第39話-2 頭を無くした胴体の行き先(橙次乱入編)(後編)
そしてしばらくすると瑛真と橙次が戻ってきた。そして食事は進んでいく。すると諒は瑛真を見ると満面の笑みで声を上げる。
「瑛真のご飯おいしい!」
「本当だ、瑛真のご飯上手いな。毎日来たい」
「ちょっと橙次、おいしいからって毎日は来ないでね。それと瑛真は出汁の取り方が上手だね。香の物の塩加減もちょうどいいよ」
霜月は身体に染み込むように静かに言った。瞬は黙々と食べている。瑛真は霜月が洒落頭に刺されてから影屋敷の厨房に出入りしているのだ。皆の賛辞を聞いて瑛真は少し照れながらこう説明した。
「俺は武器も使えないから練習した方がいいと思ったんだ。鹿とか猪の解体もやるし動物だけど身体の中の構造と丁度よい箇所に的確に刃を入れるいい練習になってるよ」
瞬は食べ終わるとパチンと手を合わせた。
「ご馳走さま! すげー美味かった! この前厨房に行ったら、瑛真は何でも一度で覚えるから教え甲斐があるって聞いたぞ!」
「僕からも薬草のこと色々聞いてるもんね」
「⋯⋯だって仲間の役に立ちてーじゃん?」
瑛真は照れながら頰をポリポリと掻くと照れながら言った。それを聞いた瞬は瑛真の肩を組んだ。諒は瑛真に抱きついた。
皆が食べ終わると片付けは瞬、諒、橙次で行い瑛真はお茶を淹れに行った。瑛真はお茶を配ると、淹れたお茶を飲みながら霜月は橙次を見た。
「もう僕は橙次に隠すことはない。僕たちは影屋敷の最強と言われる洒落頭と戦闘した。その結果、僕は腹に穴が開いて生死をさまよった。話を聞いていくか?」
橙次は顔を下を向いていたが瞬は橙次が口角を上げてにやにやしていたのを見ていた。すごく嬉しそうだ。しかしその笑顔もすっとなくなった。
橙次は顔を上げて短く答えた。
「全部聞く」
霜月は頷くと説明を始めた。
「橙次には後で補足するからとりあえず話を聞いてね。最近色々あったから整理するよ。影屋敷の最強である洒落頭は⋯⋯死んだ人間を集めている⋯⋯」
瞬が説明を継いだ。
「洒落頭のコレクション、死者の大軍と言うものがあるそうだ。俺は洒落頭と戦ったが幻術のはずなのに実態がある人形を使っていた。それから目に見えない攻撃もしてくる。やつの話から骸骨を操れるようだ」
瑛真は眉間に皺を寄せて口を開いた。
「骸骨を操る⋯⋯もしかして情報屋もヤツの仕業だったのか?」
「死んだシシに代わって骸骨を使ってシシのフリをした。確かに考えられるな」
諒は霜月の言葉を聞くと瞬にくっつくと怯えるような反応をしている。
「洒落頭⋯⋯チョー怖い。瞬しばらく一緒に寝て。夢に出てきそう」
「確かに常識ぶっ飛んでて反応が怖すぎてゾワってしたよ。あれと対峙して戦ったなんて瞬と霜月さんはすごいと思う」
「俺、ボコボコにされすぎて全身打撲したぞ。その上”君の心臓を鷲掴みさせて!”って興奮しながらデカい骸骨の手で心臓もぎ取ろうとして来たな」
皆は目を丸くして瞬を見ている。
瞬は霜月をちらっと見ると静かにこう続けた。
「⋯そのせいで霜月さんの腹に穴が開いたんだ」
「ひっ!」
諒と瑛真は小さな悲鳴をあげた。
「洒落頭についてはわからないことが多すぎる。瞬、諒、瑛真、情報を集めてくれ。それから⋯⋯表の情報も集めてほしい。特に五百蔵派と阿道派の動向について。黄龍殿に聞いてみるのもいいかもしれない」
それを聞いた三人は霜月を見ると頷いた。そして霜月は橙次の方へ顔を向けた。
「橙次は居残りだよ。僕の話を全部聞いてくれるかい? 夜通しになっちゃうかも」
その霜月の言葉に橙次は目をキラキラさせた。
「もちろんだぜ! 何日でも聞く!」
「あっ、やっぱり明日でもいいかな? 橙次の声うるさすぎて夜中に話してたら誰かに怒られそうだ」
橙次は口を尖らせると食い下がった。
「なんだよー霜月! 一緒に怒られようぜ!」
「なんでそうなる」
三人は霜月と橙次の掛け合いに笑いながら病室を出ていった。
■
しばらくすると霜月の病室に長月がやってきた。それを見て橙次は腰を浮かせた。
「霜月、調子はどうだ? って橙次殿もいるのか」
「長月殿久しぶりです。霜月、俺は席外すか?どーせ、今日は夜を一緒に明かすだろ?」
橙次は嬉しそうに言う。霜月は冷たい目を橙次に向けた後、長月を見た。
「長月、彼は置物だと思って気にしないでください」
「そうか、居て良いんだな。長月殿、俺のことは気安く橙次と呼んで下さい」
「がっはっはっお前ら仲直りしたんだな。それでは橙次と呼ばせてもらう。俺のことも長月と呼べ」
「二人とも急に仲良くなったね」
長月は豪快に笑うと真面目な顔になり霜月の腹の方を見ている。それに気がついた霜月が説明した。
「そうだ、僕の体調ですよね。見ての通り腹が貫通しています。3ヶ月は身体を動かせない」
「3ヶ月か⋯⋯それなら表の情報提供と瞬たちに俺が稽古をつける。どうだ?」
長月は口角を上げながらこう提案した。霜月は目を見開いて尋ねる。
「⋯⋯話が美味すぎる。意図を教えてくれ」
「簡単なことだ。支配権は霜月にある。恩を売っておこうと思ってな」
長月は霜月を見ると片側の口角をあげた。霜月は長月を見ながら言った。
「⋯⋯それだけですか?」
そう聞きながら長月の後ろについてきた朝陽と夕陽を見た。長月は霜月の視線に気がつくと口角を上げた。
「さすが霜月。食えねーな。朝陽と夕陽に可能な限りでいいから幻術を教えてほしい」
「病室の中で行えるものならその条件を飲む」
霜月は二人を見ると長月に視線を戻した。長月はニヤリと笑った。
「よし、手始めに情報提供。阿道派は光原に阿道が討たれたことによって、側近たちがかなり敏感になっている。武器や兵の増強をしているようだ」
「具体的に増強しているのはどこの家ですか?」
「確認が必要だが側近の八反田家、神田家、仁科家辺りはそうだ」
八反田は阿道の直近ということもあり阿道家の近くの地域を治める。神田は東北、仁科は西に位置する。
「しかし、側近以外の地方や小さな大名は表立っては言わないが阿道が討たれた今、戦に乗り気じゃない。それは五百蔵派も阿道派も一緒だ」
次回:第40話 頭を無くした胴体の行き先(蒼人編)です。
次回は黄龍の里に瞬たちが初めて行きます。上手く依頼出来るのでしょうか?
次回の作者イチオシの台詞↓
「黄龍殿の指名で情報捜査の依頼を託された蒼人だ。齢17。戦いには不向きだが体力には自信がある。」




