるもんね。これからアースちゃんの住処も作ってあげないと」


「そうだな。明日からまた忙しくなりそうだ」


悠真の言葉に、牧場の仲間たちがそれぞれの声で応えた。花びらが舞い、春の風が心地よく吹き抜ける白石牧場にまた新たな仲間が一匹加わった。


「さて、片付けをしないとな」


悠真が立ち上がると、アースが素早く地面に潜り、散らばった皿や食べ物の残りをテラと一緒に片付け始めた。


「早速片付けを手伝ってくれるなんて良い子だね、アースちゃん」


ミリアムが笑う。リーフィアも満足そうな表情で、春の夕暮れに染まる牧場の風景を見渡していた。



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