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【完結】暗殺の瞬が名を捨てるまで  作者: 二角ゆう
表の大戦(おおいくさ)編
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第47話-2 霜月と鄧骨(とうこつ)の闘いのあと(後編)

 ようやく諒の軍が動き始めて諒も戦い始めた。諒は周りの残党を馬の上から剣で切る。諒は不思議な感覚だった。剣を握って切る日が来るなんてくるんだな。しばらくのらりくらり受けていた。後ろから1人の若い家臣が聞く。


「白若様、大丈夫でありますか?」

「伊藤、ありがとう。私は大丈夫だ。戦況があまり見えないな」


 伊藤に答える。ヒゲを生やした足立と言う家臣が前から戻ってきた。


「白若様、少し仁科殿の軍が押されているようです」


「そうか、妙禅(扮する毫越ごうえつ)か?」

「いえ、妙禅(扮する毫越)は姿が見えません。妙禅(扮する毫越)はもっと前方にいるかと思います。おそらく仁科殿と交戦中でしょう」


 100メートルくらい先でたくさんの声が上がる。


「おそらくあそこにいるのは妙禅(扮する毫越)の側近の内の1人です」


(僕は参加しなくていい。生き残るのが第一だ。一度引くか)


 足立はその様子を見て白若扮する諒にこう告げる。


「白若様の力では難しいです。一度引きましょう」


 諒はコクリと頷く。


 彼らにとっては白若は戦い慣れていない白若と同じように見ているのだ。そして白若と同じく諒の身を案じているのだろう。諒は後方に引き返した。5分ほど引き返すと背後から何かが気配がした。


 諒は馬の向きを前方に変えた。諒の目の前を短剣が飛んでいった。諒は投げた相手を探る。人混みから一人の男が出てきた。


「運のいいヤツめ」


 その男は諒と目が合うとこう言った。男は170センチくらいだが細身だった。


「僕は1000人斬りを目指してるんだけど協力してくれるかな?」


 その男はにこりとしていった。諒は馬を降りた。そして投げられた短剣を拾った。男はニコニコして近づいてくる。


「物わかりが良いね。君は999人目なんだ。1000人目じゃないのが残念だよ」

「何いってんの? こんなんじゃ僕は殺せないよ」


 諒は喉元目がけて短剣を投げた。男は横に避ける。男の視線はキツくなる。


「へぇ、抗うんだ?」

「見逃してくれないかな? 僕は生き残らないといけないんだ」


 諒はニッコリ言う。それを聞いた男は短剣を拾うとブンブン回していたが短剣を仕舞った。今度は腰から剣を抜いて構える。そして男は踏み込んだ。


「戦って生き残ればいいだろ?」

「話が通じないなぁ。剣なら誰にも負けないよ?」


 それを見た諒も踏み込む。すると男は剣を振り上げ素早く下ろしてくる。諒は左手を刃にして受けると右手刀みぎしゅとうを男の胴を横切る様に振る。


 バリバリ! 男の腹には木の皮のような物がついている。


「あっぶねー!」


 男は声を上げた。諒は間を置かずに上に軽々と飛んで回し蹴りをする。すると男の脇腹に当たった。しかし離れた時に何かが足に巻き付いた。茶色の乾燥した固い皮のようにみえる。


(木の枝のように見える?)


 諒は足を見ながら袖を切る。

「郡矢!」


 諒は叫ぶと20ほどの布の切れ端は刃に変わり男を襲う。その間に諒は足に巻き付く枝を切り地面に着地する。


 ポタポタ、相手の顔や腕に切り傷が出来て血が流れる。いくつかの刃場あたったようだ。相手は手を前に突き出して諒の動きを止める。諒は構えながら相手の様子を伺った。


「待ってくれ。うわっ痛ー、強いじゃん。俺は妙禅(扮する毫越)殿の臣下の清隆。そっちの名前は?」

「僕は桐生家嫡男の白若だ。阿道派の軍として参加している」


 諒はそう答えると清隆はじっと諒を見る。


「悪いけどちょっとタンマね!」


 そう言うと清隆の身体は木の幹のようなものに包まれた。その様子を見ていた諒は目を丸くした。


「何なんだ⋯⋯?」


 諒は相手が木の幹に引っ込んでしまったので攻撃を止めて、その塊を見ていた。しばらくすると木の幹が裂けて清隆が出てきた。諒は清隆の身体を見て、目を丸くして声を上げた。


「えっ? 傷が⋯⋯無くなってる⋯⋯」

「そうなんだ! 俺の力は木の攻撃と治癒!」


 清隆はニッと口角をあげていった。諒はそれを聞いて両手を刃にするとちらっと見た。清隆を待っている間に布を暗器で切って準備しておいたのだ。そしてこう叫んだ。


「刃吹雪!」

「わぁ!」


 清隆は木でガードするが小さな刃は吹雪のように舞って細かい傷が付く。その間に間合いを詰めて踏み込み清隆に切りつける。すると清隆から枝が伸びてくるので、切り刻むとそのまま続けて上から勢いよく切る。


 シュッ!清隆の腕が切れる。諒は腕を上に上げてこう叫ぶ。無数の刃が清隆に襲いかかる。


「切雨!」

「痛い! 痛いって!」


 切り傷がどんどん増えていく。すると清隆はキッと鋭い目で諒を見ると木の幹の中へ隠れてしまったため、外から切りつける。しかし切っても切っても木は再生する。


(これじゃあ攻撃しても回復されちゃうな⋯⋯。)と諒は困った。


 待っている間諒は次の手を考える。しばらくするとまた清隆が出てきた。出てきた瞬間諒は吹き矢を吹く。


 プスッ、清隆の肩に刺さる。

「いてっ!ちょっと白若勘弁してよ」


 清隆の足がふらつく。清隆は身体の異変に諒を睨む。


「これ毒じゃん!」

「もう清隆、勘弁してよ」


 また清隆は木の幹の中へ入ろうとするので、諒は無理矢理止めようとした。清隆の腕のところの木の幹に切り込むと諒の刃に木の幹から枝が伸びて絡みついてくる。それを切り刻んでいるうちにまた清隆に木の幹の中へ入られてしまった。それを見て諒は頭を抱えた。


「くっそーどうしようかな⋯⋯あっそうだ! 燃やそう!」


 諒はそう言って周りに落ちていた木を集めると清隆のいる木の幹の下に置き火を起こした。さすがに熱かったのか清隆は顔を出した。


「熱っ! 燃やすなよ」


 そう言って清隆は大きな木を作ると上の方にまた木の幹を作ってその中に入った。そして清隆が出てくると諒はうんざりしてこう告げた。


「もう戦うのやめない? 僕は戦績が欲しくて戦に参加したわけじゃないの。清隆と戦う理由がないのよ」

「俺もやめたい。もう白若と戦いたくない。痛いもん」


 清隆もうんざりしたような顔で賛成した。しかし清隆は腕組みすると難しい顔をして聞いてくる。


「どうやってやめる?」

「うーん、清隆が目を瞑っている間に走って逃げるよ」


「嫌だよ。目を瞑っている間に攻撃されたら嫌だもん。もっと痛いのきそうだし、白若が目を瞑れよ」


(前言撤回。ここに留まれないなら瑛真を探しに行こう。)


 そう思い直し諒はこう言い残した。

「僕もやだよ。じゃぁ僕はこのまま行くからじゃあね」


 諒は馬に乗って瑛真を探しに軍の前方へ馬を進めた。諒はどんどん前へ進む。遠くから声がする。


「待てよー!」

「げっ! なんでついてくるんだよ!」


 諒は振り返って大声で言った。清隆も馬に乗って追いかけてくる。そして大声を出している。


「なんか逃げられたみたいでカッコ悪いじゃねーか!」

「勝手にカッコ悪がってろよ!」


 諒は呆れて言い返した。瑛真を探している間こんな言い合いがずっと続いた。



 ■



 時は諒の出陣まで戻る。


 瑛真は勢いよく前へどんどん馬を駆ける。瑛真の腰の左側には剣、右側には鎖で繋がった短剣二本が刺さっていた。諒に手合いで動きを試させてもらったものだ。最後には長月にも実戦同様、武器と炎風による攻撃を試させてもらった。そして長月はこう感心していた。


「瑛真は発想がいいな。武器と暗器の力を組み合わせるなんて思いもしなかった。組み合わせ次第では結構有利になるなぁ」


 瑛真はしばらく馬を走らせ続けた。仁科軍の中にはもう入っていると思う。

 近くの者に聞いた。


「失礼する、妙禅(扮する毫越)を見かけたか?」

「ここにはいない。もっと前方じゃないか?だが妙禅(扮する毫越)は危ないぞ」


 そう兵士は答える。前へ進むしかないかと瑛真は馬を前へ走らせる。またしばらく行ったところで同じように聞く。


「妙禅(扮する毫越)は一度も見ていない。もっと前の方だと思う。しかし妙禅(扮する毫越)には近づかないほうがいいぞ。目が合うと殺されるぞ」


 そう兵士は答えた。聞いて瑛真はまた馬を走らせた。


(こんなに奥で戦っているのか)


 随分前の方まで来ると金軍でもかなり後方まで来たようだ。近くにいた仁科軍の兵士に瑛真は毫越の居場所を聞いた。兵士は右の方を見るとこう告げた。


「おそらくあの人だかりの方だと思う。多分仁科様が相対している。だが妙禅(扮する毫越)は強い。無駄死にするぞ!」


 瑛真は礼を言うと右の方へ馬を倒した。人だかりがすごい。瑛真は隙間を探す。


 人だかりの真ん中の方で声がわっと上がる。歓声と悲鳴が入り交じる。そのうち人だかりはばらばらになっていく。誰かが口々に何かを言っている。声と声が重なり上手く聞き取れない。そうしているとまた近くで声が上がった。


「仁科様が討たれた。妙禅(扮する毫越)が来るぞ! 逃げるんだ!」


 瑛真は目を見開いた。近くの者が瑛真を見ると警告する。


「其方も下がったほうが良い。仁科軍より後方の者だろう。妙禅(扮する毫越)が来るぞ」


 瑛真はそれを振り切り前へ進む。


 ここは渦中だ。討たれた兵士が重なり合っている。毫越にやられたものだろうか⋯⋯? 瑛真は前方に一際大きい男がいるのを見つけた。瑛真は右手に炎風の玉を作り力を込める。玉が出来上がると別の炎風の中に入れ右手を引くと毫越の方向へ勢いよく出す。


「炎獅子」


 瑛真の手から放たれた力は炎を纏った獅子に変わる。毫越は右の方を向いていてまだ気がついていない。当たる直前毫越は炎獅子に気がつき既のところでに大きな四角い棘のついた金槌のような武器で炎獅子を払う。


 ボゴン!!!! ものすごい衝撃が周りの空気を揺らす。毫越に当たった瞬間、爆風が周りに立ち込めて毫越は煙で見えなくなった。


 風で煙が横にサーッと動くと徐々に毫越の姿が見えてきた。


 毫越の武器は大破した。そして毫越はゆっくり瑛真の方へ頭を向ける。先ほどの攻撃で周りの兵士は混乱しているが毫越と瑛真からは遠ざかっていく。兵士は危険を感じたのだろう。


 毫越と瑛真は対峙した。

次回:第48話-1 瑛真と毫越(ごうえつ)の闘い(前編)です!

二人の闘いが盛り上がってきました!

次回の作者にすみイチオシの台詞↓

「ははははは!! 血を見たのはお前の親父以来だ! 嬉しいなぁ!!」

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