第47話 春告げ鳥とカラスの宝物
朝もやの中、白石牧場は静かに目覚めつつあった。冬の病を乗り越え、家畜たちも元気を取り戻していた。悠真は早朝から牧場の外周を確認していた。
「もう少しで春だな」
悠真は深呼吸をした。まだ肌寒い空気の中にも、確かに春の香りが混じっている。昨日の大雪から一週間が経ち、雪解けが進んでいた。
「悠真さん、おはようございます」
背後から聞こえた声に振り返ると、リーフィアが温かい飲み物を持って立っていた。朝日に輝く銀色の髪が、春の訪れを告げるようだ。
「おはよう、リーフィア。今日も早いな」
リーフィアは微笑み、マグカップを差し出した。
「少し早起きして、薬草園の手入れをしていました。サクラたちの薬用にまた必要になるかもしれませんから」
悠真はマグカップを受け取り、一口飲んだ。甘い香りのハーブティーが体を温めていく。
「ありがとう。サクラたちも完全に元気になったよ。本当に心配したけど」
リーフィアは安堵の表情を浮かべた。
「ミリアムさんの薬草の知識のおかげですね。本当に助かりました」
二人が納屋の方へ歩き始めると、頭上から大きな影が過ぎた。見上げると、トレジャーが黒い翼を広げ、自分以外の何かと一緒に飛んでいるのが見えた。
「トレジャー?今日はどこへ行くんだ?」
悠真の声に、トレジャーは「カァー」と鳴いて、納屋の方へと飛んでいった。その後ろには小さな青い影が付いてきていた。
「あれは……何か鳥を連れているようですね」
リーフィアの言葉に、悠真は目を凝らした。
「本当だ。見たことない鳥だけど」
二人が納屋に着くと、トレジャーはすでに梁の上に止まっていた。そして隣には、美しい青い羽を持つ小鳥が止まっていた。羽には星のような模様が散りばめられ、瞳は翠色に輝いていた。
「こんなきれいな鳥は初めて見るな」
悠真が見上げると、青い鳥は「チィリィ」と澄んだ声で鳴いた。その声は不思議と心に染み入るような、清らかな音色だった。
「これは……春告げ鳥かもしれません」
リーフィアの言葉に、悠真は驚いた表情で鳥を見つめた。
「春告げ鳥?」
リーフィアは頷いた。
「私の記憶では、青い羽に星の模様を持つ鳥で、春の訪れを告げると本で読んだことがあります。その鳴き声は美しいメロディーのようで、聞いた人に幸せをもたらすと……」
トレジャーはリーフィアの言葉に反応するように、「カァー」と鳴き、春告げ鳥の近くで羽ばたいた。二羽は親しげに触れ合い、明らかに友好的な様子だった。
「へぇ~でも、なぜトレジャーがそんな鳥と一緒に?」
悠真の疑問に、リーフィアは首を傾げた。
「彼らの雰囲気からすると、友達のようですね」
その時、納屋の入り口から元気な声が響いた。
「おはようございます、悠真さん!リーフィアさん!」
振り返ると、ミリアムが微笑みながら立っていた。亜麻色の髪が朝日に輝き、頬を赤く染めている。
「ミリアム?今日も早いね」
悠真の言葉に、ミリアムは笑顔で頷いた。
「はい!朝の牧場が一番好きなんです。それに、病気が治ったサクラたちの調子も見に来たくて……あれ?あの鳥は?」
ミリアムは好奇心旺盛な目で梁の上の二羽を見つめた。
「トレジャーが連れてきたんだ。リーフィアによると、春告げ鳥らしいよ」
ミリアムは目を輝かせた。
「春告げ鳥!?本当ですか?ローザおばあさんも春告げ鳥について話してくれたことがあります。その鳴き声は心を癒し、春の訪れを告げる神聖な鳥だって!」
春告げ鳥は「チィリィ」と鳴き、三人の方に首を傾けた。トレジャーも「カァー」と応え、梁から二羽で飛び立った。
「まるで私たちに紹介しに来たみたいですね」
リーフィアの言葉に、悠真は笑顔を浮かべた。
「トレジャーが友達を自慢したいのかもしれないな」
――――――
三人は外に出て、二羽の鳥を追った。トレジャーと春告げ鳥は牧場の北側、小さな林へと飛んでいった。
「あそこに何かあるんでしょうか?」
ミリアムが問いかけると、悠真は肩をすくめた。
「行ってみよう」
林に入ると、雪解けが進んだ地面はふかふかとして、春の兆しが感じられた。木々の間を抜けていくと、小さな空き地に出た。そこには小さな巣があり、トレジャーと春告げ鳥が止まっていた。
「あれが春告げ鳥の巣なのですね」
リーフィアが近づくと、春告げ鳥は「チィリィ」と鳴いて巣を見せるようにした。巣の周りには青い羽や、きらめく小枝が美しく配置されていた。
「まるで宝石箱みたいです!」
ミリアムが感嘆の声を上げた。巣の中には青や銀色に輝く小さな石や、光沢のある羽が敷き詰められていた。
「これは……トレジャーが集めたものかな?」
悠真の問いに、トレジャーは「カァー」と誇らしげに鳴いた。
「素敵な巣作りの手伝いをしたのですね」
リーフィアは微笑んだ。春告げ鳥は「チィリィ」と澄んだ声で応え、トレジャーの近くに寄り添った。
「不思議ですね。違う種類の鳥なのに、こんなに仲が良いなんて」
ミリアムの言葉に、悠真は考え込んだ。
「トレジャーは宝物を集めるのが好きだけど、それを分け合う相手が欲しかったのかもしれない」
三人が巣を観察していると、春告げ鳥は美しいメロディーを口ずさみ始めた。「チィリィ、チィリリ……」という声は、まるで小さな小川のせせらぎのように心地よく、聞いていると不思議と体が温かくなるような感覚があった。
「素晴らしい歌声……」
リーフィアはうっとりと目を閉じた。トレジャーも「カァー」と静かに鳴き、春告げ鳥の歌に合わせるかのように首を揺らしていた。
――――――
牧場に戻ると、春告げ鳥とトレジャーは納屋の梁に巣を作り始めた。トレジャーは光る小石や金属片を運び、春告げ鳥は青い羽で巣を飾っていた。
「あの二羽、本当に仲がいいんですね」
ミリアムが感心した様子で見上げていた。
「トレジャーにとって、春告げ鳥は宝物以上の存在なのでしょうね」
リーフィアの言葉に、悠真は微笑んだ。
「友情という宝物を見つけたのかもしれないな」
三人が見守る中、二羽の鳥は巣作りを続けた。時折、春告げ鳥は美しい声で鳴き、トレジャーもそれに応えるように「カァー」と鳴いた。
「でも、春告げ鳥がここに来たということは……」
ミリアムの言葉に、リーフィアは頷いた。
「本当に春が近づいているのでしょう」
悠真は納屋の外を見た。雪は溶け始め、地面からは新しい芽が顔を出していた。
「春の訪れを告げる鳥……まさに今がその時なんだね」
三人が外に出ると、牧場全体が朝日に包まれていた。サクラは元気に「メェ」と鳴き、その角からは優しい光が放たれている。ベルも「メェ」と鳴き、小さな電気を放った。牧場の生き物たちは皆、春の訪れを喜んでいるようだった。
「トレジャーにとって、春告げ鳥は金や宝石よりも価値のある本当の宝物なのね」
リーフィアの言葉に、悠真は頷いた。
「そうだね。彼にとって、友達は何よりも大切な宝なんだろう」
納屋から美しいメロディーが聞こえてきた。春告げ鳥の歌声だ。その声は心を癒し、聞く者に春の訪れと新しい希望を告げていた。
「綺麗な声……」
ミリアムはうっとりとした表情で耳を傾けた。
「こんな綺麗な鳴き声なら、確かに幸せをもたらすと言われるのも納得ですね」
リーフィアの言葉に、悠真は頷いた。
「トレジャーにとっても、俺たちにとっても、春告げ鳥は幸せの象徴になりそうだな」
三人は納屋を見つめ、春告げ鳥の歌声に耳を傾けた。牧場に春が訪れ、新しい命が芽吹く季節の始まりを告げていた。
トレジャーは「カァー」と鳴き、春告げ鳥の側で羽を広げた。宝物を集めるカラスが見つけた本当の宝物——それは友情であり、新しい季節と共に訪れる希望だった。
雪解けが進む白石牧場。これから春を迎え、新たな季節の物語が始まろうとしていた。




