第43話-1 戦いに向けての準備(前編)
長月と橙次が霜月の病室に入るともう一度部屋の周りに幻術を張った。長月に瑛真が説明した五百蔵殿の御台様の懐妊を伝える。長月は感心した。
「そういうことか。それで残りの時間は3ヶ月半なのか。すごい情報を掴んだな」
「それともう一つ、僕と瑛真はそれぞれ鄧骨と毫越を討つ目的があるから白若殿としては阿道派につく。しかし長月は仕える御方がまだ決まってないから参加しないでほしい」
霜月は強い目で長月を見ると、長月は頷いた。
「鄧骨と毫越か。どちらも五百蔵殿の最側近だろ?かなり強いと聞くぞ。戦場でもどこでも戦い始めたら目の前の戦いを優先にするようだ。ある意味邪魔は入らないだろうから戦いやすいかもしれないな」
「鄧骨の能力は狼獣化だと聞く。僕は戦ったことがないんだが長月はあるだろうか?」
「俺もないな。ただ嗅覚が鋭いやつとは戦ったことがある。お前の幻術でも嗅覚が鋭いなら居場所を隠せないな。身体も強靭だろうからどうやって弱体化させるかが難しいな。毫越は泥の能力だと聞くな」
長月の言葉を聞いて瞬はピンときた顔をして声を上げた。
「俺は泥のやつと戦ったことあるぞ! 黒獅子の里のやつ。武器を飛ばしても泥で威力を消されちゃうし、固くできるから手についた泥の内側をトゲにして刺してきた。後は泥団子の中に閉じ込められた。確かに“泥地獄”って言ってたな」
「それは朗報だね。瑛真に詳しくは教えて上げて」
「瞬、後で教えてくれ」
「おう」
「俺は雷だから今回は役に立ちそうにないな。まあ、手合いは付き合うぞ」
橙次は長月を見た。
「じゃあ俺も長月に手合せしてもらおうかな」
「今回の戦に関係ないだろ? まぁ、暇な時にな」
「なあ皆、俺の扱いひどくないか? なぁ諒、長月の方がおじさんじゃないか? 俺はまだ24だぞ」
「この前おじさんって言ったのまだ気にしてるの?初対面ですごくうるさかったからあえてそう呼んだだけ。深い意味はないよ」
「がはは、諒におじさんと呼ばれたのか。俺ももう32だからおじさんだな」
諒は長月をじっと見るとこう言った。
「長月殿はおじさんって感じじゃないもん。なんか渋くて格好いいし」
「渋くて格好いいっていうのすごいわかる」
「髭が似合うの憧れるよな」
「おい、長月の評価高すぎないか?そりゃあかっこいいけどよ。俺も悪くないと思うんだけどなあ」
瞬と瑛真は諒の方へ顔を向けた。それを聞いた橙次は口を尖らせている。それを聞いた長月は笑いながら橙次の肩をばんばん叩いた。
「頑張れ、橙次!」
「うっす。⋯⋯なんで俺ばっかり」
諒は長月の横へやってくると長月の裾を引っ張る。
「長月殿、手が空いてる時に僕と暗器で戦ってほしいんです。僕は暗器・刀だから長月殿の力と相性が悪い。少しでも苦手な相性の人と経験積みたいんです」
「がはは、その心意気はいいな。気に入った!」
■
影屋敷の闘技場を借りることにした。霜月、朝陽と夕陽が代わりばんこに幻術を周りに張る。
そこで蒼人は瞬と手合いをし始めた。蒼人のガードが追いつかないようだ。瞬のミドルキックが蒼人の脇腹にめり込む。蒼人は思わず膝をつく。瞬は蒼人に促す。
「ほら。早く立たないと」
「蒼人は僕と手合いしよう」
霜月は立ち上がると蒼人に声をかける。瞬は霜月の方へ振り向くと止めた。
「まだ早いって!」
「大丈夫、ちょっとだけ。傷は塞がったから。蒼人お腹は狙わないでね」
霜月はゆっくり立ち上がるとふーとひと息着いた。
蒼人は構えると蒼人は霜月の足を狙う。蒼人のローキックがあたる。固い。霜月はジャブを出して右フックを出す。すると蒼人は少しクラッとして体制が崩れた。
パチン!霜月の攻撃があたる。
「ごめんね、ちょっと幻術使ってるよ」
そう蒼人に言うと霜月は間合いを取って掌底突きをした。当たる瞬間グッと力を入れる。
ドゴン!!蒼人は後ろにふっ飛ばされた。
「ぐっ!!」
霜月は思わずお腹に手を当て片膝つく。
「霜月さん!!」
瞬は霜月に駆け寄る。長月はそれを見ると忠告する。
「霜月、手合いは我慢しろ。そんなんじゃいつまでたっても傷が治らん。基礎練して筋肉つけとけ。瞬、俺が手合いしてやる」
「蒼人、ごめんね。今日はもう手合いはだめみたいだ」
霜月は残念そうに言ったが蒼人はこめかみから汗を流してこう呟いた。
「腹の傷があってあれだけ出来たらバケモンだよ」
橙次はキラキラした目で蒼人をみている。
「俺が手合いを付けてやる」
「手加減してくださいよ」
それを見て瞬は長月に近づくと構えた。長月は瞬を見ている。長月は手を前に伸ばすと、瞬は前の公式対戦を思い出し警戒する。それを見た長月は瞬に声をかけた。
「瞬から来ていいぞ」
瞬はひとまず得意なハイキックから出すことにした。体重もしっかりと乗っている。そこへ長月はガードする。
バチン!! すごい音がしたのに長月は動かなかった。その間合いから長月のアッパーがみぞおちに入る。
ドグン!! 瞬は思わず片膝着いた。ずっしりと重い。土嚢を助走をつけて投げてきたかのようだ。霜月の攻撃は固かったが長月の攻撃はとにかく重い。瞬が立つと今度は長月はローキックを出した。
ドゴ!! 当たった瞬の脚がびりびりくる。瞬は驚いて長月を見つめた。そして瞬は口角を上げて聞いた。
「これ、この前の対戦でなんで使わなかったんだ? こんな重たい攻撃、今までで初めてだよ」
「なんでってスピードが出ないからだよ。でも瞬の様子を見てるとこの重さと雷の組み合わせも案外いいかもしれないな」
長月に収穫があったようだ。
その隣で諒と瑛真が手合わせしてる。瑛真は短剣を両手に持ち二つの柄の端を鎖で繋いで腰に回している。
瑛真は諒の身体を見ると急所目がけて短剣を突き出す。諒は後ろに引く。瑛真はそのまま短剣から手を離す。諒はお腹を硬化させる。
キィン! 短剣がお腹に当たる。
「瑛真の武器すごいね」
瑛真は鎖を掴むと後ろに引っ張って短剣を回収する。短剣を持つと武器に炎と風を纏わせる。
「今はやらないけど、この武器に炎風を纏わせて戦いたいんだ。今日はこの武器で手合せ頼むよ」
諒に瑛真はそう言うと諒は間合いを取って声をかけた。
「どんどん来て!」
キィン! キン! キン! 諒も瑛真も生き生きしている。
霜月は邪魔にならない様子を距離を取って立ってみていた。
近くの木に飛び乗って懸垂した。
(これはイケる)
木にキックをした。
(うっ!これはイケない。)
霜月はいろいろと動いていた。蒼人も筋トレをしていた。
数日後、瞬は橙次を手合いに誘った。瞬は橙次と手合せをしたことがなかったから気になっていたのだ。
「橙次さん、俺と手合せしてくれないか?」
「あぁ、いいぞ」
瞬は構えると橙次の方が先に動いた。
速い。すぐに間合いを詰められる。
いつものようにハイキックを出そうかと思ったが橙次がストレートパンチを繰り出すので瞬は両腕でガードするしかなかった。
ドゴッ! 瞬は地面を滑る。瞬が橙次を見ると橙次はニヤリとして立っていた。
「ハイキックから始めようとしただろ? 今日はそれを封じようと思ってな」
「くっそー、悔しいな」
瞬は悔しそうな顔を橙次に向けたがすぐに
真顔になってこう伝える。
「そうだ橙次さん、暗器使ってよ。俺は無効化だからその練習もしたい」
「⋯⋯おうよ」
橙次と瞬は広く間合いを取る。橙次は手を瞬の方へ向けると粘着を飛ばしてくる。
瞬は何も使わずに右へ左へと避けていったが腕にくっついたので無効化する。
「へぇ、本当に暗器が解除されるんだな」
「へへ、いつもは皆驚くから力のことは言わないでここぞって時に使ってるんだ」
「それはいい手だな」
橙次は両手を広げて粘着の網を作った。
「じゃあこれはどうかな?」
橙次は魚を捕るように上から瞬を網で捕らえる。
すると瞬は無効化した。
「えっ?」
しかし本当の網もついていたようで瞬は網に捕まってしまった。
「はは、注意力が足りん! 本当の網に粘着をつけて粘着だけの網だと見せかけた。無効化の力に頼りすぎたな」
「くっそー、またやられた!」
瞬は子どものように地面で手足をバタバタと動かした。
■
そうして2週間がたった。霜月は基礎的な動きは出来るようになっていた。霜月は諒を手合いに誘った。
「諒、手合いに付き合って」
諒はトコトコと近づいてくる。
「僕も攻撃する?」
「そうだね、入れてもらおうか」
霜月が答えると諒は軽々と上へ飛ぶと飛び蹴りをした。霜月はガードする。諒は広い間合いを取ると回し蹴りをしながら飛んでくる。
霜月はガードしてそのまま間合いを詰めてフックを諒の脇腹にねじ込む。諒は横に吹っ飛んだ。霜月は嬉しそうに言った。
「諒、相手の威力を殺すのが上手になったね」
しばらく手合いをしているとすぐに霜月は息が上がってきた。
「大丈夫。もうちょっとだけ」
諒は霜月と手合いを続けるとまたすぐに両膝を地面に着いた。諒は霜月に駆け寄る。霜月は手を上げて手合いを止めた。
「ちょっと休憩」
そう言うと、そのまま地面に座った。霜月は悔しそうな顔をしている。息が整うと諒に静かにこう伝えた。
「悪いけどちょっと走ってくる」
皆は心配そうな目で霜月を見ていた。夕方、霜月は家に戻ってきた。いつもの霜月のようだ。夕餉を取るとまたどこかへ行こうとするので瑛真が止める。
「霜月さん、夜の訓練はまだダメだよ」
「夜風にあたりに行くだけ」
霜月はにこりとするとそう言ったが頭がクラッとしてバランスを崩した。それを見た諒は瞬にこう伝えた。
「瞬、霜月さんを絞めて」
「霜月さん、ごめん」
瞬は諒の言葉にぎょっとしたが、霜月に謝りながら前から霜月の首に手を回すとヘッドロックして絞め落とした。
次回:第43話-2 戦いに向けての準備(後編)です!
次回は戦の準備も大詰めになります。
次回の作者イチオシの台詞↓
「白若様、この諒が代わりに戦に出ます故ご安心下さい。白若様が思っている以上に諒は頑丈でございます。生きて必ず戻ります。」




