お誘い
久しぶりにこのシリーズ書いたので、どこか前と矛盾してるとこがあったらすみません。
「皆様、お集まりいただきありがとうございます」
広々とした応接間。その中央で青年が朗々と声を張り上げる。
その青年を、ある者はソファに腰掛け、ある者は立ったまま見つめている。
その中の一人、ソファに座っていた若い女性が口を開いた。
「犯人がわかったって、本当なんですの?」
それが合図だったかのように部屋がざわつく。皆本当なのか、犯人は誰なのかと話し出す。
青年―探偵はそれを片手を挙げて制すと、
「犯人はわかっています
しかし犯人を明かす前に、その人物が犯人たる証拠をお目にかけましょう」
言って懐から取り出したのは一通の手紙だった。
「その手紙の筆跡に該当する人物はいなかったはずだ」
探偵のそばにいる、トレンチコートを着た男性が言う。
「その通り。それがこの事件を複雑にしていたのです」
皆の表情に困惑の色が広がる。その中でトレンチコートの男性が、
「はっ!まさか」
そうです、と探偵は頷く。
「犯人は犯行後、素早く美文字トレーニングをして筆跡を誤魔化したのです!!」
『嘘つけええええええ!!!』
蠍は思わずテレビのリモコンをぶん投げる。
「ぎゅーーーー!!!」
「ちょっと蠍さん!危ないでしょ」
驚いた雨が悲鳴を上げ、汐が慌てて床に落ちたリモコンを拾い上げた。
『なんだよ!このドラマ!!』
「今人気の探偵ドラマ『探偵秋舞の事件簿』」
これが人気って、牡牛国国民たちは一体何を考えているのだろうか。
「放送後にネットでこのドラマへのツッコミ書くのが流行ってるんだって」
『炎上してんじゃねぇか、それ』
しかし、面倒くさがりの汐がそんな悪口ブームに乗るとも思えない。
『お前はなんで観てんだよ』
「毎回どんな推理するか楽しみなのと、相棒役の春巻さんが好きだから」
汐は言って、未だに荒唐無稽な推理をつらつらと並べている探偵の後ろに立っている牛の顔を持った生き物を指す。
どう見ても、ミノタウロスだ。
蠍が牡牛国に来てしばらく経つが、未だに慣れないことも多い。
その一つがミノタウロスの存在だ。
そもそも何故この国にはミノタウロスが生息しているのか。それは牡牛国の起源まで遡る。
この地がまだどこの領土でもなかった頃。
あるとき雷神が天から地上を見下ろしていた。
雷神はある国の王女に目を留めた。そして、一目で恋に落ちた。
雷神は目立たないように牛に変身して地上に降り、彼女に会いに行った。
王女はとても穏やかな人で、一緒にいると心が癒された。彼女と触れ合う内に、雷神は気持ちが抑えきれなくなっていった。
雷神は王国から彼女を拐い、王女に正体を明かすと、二人は結婚して新たな国を興した。
その二人(?)の子孫が、今の牡牛国民たちだと言われている。
そんな経緯から、牡牛国では牛の遺伝子を強く受け継いだミノタウロスとして産まれる者が出てきたらしい。
そんなわけで牡牛国ではミノタウロスは人間とほぼ変わらない扱いをされており、普通にその辺を歩いている。人間に比べると数は大分少ないようだが。
『この牛頭のどこが良いんだ』
「渋くて良い声だし、演技も上手いし」
『いや、表情読めねえし、そもそも何言ってるかわかんねぇよ』
「字幕あるでしょ」
ミノタウロスは人語は喋れないが、始祖を同じくしているためか、牡牛国民には意味がわかるらしい。一応外国人向けにテレビや映画には字幕はついているが。
『それに声も低すぎて聞きづら···』
蠍がなおも文句を言いかけたとき、
「汐ーーー!!」
ドアを乱暴に開けて、赤毛の少女が飛び込んできた。
汐の姉、初果である。
蠍は口をつぐむ。今は汐のペットの毒虫として生活しているが、色々と面倒なので、汐と雨以外の前では喋らないようにしているのだ。
「どしたの?初果ちゃん」
「当たったの」
「何が?」
初果は頬を上気させつつ汐にずいっと近づいて自分の携帯を見せると、
「Be-foodsのライブが当たったわけよ」
それを聞いた汐は一瞬沈黙して、
「それって!春巻さんのいるグループじゃん!」
どうやら春巻はアイドルだったらしい。
「一緒に行く?」
汐は少し考える。人混みは苦手なのだ。でも、
「行こっかな」
やはり好きな芸能人(?)は見たいらしい。
「さ···雨ちゃんも行く?」
雨だけに言っているように見せているが、これは蠍にも尋ねている。
「きゅー!」
雨はどうやら行くと言っているらしいが、言葉がわからないのはミノタウロスも雨も同じだ。
蠍はどうするか。正直、ミノタウロスのライブに興味は一ミリもない。
しかし、先日の誘拐事件のこともあるから、なるべく汐から離れたくない。
『·············行く』
蠍は仕方なく小声でそう言った。
美文字トレーニングで筆跡はおそらく誤魔化せません。