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異世界に召喚されたけど、戦えないので牧場経営します~勝手に集まってくる動物達が、みんな普通じゃないんだけど!?~  作者: 黒蓬


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第149話 春風の贈り物と再会の歌声

白石牧場に本格的な春が訪れて一週間ほどが経った。暖かな陽射しが牧場全体を包み、雪解けの匂いに混じって若草の香りが漂っている。悠真は朝の見回りを終え、泉のほとりで一息ついていた。


「パフ、今日も気持ちよさそうだな」


悠真の視線の先では、まん丸い綿毛の塊のような生き物、パフが春風に乗って楽しそうに舞い踊っていた。「フゥー」という軽やかな鳴き声と共に、ふわふわと空中を漂う姿は、まるで雲の欠片が生命を得たかのようだ。


春風が一段と強く吹いた瞬間、パフは嬉しそうに「フゥー!」と鳴きながら空高く舞い上がった。その時、ぽふっという小さな音と共に、パフの体から無数の綿毛が舞い散った。


「おぉ……」


思わず息を呑む悠真。空中に舞う綿毛は、まるで雪のように美しく、春の陽光を受けてきらきらと輝いていた。綿毛たちは風に乗って牧場の外、近くの草原へと舞い落ちていく。


「きれいですね」


背後から聞こえた声に振り返ると、リーフィアが微笑みながら立っていた。銀色の髪が春風に揺れ、碧色の瞳が綿毛の舞を見つめている。


「ああ、パフも春を楽しんでいるみたいだ」


悠真は空を見上げた。パフは満足そうに「フゥー」と鳴きながら、ゆっくりと降りてきた。


――――――


数日後の朝、悠真は牧場の見回りをしていると、草原の方に小さな黄色い点々が見えることに気がついた。


「あれは……」


近づいてみると、そこには小さなタンポポの芽が顔を出していた。パフの綿毛が落ちた場所とちょうど重なっている。


「すごいな、もう芽が出てる」


感心していると、空中から「悠真!見て見て!」という元気な声が聞こえた。見上げると、淡い青髪の妖精ノアリスが透明な羽を羽ばたかせながら飛んできた。


「ノアリス、おはよう。このタンポポのことか?」


「そうそう!サフィアたちと一緒に、ちょっと手伝ってあげたの」


そう答えるノアリスの後ろから、サフィアとアウラがゆっくりと近づいてきた。二人もウンウンと頷いている。


「あのパフの綿毛、すごい生命力を持ってたの。だから、それに私たちの祝福を込めてあげたら……」


ノアリスが手を翳すと、淡い光がタンポポの芽を包んだ。サフィアも同じように手を向け、温かな緑の光を放った。


すると、目の前で小さな奇跡が起こった。タンポポの芽がみるみるうちに成長し、数分で黄色い花を咲かせたのだ。


「これは……」


悠真は驚きを隠せなかった。一面の草原が、あっという間に黄色いタンポポの花で彩られていく。


「どうどう?春の祝福だよー!」


ノアリスが嬉しそうに宙返りをした。サフィアとアウラも、楽しそうにタンポポの周辺をクルクルと踊った。


「ありがとう、三人とも。パフも喜ぶだろうな」


――――――


午後になって、悠真は牧場の納屋で作業をしていた。すると、頭上から懐かしい鳴き声が響いた。


「チィリィ……」


その美しい音色に、悠真は思わず作業の手を止めた。見上げると、梁の上に青い羽に星の模様を持つ鳥が止まっていた。


「春告げ鳥か」


そして、その隣には黒い翼を持つトレジャーが止まっていた。二羽は親しげに寄り添い、まるで再会を喜んでいるかのようだった。


「トレジャー、久しぶりだな、その友達」


悠真の声に、トレジャーは「カァー」と誇らしげに鳴いた。春告げ鳥も「チィリィ」と澄んだ声で応えた。


「悠真さん、どうかしました……?」


納屋の入り口からミリアムが顔を覗かせた。亜麻色の髪に春の陽射しが当たり、エメラルドグリーンの瞳が好奇心に輝いている。


「あぁ、春告げ鳥がまた来てくれたみたいだ」


「えっ、本当ですか!?」


悠真たちに気づくと、春告げ鳥は美しいメロディーを奏で始めた。「チィリィ、チィリリ……」その歌声は以前よりも豊かで、聞く者の心に深い安らぎをもたらした。


「この歌声……相変わらず綺麗ですね」


ミリアムがうっとりと聞き入っていると、納屋の外から「あら、懐かしい声ですね」という声が聞こえた。


振り返ると、リーフィアとリオンが立っていた。


「姉さん、これは……」


「春告げ鳥ですね。今年は他の地域で春を告げて、こちらにはトレジャーに会いに来たのかもしれませんね」


リーフィアが首を傾げると、春告げ鳥は「チィリィ」と鳴いて、納屋の外へと飛び立った。トレジャー悠真たちの周りを飛び回ってから、その後を追っていった。


「付いて来いってことかな。みんなで行ってみるか」


そうして、四人は二羽の後を追って牧場の外へ出た。春告げ鳥とトレジャーは、タンポポが咲き誇る草原へと向かっていった。


――――――


草原に着くと、春告げ鳥は黄色い花の中央で美しい歌を奏で始めた。その歌声は風に乗って牧場全体に響き渡り、聞く者すべてに春の喜びを届けていた。


「まるで、タンポポの花を祝福しているみたいですね」


リーフィアが感動したように呟いた。


「そういえば、この草原のタンポポは……」


悠真がパフと妖精たちのことを説明すると、ミリアムは目を輝かせた。


「パフさんの綿毛から生まれた花を、春告げ鳥も祝福してくれているんですね!」


春告げ鳥の歌声に合わせて、草原のタンポポが一斉に綿毛を飛ばした。無数の白い綿毛が春風に舞い、まるで雪のように美しい光景が広がった。


「きれい……」


リオンが息を呑んだ。綿毛たちは風に乗って遠くへと旅立っていく。


「この綿毛たちも、きっとどこかで新しい命を育むんでしょうね」


リーフィアの言葉に、悠真は頷いた。


「春告げ鳥は、春の命の循環を歌っているのかもしれないな」


トレジャーも春告げ鳥の歌声に合わせるように「カァー」と鳴き、アンサンブルを奏でていた。


――――――


夕方、牧場に戻った一行を待っていたのは、パフの興奮した鳴き声だった。


「フゥー!フゥー!」


パフは嬉しそうに空中を舞い回り、時折小さな綿毛を飛ばしていた。どうやら自分の綿毛が美しい花になったことを知って、喜んでいるようだった。


「パフも嬉しいんだな」


悠真が微笑むと、パフは「フゥー」と鳴いて悠真の周りをふわふわと漂った。


春告げ鳥は納屋の梁に戻り、最後にもう一度美しい歌声を響かせた。その歌は、牧場に住むすべての生き物たちへの祝福のようだった。


「今年の春は、特別な春になりそうだな」


悠真は夕日に染まる牧場を見渡した。タンポポの綿毛が風に舞い、春告げ鳥の歌声が響く。新しい命の息づかいが、牧場全体を包んでいた。


「春告げ鳥が運んできた、新しい季節の始まり……」


「この春は、きっと素晴らしい季節になりますね」


リーフィアの静かな呟きに、リオンが答えるようにそう言うと、みんなも同意するように頷いた。


春風が頬を撫でていく。白石牧場に、新しい季節の物語が始まろうとしていた。パフの綿毛が結んだ命の循環と、春告げ鳥が運んできた希望の歌声と共に。


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