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【完結】暗殺の瞬が名を捨てるまで  作者: 二角ゆう
表の大戦(おおいくさ)編
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第46話-2 霜月と鄧骨(とうこつ)の闘い(後編)

 霜月は鄧骨とうこつ相手に大丈夫だろうか。出陣前に諒に何かを頼んでいたのは知っていた。おそらく痛み止めか何かだろう。霜月は完治してないか傷口が開く恐れがあると予想しているのだろう。そんな状態で八傑の上位のやつと戦うのは苦しい戦いになる。


 手合い中の長月との会話を思い出していた。


 ”瞬も知っている通り八傑は段違いに強い。俺が万全の状態でも鄧骨に勝てるか分からねぇ。幻術使いの強いやつは【地獄牢】と言う攻撃があると聞いたことがある。


 それは10秒間幻術を溜めて相手へ打つ。相手に直撃すると幻術者が想像する地獄の中へ連れ込んで痛みで殺す技のようだ。


 当たれば絶対に術にかかるが強者相手に10秒溜められねぇと思う。お前が助けてやれ。”



 ■



 霜月は深く息を吸い込んだ。最後の一錠の薬が効いてくる。霜月の身体は軽くなったように感じた。


(これが最後のチャンスになる。10秒間相手を拘束するにはどうしたらいい?)


 霜月は焦っていた。ただでさえ霜月は怪我を負ってもう一度鄧骨から攻撃を受ければ今度こそ動けなくなる。しかし、時間がない。鄧骨が霜月に向かって走りながらこう言う。


「今度ちゃんと喉元狙ってやるよ」


「待ちぼうけ」

 霜月は幻術を鄧骨にかけたが鄧骨はそのまま走ってくる。


 興奮状態で鄧骨に幻術が効かないようだ。するとその時、鄧骨はバランスを崩した。先ほど鄧骨の口に入れた痺れ薬には遅効性のものも混ぜておいた。その効果がようやく出てきたようだ。


「夢回廊」

 霜月は鄧骨に向け幻術を放つ。直撃すると、鄧骨の周りには不思議な空間が広がる。混乱の世界だ。


 地獄牢を打つには条件がある。

 一つ、相手が見えるところで行うこと。

 二つ、10秒間幻術を溜めること。

 三つ、少なくも片手は幻術を溜めること。


 霜月は夢回廊に入ったままの鄧骨を見つめながら鄧骨の大剣を右手に取る。左手は地獄牢の幻術を溜め始めた。


 ふしゅー、息を吐きながら大剣を片手で持ち上げる。


(残り5秒、そろそろ鄧骨が夢回廊から出てくる頃だ。)


 あと5秒


 目の前の夢回廊は歪みながら消えていった。鄧骨の姿が見えた。頭を振って霜月を見る。


「猛突」


 鄧骨は今までで一番の速さで霜月に向かってきた。


 4秒


 鄧骨を大剣で受ける。鄧骨が口を開いた。


 3秒


「大回旋」


 鄧骨がものすごい勢いで回り始めた。それを受けて大剣を持つ霜月の手は震える。


 2秒


「うおおぉぉぉ!!!」


 霜月は叫ぶ。


 1秒


 幻術が溜まる。霜月は鄧骨に向ける。


「地獄⋯⋯ろ⋯ぅ」





 パタン



 霜月は何が起きたのか分からなかった。ただ目の前に地面が広がっている。霜月は幻術が溜まる直前に薬が切れて倒れ込んだのだった。


 それを見た鄧骨は動きを止めた。そして大きな口を開けて笑い始めた。


「うわはははは!!! 滑稽だな、霜月」


 鄧骨は霜月を上から見下ろす。霜月はなんとか頭を上げて鄧骨を見る。


「俺がちゃんと仕留めてやる。一番惨たらしい方法でな」


 鄧骨は後ろを向くと助走をつけるため霜月と距離をとった。


 そうすると鄧骨は今までで一番力を溜める。霜月はなんとか震えながら立ち上がった。もう攻撃どころか立つのが精一杯だった。


獣葬じゅうそう

 鄧骨は走り出した。鄧骨からは今までに感じたことのない




 霜月は誰かの声が聞こえた。






「霜月さーーーん!!!!」


 森の中から瞬が鄧骨と霜月の間に飛び出した。瞬は霜月を見た。スローモーションのようだ。二人は見つめあった。ぼろぼろの霜月は立っているのがやっとだった。瞬は素早く鄧骨の方に身体を向き直ると叫んで鄧骨を身体で止める。



「無効化ぁ!!!!」



 鄧骨は人の姿に戻っていた。鄧骨と瞬は右手と左手それぞれ相手の手を繋いで押しあった。


「なんだ人の姿に戻っちまった」

「鄧骨、俺と力比べしようぜ!」


 瞬は押す。霜月は瞬の背中を見ていた。

 はっと我に返り地獄牢の幻術を両手で溜め始めた。


 鄧骨は瞬を見た。


「霜月の弟子か?」

「そうだ!! 霜月さんは殺させない!」


 鄧骨と瞬は睨み合った。


「果たしてどちらの力が強いかな?」


 鄧骨は腹から血が流れ落ちるのも気にせず力を込める。筋肉が盛り上がる。


 ズズッ、瞬は後ろに下がる。


「くっ⋯⋯」

「どうした弟子?」


「霜月さん早く地獄牢を打ってくれ!」

 瞬は鄧骨に顔を向けたまま叫ぶ。


 霜月の手には地獄牢の幻術が溜まった玉が握られている。


 霜月の手に玉は握ったまま動かない。

 霜月は腹から声を出した。


「ダメだ⋯⋯このままだと瞬も巻き込まれる⋯⋯」


 霜月は困っていた。

 鄧骨は笑い始めた。


「最高の終わり方だ。霜月、弟子ごと地獄牢に送れよ」



 ズズッ、瞬はさらに後ろに下がる。



 霜月はギリッと歯ぎしりする。

 瞬は大声で言う。


「霜月さん! 俺が隙を作るから待ってて!」

「ははは、どうやってここから隙を作るんだ? 霜月、早く打てよ! 愛弟子ごと地獄に送ってやれよ!」


 ズズッ、瞬は後ろに下がる。もう霜月の目の前まで来ていた。


 瞬は考えあぐねた。


(本当はやりたくないが鄧骨の記憶を探るしかない⋯⋯)


 瞬は目を閉じた。


「愛弟子に手をかけ俺と共に黄泉へ送れよ。そして血も涙もない獣のようになればいい。早く決めないとお前の弟子も限界だぞ。それとも二人とも俺が噛み殺してやろうか?」

 鄧骨はそう言いながら瞬の手を上に持ち上げ始めた。


「がっ」


 瞬は持ち上げられる手をどうすることも出来ない。思わず目を開けて鄧骨を見た。


 霜月は睨みつけるしかなかった。こめかみ汗が流れていた。


 瞬は目をもう一度閉じる。







 今度はゆっくり目を開けると優しい顔を鄧骨に向けてこう呼んだ。






「弥助⋯⋯」





 鄧骨の目が揺れた。





「かか⋯⋯様⋯⋯」




 夕方のあぜ道。温かなかか様の背中におぶられている幼児。かか様が優しい音色で子守唄を歌っていた。背中におぶられた幼児は幸せそうに自分の頰をかか様の背中にこすりつけた。






「今だ!!」


 瞬は横に飛ぶ。


 霜月は全身を奮い立たせて右手を引くと勢いよく前に突き出し鄧骨めがけて言った。


「地獄牢!!!」


 鄧骨の足元に黒い影のようなものが広がる。ボコボコと泡を立てながら黒い液体は鄧骨を包んでいく。鄧骨は動けなかった。


「ぐああぁぁぁぁ!!!!」

 鄧骨の断末魔が空気を揺らす。


 瞬は思わず顔を歪めた。耳を塞ぎたい気持ちが溢れてくる。瞬はそれでも拳を固く握りしめて鄧骨を見つめている。


 黒い液体は鄧骨の口を飲み込むと辺りは静かになった。鄧骨の頭まで飲み込んだ。


 瞬はそれを見届けると霜月に駆け寄った。霜月は地面に崩れ落ちていた。瞬は急いで霜月を抱き起こして仰向けに寝かせた。


 霜月は意識を失っていた。瞬は力なく霜月の手を握った。瞬はしばらくすると霜月から顔をそらして目頭をギュッと押さえた。それでも目から涙が溢れてきた。


 瞬は鄧骨の記憶で頭がいっぱいになった。



 かか様は家に着くと幼児を下ろして優しい顔をその幼児に向けた。


「弥助」


 そう呼ぶと幼児を撫でた。撫でられた幼児は嬉しそうな顔をかか様に向けた。


 幼児は大きくなると背も伸びて体格もたくましくなった。これでもっとかか様を助けられる。そう思っていた。しかし長くは続かなかった。


 ある日、夜が白んできた頃に目が覚めると横に寝ていたはずのかか様は血まみれになって死んでいた。獣にやられたような鋭い傷がいくつもある。


 一体誰が殺ったんだ⋯⋯。弥助は走って家を出た。何も考えずに走っているといつものあぜ道にたどり着いた。その時田んぼの水面に何かが映った。大きな尻尾のようなものが視界に入った。


 獣?どこだ?弥助は周りを見渡した。

 何もいない。もう一度覗き込んだ。


 これが鄧骨が初めて狼獣化した日の出来事だった。



 瞬は目を閉じても最後に名前を呼んだ時の鄧骨の瞳から背けることが出来なかった。

次回:第47話-1 霜月と鄧骨(とうこつ)の闘いこあと(前編)です!

イチオシの台詞ですが、こういう展開は作者が好みです。

次回の作者にすみイチオシの台詞↓

「おっとこいつは俺の獲物だ。他のやつは散れ。俺が天壌(扮する鄧骨)殿の側近だってこと知ってるよな?」

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