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異世界に召喚されたけど、戦えないので牧場経営します~勝手に集まってくる動物達が、みんな普通じゃないんだけど!?~  作者: 黒蓬


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第112話 命を宿す古の石

翌日の午前中、白石悠真は昨日テラが掘り出した地下空間の整備に取り掛かっていた。リオンと共に運び込んだ棚や机がすでに壁際に並べられ、何もなかった空間も次第に研究室らしい姿へと変貌を遂げつつあった。


「これで十分使えそうですね、悠真さん」


リオンが満足げに空間を見回しながら言った。彼の腕には古い書物が数冊抱えられている。


「ああ、あの二人も喜んでくれるといいな」


悠真は地下室の中央に置かれた大きなテーブルの上にランプを設置しながら答えた。朝日が上から差し込む光だけでは、地下の隅々まで行き届かない。


「テラも頑張ってくれたしな」


そう言いながら、悠真は部屋の隅でせっせと土を掘り返しているテラを見つめた。緑色の小さな体が一生懸命に動いている姿に、思わず笑みがこぼれる。


「テラ、休憩しないか?もうずいぶん働いてるぞ」


「ミュウッ!」


テラは振り返り、大きく首を横に振った。まだやることがあるとでも言いたげな表情だ。その熱心な姿勢に、悠真は思わず笑ってしまう。


「分かった、分かった。でもあまり無理はするなよ」


テラは「ミュウ」と返事をし、再び作業に戻った。どうやら壁の一部をさらに広げようとしているようだった。


「テラは本当に働き者ですね」


リオンも感心したように言った。


「そうだな。ただ、単に地下室を広げようとしているってわけでもなさそうなんだが……」


悠真が首をかしげていると、上から足音が聞こえてきた。振り返ると、入り口の階段からリーフィアとユエが降りてきたところだった。


「悠真さん、リオン、朝からお疲れ様です」


リーフィアが優しく微笑みながら言った。彼女の後ろからは、おずおずとユエも顔を覗かせている。日中はあまり活動しない彼女だが、地下なら日差しの心配もない。


「リーフィアさん、ユエさん、おはようございます!」


リオンが元気よく二人に挨拶を返す。


「おはよう。ちょうどいいところに来てくれた。地下室の準備がだいぶ進んできたんだ」


悠真もそう言って、二人を部屋の中へと招き入れた。


「……昨日と全然違います。物があるとこんなに印象が変わるんですね」


ユエが小さな声で驚きを表した。確かに、昨日は何もなかった空間が、今は立派な部屋らしい形になりつつあった。


「私もこれを……」


リーフィアはそう言うと、持参していた小さな鉢植えを岩の隙間から自然光が差し込む窓辺に置いた。


「姉さん、それはなんですか?」


リオンが興味深そうに鉢植えを覗き込んだ。


「コケモスという植物よ。地下でも育つし、空気を清浄にしてくれるの」


リーフィアが優しく植物に触れながら説明すると、植物が淡い緑色の光を放った。


「……綺麗」


ユエが赤い瞳を見開きながら感嘆の声を上げる。


その時、部屋の奥から「ミュウ!ミュウミュウ!」という興奮した声が聞こえてきた。全員がその方向を見ると、テラが何かを見つけたように土を掘り返していた。


「ん?テラ、どうしたんだ?」


悠真が駆け寄ると、テラは「ミュウ!」と嬉しそうに鳴き、掘った穴を指差した。

テラが指さした穴の中には、確かに何かが埋まっていた。


「これは……?」


悠真は慎重に手を伸ばし、埋まっているものを取り出した。それは拳大の石のようなもので、見たこともない模様が刻まれていた。表面は滑らかで、薄い茶色と灰色が混ざったような色をしている。


「化石か何かでしょうか?」


リオンがその不思議な石に見入っている。リーフィアもユエも静かに近づいてきた。


「古代の生物の化石のように見えますね」


「ミュー、ミュー!」


テラが嬉しそうに跳ね回り、その化石に手を伸ばした。


「あぁ、悪い悪い。テラが見つけたものだもんな」


そう言って悠真はそっとテラの小さな手を化石に載せた。


――カタカタッ


その時、テラの手の上でその化石が僅かに震えた。


「えっ、今、動いた?」


リオンが目を丸くして言う。


全員が息を呑んで見守る中、化石の表面にゆっくりと亀裂が入り始めた。するとそこから淡い光が漏れ出し、やがて化石全体が柔らかく変形し始めたのだ。


「これは……」


リーフィアが息を呑む。


化石は少しずつ形を変え、まるで生き物のような姿へと変わっていく。四本の小さな足が生え、尻尾のような部分が伸び、頭部には二つの小さな角が現れた。体全体は依然として石のような質感を保っているが、明らかに生命を宿した何かへと変貌していた。


「この化石……まさか、生きてる……?」


ユエが小さな声で言った。


その生き物は、まるで長い眠りから目覚めたかのように、ゆっくりと首を動かした。全長は15センチほど、小さな竜のような姿だった。


「ミュウ?」


テラが首を傾げながら、その生物を覗き込む。生物はゆっくりと目を開けた。その瞳は琥珀色で、古代からの知恵を宿しているかのような深い色をしていた。


「信じられない……化石が竜になった……」


悠真は驚きを隠せない様子で言った。


「もしかしたら、化石に見えただけでこういう種族なのかもしれません。何らかの理由で地下で眠っていたのかも……」


リーフィアが考える様子でそんな予想を述べた。


「で、でも、どうして動かないんですか?」


リオンが不思議そうに見つめる。確かに、生き物は目を開けただけで、あとはじっとしていた。


「たぶん、体の動かし方を忘れてしまったんじゃないかしら。長い間あんな状態だったのでしょうから」


「確かに。それはありそうだな」


リーフィアの言葉に、皆は納得したように頷いた。


――――――


その日の午後、地下室の整備はさらに進み、エイドとミルフィも合流していた。


「これはまた珍しい生物じゃな!」


ミルフィが目を輝かせながら、テラが抱えている石の生き物を観察していた。


「間違いなく、『リソドラゴン』という古代種の幼体です」


エイドが眼鏡を直しながら言った。


「リソドラゴン?」


悠真が首を傾げる。


「はい、『石竜』とも呼ばれていて、魔力を帯びた鉱物から生まれる生命体と言われていて、過去にも一度鉱山地帯から見つかった記録があります」


エイドの説明に、皆は興味深そうに聞き入った。


「ミュー?」


テラは首を傾げ、リソドラゴンを自分の膝の上に乗せた。リソドラゴンはまだじっとしているが、その琥珀色の瞳はテラをじっと見つめていた。


「自分のことを見つけてくれた、テラのことが分かるみたいだな」


悠真が微笑みながら言った。


――――――


夜になり、牧場の家に戻った一行。テラはリソドラゴンを慎重に抱え、自分の寝床の隣に小さな巣を作っていた。


「本当に気に入ったみたいだな」


悠真がテラの頭を優しく撫でる。


「ミュウ!」


テラは嬉しそうに返事をした。リソドラゴンは依然としてほとんど動かないが、時折足や尻尾をわずかに動かすようになっていた。


さらに翌朝になると、リソドラゴンは立ち上がれるまでになっていた。まだ動きはぎこちないが、確かに自力で立っている。


「ミュウミュウ!」


テラは飛び上がらんばかりに喜び、リソドラゴンの周りをぐるぐると回った。


「すごい進歩だな」


悠真も驚きを隠せない様子だ。


リソドラゴンはゆっくりと首を動かし、テラを見つめた。その瞳には以前よりも生気が宿っているように見える。


「クォ……」


かすかな声を発するリソドラゴン。その声を聞いて、テラが喜びのあまり跳ね回った。


「声まで出せるようになったのか」


悠真が感心したように言った。


その日から、リソドラゴンの成長は目覚ましかった。一週間もすると、テラについて歩くようになり、二週間経つ頃には、小さな石を噛んで砕くことができるようになった。


「こいつ、石を食べるんだな」


悠真が驚いた様子で見ていると、エイドが説明してくれた。


「リソドラゴンは鉱物を摂取して成長するとされています。特に魔力を含んだ石が好物だとされていたようです」


テラはリソドラゴンのために、牧場中から様々な石を集めてきた。リソドラゴンはそれらを選り分け、特に気に入った石だけを食べるようになった。


「せっかくですし、この子にも名前を付けてあげませんか?」


ある日、リオンがそう提案した。テラとリソドラゴンが仲良く遊んでいるのを見ながら。


「そうだな……」


悠真が考え込む。


「ミュウ?」


テラが首を傾げ、悠真を見上げた。


「……ラトリスなんてどうだ?」


悠真の言葉に、テラは「ミュウミュウ!」と嬉しそうな声を上げた。


「クォー」


ラトリスもそれに応えるように鳴いた。どうやら自分の名前を気に入ったようだ。


翌日、エイドとミルフィがラトリスの詳細な観察記録を取るために再び牧場を訪れた。


「リソドラゴンの成長記録は貴重な学術資料になりますよ」


「本来なら何十年もかけて成長する種族のはずじゃが、この地の魔力のおかげで加速しておるようじゃの」


エイドもミルフィも興奮した様子で観察を続けている。


ラトリスはテラが地下室を整備するのを手伝うようになり、小さな体で石を運んだり、時には自分の体から削り取った石の粉で模様を描いたりするようになった。


「見事な模様ですね」


リーフィアがラトリスの作った壁の模様を見て感嘆の声を上げた。石の粉で描かれた模様は、古代の文様のようにも見える複雑な幾何学図形だった。


「ミュウミュウ!」


テラも誇らしげに鳴き、ラトリスの頭を優しく撫でた。ラトリスは「クォー」と嬉しそうに返事をした。


その日から、ラトリスは牧場の正式な一員として迎え入れられた。テラと一緒に地下室の整備を手伝い、時には他の動物たちと遊ぶようになった。特にストーンとは気が合うようで、二匹で岩場の周りを探検する姿がよく見られるようになった。


「テラが見つけた古い化石が、新しい仲間になるなんてな」


悠真は夕暮れの牧場で、テラとラトリスが仲良く遊ぶ姿を見ながら呟いた。


「生命の不思議さを感じますね」


「あぁ。さて、俺達もそろそろ夕食の準備をしないとな」


悠真が立ち上がると、テラとラトリスも「ミュウ!」「クォー!」と元気よく返事をして、悠真の後を追いかけてきた。


古い化石から生まれた新しい命。白石牧場に、また一つ不思議な仲間が増えたのだった。



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