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異世界に召喚されたけど、戦えないので牧場経営します~勝手に集まってくる動物達が、みんな普通じゃないんだけど!?~  作者: 黒蓬


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第122話 成長と困惑の影

春の柔らかな日差しが牧場を包み込む季節。雪解けの水が小さな流れとなって、牧場のあちこちを潤していた。風には冬の名残の冷たさが残りつつも、確かな暖かさも感じられる。


アオイがぷよぷよと揺れながら牧場を巡回し、冬の間に溜まった落ち葉や枯れ枝を飲み込んでいく様子を、悠真は納屋の前から眺めていた。春の大掃除に精を出すスライムの姿に、思わず微笑みが浮かぶ。


「アオイ、いつもありがとうな」


アオイは嬉しそうに体を震わせ、またぷにぷにと地面を掃除しながら移動していった。


そんな穏やかな午前中、突然、牧場から悲鳴にも似た声が響き渡った。


「わっ!え?なに、これ?!悠真さーん!」


リオンの慌てた声に、悠真は手にしていた餌桶を置き、すぐに声のした方へ駆け出した。


――――――


家の裏手に回ると、信じられない光景が広がっていた。リオンの体が半分ほど地面の影に埋まっていたのだ。足から腰あたりまでが黒い影の中に沈み込み、リオンは困惑した表情で立ち尽くしていた。


「リオン!?どうした、大丈夫か?」


悠真が駆け寄るとリオンは半泣きの表情で説明を始めた。


「シャドウが何かを見せたいみたいで引っ張るから、僕、ついていったんです。そしたら、急に足元が沈んで……こうなっちゃいました」


よく見ると、その隣には漆黒の毛並みを持つシャドウが、申し訳なさそうな表情でうつむいていた。そして驚いたことに、ミストも同じように半分だけ影に埋まったまま、「ミィ…」と悲しげな声で鳴いている。


「もしかして、ミストも影に潜る力を得たのか?いや、それよりリオンの方は何でこんなことになったんだ?」


そう問い掛けながら悠真が近づくと、シャドウは恥ずかしそうに目を伏せた。なにやら新しい力を披露したかったようだが、うまく行かなかったらしい。ミストもしょんぼりとした様子で、時折体を動かそうとするものの、影から抜け出せないようだった。


「お前達もよく分からないのか……ともあれ、まずは二人を助けないとな」


悠真が二人に近づくと、シャドウがおずおずと前に出てきて、影に埋まった二人の周りをぐるりと回った。何かをしようとしているようだが、どうも上手くいかない様子で、困惑しているのが分かる。


「シャドウ、ミスト。落ち着いて、一旦力を抜いてみてくれ。緊張していると力がうまく制御できないだろう?」


悠真の言葉に従い、二人は目を閉じて深呼吸をした。しかし、そう簡単に状況は改善しなかった。リオンも体を動かそうとしたが、やはり影から抜け出すことができない。


「どうしましょう、悠真さん?」


リオンの不安そうな声に、悠真は「少し待ってくれ」と答え、牧場の方へ目を向けた。


「う~ん。この状況を何とかできそうなのは……」


思い浮かんだのは、言動の割に意外と面倒見の良い巨大な虎の姿だった。


「ハクエンなら何か知っているかもしれない」


悠真は急いで牧場を見回し、ハクエンの姿を探した。ようやく牧場の奥、大きな木の下で昼寝をしている姿を見つけた。


「すまないが、ちょっと力を貸してくれないか?」


ハクエンの前に立ち、悠真がそう頼むと、大きな虎は不機嫌そうに目を開けた。


『……何だ、悠真。昼寝の邪魔をするなよ』


「悪いな、急ぎの相談なんだ。シャドウとミストのことで助けて欲しいことがあって」


ハクエンはゆっくりと大きな体を伸ばし、あくびをしながら立ち上がった。


『何だ?あいつらが何か問題でも起こしたのか?』


「問題というか……新しい能力を手に入れたみたいなんだが、制御に失敗したのかリオンとミスト自身が影に半分埋まったままなんだ」


ハクエンは大きなあくびをしながら、ゆっくりと立ち上がった。


『あぁ?また面倒くさいことを……ったく、俺は何でも屋じゃねえんだぞ』


そう言いながらも、ハクエンは悠真についてきた。リオンたちがいる場所に到着すると、状況を一目で理解したようだった。


『ふん、やっぱりか。こういうのは俺の専門じゃねえんだがな……』


ハクエンはシャドウとミストの前に座り、鋭い眼差しでシャドウたちを見つめた。


『よく聞け、お前ら。影の力は本来、使う者の意志に従うものだ。だが、力が強くなると、それを支える心も強くなければならない』


二人は戸惑いながらも、真剣な眼差しでハクエンを見上げていた。


『まず、自分の中に「影」をイメージしろ。それを自分の一部として感じろ。そうしたら「この影を解放する」と強く思え』


シャドウとミストは互いに顔を見合わせ、目を閉じた。しばらくすると、少しずつではあるが、ミストの体が影から出てきた。シャドウも集中力を高めるように目を細め、徐々にその黄金の瞳が強い光を放ち始めた。


「う、動いた!?」


リオンの体も少しずつ影から解放されていく。完全に出るまでには時間がかかったが、最終的には二人とも無事に影から抜け出すことができた。


「助かった……ありがとうございます、ハクエンさん!」


リオンは喜びの声を上げたが、ハクエンは相変わらず不機嫌そうな表情を崩さなかった。


『喜ぶのは良いが、これで終わりじゃねえぞ。力を持った以上は、それを正しく扱えるようにならなきゃならねぇ。こいつらは今日から特訓だ』


ハクエンの言葉に、シャドウとミストは少し緊張した様子で頷いた。


――――――


それから数日間、シャドウとミストはハクエンの特訓を受けた。牧場の片隅に作られた練習場では、様々な訓練が行われていた。


『まずは自分の影を意識しろ。次に、他の物の影を。それらをしっかりこなせるようになって、初めて生物を影に引き込む練習だ』


ハクエンの厳しい指導の下、二人は少しずつ力の制御を学んでいった。最初は思うようにいかず、何度も失敗を繰り返したが、日を重ねるごとに上達していった。


「すごいな、二人とも」


練習を見守る悠真の横で、リーフィアが感心したように呟いた。


「本当にそうですね。こんなに短期間で成長するなんて」


リオンも感嘆の声を上げる。彼は初めこそ影に引き込まれたことにショックを受けていたが、今ではシャドウとミストの力に対して純粋な興味を示していた。彼らの成長を近くで見守ることは、リオンにとっても貴重な学びになっているようだった。


「やっぱりハクエンは、教えるのが上手いんだな」


悠真がそう言うと、ハクエンは耳をピクッと動かした。


『別に俺は教えたいわけじゃねえ。ただ、中途半端な力は危険だってことを分からせたいだけだ』


そう言いながらも、ハクエンの目は二人の成長を親のように見守っていた。


五日目の午後、ついにシャドウたちは完全に力を制御できるようになった。ミストはスムーズに影に潜ることができるようになり。シャドウは自分以外のものも、安全に影の中に出し入れができるようになっていた。


「見てください、悠真さん!」


リオンは興奮した声で叫んだ。彼の体は影の中から半分だけ出ており、まるで影の海から顔を出しているかのようだった。そしてすぐに、シャドウの目配せ一つで、スムーズに影から出てきた。


「すごいじゃないか!」


悠真が二人を褒めると、シャドウとミストは誇らしげにそれぞれ「ヴォフ!」「ミィ!」と鳴いた。


『まぁ、こんなもんだろ』


ハクエンは大きな体を伸ばすと、いつも横になっている木の下へと戻っていった。


「ハクエン、ありがとう。本当に助かったよ」


悠真の言葉に、ハクエンは背を向けたまま尾を少し振った。


『別に。あいつらが変な事故を起こして、お前らが慌てるのが面倒だっただけだ』


そう言いながらも、その声には確かに満足感が含まれていた。


牧場に戻ると、リーフィアがハーブティーを用意してくれていた。


「お疲れさまでした。みなさん、お茶をどうぞ」


リオンとハクエン、そしてシャドウとミストの前にそれぞれ彼らに合った飲み物が置かれた。


「リオンが影に埋まったと聞いた時は驚きましたけど、二人とも力を制御できるようになって良かったですね」


リーフィアはそう言って優しく微笑んだ。


「ああ、この牧場の仲間たちはみんな成長している。フレアだって、最初は力を制御できなかったけど、今じゃ上手に炎を操れるようになったしな」


ふと、納屋の方を見ると、フレアが三本の尾を揺らしながら、まるでシャドウとミストの成長を祝うかのように小さな火の玉を宙に浮かべていた。


「力を持つことは大変なことかもしれないけど、みんなこうして成長していくんだな」


そう言って悠真は空を見上げた。春の光が牧場全体を明るく照らしている。その光の中で、牧場の仲間たちはそれぞれの力を磨き、共に成長していく。


シャドウとミストは、影に潜る遊びをしながら牧場を駆け回っていた。時折、他の動物たちも巻き込みながら、彼らは新しい能力を楽しんでいた。


そんな彼らを見ながら、ハクエンはやれやれといった様子で静かに眠りについた。牧場には今日も平和な春の午後が広がっていた。

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