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【完結】暗殺の瞬が名を捨てるまで  作者: 二角ゆう
表の大戦(おおいくさ)編
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第48話-2 瑛真と毫越(ごうえつ)の闘い(後編)

「ははははは!! 血を見たのはお前の親父以来だ! 嬉しいなぁ!!」


 毫越ごうえつはイキイキし始める。それを見た瑛真は口をギュッと結んだ。


(今のは炎風を圧縮して短剣に纏わせ、周りに別の炎風を乗せた二層式だった。十分時間を使って作り上げてあの傷だ。これでも足りない)


「俺も武器作ろうかなぁ?」

 毫越は剣に泥を纏わせ始めた。外側に棘を作る。


 それを見た瑛真は右手に持っていた短剣を腰に仕舞うと毫越に飛ばされた剣を拾った。そして瑛真も力を込める。今度は炎だけを圧縮して剣を纏わせる。その周りを別の炎風が流線形に回転しながら纏う。毫越は瑛真に近づいて振り上げた。二人の剣はぶつかり合う。


「わっ!!」

 ぶつかった衝撃だけで外側の炎風が消えてしまった。


(これじゃあすぐに剣がダメになる!)


 二打撃目、瑛真は炎風を注ぎながら剣で受ける。すぐに炎風はかき消されて圧縮した炎に熱された剣で受ける。毫越の剣から棘が取れる。瑛真の炎剣で固まった棘が強度を失って壊れたのだ。しかそ炎は弱くなっていく。


 ガキン! ガキ、ガキン! 瑛真の剣はただの剣になった。毫越は剣を横に動かす。毫越の攻撃を防ぎきれない。瑛真の脇腹に毫越の剣が当たる。


 大木が勢いをつけて脇腹を潰したような痛さを感じた。


 ボギン、一番下の肋骨が衝撃に耐えきれず折れた。

「がああぁぁ!!!」


 あまりの痛さに身をよぎりたいが上手く身体が動かなかった。呼吸をする度にズキズキとした痛みが瑛真を襲う。瑛真は思わず後ろへ引いた。そして瑛真は左手を短剣にかける。


「逃げている暇はないぞ? もっと遊ぼうぜ」


 大きくそびえ立つこの男を鬼だと感じ全身が震えた。そして瑛真は毫越を討つ策は考える。毫越にとって一番効くのは炎だ。これをできる限り剣に纏わせる。縦、横と何層も重ねれば毫越を討てる武器となるがそれを実行する隙がないのだ。


 斗吾とうごに使った炎の無空気の空間は瑛真の左腕の傷と肋骨の骨折を考えると瑛真の分が悪い。


 今左手で鎖のついた短剣に力を込めているがこれで毫越を拘束出来ないかと考えた。それには毫越にかなり近づかないと出来ない。


炎身えんしん


 瑛真は炎を身体に纏わせる。瑛真は毫越に向かって走る。毫越から泥が飛んでくる。身体を仰け反って避ける。


 ビギンッ!!

「ぐぅっ!!!」


 折れた肋骨が内側から勢いよく骨へ金槌を当てたような衝撃と痛みが瑛真を襲う。泥は瑛真の反った胸の真上を通過する。瑛真は真っ赤になった短剣にを左手で毫越の身体に巻き付くように横から投げる。


「泥波」


 毫越は手から大量の泥を出し始めた。鎖のついた短剣は泥波に飲み込まれる。瑛真も泥波に飲み込まれたが身体を纏う炎が泥の水分を奪いボロボロになっていく。

 瑛真の身体から炎が無くなった。


「ぐぬ」


 泥波がおさまると毫越の左手に鎖が巻き付いている。


 ジューという音を立てて毫越の左腕から白い湯気のようなものが立っている。


「くそっ!」


 毫越は顔を歪ませながら腕中から泥を出すがすぐに乾燥してボロボロになっていく。瑛真は距離をとって両手を前に出す。


(練習では試さなかったがぶっつけ本番でやるしかない。)


 ゴオォォォ!! 風が瑛真から溢れ出ると後方へ勢いよく流れる。毫越はそれを見て呆れ声を出した。


「一体何のマネだ? 時間稼ぎならもう飽きた。泥大砲」

 毫越の目の前に大きな泥の玉が出来てきて、どんどん大きくなる。


 そこへ瑛真は叫ぶ。

氷波ひょうは


 これは圧縮空気を使った冷却方式で温かい空気を後ろに逃がすことにより前方から冷却した空気が出る仕組みだ。


 超冷却空気が毫越向けて突風のように襲う。泥大砲の大きな玉は急激に冷やされ固くなりドゴォン!!! と音を立てて地面へ落ちた。


「何ぃ!??」


 毫越は混乱する。その時毫越は違和感がして足元を見た。先程の瑛真の攻撃で足元が凍って動けなかったのだ。毫越は瑛真を見ると剣を構えている。


 毫越は下を向いて右手でギュッと胸を掴むと瑛真の方へ顔を向けると満足な顔をした。


「俺の手を封じたやつは初めてだ! 足止めしたやつも初めてだ⋯⋯」


 瑛真は毫越の目を見た。すると瑛真の全身の毛がよだつ。毫越の瞳の奥には底なしの闇が広がっている。そこへ瑛真の本能は危険を知らせる。


 逃げろ! 今逃げないと死ぬまで追ってくるぞ!


 瑛真の思考が本能を抑え込む。

(大丈夫⋯⋯親父の仇を取るんだ!)


 瑛真は手を震わせながらカタカタ音を立てて剣を鞘から取り出すとしっかり握り力を溜め始めた。毫越が動けるようになるまで極限に力を溜めなければならない。


「それが最後か? それなら俺も準備させてもらう」


 毫越は漆黒のような目で瑛真を見る。

「泥壁・超」


 毫越は瑛真との間に壁を作り始めた。先程と同じく毫越は壁に隠れ瑛真から見えなくなった。おそらく自分の目の周りにも泥を纏っているのだろう。


 瑛真の剣は赤く光を放つ。刃には青い光が帯び始める。


(あと少し⋯⋯よし!)


 瑛真は構える。ゆっくりと肺の奥まで息を吸うと大きな口を開けた。


「炎剣・超」


 瑛真は壁に向かって前へ剣を突き立てる。瑛真が込めた炎の力は刃先を青く光らせ温度はおそらく10000度を超える。泥は瞬時に水分を無くし固くなる。


 ガチガチガチガチ!!! 泥の壁と剣先が擦れ合い甲高い音を立てる。瑛真は思い切り押す。


 ガチガチガチガチ!!!!! 泥の壁にはヒビが入っていく。


(よし! このままいけば壁が割れる!!)


 そこへ毫越から死刑宣告を受ける。

「この壁の先で俺は剣を構えている。壁が壊れ次第お前を刺し殺す。それでも壁を壊すか?」


 ドクン!! 毒を受けた魚のように心臓が跳ねる。瑛真は目を瞑ると親父の顔を思いだす。


(親父の笑顔を奪われたときのことを考えればそんなこと大丈夫だ!)


 思考で身体を押し付ける。


 震える剣先をもう一度泥の壁に押し付ける。


 ガチガチ⋯⋯ビギンッ!!!! 瑛真の手に固い衝撃が来る。泥の壁は破れ始めた。あともう少しで穴が空く。


 そうしたら毫越から刃先を胸に突きつけられる。瑛真は全身を嫌な感触が覆い恐怖に駆られる。目をつむり大声を出して頭から考えを追い出す。




「うおおぉぉぉぉぉ!!!!!!」





 ビキビキ⋯⋯ガラララン!!!! 壁が崩れる。瑛真は目を見開いてひたすら毫越の刃先を探す。そのまま瑛真は剣先を毫越へ押す。毫越の腕が見える。


(どこだ?剣先はどこに来る?)


 グサッ!!!


「がぁぁぁ!!!!」



 毫越の剣先は瑛真の心臓よりは左に反れてそれ左腕の付け根に刺さった。


 瑛真の剣先は予想通り毫越の泥の盾に突き刺さった。このまま盾を壊して刺されば瑛真の剣先は毫越の心臓へ届く。毫越は真剣な顔で言った。


「くそっ! 心臓からはズレたか。だがお前が俺に剣先を押せば俺の剣先もお前の腕の付け根に食い込む。お前の剣先は俺の心臓を突けるかもしれないが、お前もこのまま刺さると出血多量で死ぬぞ。さぁ、どちらを選ぶ?」


 瑛真は恐怖と闇の海に溺れそうになっていた。


 剣先を引いても押しても待つのは死。


 瑛真は剣先を押す。

「ぐぁぁぁあああ!!!」


 瑛真の腕の付け根から血が溢れ出し手を伝って指先からポタポタと血が落ち始めた。瑛真の腕の付け根からは神経がちぎれそうな痛みがする。


痛みから逃れるのに自分の頭をもぎ取ってしまいたい。


そんな逃避感に襲われる。そして瑛真は剣を持つ右手を見た。幾度となく誓いをしてきた拳。一樹や兄弟子の想いを繋げたい。脳裏には赤龍の里で誓った時のことが目の前に浮かび上がる。


 ”蘇芳すおう先生の赤龍の首飾りを必ず取ってきてくれ!”


 そうだ、俺は必ず仇を討つんだ!!そう自分を鼓舞すると頭にあることが思い出される。



 ”必ず生き残れ”



 霜月の言葉だ。それを皮切りに瞬、蒼人、諒から誓いの拳で激励された。おそらく同じ立場なら一樹たち兄弟子も同じことをしてくれただろう。その温かな気持ちは瑛真に力をくれる。


(ありがとう、皆。俺が生き残る道はただ一つ。剣先を相手に向けて討つことだ!!)


 毫越は瑛真の雰囲気が変わったことに気がついた。さっきまで痛みに飲まれそうになっていたのに⋯⋯何が変わった?


 瑛真は真っすぐ毫越を見据えるともう迷わなかった。

「うおぉぉ、毫越、お前を討つ!」


 瑛真は剣先を持てるだけの力で押した。瑛真は自分の剣先を押した分だけ毫越の剣が自分の左腕の付け根に食い込んでいく。瑛真の左手からは勢いよく血が流れ落ちる。


 グサリッ!!! 肉から剣先が飛び出る。


 ボトッ、瑛真の左腕は地面へ抗うことなく落ちた。地面に当たる瞬間地面に出来た血溜まりで少し血が跳ねたがすぐに動かなくなった。瑛真の剣先は毫越へ届いた。毫越は目を見開いている。そして瑛真は地面へと崩れ落ちた。


 ゴボッ、毫越の口から血が溢れ出る。瑛真の剣先は毫越の心臓を貫いたのだ。次第に毫越の瞳から力がすうッと抜けていく。


「戦いの中で死ねるなら⋯⋯本望だ」

 毫越は力なくその場に崩れ落ちた。




 毫越は瑛真の最後の瞳にある人物を重ねていた。


 何度も夢に出てきた光景だ。

 横たわるある男の真横に控える。


 若い毫越が涙を溜めて目の前に倒れている主君にこう叫んでいる。


高遠たかとお様、逝ってはなりません!!」

実藤さねとう、其方は強い。すぐに新しい主君が見つかるだろう。その主君に全身全霊を尽くせ」





 高遠様。貴方様よりも素晴らしい主君を見つけることは出来ませんでした。実藤はようやく貴方様の元へ逝けます。

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