第41話-2 表へ潜入捜査(瞬と瑛真編)
瞬は城下町から城をぐるりと一周した。見た限り侵入は3箇所から出来る。昼間なので塀を越えた侵入は出来ない。
荷物の運び屋としてどう入れるものかと考えをあぐねいていたら遠くで木がメキメキと割れる音が聞こえた。
瞬は急いで音のありかを見つける。ちょうど瑛真も同じところへ走っているのが見えた。瞬は瑛真に目配せする。瑛真も頷いた。
荷物を運んでいた大八車の大きな車輪の軸が折れたようだ。幸い荷物は紐に括りつけられていて落ちてはないが荷物が落ちるのは時間の問題だった。
瞬は近くにあった大きな石を掴むと外れた車輪の下に高さを出すのに噛ませようとしている。瞬は瑛真に顔を向けて叫んだ。
「瑛真、荷台を上げてくれ!」
瑛真と大八車を後ろから押していた車力は力いっぱい荷台を上げた。瞬はなんとか傾いた大八車と地面の間に石を噛ませて傾きを和らげた。車力が瞬と瑛真を見て礼を言う。
「兄ちゃんたち助かった。城への献上品だったから壊れなくて良かったよ」
「なんてことないさ。俺らも車力なんで」
「よれけばこのまま手伝いますよ」
瞬は瑛真を見ながらと言うと瑛真も調子を合わせた。それを聞いた車力はほっとした顔をして二人に頼んだ。
「悪いが頼むよ」
車力は括り付けた紐を外して木箱を肩に乗せて運び始めた。瞬と瑛真も荷物を受け取り肩に乗せて運ぶ。荷物を持ちながら2人はキョロキョロ城内を見渡す。車力は笑いながら尋ねた。
「兄ちゃんたち城に入るのは初めてかい?あんまりよそ見してると転んじまうよ」
大きな建物は天守閣、本丸、右殿、左殿とある。それ以外に小さな蔵や大きな蔵がいくつもある。用途によって分かれているのだろう。
瑛真は車力に行ったことのある建物を聞いていた。
荷物を運び終えるとお金をもらった。瞬は手を伸ばした。車力のお金を持った手ごと包む。車力はびっくりして瞬を見る。瞬は慌てながらこう説明する。
「すまん、北の方からここへ来たばっかりで、向こうの習慣が抜けていないんだ」
「これが習慣か?」
「はは、会った御縁もこぼれ落ちないよう受け止めるっていうゲン担ぎさ」
「ははは、なるほどな」
瑛真はそれを見て車力に同じようにしてお金をもらった。建物の中で声が上がった。瞬と瑛真は声のした方を向く。瑛真は車力に断りを入れると車力とそこで別れた。
「来た道は分かりますので」
瑛真は瞬に目配せした。すると瞬は頷いた。そして声がした方へ進むと建物の中を覗き込んだ。女中が困っているようだ。話し声からすると荷物を間違えて運んできたようだ。
「どうなさったんですか?」
瞬は聞いた。女中は瞬と瑛真を見た。瑛真はすかさずこう尋ねる。
「城の献上品をこちらに運んだ車力です。何か間違えましたか?」
女中はさっき運び込まれた箱を見ると困ったような顔をしながら笑顔を作ると説明する。
「そっちは大丈夫だよ。いやね、違う者が野菜もこっちに運んじゃったもので、炊事場はここじゃあないんだよ」
「炊事場はどこの建物だい?」
「左殿に来る途中に本丸があるだろう?手前が表御殿で奥が裏御殿。その裏御殿の右の裏手の方なのよ」
「俺らで運ぶよ。案内はつけてくれるか?」
「そうかい、助かるよ。今人を呼ぶからここで待っとって下さい」
女中はホッとした顔をして言った。人が来ると瞬は手を下から包むゲン担ぎを説明すると女中は手を瞬の上に置いた。
「北には不思議なゲン担ぎがあるんだね」
瞬と瑛真は炊事場まで野菜を運んだ。そのまま炊事場で下処理の手伝いを申し出て手伝った。
瞬は事あるごとにゲン担ぎを説明していろんな人の手を握っていった。
瑛真は炊事場で包丁さばきを見せると、もう少し手伝ってほしいと言われたので瞬は瑛真を置いていった。瞬は城の敷地を怪しまれない程度に散策すると一度宿へ帰ることにした。
瞬は宿の部屋に手をかけると中で諒と蒼人が喧嘩していた。
「僕を下心しかない目で見ないでよ」
諒の声がする。瞬は音を立てて戸を開けた。すると諒と蒼人はガバっと戸の方を見た。諒は瞬を見るとぱあっと明るくなった。諒はまだ白詰の姿のままだったが、服が乱れている。そして諒は言いながら抱きついてきた。瞬は呆れた顔を蒼人に向けた。
「瞬!!」
「蒼人何やってんだ?」
「なんで俺だけに聞いてくるんだよ。変なことはしてないぞ」
「蒼人が変態なだけだよ。僕のこの姿を見てドキドキするとか言うんだよ?」
諒は口を尖らせて言うので、蒼人は手で諒を制すとこう主張した。
「待て、瞬だって諒を見ろよ。かわいい女の子じゃん」
「確かに可愛いが諒は諒だ」
それを聞いた諒は蒼人に向かってべーっと舌を出した。夜になって瑛真が帰ってきた。諒はいつもの姿に戻っていた。瑛真はこう伝える。
「炊事場を借りて夕餉を作ったから持って来るの手伝え」
それを聞いた瞬、諒、蒼人はそそくさと瑛真について行った。夕餉が終わると盆を片付けると瑛真がお茶を持って現れた。蒼人はお茶を一口飲むとしみじみ言う。
「瑛真、君は本当に最高だよ」
「瑛真、いつもありがとう」
諒は瑛真に抱きつく。瞬は笑顔でお礼を言う。
「今日もすげー美味かった。ありがとう!」
すると蒼人はちらちら瑛真を見ている。瑛真は蒼人の視線に聞いた。
「蒼人、俺に用事か?」
蒼人は頰をポリポリと掻くと諒の方を見た。諒は蒼人の方を見るとこう伝えた。
「実は城下町で毫越に会ったんだ。手の甲に大きな怪我があったよ」
「仇なんだろ? 何があったか聞いてもいいか?」
蒼人は探るように瑛真に聞いた。それを聞いた瑛真は努めて冷静に話し始めた。瑛真の父・蘇芳が毫越に切られて死んだこと、それから大切な里の首飾りを取り返しに来いと言われたことも話した。瑛真は怒って入るが怒りを抑えながらこう締めくくった。
「俺は絶対に毫越を討って親父の首飾りを取り返すんだ」
「⋯俺も仇討ち出来たらいいのにな」
瑛真の決意を聞いた蒼人はぽつりとこぼした。それを聞いた瞬は尋ねる。
「俺たちが知ってるやつか?」
「俺は緑龍殿の遠縁と言ったの覚えてるかな? 緑龍殿の弟君の息子なんだ。相手は表の姫でさ、一夜限りの恋ってやつだったんだ。母は俺がお腹に出来ると父さんには言わないで俺を産んで育ててくれたみたいなんだ」
蒼人はそう話し始めた。
「でも俺が2歳の時に母は死んだ。母が死ぬと母方の家族も父親も俺を探して結果、父親は俺を忍の里へ連れて行ったんだ。
滅獅子大戦で父親が死ぬとなぜか黄龍の里長・黄龍殿が俺を育ててくれた。ちょうど似たような時期に自分の子どもも赤子のうちに死んだみたいなんだ。黄龍の里は情報収集とかが多いだろ? 物心ついた時にふと母親の事を調べ始めたんだ」
蒼人はそこまで話すと口を閉じた。しばらく口を閉じたままだったが大きく息を吸って吐くと目を伏せがちに話す。
「母は死んだんだけど、殺されてたんだ。ひどい死に方みたいでさ、死体についていた簪でようやく母だと判明したくらい傷と血でぐちゃぐちゃだったみたい」
瑛真は蒼人の肩に手を置いた。
蒼人は寂しそうな目を皆に向けるとこう聞いた。
「皆はさ、鄧骨って五百蔵の側近知ってるか?そいつに殺られたみたいなんだ」
瑛真はそれを聞くとつらつらと話した。
「鄧骨は残酷なことが好きで、殺し方も殺す相手の悲鳴が絶えないと聞く。その死体は獣に噛み殺されたような血にまみれてた全身傷だらけの状態が多い。
⋯⋯そう霜月さんが言っていた」
以前聞いた霜月の説明と全く同じだった。蒼人は瑛真を見ている。諒は蒼人に近づくと口を開く。
「霜月さんが必ず殺すって言ってたよ。蒼人、霜月さん知ってる?」
「あの黒獅子の反乱で大怪我した人だよね」
「うん、僕たちのを率いてる⋯⋯一応師匠だよね?」
諒は瞬と瑛真に聞いた。瞬と瑛真は腕組みしてうーんと唸ると瞬が先に口を開いた。
「師匠⋯⋯訓練で殺されるくらいボコボコにされるけどな。じいちゃんの弟子だし俺にとっては兄弟子って感じだな」
それを聞いた瑛真も口を開く。
「俺は使えねーやつは殺すって言われながら訓練したな」
「僕も殺されかけたことあるけど、僕たちのリーダーだから師匠だよね、多分」
諒は瞬と瑛真に聞くように言った。それを聞いた蒼人は驚いた顔で問う。
「えっ⋯⋯お前らよりもずっと強いのか?」
三人は間髪入れずに即答した。
「すげー強い」
「容赦ない。チョー強い」
「鬼」
「⋯⋯暗鬼・暗殺の瞬が鬼っていうくらいだからやばいな」
蒼人は震えながら言って自分の腕をさすった。それを見た三人もは思わず笑った。そして蒼人はこうこぼした。
「鄧骨の件は霜月さんに任せようかな⋯⋯」
次回:第42話-1 蒼人、霜月と会う(前編)です!
次回は霜月のあの懐かしい台詞が出て来ます。忘れちゃった方は第3話を見てください!
次回の作者イチオシの台詞↓
「僕と霜月さんはそこから始まったもんね。」




