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【完結】暗殺の瞬が名を捨てるまで  作者: 二角ゆう
表の大戦(おおいくさ)編
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第47話-1 霜月と鄧骨(とうこつ)の闘いのあと(前編)

 横になった霜月の隣に瞬が座っていた。蒼人は霜月が鄧骨とうこつを討つところを見ていた。二人が闘っている間中、怖くて動けなかった。自分の命をかけて闘ってくれた霜月の元へやってくると蒼人は横になって目をつむる霜月に深く頭を下げてお礼を告げた。


「霜月さん、鄧骨を討ってくれてありがとうございました」


 しばらく沈黙が流れた。


 瞬は落ち着いたようで蒼人を見るとこう聞いた。


「ここは終わった。俺は霜月さんに付いてるから、やられる瑛真の様子を見に行ってくれないか?皆に会ったら鄧骨を霜月さんが討ったこと伝えてほしい」

「分かった、すぐに向かう」


 蒼人は大きく頷くと近くにいた馬に乗ると駆け出した。そして瞬は霜月を見続けていた。


 ザッザッザッ、感傷に浸っている暇もなさそうだ。敵の残党が近くに集まってきた。強くはないが数が多い。霜月を地面においてさっさと殺るかと考えて、瞬はイライラした顔を上げると立とうとする。


 すると1人の男が近づいてきた。その男は周りの者にこう告げる。


「おっとこいつは俺の獲物だ。他のやつは散れ。俺が天壌(扮する鄧骨)殿の側近だってこと知ってるよな?」


 その言葉に残党は後ずさっていく。そして瞬はその男を見た。瞬はふてぶてしく短剣を持って構えた。


「有馬じゃねーか」


 男は残党が散るのを見てから瞬と霜月を見ると、こう説明した。


「俺は弱い者いじめはしない主義なんだ。五百蔵いおろい様は八反田はったんだを討った。さっき早馬が知らせてくれたんだ。

 お前らは負けたんだ。そして戦はじきに終わる」


 それを言うと今度は怒ったような顔になりこう吐き捨てた。


「まったく毒じゃなくて痺れ薬なんて生ぬるいもの使って……。俺は情があって鄧骨殿に仕えていたわけじゃないから、戦った相手の良し悪しは俺が決める。瞬、後できっちり相手してくれ」

「⋯⋯恩に着る」

「ふん」



 ■


 時は遡ること、霜月と橙次が八反田はったんだ軍から離れた時まで戻る。


 陶次は霜月を分かれると馬を走らせる。しかし瑛真が狙う毫越の方角とは違い霜月の向かった右の方へ向かった。

 しばらくすると陶次の姿が消えた。


 天壌(扮する鄧骨)軍の陣営の奥の森から全身鎧を身にまとい槍を持った人物が馬に乗って現れた。


 その鎧は馬に戦場を走っていると兵士たちの集団に紛れた。そうしてその鎧は移動していく。天壌(扮する鄧骨)から少し離れたところに天壌(扮する鄧骨)の側近の一人が敵の兵士をなぎ倒していた。側近の周りから敵が一掃されるとその鎧に気が付き立ち尽くして視線を投げかけた。側近は目を丸くしてその名をこぼす。


「⋯⋯光原殿⋯⋯」


 その鎧はゆらりを動くと槍を頭の上で回転

 させると側近に近づき馬から叩き落とした。天壌(扮する鄧骨)の側近もある程度鍛え上げられている。その側近が鎧ごと馬から叩き落とされたのだ。側近は地面に着地するとすぐさま体制を整えようとする。


 しかし、激痛を感じ側近は身体が動かないどころか息が出来ない。鎧は右手に槍を持ち左手を側近に向ける。側近には鎧から声が聞こえる。何かを言っているようだ。


 周りが真っ白になる。そこには側近の断末魔が響いた。


 鎧はすっと向き直ると馬へと戻っていった。先ほどの戦いを見ていた者や断末魔を聞いていた者は鎧を見つめ真っ先に邪魔にならないように後ろへ引いた。それを見た周りの兵士は道を開ける。鎧の背後でひそひそと声が聞こえる。


「あれは光原殿ではなかったのか?」

「仲間を討つなんて考えられない⋯⋯亡霊じゃないか?」


「⋯⋯光原殿の怨念⋯⋯」


 鎧はしばらく走っていたが天壌(扮する鄧骨)の他の側近が見当たらないので、あきらめて毫越のいる方へ勢いよく向きを変えると走って行った。妙禅(扮する毫越)軍と天壌(扮する鄧骨)軍の陣営は離れている。その移動中に鎧は姿を現さなかった。戦場の混乱もありまだ噂は広まっていない。


 妙禅(扮する毫越)軍の陣営へやってくるとぐるりと広く陣営の様子を見る。側近は二人程見つかったので場所を覚えておく。


 妙禅(扮する毫越)は誰かと戦っているが瑛真の姿はまだない。諒たちは阿道派の遠縁であるから配置の順番として後ろの方だろう。異動に時間がかかっているようだ。妙禅(扮する毫越)は誰かを切り捨てた。切り捨てられたものは地面へどさっと倒れた。


 妙禅(扮する毫越)はがっかりしたようにため息をついている。ほとんど見えない鎧には気が付いていないようだ。妙禅(扮する毫越)は誰かを見ているようだ。鎧もその視線の先へ目を向ける。


 瑛真だ。


 鎧は瑛真の横を通り過ぎた。

 鎧は見つけた内の側近の一人へ近づいて行った。


 程々妙禅(扮する毫越)から離れると鎧は姿を現した。周りの兵士は鎧姿に注目する。鎧は注目を気にすることなく妙禅(扮する毫越)の側近へ近づいていく。槍を側近へ向けて殺気を放つ。側近はびりびりと放垂れる殺伐とした空気に後ろへ飛びのいて警戒する。


 側近は鎧の姿に驚いて口を開ける。


「⋯⋯光原殿ではないか?」


 そこへ鎧は槍を側近に向ける。側近は構える間もなく槍は側近の心臓、みぞおち、首など急所を側近の鎧の上から打つ。


 あまりの衝撃に鎧の上からでも攻撃が強く伝わり側近は片膝をついて咳き込んだ。鎧は側近の近くにただ立っている。


 あまりにも異様な光景に周りの兵士たちは二人から距離を取っている。


 側近は顔をあげて鎧を見ると鎧は左手を側近にゆっくり向けた。側近は苦しそうな声を周りに響かせる。


 そのまま側近のまわりの景色が歪んでいく。景色がゆがんだところからは少しした後、複数の金属を上から落とすような音が地面を跳ね返って響かせた。景色が晴れてくると側近が倒れているのが見えた。おそらく側近の身体が鎧ごと攻撃されたのだろう。それを見た近くの兵士が側近へ駆け寄っていく。


 周りの兵士はただ事ではないことを感じていた。兵士たちは震える手で剣を持ちながら鎧を警戒する。そうすると鎧は高く槍を持ち上げる。兵士は空を見上げると大きな花火のように鮮やかな光が降り注いでくる。風車の花畑、長く続く鳥居の道、雲のようにふわふわと浮いている大きな火の灯った提灯が空を埋めつくす。


 鎧だけが動く。


 兵士たちは周りをぼんやり見つめている。誰もが戦場にいることを忘れている。誰も鎧が動いていることに気が付かない。


 鎧は槍を構えて兵士たちを切り始める。兵士たちは痛みさえも忘れている。術にかかった者はすべて切捨てられた。


 景色がはっきりするとあたり一面血の海になっていた。その真ん中に鎧の人物が立ち尽くしている。


 その景色を見た周りの兵士たちは青ざめていた。戦だというのにあたりは静寂に包まれた。


 すると鎧の人物はあたりをぐるりと見ている。時が止まったように誰もが音をたてないように身を固くしている。


 そのうち鎧の動きが止まった。妙禅(扮する毫越)の二人目の側近に正面を向けた。側近はわけもわからず鎧を見ている。


 鎧は右手には槍を持ったまま両手を横へゆっくりと広げる。側近の立っている地面とその周りの地面が沼のように黒く変化し側近を含む兵士たちの足を飲み込んでいく。


 ごぽごぽと沸騰しているかのように空気の泡が連続的に破裂しているように泥がはじける。その泥は次第に上へと上がっていく。そこかしこから叫び声が聞こえてくる。沼地にいなかった者も恐怖で後ずさる。


 その叫び声は耳を覆いたくなるほど大きくなりしばらくすると泥に頭まですべて飲み込まれた。


 そうするとあたりは静かになった。そのころには鎧姿の人物は消えていた。


 鎧は勢いよく走っていく。姿が小さくなると消えていった。




 陶次は馬に乗って走っていた。辺りをキョロキョロと見て瑛真を探している。


「瑛真―! ったく毫越とどこへ行ったんだ」

次回:第47話-2 霜月と鄧骨(とうこつ)の闘いのあと(後編)です!

諒のセリフのようですが一体何をしているんでしょうね?

次回の作者にすみイチオシの台詞↓

それを見て諒は頭を抱えた。

「くっそーどうしようかな⋯あっそうだ!燃やそう!」

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