第42話-2 蒼人、霜月と会う(後編)
霜月と諒と蒼人は霜月の病室に戻ってきた。そこへ瞬と瑛真がやってきた。霜月が立っている姿を見ると瞬は大きな声で慌てて言った。
「霜月さん、立ってて大丈夫か? 肩貸すぞ!」
霜月は皆が部屋に揃ったのを見ると幻術を周りに張った。
「瞬、ありがとう。少しなら大丈夫だよ。ちょうど蒼人の影屋敷の登録もすんだところだよ。ようこそ、黒兎の所属へ」
蒼人は霜月の方を見ると霜月は優しくこう伝える。
「蒼人、ぜひ役に立ってね。期待してるよ」
「はい、お願いします!」
蒼人はキラキラした目で霜月を見るとハキハキ言った。諒は急いで確認する。
「二人とも急に仲良くなってるじゃん! 蒼人を洗脳したんじゃないよね?」
そこへ瑛真は口を開いた。
「皆揃ってるから報告にするか? それとも飯にするか?」
言い終わらないうちに皆ニコニコし始めた。それを見て嬉しそうな顔を隠しきれない様子で瑛真は言う。
「⋯⋯分かった。飯運ぶのを手伝えよ」
「瑛真、今日は野沢菜の香の物があるといいな」
「そう言うと思って早く帰ってきて仕込んでおいたよ」
それを聞いた霜月は嬉しそうな顔をした。
皆が食べ終わると盆を下げていると、瑛真がお茶を持って入ってきた。
少しの間満腹の余韻をお茶とともに満喫している。蒼人はしみじみ言った。
「こんな美味い飯食べれるなんて幸せだな」
他の者はうんうんと頷いている。瑛真はそれを見て少し照れながら伝える。
「これからも作ってやるから何度でも食えよ」
瞬は霜月と目が合うと嬉しそうに笑っている。霜月は穏やかに笑顔を返す。
「幸せだなぁ」
霜月は言葉を溢した。
それを聞いた皆は一斉に霜月の方へ振り向いた。諒はガシッと霜月の手を掴む。それを見た瞬も瑛真も蒼人も手を重ねる。
「そういう毎日が来るように戦おうぜ!」
瞬はニカッと笑ってそう言った。それを聞くと皆は口角を上げた。
霜月は瑛真からおかわりのお茶をもらうとこう始めた。
「諒から進捗は聞いているけど報告もらおうか」
「俺から報告いいか?」
瑛真は手を上げると聞いた。皆は頷いた。
「瞬は城内へ潜入、俺は厨房を中心とした女中周り、蒼人と諒は城下町を探った。皆からの話を聞いて俺の所感を伝える。
蒼人と諒の話から五百蔵の城下町は前より活気が増しているように感じた。流通も増えている。瞬の話から五百蔵の側近、近しい者が頻繁に出入りしているみたいだ。
城への献上品は前より布が増えている。厨房でも料理の量が増えている」
蒼人はこう予想した。
「もしかして五百蔵は誰かを迎えるつもりなのか?」
諒はこう予想した。
「もしかして阿道派の側近の誰かを人質として⋯⋯?」
「厨房で準備される料理はどちらかといえば精が出るものではなく栄養を考えられたものという印象だった。調べてみると4ヶ月ほど前からそのような傾向に変わっているようだ。それらをまとめるとある事実が浮かび上がってくる」
霜月何かピンと来たようだ。
「もしかして五百蔵の御台様は⋯⋯ご懐妊か?」
瑛真は霜月を見て頷く。
皆は目を丸くする。瑛真は霜月から視線を外して皆を見た。
「そう考えるとすべての辻褄が合う。五百蔵の側近が出入りしているは御台様も体調を気づかうことと警備を強化しているんじゃないかと考えられる。
布が増えたのは新しい御子様が産まれる準備、料理も御台様が懐妊した時から身体に良いものに差し替えられた。一番は半年以内に全面戦争が起きると言われていたこと」
皆は目を見開いて聞いている。瑛真はそこで口を一度で閉じるともう一度開けた。
「変じゃないか? なぜ阿道が討たれた後もすぐに攻めずに期間を半年以内のままにしているのか。
それは御子様が生まれるのを待っているんじゃないか?」
沈黙が流れる。
「瑛真、君の情報量とそれを結びつける頭の回転、発想は素晴らしいよ」
霜月は瑛真をゆっくり見ると賞賛した。瞬はと疑問を口にした。霜月が瞬を見る。
「それならなぜ今阿道派は五百蔵を討たない? 今がチャンスなんじゃないのか?」
「もし五百蔵が僕なら攻めてくる阿道軍に側近を当てる。自分は絶対に出ない。
阿道派が討ちたいのは五百蔵だけだ。
頭を失った阿道派は数だけでも五百蔵に勝てない。側近と討ち死にしても何の意味もない。始めから先頭をきって五百蔵が出てきてもらわないと阿道派は戦う意味がない」
「結局阿道派は御子様が生まれるのを待つしかないのか」
蒼人は悔しそうにそうつぶやいた。
霜月は真剣な顔になる。
「僕と瑛真はそれぞれ鄧骨と毫越を討つのにちょうどいい機会だ。そして討つために準備が必要だから期間が変わらないのは願ってもないことだ。
そこで一つ提案があるんだけど聞いてくれるかな?」
霜月は皆の顔を探った。皆は霜月の方を見て頷いた。
「僕らは中立派だが、この戦いは阿道派につく。そして戦場で鄧骨と毫越を討つ。どうかな?」
瑛真は固く頷いた。瞬はバッと勢いよく立つと大きな口を開けた。
「やってやろうぜ!!」
諒も立った。瑛真も蒼人も立った。霜月はしょんぼりしてこう告げた。
「皆の気持ちは分かった。まだ僕は一人で立てないんだ」
「霜月さんごめん!」
瞬は急いで片膝着くと謝った。他の皆も笑いながら座った。
霜月は幻術を解くと部屋の外から声がした。
「霜月、もういいか?」
霜月以外の皆がバッと声のする方へ振り向いた。その人物が部屋の戸から姿を見せると瞬は呟いた。
「長月⋯⋯殿」
「今回協力してくれる長月だ。蒼人、長月は影屋敷の八傑の一人で僕らの仲間だよ。情報共有と訓練をつけてくれる」
「おっと俺もまぜろよ」
橙次の声がする。
すぐに長月の後ろに橙次の姿が見える。橙次の姿を見ると霜月は冷やかな目をして蒼人に紹介した。
「蒼人、橙次だよ」
「霜月、さっきの長月みたいにちゃんと紹介してくれよ」
「橙次は橙次だろ? まぁ紹介しとくか、彼は八傑の次席の9番目だよ」
決戦まであと3ヶ月半
【おまけの後日談】
諒は後ろから橙次に声をかけた。
「橙次さん」
「うわっ!」
橙次は声を上げて振り返る。
「ふふ、気がついてるのにその反応やってくれるんだ。最近橙次さん来ないじゃん。霜月さん喜んでるよ」
橙次が諒を見ると諒はニヤリとしている。
「さすがに気配で分かるからな。でも俺ってそんな反応しそうなやつじゃん。それに影屋敷の任務で忙しいんだわ。霜月みたいに毎月お給金が出るわけじゃないからな。八傑とは扱いが全然違うんだわ。しかも霜月が喜んでるだと? 寂しがってるの間違いだろ? 美少年」
橙次は諒に近づくとじろじろと見た。
「それにしてもお前本当に可愛らしい顔してんのな」
「げっ、蒼人みたいに僕に惚れないでね」
諒は、嫌そうな顔をして瞬の後ろに隠れた。
瞬は噴き出した。むせて咳をしている。
「ごほごほっ」
「えっ? 蒼人ってそんな感じなの?」
橙次は目を丸くした。
それを聞いた諒は呆れた顔をしている。
「そうなんだよ。可愛い子をみたらドキドキするって蒼人は言うんだ」
瞬は腕で顔を隠しながらこう付け加えた。
「橙次さん、蒼人の名誉のために付け加えると諒が女装している時の話だぞ。それに蒼人には黄龍の里に想い人がいる」
「なんだ、面白いこと聞いたな。諒、手合いで勝ったら俺に見せてくれよ」
橙次は諒に顔を近づけてニヤリとした。諒は好戦的な目で橙次を見た。
「いいよ。僕が勝ったら霜月さんとの出会いの話聞きたいな」
「それなら俺も参加する」
瞬は慌てて二人に近づくとにっと口角を上げた。
橙次は瞬を見て青ざめた。
「えっ瞬も女装するの?」
瞬と諒は同時に言った。
「そっちじゃないだろ」
次回:第43話-1 戦いに向けての準備(前編)です!
次回はまさかイチオシの台詞にこんな台詞が来ることになるとは驚きです。一体どうやって準備をしているんでしょうか?
次回の作者イチオシの台詞↓
「瞬、霜月さんを絞めて。」




