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異世界に召喚されたけど、戦えないので牧場経営します~勝手に集まってくる動物達が、みんな普通じゃないんだけど!?~  作者: 黒蓬


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第101話 森の奥地に眠るクリスタル

初春の暖かな日差しが牧場全体を包み込む午後、悠真は納屋の掃除に精を出していた。冬の名残りがまだ感じられる風が時折吹き抜けるものの、日中は過ごしやすい気候になってきている。


「よし、これで大体片付いたな」


悠真は汗を拭いながら、満足げに納屋の中を見渡した。冬の間に溜まった埃や干し草の屑を綺麗に掃き出し、農具も整然と並べ直してある。足元ではアオイが青い体を揺らしながら床に落ちた小さなごみを吸収していた。


「アオイ、ありがとうな。おかげで作業がはかどったよ」


アオイはぷるぷると体を震わせて嬉しそうな様子を見せた。


「そろそろ休憩にするか。リーフィアのハーブティーが飲みたくなってきた」


悠真がそう言って納屋を出ようとした瞬間、上空からの甲高い鳴き声が聞こえてきた。見上げると、黒い羽をした一羽のカラスが何かを咥えて悠真に向かって急降下してきた。


「トレジャーか。今日は何を見つけてきたんだ?」


「カァー!カァー!」


トレジャーは悠真の肩に舞い降り、咥えていたものを悠真の手に落とした。それは拳大の透明な結晶で、太陽の光を受けて虹色に輝いている。


「これは……クリスタル?」


悠真が不思議そうに結晶を見つめていると、納屋の入り口からリーフィアとリオンがやってきた。


「悠真さん、お昼の準備ができましたよ」


「リーフィア、ちょうど良かった。トレジャーがまた変わった石を持ってきたんだ」


悠真は手の中のクリスタルを二人に見せた。リーフィアは目を細めて結晶を見つめると、少し驚いた表情を浮かべた。


「これは……魔力クリスタルですね。周囲の魔力を吸収して成長する特殊な石です」


「魔力クリスタル?初めて聞くな」


――――――


三人は家に戻り、テーブルを囲みながら、クリスタルについての会話を続けた。昼食のテーブルには、リオンが作った野菜のスープとリーフィアの焼いたパン、牧場の卵で作ったオムレツが並んでいる。


「実は、このクリスタルはとても珍しいものなんです」


リーフィアはクリスタルを手に取り、光にかざしながら説明を始めた。


「神話によると、月の女神が地上を愛し過ぎて流した涙が結晶化したものだと言われています」


「へぇ、神話までついてるのか」


悠真は興味深そうにクリスタルを見つめ直した。リオンも食事そっちのけで目を輝かせている。


「姉さん、これは魔法の増幅に使えるんですよね?」


「そうね。適切な加工をすれば、魔力を増幅させる道具になります。でも、自然のままだと周囲の魔力を吸収して、少しずつ大きくなっていくの」


「危険はないのか?」


悠真の問いに、リーフィアは首を振った。


「いえ、魔力を吸収するだけで放出することはありません。ただ……」


リーフィアは少し考え込むような表情を見せた。


「大きくなりすぎると、魔力に敏感な生き物や人間を引き寄せてしまうことがあるみたいです。特に魔力の高い生き物は本能的に惹かれると聞いたことがあります」


「なるほど。トレジャーが見つけてきたのも、そういう理由かもしれないな」


悠真はトレジャーの方を見た。トレジャーは窓際の止まり木で羽繕いをしながら、時々クリスタルの方をチラリと見ている。


「よくやったぞ、トレジャー。貴重なものを見つけてくれた」


悠真の褒め言葉に、トレジャーは嬉しそうに羽ばたいた。


「でも、トレジャーはどこでこれを見つけたんでしょう?」


リオンの疑問に、悠真も考え込んだ。


「調べてみるか。トレジャー、見つけた場所に連れて行ってくれないか?」


「カァー!」


トレジャーは承諾するように鳴き、悠真たちの前で円を描くように飛び始めた。


――――――


食事を終えた後、悠真はトレジャーの案内で森の奥、普段は足を踏み入れない場所へと向かっていた。以前の百毒華の件を考えて、念のためにフレアとヘラクレスも連れて来ていた。


「結構奥まで行くんだな」


悠真が言うと、リーフィアは周囲を慎重に観察しながら頷いた。


「この辺りは、まだ手つかずの場所ですね」


森を抜けると、そこには小さな窪地があった。窪地の中央には、先ほどトレジャーが持ってきたクリスタルよりも大きな結晶が地面から突き出していた。


「これは……」


悠真が驚きの声を上げると、リーフィアも目を見開いた。


「こんなに大きなクリスタルが……しかも地面から生えているように見えます」


「トレジャーが見つけたのは、このクリスタルの欠片だったんだな」


悠真が言うと、リオンが地面に膝をつき、クリスタルを注意深く観察した。


「これ、本当に地面から生えてるみたいです。まるで植物のように」


「つまり、この辺りはそれだけ魔力が濃いってことか」


「そうですね。恐らく地下に何か魔力の源があるのかもしれません」


リーフィアの言葉に、悠真は思案顔になった。その時、遠くから轟音が響いてきた。


「なんだ?」


振り向くと、やってきたのとは逆の方向から土煙が上がっていた。そして、その原因になっている何かがすごい勢いでこちらに向かってきているのが見えた。


「あれは……?」


段々と大きくなるそれは、見たこともない巨大なボアだった。全長2メートル以上はありそうな大きさで、牙は鋭く尖り、目は赤く光っている。


「あれは、魔獣のレッドタスク!なんでこんなところに!?」


リーフィアが驚きの声を上げる。悠真とリオンも同様に驚きで一瞬固まっていたが、一直線にこちらに向かってくるレッドタスクを見て、その原因に気づいた。


「クリスタルか!」


その時、ヘラクレスがばっ!と飛び出し、レッドタスクに向かって角を突き出して突進した。


「ヘラクレス!」


「コン!」


フレアも警戒の声を上げ、体から炎を纏い始めた。


「みんな下がってて。ヘラクレスを手伝わないと」


悠真がそう言った時、レッドタスクもヘラクレスに気づいたのか、進路を少し変えてヘラクレスに向かって突進してきた。ヘラクレスも角から炎を放ちながら迎え撃つ。


「ヘラクレス、気をつけろ!」


二頭がぶつかり合う瞬間、巨大な衝撃波が発生した。ヘラクレスは踏ん張ったが、レッドタスクの勢いに押され、少しずつ後退していく。フレアも援護するようにレッドタスクの側面に向けて炎の玉をぶつけているが、レッドタスクの勢いは止まる様子はなかった。


「このままじゃヘラクレスが!」


悠真が思わず前に出ようとした時、上空から黒い影が急降下してきた。


「カァー!」


トレジャーは悠真が手に持っていたクリスタルを取り上げると、そのままヘラクレス達の方へ飛んでいった。


「トレジャー!?待て、そっちは危ない!」


悠真が止めようとするが、トレジャーはそのままヘラクレス達の元へ向かったと思うと上空からクリスタルをヘラクレスに向けて落とした。


「ムォー!」


ヘラクレスの闘志溢れる鳴き声が響く。クリスタルはヘラクレスの角に接触し、まるで溶け込むように輝いた。次の瞬間、ヘラクレスの角から放たれる炎が青白い色に変わり、その威力も桁違いに増した。


「ヘラクレスの炎が……!?」


リーフィアが驚きの声を上げた。


青白い炎はレッドタスクを包み込み、魔獣は苦しげな鳴き声を上げた。そして徐々に勢いを失い、炎が収まるとレッドタスクは力尽きたように地面に倒れ込んだ。


「やった!」


リオンが喜びの声を上げる。しかし、悠真は気を抜かず慎重に様子を確認した。


「無事に倒せたみたいだな……」


悠真がほっと息をつくと、ヘラクレスはゆっくりと悠真の方へ歩み寄ってきた。その角にはもうクリスタルの姿はなく、完全に溶け込んだようだった。


「モォー……」


ヘラクレスは疲れた様子で鳴いた。悠真はその首を優しく撫でてやる。


「よくやったな、ヘラクレス。勇敢だったぞ」


「カァー!カァー!」


トレジャーも嬉しそうに鳴きながら、悠真の肩に止まった。


「トレジャーも大活躍だったな。ヘラクレスを助けてくれて、ありがとう」


悠真がそう言うと、トレジャーは誇らしげに羽を広げた。


――――――


夕暮れ時、悠真たちは家のリビングに集まり、今日の出来事を振り返っていた。


「まさか魔獣が現れるとは思わなかったな」


悠真はリーフィアから温かいハーブティーを受け取りながら言った。


「やはり、あのクリスタルが引き寄せてしまったのでしょうね」


リーフィアは考え込むように答えた。


「それにしても、あのヘラクレスの炎は何だったんだ?」


「あれは『マジック・エンハンス』という現象だと思います」


あの現象を知っていたらしいリオンが熱心に説明を始めた。


「クリスタルの魔力とヘラクレスの持つ炎の魔力が共鳴して、一時的に能力が強化されたんです。村の長老から似たような話を聞いたことがあります」


「マジック・エンハンス……なるほど。それで青白い炎になったわけか」


悠真は納得した様子で頷いたが、一つ気になったことを聞いた。


「ヘラクレスの角に溶け込んだクリスタルは、これからもヘラクレスの力になるのか?」


「たぶん少しずつ力を放出していくので、突然の強化はもう起きないと思います。ただ、ヘラクレスの炎は以前より少し強くなるかもしれません」


リオンの説明に、悠真は安心したように微笑んだ。


「それなら良かった。ヘラクレスが使いこなせないような力だったら困るからな」


悠真が言うと、窓の外から「ムォー」という穏やかな鳴き声が聞こえてきた。ヘラクレスは納屋の前でのんびりと草を食んでいた。


「それで、あのクリスタルはどうするんですか?」


リオンの質問に、悠真は思案顔になった。


「あれはまだ地面に根付いている状態だから、あのままにしておくと危険だろうな」


「そうですね。また魔獣などを引き寄せてしまうかもしれません」


リーフィアの言葉に悠真は頷き、しばらく考えてあることを思いついた。


「エイドさんたちに話して回収して貰おう。彼らなら扱い方も知ってるだろうし、使い道もきっとあると思う」


「そうですね。それが良いと思います」


その後、神殿の発掘、修復作業から戻ってきたエイドたちにクリスタルの話をすると、彼らは大喜びで場所を聞いて回収に向かった。


――――――


その夜、悠真は牧場の動物たちが全員無事であることを確認し、安心した様子で眠りについた。フレアは彼の足元で丸くなり、アオイは窓際の小さな籠の中で静かに休んでいる。


外では、ヘラクレスとトレジャーが月明かりの下、パトロールをしているかのように牧場を見回っていた。ヘラクレスの角は、わずかに青い光を宿し、トレジャーは時々空を舞いながら、牧場の平和を見守っている。


初春の風が穏やかに吹き抜ける中、白石牧場はまた新たな奇跡と共に、静かな夜を過ごしていた。

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