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【完結】暗殺の瞬が名を捨てるまで  作者: 二角ゆう
表の大戦(おおいくさ)編
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第43話-2 戦いに向けての準備(後編)

 次の日は瞬と霜月が手合いをした。瞬はパンチを霜月に出した。霜月は左右に避けた。霜月はローキックを瞬に出した。


 ドゴン!! 瞬は顔を歪める。そのままジャブ、フック


 ドゴ! 瞬の脇腹に当たる。霜月は顔を上げて驚いたように聞いた。


「あれっ? 瞬は固くなった?」

「だろ?」


 それを聞いた瞬は嬉しそうにニカッとした。その後も手合いは続いた。霜月の威力は以前よりもない。


 ローキックはそこそこ力が戻っていたが特にミドルとハイキックは半分くらいの威力しかなかった。


 それでも霜月は息が上がってくる。苦しいというよりも息がすぐに上がってしまうことにイライラしているようだ。瞬はアッパーを出した。


 ゆらっと霜月の顔が下を向く。

 ピタッ、思わず瞬は攻撃をやめる。


 霜月はふらついた。焦点が合わない目をした。すぐに焦点があってくる。霜月はきまりの悪い顔をして謝る。


「瞬、ごめん」

「謝ることはなにもない」


 瞬は霜月の両肩をガシッと両腕で掴むと言った。瞬は霜月と目が合うと、霜月の目は泳いでいた。そしてバツが悪そうに目を伏せると静かに言った。


「ちょっと走ってくる」



 ■


 夕方なると霜月は家に戻ってきた。夕餉を食べると瑛真がお茶を渡してきた。霜月はそれを見ると口を尖らせて言った。


「そっちの瑛真が持ってるお茶がいい」

「えっ⋯⋯」


 瑛真の動きが止まる。瑛真はあきらかに困っていた。それを見た諒は霜月にすかさずお茶を勧める。


「霜月さん、こっちのお茶でいいでしょ?」

「だって睡眠導入剤入れてるでしょ?」


 霜月はきっぱりと言った。瞬は気配を消して霜月の背後から霜月の首に腕を回してバックチョークをかけた。そこで瞬はポツリと呟いた。


「霜月さん、ごめん」


 意識が無くなった霜月を横に寝かせると諒は薬がんを霜月の口の奥に押し込んだ。蒼人は体育座りして見ているしかなかった。諒は呟いた。


「霜月さん、大丈夫かなぁ」

「身体よりかなり精神的にきてるな」


 それを聞いた瑛真はこう答えた。瞬は横になって寝ている霜月を見続けていた。


 霜月は目が覚めるとまだ夜は明けていなかった。そっと部屋を出ると誰も動かなかったので安心して音をたてないように玄関を開けた。


 そして玄関をそっと閉めると後ろに瞬がいた。霜月は何か言いたそうな顔をしている。瞬はふーっと息をつくと手を前に出してこう言った。


「⋯⋯分かった、止めないから俺も連れてって」


 霜月と瞬は走っていた。山の上の方まで来た。ちょうど木々が途切れて見晴らしがいい。少し夜が白んできた。瞬は霜月に声をかける。


「霜月さんは十分強いから焦らないでよ」

「そんな気休めいらない」


「じゃあ無理しないで。じゃないと俺たち無理矢理止めるしかないんだよ」


 瞬は真剣な目で言った。霜月は眉をひそめたが何も言い返せなかった。



 ■



 そんな事を1ヶ月もしていると残り2ヶ月切った。


 霜月は朝から何か準備していた。朝餉が終わると皆にこう伝えた。


「今日は阿道の最側近・八反田はったんだ殿の影武者の八角《八角》殿に会ってくる。今度の戦いは阿道派につくことを話してくるよ。皆は長月に会って闘技場でそれぞれ訓練していてね」


 家を出ると家の前に橙次が立っていた。


「よう、八角殿に話つけに行くんだろ。俺も混ぜろ」

「なんで橙次が? まだ影武者にもなってないのに参加する理由ないじゃん」


 橙次は真剣な目で霜月を見た。


「霜月やお前の仲間も俺には大事なんだ。協力させてくれよ。少しくらい役に立つぞ」


 霜月も真剣な目になる。


「⋯⋯戦だよ。そこまで僕たちに肩入れしていいの?」

「当たり前だ。戦がどんなものか分かっている。それを乗り越えるくらいじゃないと八傑になるなんて笑い話だよ」


 橙次は霜月が躊躇しているのが分かった。霜月の様子を見ると橙次はニヤリと笑った。


「お前は前から大事なやつほど踏め込めないところがあったよな。俺も大事な仲間だと思ってくれてんだ? 嬉しいな。ほら霜月、頼れ。俺も何かあった時は頼るからさ」


 霜月は目を泳がせた。下を少しついた後、橙次を真っ直ぐ見た。


 霜月は拳を前に出した。


 橙次は突然のことにその拳を見て霜月の顔を見た。霜月は橙次がどういう意味か考えているのだろうを判断した。


「瑛真のいた赤龍の里ではこうやって誓いを立てるんだ」


 それを聞いて橙次は嬉しそうにした。そして橙次は霜月の拳に自分の拳をつけた。


 その後、霜月と橙次はいつも行く道とは反対を歩いた。大通りを突っ切って反対側の住居区域へ向かう。一軒の玄関の前までやってきた。


 戸を叩く。反応がない。


 もう一度叩く。また反応がない。

 しばらく立っていたがもう一度叩く。

 二人は顔を見合わせ立ち尽くしていた。霜月は仕方がなく足を外へ向けた。


「霜月、用があるんじゃないのか?」

「八角殿」


 霜月は振り返ると名を呼んだ。

 八角は190センチの長身に広い肩幅のガタイの良い男だ。髪は短くまとめられている。


 八角はちらりと橙次を見たが何も言わなかった。


 八角は玄関の中へ消えた。霜月もついて行く。部屋の中へ入ると八角はドカッと座った。霜月も座ると家の周りに幻術をかけた。それを見ると八角は霜月を見ると尋ねた。


「何の用だ?」

「あと3ヶ月以内に五百蔵いおろい殿との戦が始まります」


「3ヶ月以内?期限の根拠は?」

「五百蔵殿の御台様がご懐妊です。御子様がお生まれ次第、戦が始まるかと推測します」


 八角は目を丸くした。


「なんと! 戦がなかなか始まらないと思ったていたが、そのような理由だったのか」

「黒兎の仕える御方は桐生家嫡男の白若殿です。阿道様と遠縁に当たります。勢力として中立派ですが、こちらとしては戦に参加したいのです。招集してくださいませんか?」


 八角は腕組みしたままだ。短く問う。


「こちらとは?」

「私と弟子の瑛真はそれぞれ天壌殿に扮する鄧骨とうこつと妙禅殿に扮する毫越ごうえつを討ちたいのです。瑛真は白若殿の軍、私は八反田殿の軍に加えて欲しいのです」


 そこで橙次は真剣な顔で八角を見ながら口を開いた。


「八角殿、私は橙次と申します。私も霜月と同じく今回の戦で八反田殿の軍に加えていただきたいです」


 八角は橙次を見ている。霜月がこう付け加えた。


「恐れながら彼は八傑の次席の9位です。実力も十分です。⋯⋯それに私のことは絶対に裏切りません。軍に引き入れても大丈夫かと思います」


 橙次は下を向いた。霜月の言葉が熱をもって身体中を巡る。


「うむ、こちらも五百蔵を討ちたい。其方たちを入れて不利になることはない。八反田様にお伝えしよう。しかし本当にいいのか?」

「白若殿の影武者である諒を含めて弟子は了承済みです」


 八角は霜月の目を見た。固い決意が見て取れた。


「よかろう。今回の戦に限りの桐生家には招集をかけるよう、八反田様に促そう」


 霜月と橙次は八角の家から出ると闘技場へそのまま向かった。霜月は瞬、諒、瑛真、蒼人を見ると真剣な顔でこう提案する。


「今日は話がある。俺が手合いで勝ったら睡眠導入剤は無しにしてくれ」


 長月はキョトンとしている。瞬はそれを聞くと大声で一喝した。


「断る! 俺たちはどんな手を使ってでも飲ませる」

「くっそ⋯⋯」


 霜月は悔しそうな顔をする。それを見た諒はこんなことを言った。


「そんなこと言ってると鈴音さんに口づけしてもらって薬飲ませるよ」

「卑怯だ、諒覚えておけよ!」


 霜月は顔を腕で隠しながら悔し紛れに諒に言い放った。その一連のやり取りを見ていた橙次は背を向けて盛大に笑っている。そのやりとりを見て長月は呆れて提案する。


「お前ら一体何をやってるんだ?霜月も薬くらい自分で飲め。それが嫌なら薬くらい俺が夜に家へ行って雷でビリっとやって飲ませてやろうか?」


 それを聞いた瞬たちは目をキラキラさせながら長月を見た。霜月はようやく観念した。


「勘弁してください。自分で飲みます」


 それから霜月は手合いを何度かやった。諒、瞬、長月とやった。そして瞬は首を傾げて伝える。


「まだ8割くらいかな」

「残りの2割がなかなか戻らないな」


 霜月は腕組みして難しい顔をしている。

 そこへ闘技場に一人の男が走ってくる。


「黒兎の霜月殿、桐生家の白若様より招集がありました。これから向かいますか?」

「準備をして出かけます」


 霜月はそう伝えると、長月の方を向くとこう言った。


「朝方、阿道の最側近・八角殿に話をつけた。桐生家ともこれから話を詰めてくる。戻ってきたらまた連絡する。そうそう蒼人は戦に参加させないからお留守番してる?」

「それでしたら途中まで一緒に出て城下町で待っていてもいいですか?」


 蒼人がそう聞くと霜月は頷いた。

 そして一行は準備が出来ると桐生家へ向かった。


 桐生家の城の部屋へ通されるとすぐにバタバタと歩く音が聞こえてくる。桐生家の家主がみえたので霜月が頭を下げて口を開く。


「桐生様、お目通りありがとうございます。本日は⋯⋯」

「今日の口上はよい! それより伝えたいことがあるのじゃ」


 桐生はそう言ってドカッと座った。息を少し整えると動揺している様子で話し始めた。


「阿道様の最側近・八反田様より五百蔵様との戦に参加せよとの連絡が入った。桐生家は中立派と言っても阿道様と五百蔵いおろい様の遠縁。要請があれば断ることはできない⋯⋯。なんでこんな事に⋯⋯」


 桐生は狼狽えている。霜月は桐生の目の前に来ると目を見据えて伝える。


「ご安心ください。戦には諒が白若様の影武者として参加いたします。その間は城から絶対に出ないようお願いいたします」

「そうか⋯⋯そうか⋯⋯。白若は出なくとも良いのか⋯⋯」


 桐生は霜月の目を見つめながら自分を

 なだめるように言った。


「招集の詳しい日取りはすでに提示されていますか?」

「まだじゃ⋯⋯」


 霜月は強い目をしながら口を開いた。


「こちらは連絡を受けてから半日でこちらへ来れるように準備をしたします。今日は鎧、武具の試着と使う武器について確認してもよろしいですか? それと白若様が出陣となった時の軍の詳細も合わせて聞きたいのですが」

「それは助かる。しかし軍の詳細はまだ決まっていない。決まり次第連絡する」

「⋯⋯失礼いたします」


 諒は断りを入れると白若の元へ行った。白若は唇が諒くなり顔色も良くない。諒がそっと手を握るとひんやりした。すると白若は顔を上げて諒の方を見た。


「白若様、この諒が代わりに戦に出ます故ご安心下さい。白若様が思っている以上に諒は頑丈でございます。生きて必ず戻ります」


 諒は真剣なしかし優しい目で白若を見ながらいった。白若は下を向くと諒に向き直り笑顔になった。


「諒の手は温かいな」


 諒は笑顔を返した。

霜月は一体何を話しているのでしょか?次次回は戦が開戦します。その時に誰がどこにどのように動くと言った細かい話を次回説明します。

次回の作者にすみイチオシの台詞↓

「鄧骨と戦った時に万全の体調で臨みたいんだ。」

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