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【完結】暗殺の瞬が名を捨てるまで  作者: 二角ゆう
表の大戦(おおいくさ)編
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第45話-1 開戦(前編)

 諒は兜と鎧を着て静かに馬に乗っていた。その両脇に瑛真と瞬がそれぞれ馬に乗って控えている。その後ろに蒼人が待機する。


 諒の前にはものすごい数の兵士が見える。


 おそらく中央に八反田軍、右軍に神田軍、左軍に仁科軍が控えている。その後ろは名だたる大名たちが並んでいる。諒たちはなるべく前の方に並べるよう配慮してもらった。


 八反田はったんだ軍、神田軍、仁科軍はそれぞれ五百蔵いおろい軍、天壌(扮する鄧骨とうこつ)軍、妙禅(扮する毫越ごうえつ)軍と相対しているのだろう。遠くで何かがなった音がした気がした。


 八反田軍では先頭に八角扮する八反田、その両脇には側近4人が控えている。


 霜月と橙次はその後につかせてもらった。事前に先頭20人ほどに霜月と橙次の事情を伝えてある。霜月と橙次がそれぞれ単騎で出ていっても不信に思う者はないわけだ。


 五百蔵軍、天壌(扮する鄧骨)軍、妙禅(扮する毫越)軍が地平線いっぱいに広がっている。



 ブオォォォォ⋯⋯法螺の音が聞こえた。



 八反田軍の両脇にいた神田軍と仁科軍が勢いよく飛び出した。まだ八反田軍は出ない。向こうにいる真ん中の軍も飛び出さない。


 10分、20分⋯⋯

 時間が過ぎていく。


 八反田は振り向いた。霜月は八反田を睨みつけた。霜月は焦れていた。ようやく八反田は剣を鞘から抜くと前に突き出し怒号が聞こえる。


「出陣!!!」


 周りの空気がびりびりと震えた。怒号とともに八反田は勢いよく走り出た。側近は八反田を追い抜かして行く。霜月と後ろの者も追随する。


 ある程度近くに来ると軍の分かれ目を確認して右を注視する。あちらの右の塊の中に鄧骨はいる。


 霜月は周りの者を頭を動かし目配せすると勢いよく右の方へ飛び出して行った。

 戦いはすでに激化していた。天壌(扮する鄧骨)軍と神田軍は正面衝突、肉弾戦になっていた。霜月は隙間を見つけて入っていく。


 天壌(扮する鄧骨)軍は赤い鎧なので分かりやすい。神田軍を鞘で押しのけて前へ進む。しばらく前へ馬を進めていると赤い鎧が見えてきた。


 霜月は剣を鞘から取り出す。可能な限り赤い鎧を切りつけて進む。


 一際大きい人の塊があった。真ん中にいるのは誰だ。霜月は背中から弓を取り出すと人さし指に矢を添えて思い切り弦を引く。そして真ん中の人間へ目がけて矢を放った。すると赤い兜に鋭く当たった。素早くこちらを振り向く。兜に当たった時点で鄧骨ではないと判断した。


 敵とその側近はこちらを見てくる。その隙を狙って神田軍の強者は敵に食らいつく。その固まりは混戦をし始めたので霜月はそのまま離れていく。


 その後も霜月は色んなところを見て回った。鄧骨はそんなに奥で戦っているのだろうか。霜月はもう戦場の端のほうまで来た。

 そこまで来ると兵が異様に少ない⋯⋯いや、死体が多い? 兵の少なくなったところには屍の山が出来ていた。その奥に人の塊が出来ていた。


 霜月は直感であの中心に鄧骨がいると分かった。霜月は近づいていく。すると塊が小さくなっていく。その代わりに悲痛な叫びが大きくなる。だんだんとその叫びも小さくなってきた。


 人だかりの真ん中の人物がようやく見えてきた。大きい。赤く輝く兜と鎧は血にまみれて光を失っていた。


 霜月はその人物に向かって殺気を飛ばす。その人物は勢いよく目の前の兵士を切り捨てると霜月の方へ顔を向けた。


 鄧骨と霜月の視線は交差した。


 霜月は睨みつけている。鄧骨は視線を外さず大剣を振って血を落とした。そうすると右の口角を上げてニヤリとした。霜月は馬を降りると鎧を脱いだ。それを見ると鄧骨も馬を降りて鎧を脱いで近寄ってくる。


 先に口を開いたのは鄧骨だった。

「ようやく上物じょうものに出会えたぜ」


 鄧骨はニヤリとして嬉しそうに言った。霜月は感情を押し殺して努めて平然と尋ねた。


「俺のことは知っているか?」

「さあ、戦ったことはないな」


「影屋敷の鈴音と言う女を覚えているか?」

「ふむ⋯⋯」


 霜月は感情を押し込めて聞くと、鄧骨は空を向いて手を顎につけた。


 霜月は苛ついた。

「背中を切った」


 霜月は感情を込めないように淡々と付け加えた。すると鄧骨はピンときたようだ。そして霜月を見ると思い出すように舌をねっとりと出して唇の端を舐めた。


「あぁ、あの女は覚えてるぜ。胸のデカくて絹のような肌をしていた」


 それを聞いて霜月は拳をググっと強く握りしめて耐える。


「拒絶されてムカついて背中の上から下まで切ってやったが、あぁ、あの切った肌から溢れ出る鮮血は興奮したな。⋯⋯思い出したら爪と牙で全身刻みたくなってきたなぁ」


 口角をあげて我慢出来ないような顔をした。そして鄧骨は霜月をちらりと見ると挑発してくる。


「お前の女だったのか? ふはは、いい目をしてるな。俺をがっかりさせないでくれよ」

「お前を絶対に殺してやる!!」


 霜月は怒りで凍ったような視線を鄧骨に向けるとそう言い放った。すると鄧骨は嬉しそうに大きな口を開けてこう告げた。


「来いよ。お前の姿が無くなるまで切り刻んでぐちゃぐちゃに潰してやる。そしたらあの女に送ってやろう」

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