第40話-2 頭を無くした胴体の行き先(蒼人編)(後編)
三人は黄龍の家を出て里の入口に向かっていた。里にはたくさんの家があったが歩く人は少ない。里の入口に着くと蒼人が待っていた。蒼人は三人の目の前に立つと自己紹介をした。
「黄龍殿の指名で情報捜査の依頼を託された蒼人だ。齢17。戦いには不向きだが体力には自信がある」
三人は思わず声をあげた。
「同じくらいかと思っていた。俺は黒兎の瞬。齢15だ。元・影無しの里」
「えっ? うそ、その見た目で15なの?
しかも影無しの里出身かぁ。強いじゃん。敵に回したくねー!」
そう言うと蒼人は瞬に握手を求める。瞬は蒼人の手を見ると“すまん”とポツリと言うと手を握った。蒼人は気にしなかった。そして瑛真が一歩前に出る。
「蒼人も瞬も年上なのか。俺は黒兎の瑛真。齢14。元・赤龍の里。暗器・炎風使い」
「赤龍かぁ。武闘派だねぇ。しかも暗器ときたか! しかも炎風は先代赤龍殿の力と一緒だね。すげーな!!」
「僕は諒。齢13」
諒がそう言うと瞬と瑛真は素っ頓狂な声をあげた。諒はじとっとした目で二人を見る。二人とも汗をかいて慌てている。
「こんなに一緒にいたのに知らなかったの? 僕は13に見えないって言うんだ? そこのところを詳しく聞きたいな」
霜月のような黒い笑顔を貼り付けて諒はゆらりと二人に迫った。瞬と瑛真は勢いよく頭を下げると諒に平謝りした。そして諒は蒼人の方へ向き直ると続けた。
「どこまで話だっけ? 元・白龍の里。暗器・刀使い」
「その見た目で13だと役得だよ! しかも諒も暗器なのか」
諒は腕を刃に変えてみせた。蒼人は目を輝かせている。
「僕は桐生家の嫡男・白若の影武者だから表立って動けないからよろしく」
「暗器かっけー! 諒は影武者なのか。道理で若い奴らだけで動いてると思ったよ。暗器揃いでバケモンだな。あっ、良い意味だよ。そうそう俺は緑龍殿の遠縁でね、」
そこまで蒼人は言うと話を区切り、自分の周りにパキンと四角い透明な箱を作ってみせた。三人は感心の声を上げる。
「少しだけど、結界が張れる。瞬は暗器か?」
「それは言えない」
「訳ありか」
瞬は手を蒼人の結界に近づける。結界に手が触れると結界がスウッと無くなった解除された。蒼人はびっくりして瞬に聞いた。
「どーなってるの?」
■
一行は五百蔵城の城下町に行くことにした。
「蒼人は変装とかするの?」
「する時としない時があるな。今回はなしで行こうと思う」
諒は瞬と瑛真を見た。瑛真は口を開いた。
「諒はした方がいいんじゃないか?やっぱり白若様と似てるし自由に動けないと困るよな⋯⋯」
「⋯⋯嫌かもしれないがした方がいいな」
諒は瞬を見ると、訳ありな顔をして伝えた。それを聞いて諒はがっくりと肩を落とした。そのやりとりを蒼人は不思議に見ていた。
そして瞬と瑛真、蒼人は先に城下町に行くことにした。諒は蒼人と影屋敷で変装後、城下町で落ち合うことになった。
…
諒は影屋敷の左殿に行くと変装の受付を済ませ先に霜月の病室へ行ったが鈴音がいたので後回しにした。
諒は変装中にいくつか注文をつけた。下にズボンを履いて動きやすくすること。着物の枚数を減らすこと、武器を仕込めるようにすることなどだ。
支度が終わると霜月の病室に向かう途中に向こうから楓がやってきた。
(まずい楓だ。この格好で絶対会いたくない)
諒はまた華やかに着飾った白詰の姿になっていたのだ。その姿は楓に見られたくなかったが、この姿だと今から逃げるのにも時間がかかるから不自然になる。
諒は通り過ぎるしかないと決心した。
そして諒は心臓がバクバクしたが努めて平然を装うとまっすぐ見ながら歩いた。楓は気づいていないようだ。
だが、楓は通り過ぎる時ちらりと諒を見た。仕方がないので諒は楓と目が合うとニコッと笑顔を返した。それを見た楓もニコッと返す。
そのまま通り過ぎると諒は脱力した。霜月の病室はもうそこだ。病室の戸に手をかけようとすると背後から声がした。
「諒じゃない?」
諒は振り返ると少し遠くに楓が立ち止まっていた。
(これは夢だ⋯⋯いや、悪夢だ)
好きな人に女装を見られるなんて恥ずかしすぎる。諒は思わず目を閉じた。そして諒は目を開くときわめて自然に返す。
「どなたかと勘違いなさっているの?」
しかし楓はどんどん近づいてくる。そして両手で諒の頰をガシッと掴んだ。諒と楓は目が合う。諒は観念して視線を外して口を尖らせた。
「ちぇっ。見なかったフリをしてよ」
「すごくかわいい。見なかったことに出来ない」
楓は目をキラキラさせながら頰に口づけした。すると遠くで声が上がる。
「まぁ楓、女の子に大胆なことをしてるわね」
鈴音はそう言いながら近づいてきた。楓は鈴音の方を見ると諒の顔を鈴音に向けて聞いた。
「かわいいでしょ?」
「かわいいけど、あなたは大丈夫?」
鈴音は諒の顔を見て聞いた。諒は楓の手に触れるとこう返す。
「楓、もういいでしょ。面白がらないで」
「鈴音、気が付かないの?諒よ」
「まぁ!⋯⋯かわいいわね。諒くんだなんて、全然気が付かなかったわ」
二人と別れると廊下の奥から人が歩いてくる。諒はこのまま霜月の病室に入るのは得策ではないと感じ、廊下の端に寄り頭を下げた。大柄な男が歩いてくる。諒は頭を下げながら盗み見していた。
男が通り過ぎる時、諒は男の手の甲に傷があるのが見えた。瑛真の苦しそうに歪めた顔が頭に浮かんでくる。
そして思わず顔を上げて殺気のこもった目を男に向けてしまった。そうすると真横まで来ていた男はスッと諒の方を向いた。男は諒を全身見るとそのまま行ってしまった。諒は男の背中を見送る。
(あいつが瑛真の仇の毫越か)
次回:第41話-1 表へ潜入捜査(諒と蒼人編)です!
次回は諒に対して向けられた台詞です。一体誰の台詞なのでしょうか?
次回の作者イチオシの台詞↓
「さっきのお嬢さん。やはり貴方があの時殺気を飛ばしたのか。反応が良いな。だがその手は俺の方へ出さないほうがいい。俺は弱いやつには手を出さない。」




