第41話-1 表へ潜入捜査(諒と蒼人編)
諒は男の背中を見送る。
(あいつが瑛真の仇の毫越か)
諒は戸を開けた。部屋の中には霜月が上体を上げて座っていた。そして霜月が諒をそっと見るとにこりとして手招きをしていた。
「かわいらしいお嬢さん。僕にもっと顔をよく見せて」
「こういうときだけ優しくしないで」
諒は霜月に近づくと口を尖らせて言った。諒は霜月に黄龍の話を伝えて五百蔵城の城下町に情報収集に行く旨伝えた。それを聞いた霜月はサッと顔色を変える。
「洒落頭についてはこちらもできる限りで探ってみる。五百蔵城とその周りにはは五百蔵派の側近も出歩いている可能性がある。気をつけてね」
「僕さっき廊下で毫越に会ったんだ。手の甲に大きな傷があった。すごく大きな男だった」
諒はちらりと戸の方を見ると霜月に視線を戻して伝えると、霜月は諒の目を真剣に見ると念を押した。
「さっき戸の外で殺気が放たれていたのはそういうことだったのか。でも鄧骨と毫越には気をつけてね。特に瑛真と毫越は絶対に接触させないでね」
「うん、分かった」
城下町に着いた瞬、瑛真、蒼人は辺りを見回している。瑛真はこう告げた。
「俺は城の厨房に潜り込めるか試してみる」
「俺は城の周りと中も潜入できたら屋根裏への進入路とか探ってみるよ。可能だったら運び屋になって厨房にいる瑛真に会いに行くよ」
蒼人はそれを聞くと慌てて瞬を止める。
「瞬、その潜入は身軽なやつの方がいいんじゃないか? 瞬はガタイもいいし元忍って言ってもそういう事やってないだろ?」
「慣れてる。里の任務は暗殺ばっかりだった」
「まぁ影無しの里だったらそういう任務も多いかもしれないけど心配だなぁ」
瞬は袖口を整えている。瑛真は瞬と蒼人を交互に見るとこう尋ねた。
「蒼人、暗殺の瞬って知ってる?」
「知ってるも何もそんな有名人知らないやついないだろ?」
そう言いながら蒼人は瑛真を見ると瞬の方へ目配せする。それを見た蒼人はゆっくりと瞬を見る。
「⋯⋯誰も見たことないらしいけど」
「そうだ」
瞬は怖い顔を蒼人に近づけた。蒼人は息をひっと止めると後ろに仰け反ってこめかみに汗をかいた。
「まじかよ! お前ら凄すぎて呆れるわ!」
それを聞いた瞬はニカッと笑った。その後蒼人は周りをキョロキョロすると言った。
「まず一つ。情報捜査は時間がかかる。しばらく宿を取ることにするよ」
瞬と瑛真は蒼人についていくことにした。蒼人は一軒の宿から出てきてこう説明する。
「時任家。今回泊まるのはこの宿だから忘れないで。それと俺は諒と合流して城下町を探る。捜査の区切りには宿に戻って来てね」
■
瞬と瑛真と別れると蒼人は城からまっすぐのびる道をブラブラしていた。ここなら諒も見つけやすい。川の近くの橋に来ると橋の手すりに寄りかかった。
橋の手前に籠が止まった。蒼人はちらりと見る。蒼人は魅入った。
それは愛らしい小さな少女が籠から降りてきたのだった。
歳は若いが可愛らしいのは遠目でも分かる。近くにいた男どもは振り返ってチラチラ見ている。その少女は橋を渡り始めた。蒼人は周りを見ていた。
近くの男がいつ彼女に声をかけようかタイミングを見計らっていたのだ。そこへ彼女は蒼人の近くに来ると蒼人を見た。彼女は困っているようで手を頬に当てている。
「すみません、この近くで従者とはぐれてしまって⋯⋯」
蒼人は少し頰を赤らめた。
(まずいな、諒も待たなきゃいけないけどここで断ったらこの子を狙う輩が多すぎて⋯⋯)
蒼人は返答に困る。すると彼女は蒼人を見てにこりとするとこう伝えた。
「あなたが従者じゃなくて? 蒼人?」
蒼人は彼女を見つめる。彼女は蒼人の手をとるとピクッと反応する。手の先を刃に変えて見せる。もちろん蒼人にしか見えないように。
蒼人はその場に崩れ落ちるようにしゃがんで下を向く。気づかなかった自分に恥じているのだ。そして言葉をこぼす。
「くっそ。俺は里ではそこそこ実力ある方なんだけど、自信なくすわ⋯⋯」
「ふふ、白詰よ」
蒼人は顔を上げて諒を見ると諒はそう名乗った。そして諒は蒼人と並ぶとぶっきらぼうに言う。
「蒼人、武器屋見たい」
「どこのお嬢さんが簪も見ないで武器屋に入るんだよ。不自然すぎだろ!」
蒼人はうんざりした顔をして一喝した。すると諒は口を尖らせた。
「ちぇっ、じゃあ簪見てから団子屋行きたい」
簪屋にやってくると店主が諒の方へ振り向いた。店主は店子に目配せすると店子はすぐに蒼人に近づいた。
「いらっしゃいませ。何かお手に取ってみたいものはありますか?新作をお持ちしましょうか?」
諒は蒼人に耳打ちした。蒼人は店子を見るとこう聞いた。
「金物の簪はありますか?」
「金物⋯⋯」
店子は呟くとパタパタと店の奥に入っていくつかの簪を持って出てきた。蒼人はいくつかの簪を店子から受け取ると代金を支払い二人は店を出た。
そして団子屋を目指しながら二人は歩いた。蒼人は諒に声をかけようと口を開いだが、諒の顔色がスッと変わった。蒼人は諒の視線の先を探る。遠くから来る男の姿を見ると諒は眉を上げてその男を見ていた。
毫越は諒を見ると殺気を飛ばした。思わず裾に手を隠して手の中に毒入りの針を持つ。毫越はそのまま歩いてくると諒の目の前で立ち止まった。
「さっきのお嬢さん。やはり貴方があの時殺気を飛ばしたのか。反応が良いな。だがその手は俺の方へ出さないほうがいい。俺は弱いやつには手を出さない」
諒の針を隠した手はお見通しだった。毫越は蒼人をちらりと見た。
「従者ならちゃんと構えるんだな」
そう言って通り過ぎた。
団子屋に入った諒は蒼人に団子とお茶を頼んでもらうと明らかにムスッとした。
「さっきのやつは誰なんだ?」
蒼人は聞いた。諒は蒼人の口の前で人差し指を上に上げて言葉を制すと口をパクパク開いた。
『読唇術で会話して』と口を動かしているようだ。蒼人は頷いた。
『さっきのは五百蔵派の毫越。影屋敷でたまたまあったときに僕が殺気を飛ばしたのをさっき返されたの』
諒はそう口を動かした。団子を運んだ店子の女の子がやってきた。諒は蒼人にニコリと笑いかけるとこう聞いた。
「先ほどの簪をよく見たいわ。出してもらえるかしら?」
「お団子になります」
店子はそう言って団子とお茶を置いた。店子は諒をちらちら見ている。
「あのお茶は熱いので気を付けてくださいね」
「ふふ、お心遣いありがとうございます」
諒に伝えると店子を見てゆっくり笑顔を作ると微笑んだ。それを聞いた店子は嬉しそうだった。諒は簪を手に取ったがスグに蒼人を見た。すると蒼人は口を動かした。
『さっきのやつ、毫越って言ったか? 五百蔵の側近じゃねえか。相当強いやつだろ?』
『あいつは瑛真の仇なんだ。詳しくは瑛真に聞いて』
諒は鋭い目を蒼人に向けて口を動かした。店子が後ろを通る。諒は団子を口にした。
「おいしい。後で他の者の分も包んでもらいましょう」
諒はそうこぼした。そして諒は金物の簪を握って見ながら口を動かす。
『瑛真と毫越は絶対に会わせないでね。』
諒はそう口を動かすとニッコリした。蒼人は今にも簪を刺してきそうな物々しい雰囲気の諒に背筋がゾクッとした。
■
夕方になって諒と蒼人は時任家に戻ってきた。瞬と瑛真はいなかった。蒼人は大きな声を上げた。
「あれっ二人はまだ帰っていないのかー!」
諒は蒼人を見るとしたり顔で尋ねる。
「あれっ? 僕と二人きりは嫌なの?」
「うっ⋯⋯違う。逆だよ。こんな見た目が可愛い子と二人なんてドキドキしちゃうでしょ?」
蒼人は少し照れているようだが笑顔を取り繕っている。
(霜月さんみたいな破壊力は全然ないな)
諒はそう思い、蒼人にそっと近づく。
「ドキドキしてるの? 確認してみようか?」
蒼人は上目遣いで近づいてくる諒を見て頰を赤らめる。
「ちょっと諒⋯⋯」
「うわっやだやだ、呆れる」
まんざらでもない顔をしているのを見て諒はスッと後ろに引き呆れた顔をしている。蒼人はそっぽを向いて悔し紛れに言う。
「お前だって可愛い子が目の前に来たらドキドキするって!」
「好きな女以外にどんな可愛い子が来たってドキドキしないよ」
諒はぶっきらぼうに言うと蒼人は感心した。
「⋯⋯お前かっけーな」
「そうだ、蒼人。この服もう一度僕に着せられるかな?」
諒は袖をあげながら蒼人に聞いた。蒼人は服を何箇所か触って確かめるとこう答える。
「これなら多分出来るよ」
「じゃあ脱がせて」
諒は蒼人に言った。すると蒼人は固まっている。
「お前、本当に冗談やめろって」
「もう、これは僕一人で着られないの!明日から支度頼むって意味だよ。着せるのに脱いで順番とか場所を覚えたほうがいいでしょ? 蒼人下心しかないんじゃないの?」
諒は呆れ顔で言うと、蒼人は怒って心の叫びを主張した。
「だったらなんだよ? こんなに可愛い見た目の子がいたらそうなるよ。他の男だってそうなるよ!」
次回:第41話-2 表へ潜入捜査(瞬と瑛真編)です。
本日15:40ごろ掲載予定です!
次回は瞬たちが霜月のことをどう思っているのかを話シーンがあります。皆様はどんなイメージを持っていますか?
次回の作者イチオシの台詞↓
「⋯俺も仇討ち出来たらいいのにな。」




