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【完結】暗殺の瞬が名を捨てるまで  作者: 二角ゆう
表の大戦(おおいくさ)編
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第40話-1 頭を無くした胴体の行き先(蒼人編)(前編)

 瞬、諒、瑛真は霜月の病室を出ると、瞬は提案した。


「早速、黄龍殿に会ってみるか?」

「そうだな」

「うん、そうしよう」


 三人は黄龍の里へ向かった。黄龍の里は東北の方の山間にある。近くの宿場町から山道に入って行く。険しい道はあまりないが道が複雑になっている。分岐が多い上に右へ左へ折れていくので道が覚えられない。瑛真が先頭になって進む。瞬は心配になって瑛真に声をかける。


「瑛真、道がだいぶ複雑だが大丈夫か?」

「霜月さんに道は聞いて全部頭の中に入ってるよ。まだ時間がかかるから飯食うか?」


 瞬たちは行く途中で休憩がてら食事をとるとまた瑛真を先頭に進み始めた。瑛真はいつもよりキョロキョロしながら山道を進んでいる。そして里の入口についた。そこまでたどり着くと瑛真は斜め後ろの木の上に声をかける。


「もうそろそろ出てきてもいいんじゃないか?」


 ストッと身軽な男が木から降りてきた。身長は瞬と瑛真の間くらいだ。少し細身だが筋肉はキュッと締まっている。髪は短くサラサラだ。男はバツの悪そうな顔をすると口を開いた。


「ありゃ? 気づかれてたか」


 瞬は瑛真と男を交互に見て言った。

「瑛真が何にも言わないからとりあえず警戒だけしてた」


続いて諒もこう言った。

「僕も何かあれば三人いるからいいかと思ってた」


「えー皆気がついてたの? 俺、気配消すの結構上手い方なんだけど、攻撃しなくてよかったー!」


 そこまで言うと、シャンと直立してその男は挨拶をした。


「俺は黄龍の里の蒼人あおと。里を案内するよ。何の用?」


 そう聞いたが三人は森の奥を見ている。しばらく一行はそこに立ってると人の姿が見えてきた。向こうは警戒せずに向かってくる。蒼人もそちらの方を向いて見ている。そしてその人物が近づくと蒼人は声をあげて一礼した。


「黄龍殿、お帰りなさいませ」

「瞬、瑛真、諒だったか。蒼人、こいつらはどうだった?」


 黄龍は静かに瞬、瑛真、諒を見ながら蒼人に聞いた。さすがは情報共有を主の任務とする里の長だ。名前くらいは朝飯前のようだ。蒼人は黄龍に聞かれるとちらりと三人を見ると悔しそうにこう答えた。


「全員に尾行がバレてしまいました」


 それを聞いた黄龍はニヤリとして三人に聞いた。


「やはり白狼おっと霜月の弟子だねえ。俺に用事か?」

「あっ俺、霜月さんが白狼でじいちゃんの一番弟子って言うのも、病を看病していたことも大事なことは霜月さんから聞いてるんで大丈夫です」

「白狼とは分かり合えたんだな。それは良かった。さぁ部屋で話を聞こうか」


 三人は黄龍の家の一室に通された。黄龍は準備をしてから部屋に来ると言ったので三人は部屋の中で待つことにした。瞬は壁をコンコンと叩くと諒と瑛真の方を見て嬉しそうに言った。


「この壁二重になってるぞ」

「本当?」


 それを聞いて諒と瑛真は瞬のいる壁の近くにやってくる。瞬は壁をまたコンコンと叩くと軽い音がする。お互いに見合って嬉しそうにした。そして諒と瑛真は立ち上がると部屋の中をキョロキョロし始めた。すると諒はタンスの引き出しを開けた。


「このタンスの中、奥に何かある!」


 瞬も奥を覗こうとしている。

 今度は瑛真が掛け軸をめくると声を上げた。


「諒、瞬、掛け軸の裏に隠し扉があるぞ!」

「おうおう、随分大胆に部屋を荒らしてるな」


 三人は声のする方へ勢いよく振り返ると黄龍が入口に立っていた。


「ここまで大っぴらに探ってるやつ今まで見たことないぞ。それにタンスの奥も掛け軸の隠し扉も入ったら、奥から部屋には戻れない仕組みになっている。入ったら壁と壁の間から出られなくなるぞ」


 黄龍は脅すように言うと三人は汗をかいて怒られた子どものように黄龍を見ている。それを見ると何かを思い出したらしく笑いが漏れた。


「くっくっ、今までで一人だけ隠し扉に入ったことがある」


 そう言うと黄龍は三人を見た。三人は興味津々という顔をした。すると黄龍は瞬に顔を向けた。


「秋実、君のじいさんだよ。しかもその壁は侵入した者が出れない仕組みになっているというのにその壁を壊して出てこようとするんだ。すごい音がするもんだから慌てて部屋に来ると秋実の姿がないから急いで隠し扉を開けて秋実を怒鳴ったよ。仕組みそのものをぶっ壊そうなんて秋実らしいがな」


 昔話を懐かしそうに思い出していたが黄龍は、はたと我に返った。そして黄龍は手の先をパタパタと前後に振りながら呆れ声で言った。


「とにかくタンスも掛け軸も元に戻せ」


 三人は慌ててタンスと掛け軸を元に戻すと正座して黄龍の目の前に座った。黄龍はあぐらをかいて座ると、手を前に突き出して手の平を外側へ向けた。


「お前ら正座は苦手なんじゃないか? 足は崩して良い。それで白狼の容態はどうだ?」


瞬、瑛真、諒はそれぞれ黄龍にこう伝えた。

「峠は越えました。高熱も下がりました」

「まだ軟粥ですが、食欲は戻ってきています」

「前みたいに僕に悪態をついてくるので、もう元気です」


「はははっそれは元気だな。それで俺には何の用だ?」

「情報の依頼です。その前に先日の黒獅子の里の反乱について⋯⋯」


 瞬は黄龍に滅獅子の大戦の発端を作った者と黒獅子の里長、そして影屋敷の一番強い者が同一人物であることを話した。黄龍は驚いた顔をして聞いていたが次第に悔しそうな顔に変化した。そして吐き捨てるようにこう言った。


「まさか滅獅子の大戦から俺たちは嵌められていたのか⋯⋯」

「先日黄龍殿の記憶も見させてもらっていろんな情報をまとめてみるとあることが浮かび上がってきたんです」


 黄龍は瞬の話を食い入るように聞いている。


「死者の大軍、黒獅子が作っている大軍です。実際のものは見てないが滅獅子の大戦で緑獅子の里が壊滅したのはこの大軍のせいではないでしょうか?」

「死者の大軍⋯⋯人が死ねば死ぬほどやつの軍が増えるってことか?くそっとんでもねーもの試しやがるな」


「⋯⋯五百蔵いおろい軍と阿道軍は今どんな状態ですか?」

五百蔵いおろい軍はもともと阿道軍と全面戦争を持ちかけようとしていた。しかし阿道が死んだ今も準備を進めてるようだ。それに阿道を討たれた阿道派も敵討ちのために武器や鎧を集めている」


「もし全面戦争が起きたらたくさんの人が死ぬ。死者の大軍が⋯⋯増える⋯⋯」


 瑛真は青ざめた顔で言葉をこぼした。

 皆は瑛真をガバっと見る。


「⋯⋯もしかして五百蔵いおろいは黒獅子なのか? ⋯⋯いや、白狼が刺された時と見た目が違うよな⋯⋯」


「はい、五百蔵いおろい本人とその直近の影武者は別の人間です。影屋敷でも黒獅子の姿を見た者はいないんです。霜月さんが刺された時にあの場にいた者しか彼の姿を見ていない。そしてそれ以外は何も掴めていない」

 それを黄龍は肩を落とす。


そこへ諒は口を開く。

「こっちで黒獅子の使える御方は探らないと、全面戦争は絶対に避けないといけない!」


 瞬は腕を組んで皆を眺めながら苦しそうに言う。

「阿道が討たれた時点で半年以内に全面戦争が起こると言われていた。その通りならあまり時間がないな」


「そういう意味では五百蔵いおろい派も阿道派も敏感になって戦の準備を進めているのは側近だけだ。他の地方や力のない大名は腰を重くしている。天下人が決まった今余計な戦は避けたいようだ」

「それなら全面戦争を止められるかもしれないんだね!」


「表を探るならさっき里の入口で会った蒼人を貸すから役に立ててくれ。追加の情報を得たらこちらも情報提供する。⋯⋯それから瞬、緑龍の里で話していた尊助の札だ。持っていけ。俺たち里長の記憶を持ってるんだ。誰かにやられるなよ」


 黄龍は懐から紙を取り出した。そして瞬の目の前に置いた。それを見た諒と瑛真は目を丸くした。


 瞬はその紙に手をかけると黄龍をまっすぐ見て元気よく言った。

「ありがたく頂戴いたします!」

本日15:40ごろ、後編を投稿予定です!

よろしくお願いします!

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