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異世界に召喚されたけど、戦えないので牧場経営します~勝手に集まってくる動物達が、みんな普通じゃないんだけど!?~  作者: 黒蓬


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第32話 ヘラクレスと小さな闖入者

朝焼けが牧場を優しく包み込む頃、白石悠真は納屋の前で伸びをしていた。昨夜の雨で空気が洗われ、牧場全体が爽やかな香りに包まれている。


「今日も良い天気になりそうだな」


悠真は満足げに空を見上げ、深呼吸した。新鮮な朝の空気が肺いっぱいに広がる。彼の足元では黒猫のルナが小さくあくびをし、背伸びをした。


「おはようございます、悠真さん」


振り返ると、リーフィアがブラシや掃除用具を手に持って近づいてきた。銀色の髪が朝日に照らされて輝いている。


「おはよう、リーフィア。今日も早いな」


「はい。動物たちのブラッシングや小屋の掃除を済ませようと思いまして」


リーフィアは柔らかな笑顔を浮かべ、持っている道具を示した。その瞳には、記憶を少し取り戻した昨日とは違う、穏やかな光が宿っていた。


「手伝うよ。一緒に回ろう」


「ありがとうございます」


二人は牧場を巡り始めた。最初に訪れたのは、羊たちの小屋だ。桜色の羊のサクラが、悠真たちを見つけると嬉しそうに「メェー」と鳴いた。


「おはよう、サクラ。今日も元気だな」


悠真が頭を撫でると、サクラは目を細めて喜んだ。その隣では、リスのアクアが木の枝から飛び降り、悠真の肩に飛び乗った。


「アクア、おはよう。今日は何か面白いものを見つけたか?」


「チュチュ!」


アクアは元気よく鳴き、悠真の頬に小さな鼻を押しつけた。リーフィアは微笑みながら、羊たちにブラシをかけていく。


「アクアさんも、今日はとても元気ですね」


「ああ、この調子で今日も平和な一日になるといいな」


悠真がそう言った矢先、牧場の向こうから大きな轟音が響き渡った。


「モォォォ!!」


炎が空に舞い上がるのが見え、悠真とリーフィアは顔を見合わせた。二人の目に浮かんだのは同じ名前だった。


「ヘラクレス!」


――――――


二人が牛小屋に駆けつけると、炎の角を持つ牛のヘラクレスが、不安げに鳴きながら小屋の中で落ち着かない様子で歩き回っていた。その角からは、いつもより大きな炎が噴き出し、小屋の天井を焦がしている。


「どうしたんだ、ヘラクレス?」


悠真が声をかけると、ヘラクレスは鼻息を荒くして小屋の奥を頭で示した。リーフィアが慎重に奥を覗き込むと、薄暗い隅で震える小さな影を見つけた。


「悠真さん、子牛です!怪我をしているようです!」


確かに、茶色の毛並みの小さな子牛が、震えながら横たわっていた。その右前脚には血が滲み、痛々しく腫れている。ヘラクレスは心配そうに子牛の周りを行ったり来たり、時折角の炎が強まっては小屋を照らしていた。


「傷が深そうだ」


悠真が子牛に近づくと、怯えた瞳で彼を見つめた。弱々しい「モォ」という鳴き声が、悠真の心を締め付けた。


「サクラを呼んできます!」


リーフィアは急いで小屋を飛び出した。悠真は子牛の傍に静かに座り、優しく声をかけた。


「大丈夫だよ。もうすぐ痛みが取れるからな」


ヘラクレスも不安げに子牛を見つめ、その大きな頭を子牛の近くに下ろした。まるで「安心しろ」と告げているかのようだった。


――――――


リーフィアがサクラを連れて戻ると、桜色の羊は子牛の状態を一目見て、すぐに理解したように小さく鳴いた。


「お願い、サクラ。この子を助けてあげて」


リーフィアの言葉にサクラは頷くように頭を下げ、子牛に寄り添った。その体から淡いピンク色の光が溢れ出し、子牛の傷口を包み込んでいく。子牛は驚いたように目を見開いたが、次第に痛みが和らぐのを感じたのか、緊張した体をほぐし始めた。


「サクラの治癒の光、本当に美しいですね」


リーフィアの言葉に、悠真も静かに頷いた。光が消えると、子牛の傷は見る見るうちに癒えていた。ヘラクレスは安心したように低く鳴き、角の炎も穏やかになっていた。


この時、小屋の入り口からアクアが飛び込んできた。青いリスは何かを知らせようとするかのように、興奮して鳴きながら悠真の足をつついた。


「どうした、アクア?」


アクアは外を指すように前足を伸ばし、何度も「チュチュ!」と鳴いた。悠真とリーフィアは顔を見合わせ、リーフィアが小屋の外を確認しに行った。


「悠真さん!誰か来ていますよ!」


――――――


牧場の入り口には、疲れた表情の中年の農夫が立っていた。服は泥で汚れ、額には汗が滲んでいる。


「すみません、こちらの牧場で、茶色の子牛を見かけませんでしたか?」


男性の声には切迫感があった。悠真は頷き、「はい、今朝見つけました」と答えた。


「本当ですか!」


悠真はの返事に、農夫の顔に一瞬で希望の光が差した。


「実は昨晩の嵐で柵が壊れて、朝起きたら子牛がいなくなっていて…足を怪我していたから、特に心配で…」


「怪我をしていたのですか?」


リーフィアが尋ねると、農夫は頷いた。


「昨日、木の板が倒れてしまい足を打ったんです。処置はしたのですが、嵐の間に怖がって逃げ出してしまったようで…」


「今は牛小屋で休んでいます。もう怪我も良くなりましたよ」


悠真の言葉に、農夫の顔が驚きに変わった。


「もう治った?でも昨日の怪我は…」


三人が牛小屋に向かうと、子牛は農夫の姿を見て嬉しそうに鳴いた。しかし、その前には巨大なヘラクレスが立ちはだかり、農夫を警戒するように見つめていた。角からは小さな炎が揺らめいている。


「大丈夫だよ、ヘラクレス。この方がこの子の飼い主さんだ」


悠真の穏やかな声に、ヘラクレスは一度農夫を見つめ、ゆっくりと脇に寄った。農夫は驚愕の表情で炎の角を持つ牛を見上げた。


「これは…すごい牛ですね。角から炎が…」


「ええ、うちの牧場の動物たちは少し特殊なんです」


リーフィアが穏やかに説明すると、男性は感心した様子で頷いた。


男性は子牛に近づき、優しく頭を撫でた。子牛は嬉しそうに鳴き、男性の手に頬を擦りつけた。


「本当に怪我も治っている。早くても数日は掛かると思っていたのですが……」


「このサクラが治癒の力で、直したんです」


悠真がサクラを指さすと、サクラは小さく鳴いた。男性は驚きと感謝の表情で、深々と頭を下げた。


「本当にありがとうございます。皆さんのおかげで、この子は無事でいられました」


農夫は深々と頭を下げた。悠真はヘラクレスを見て微笑んだ。


「お礼を言うならヘラクレスに。彼が最初に子牛を見つけて、守っていたんだ」


農夫はヘラクレスに向き直り、恐る恐る頭を下げた。


「ありがとう…本当に、ありがとう」


ヘラクレスは誇らしげに鼻息を鳴らし、頭を軽く下げた。


悠真がヘラクレスを見ると、大きな牛は誇らしげに鳴いた。男性は子牛をリードにつなぎ、帰る準備を始めた。


「そうだ。何かお礼を…」


「いえ、必要ありません。動物たちが助け合うのは当然のことですから」


リーフィアの言葉に、男性は感謝の笑顔を見せた。


「では、お邪魔しました。また寄らせていただきますね」


農夫が子牛を連れて去っていく姿を、牧場の動物たちと共に見送った。ヘラクレスは少し寂しそうに鳴き、その角の炎が小さく揺れた。


「また会えるさ。彼も近くの農場の人みたいだし」


悠真がヘラクレスの首を撫でると、大きな牛は満足げに目を細めた。



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