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【完結】暗殺の瞬が名を捨てるまで  作者: 二角ゆう
表の大戦(おおいくさ)編
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第42話-1 蒼人、霜月と会う(前編)

 潜入捜査を続けていたある日、諒は蒼人に言った。


「蒼人、霜月さんに会ってみる? そろそろ僕らは一度で影屋敷に戻って報告しようと思ってるの」


「そうだね。宿はこのまま借りておこう。俺も一度黄龍の里に帰ってから連絡するね」

「瑛真は霜月に食事を準備するって先に帰ったぞ」


「瞬は僕と寄り道して帰る? 緑龍の里とか」


 諒はしたり顔で瞬に言った。瞬はそれを聞くと頭を上下にブンブン振るとソワソワした。蒼人は不思議そうに見ていた。


「瞬、蒼人に伊万里ちゃんのこと言ってもいい?」

「えっ? あぁ、いいぞ」


「蒼人、緑龍の里には瞬の想いの人がいるんだ。僕は薬草の調達だけどね」


 蒼人は合点の入った顔をする。蒼人は諒を見た。


「僕は影屋敷にいるよ。楓っていうんだ」


 それを聞いた蒼人は呆れ顔になる。


「諒は本当に察しが良いな」

「霜月さんほどじゃないけどね」


「それじゃあ公平にいこう。俺は黄龍の里に慕っている人がいる」


 諒はそれを聞いてあからさまに肩の力を脱いて一息ついた。


「あーそれなら良かった。僕のこと見てドキドキするとか言ってたから心配になったけど、それを聞いて安心した」


「おい、その楓って子に諒の女装バラすぞ?」

「⋯⋯もう知ってる。というか楓と女装姿で出くわしちゃった」


 それを聞いて瞬と蒼人が声を上げた。


「えっ?」





 蒼人は黄龍の里に戻ってきた。黄龍の家の一室で待っていると黄龍が入ってきた。すると開口一番に口角を上げて聞いた。


「蒼人、あいつらはどうだ?」

「一言で言ってバケモン揃いですよ。もちろんいい意味ですが。瞬は暗鬼・暗殺の瞬、ガタイもよく性格は裏表がなく諒と瑛真から懐かれています。瞬は不思議な暗器を使いますが詳しくは分かりません。諒は相当頭がキレるようで立ち回りが上手くすぐに理解する。しかも暗器。瑛真は記憶力がよく一度で覚えたものは忘れないでようです。暗器で気がまわります。あの三人を率いている霜月という男はどんな男なのでしょう?」


 蒼人は正座をしながら報告した。黄龍はそれを聞くとニヤリとして説明を始めた。


「霜月は食えない男だよ。冷静沈着かと思えば瞬の事となると周りが見えなくなる。その結果がこの前の大怪我だ。

 霜月は影無しの里長・先代陽炎・秋実の唯一の愛弟子で今は影屋敷の八傑だ。暗器は幻術使い。体術は秋実から習得、幻術は俺が教えた。おそらく実力は俺と並ぶ」


 それを聞いて蒼人は真っ青な顔になった。黄龍は蒼人を見ている。蒼人は口をつぐんだまま左右を見渡し何かを考えている。黄龍は蒼人が口を開くのを待っている。


これがいい刺激になればいいんだが⋯⋯と黄龍は思っていた。


 蒼人は諒の言葉を思い出していた。

 ”これは霜月さんからの伝言。もし成長の機会を掴み取りたいなら黄龍の里から脱里して影屋敷に入れ。もちろん黒兎、霜月さんの所属だ。”


(この機会は二度と巡ってこない。こんなに自分が成長できる機会がないのは分かる。でも⋯⋯俺は黄龍殿の為に、この里の為に強くなりたい。脱里したら俺は何のために強くなるのか⋯⋯)


 黄龍は口を開いた。


「霜月からの伝言だ」


 蒼人はちょうどそのことを考えていたので驚いてパッと顔を上げると黄龍を見た。


「黄龍の里を脱里して影屋敷に来たとしても里長の黄龍殿から戻ってこいと言われるくらいの実力をつけろ。そのために影屋敷で誰よりも負けない強みを作れ。それくらいの覚悟をつけろ、だとさ」


 黄龍は蒼人を見つめている。蒼人の瞳には光が宿っていた。


「黄龍殿、蒼人の脱里を許可してください。影屋敷の知識を奪って実力を上げて必ずこの里に還元します。あなたに戻ってこいと言われるくらい役に立つ人間になります」


 黄龍は喉の奥に詰まるものを感じた。何かが込み上げてくる。それをぎゅうっと押し込んで蒼人を見つめた。すると黄龍は懐から二枚の紙を蒼人の前に置いた。


「蒼人、脱里を許可する。これは両方持っていきなさい」


 蒼人は紙を見ると黄龍を見つめた。


「一枚は脱里の旨を書いた紙だ。霜月に渡しなさい。もう一枚は尊助の札だ。里を離れても何かあればこれを使いなさい」


 蒼人は長い時間、その紙を見つめて下を向いていた。





 黄龍は蒼人が居なくなった部屋に一人で座っていた。いつしか自分の子どもの代わりだと思って育ててきたが蒼人はもう自分にとってかけがえのない息子だった。里では優秀だが、里長を継がせるのはまだまだ足りなかった。黄龍は咳払いすると独り言を呟いた。


「これだから食えないやつは困る。恩を返しすぎるんだよ」


 黄龍は霜月の言葉を思い出していた。


 ”黄龍殿、私はあなたに幻術のいろはを教えてもらった。それだけじゃなく私と黄龍殿はお互いに貴重な情報を持ち合っている。そちらは瞬の力について。こちらは黄龍殿と他の里長の記憶。


 私はもう一度忍びの里と影屋敷を繋げたいと思っています。そのためにはその相容れない二つを繋げられる人間が欲しいのですよ。


 それは貴方の息子である蒼人が適任だと判断します。蒼人が望めばこちらは影屋敷に引き抜くつもりで育て上げます。そしたら貴方は全力で引き戻すでしょう?


 ですが蒼人は迷っています。ですのでこれを伝えるかは黄龍殿あなた次第です。影屋敷で奪えるものは奪って自分の身として里に持ち帰りなさい。そして影屋敷と忍の里を繋ぐかけがえのない人間になりなさい。”


「はっ、これじゃあ一生かかってもお前に返せねえじゃねえか」



 ■



 諒は影屋敷の空間の入口でブラブラしていただてまきと蒼人がやってきた。諒は両手を広げると嬉しそうにだてまきを抱き上げた。


「だてまき!」


 蒼人は呆れた。


「おい、俺もいるんだけど」

「意外と早かったね。それじゃあ行こうか」


 諒はどんどん深い茂みに入っていく。蒼人はたじろいだ。


「本当にここなのか?」

「そうだよ。不安なら手を繋ごうか?」


 諒は振り返ると手を伸ばしてニヤニヤしながら言った。蒼人は諒の横をズンズンと通り過ぎた。


 影屋敷の空間に来ると蒼人はキョロキョロしている。諒が来た時と同じだった。諒は霜月の病室の戸を開けると諒は目を丸くした。一歩下がると気まずそうに言った。


「あっごめんなさい⋯⋯邪魔をした」


 部屋の中から霜月の声がする。


「今日の諒はどこか抜けているね」

「ふふっ白狼、意地悪言わないの。諒くん大丈夫よ。これは往診だから」


 鈴音のクスクスと言う笑い声が聞こえた。鈴音は諒の後ろに隠れている誰かを首を傾げて見た。諒と蒼人は病室に入ってきた。蒼人は鈴音を見ると目が離せなかった。鈴音は蒼人にニッコリすると名乗った。


「鈴音よ。よろしくね」


 蒼人は目のやり場が無いようで赤面しながら困っていた。それを見た霜月は冷ややかに言う。


「鈴音よろしくしないでいい」

「あら、あなたの仲間になるんでしょ?」


 鈴音は霜月の方を振り返ると聞いた。それを見た諒は呆れていた。

(霜月さん、鈴音さんが絡むと本当に面倒くさいんだから)


「霜月さん、蒼人は僕の女装姿でもドキドキするみたいだから安心して」

「ちょっと諒⋯⋯あんな可愛い姿誰だってドキドキするって。こんなところで言わなくても…」


 蒼人は慌てて言った。それを聞いて鈴音は手を口元に添えるとこう告げた。


「あら。確かに諒くんの女の子の姿は可愛かったわね」


 霜月はそれを聞くとにこりとした。鈴音が病室を出ていった後、蒼人は霜月布団の横に正座をすると決意を告げる。


「私、蒼人は黄龍の里を脱里いたしました。霜月殿の元で成長させて下さい」

「違う違う。成長の機会は勝手に掴み取ってくれて構わないから、僕たちの役に立ってね、蒼人。それと霜月さんでいいよ」


 霜月は黒い笑顔を貼り付けて言った。その時蒼人は瑛真の言っていたことを思い出した。



 ”俺は使えねーやつは殺すって言われながら訓練したな”



 蒼人は固まっていた。諒は口を尖らせながら抗議した。


「ちょっと霜月さん、初対面なのに意地悪が過ぎるんじゃない?」


 絶対にさっきのせいだと諒は直感していたので蒼人が可哀想に思えた。それを聞いた霜月は諒の方を見るとにこりとして問う。


「諒は誰の味方なのかな?」

「霜月さんの味方だよ」


 諒は白詰しろつめの時のようなキラキラした笑顔で霜月の手を取るとそう言った。


「かわいいから許す」

「やった!」


 蒼人は懐から紙を取り出すと霜月の目の前に置いた。


「黄龍殿から頂いた蒼人の脱里の旨の証書です」


 霜月は紙を手に取って眺めた。それを見た蒼人は頭を勢いよく下げて大声で言った。


「俺は必ず里に戻ります。俺を育ててくれた黄龍殿に恩を返したい。俺の慕う人もいるし⋯⋯。それまでは死ぬ気でやりますのでよろしくお願いいたします!」


 霜月は蒼人を見続けた。蒼人が顔を上げるとにこりとしてこう言った。


「僕は伸び代がある子は好きだよ」

「ふふふ」


 それを聞くと思わず諒は笑った。霜月はちらりと諒を見るとこう付け加えた。


「あと察しの良い子も」


 霜月と諒はお互いに覚えていたことがくすぐったかった。


「僕と霜月さんはそこから始まったもんね」


 諒は笑いながら目の端に溢れた涙を拭いている。それを見た霜月は嬉しそうに言った。


「覚えが良い子も好きだ」


 そして霜月は二人を見るとこう告げる。


「悪いが肩を貸してくれ」


 近くにいた蒼人が肩を貸すと少し時間をかけて立ち上がった。蒼人は霜月をちらりと見ている。おそらくもっと筋肉があったのだろう。立ち姿は身体の芯が真っすぐでしゃんとしている。


 しかしきれいな顔立ちからは想像出来ない毒を吐く。妖艶で危険な⋯⋯でも引き込まれる人だと感じた。


 霜月は深呼吸をすると諒の方を見て頼んだ。


「諒悪いけど、受付を先にしてきてほしい。影屋敷の所属の仲間の追加登録一名だよ」

「分かった。霜月さんは無理のないように来てね」


 諒はパタパタと行ってしまった。蒼人は霜月をちらりと見るとこう溢した。


「あの⋯⋯鄧骨とうこつは霜月さんの仇だって聞きました。実は俺の母は表の人間で俺が2歳の時に鄧骨に殺されたんです。俺⋯⋯鄧骨ほどの強さはありません」


 蒼人は霜月を見た。そして霜月は蒼人を見ると続きを促した。


「続けて」

「俺立ち回りとか情報収集は上手い方なんです。でも戦闘となると暗器は少し結界が張れるくらいだし⋯⋯」


 霜月は真剣な目で蒼人を見ている。


「先を言って。それぞれ適材適所がある。強いのは力の強さだけじゃない。伸ばせるところを伸ばせばいい。それに君に頼まれなくても鄧骨の息の根を必ず止めるよ」


 蒼人の喉がきゅっとしまって上手く声が出なかった。


「⋯⋯鄧骨を殺して、俺の母の仇も取ってください」


 それを聞いた霜月はスッと手を出した。


「登録はこれからだけど、もういいかな?」


 蒼人は霜月と固い握手を握った。

次回:第42話-2 蒼人、霜月と会う(後編)です、

次回は潜入捜査であることが分かりました。それは何でしょうかね?

次回の作者にすみイチオシの台詞↓

「瑛真、君の情報量とそれを結びつける頭の回転、発想は素晴らしいよ。」

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