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【完結】暗殺の瞬が名を捨てるまで  作者: 二角ゆう
表の大戦(おおいくさ)編
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第39話-1 頭を無くした胴体の行き先(橙次乱入編)(前編)

 霜月の高熱はやっと引いた。お腹は依然として包帯をぐるぐると巻かれている。霜月はある男を見ながらムスッとしていた。そしてぶっきらぼうに聞いた。


「なんで橙次がいるの?」


 諒と瞬はお互い見合わせて様子を見ている。だてまきは諒と瞬の間で丸くなっている。橙次と呼ばれた男は霜月に訴えている。


「霜月、お前から会いに来るって言うからこっちはずっと待ってたのに全然来ないじゃん。それで鈴音に聞いてみたらお前が死にかけてるから、無理矢理理由をつけて鈴音を影屋敷から連れ出してお前のところに駆け付けたんだぞ!そしたらお前は大怪我してるしよぉ!

 それにお前が迎えに行きたいやつがいるって言って影屋敷を離れてから俺のことを避けてただろ!お前が迎えに行きたいって言ってたやつここにいるんだろ。ちゃんと紹介しろよー!」


「橙次、情報が多すぎる。僕も色々大変だったんだから静かにしてよ」


 霜月は手で両耳を塞いでぷいっとそっぽを向いた。二人のやりとりをそばで見ていた諒は瞬を横目で見ている。


「なんか騒がしい人だね」

「前から知ってる人みたいだな。仲いいな」


 少し奥から霜月と橙次のやりとりが聞こえる。


「そんなこと言ってると誤解されやすいんだから、嫌われちまうぞ!」


「えっ橙次に?まぁ、いいよ」

「そうじゃねーよ!」


 諒は呆れながら二人の会話を聞いているとらちが明かなかった。それにうるさい人だなと思って橙次にぶっきらぼうに聞いた。


「ねぇ、おじさん誰?」


 その問いに橙次はぐるんと勢いよく諒に振り向いた。


「おじっ、おじさんじゃねーよ、美少年。⋯まだ齢24だ。それに俺は橙次って名前だ。覚えとけ」

「ひっ、24歳⋯⋯橙次さん、すみません」

「おい、引いてるじゃねーか。それは正直傷つく反応だよ、まったく」


「ふふっ痛っ。おじさんって⋯⋯ふふ、いたた」


 霜月は諒と橙次のやり取りに苦しそうに笑っている。それを見た瞬は霜月の近くに来ると上体を抱き起こすと、霜月は瞬を見て微笑んだ。


「瞬、ありがとう」

「橙次、この子が秋実先生の孫の瞬だよ。それからおじさん⋯⋯ふふ⋯⋯あっ痛っ⋯⋯おじさんって言ってたのは諒だよ。桐生家の白若殿の影武者をやってもらっているよ」


 霜月は橙次の方に顔を向けると瞬と諒を紹介した。すると諒はしたり顔で橙次の方を見た。


「橙次さん、残念だったね。高熱にうなされる霜月さんはすごくかわいかったんだよ。ちなみに僕は齢13」


 今度は歳を聞いた橙次がギョッとした。


「えっ?13なのか?悪い、10くらいかと思った⋯⋯」


「橙次さんだって引いてんじゃん。それは僕だって傷つく反応だよ、もう」

「返しがうまいじゃねーか。⋯⋯霜月も似たような歳で影武者に入ってきたけど大人びてたからなぁ」


「えっ?霜月さん今何歳なの?」

「僕に話を振らないでよ。今19だよ。もうすぐ20歳。⋯⋯瞬もそんな目で見ないでよ」


 瞬は霜月と橙次は同い年くらいかと思っていたので意外だったが、反応を間違えると霜月が怖いので話を変えようと霜月を座って支えたまま、橙次に手を伸ばした。


「橙次さん、ここからで悪い。俺は瞬だ。齢15。よろしくな」

「おぉよろしくな。霜月が迎えに行きたいって言ってたのがお前か⋯⋯瞬、気に入った!」


 橙次は霜月の肩を支えている瞬に近づいてニコッと笑った。それを見ると瞬もニカッと笑って返す。そのやりとりを面白くなさそうに見ていた霜月はジトッとした目で橙次を見る。


「瞬、橙次にさん付けなんて要らないよ。それに橙次、瞬を気に入るな」


 今度はそれを聞いた諒が霜月の言葉に大きな口を開けて笑い始めた。そのやりとりが終わると橙次は霜月の腹の包帯を見ながらすっと真剣な顔をした。


「それで調子はどうなんだ?」

「ご覧の通り。今のところ急変はしていない。3ヶ月位はこのままだよ」


 霜月は手を空に向けた。それを聞いた橙次は下を深いため息をついた。瞬は橙次の様子を見て橙次が本当に心配していたんだなと感じた。


 外からガタゴトと細かい何かが震えているような物音が近づいてくる。その物音は病室まで近づいてきた。すると瑛真がご飯を乗せた台車を転がしながら病室に入ってきた。


「霜月さん起きてる?」


 瑛真は病室の中を覗きながら入ってきたのだ。


 そこで瑛真は橙次の姿を見ると動きを止めた。


「あっ悪い、お客様か」

「瑛真、大丈夫だよ。こいつは客じゃない」


 その様子を見ていた霜月は瑛真を見るながらきっぱりを言った。すると橙次は霜月を見て口を尖らせた。


「おいおいそんなこと言って、“ごめん、橙次”って可愛く涙流してくれた仲じゃねーか。そんなにツンケンすんじぇねーよ。俺だってちょっとは傷つくぞ?」


「えっ霜月さん、どういうことなの?」


 諒は身を乗り出して聞いた。それを聞いた瞬と瑛真は興味深く霜月を見続けている。皆に見られた霜月は橙次を好戦的な目で見た。


「ちょっと橙次、その話はダメだよ。地獄牢に送ってあげようか?」

「おいおい、俺を殺す気満々じゃねーか」


 三人はそのやりとりを聞いてきょとんとしている。橙次はその反応を見て説明した。


「地獄牢ってのは幻術使いでも強いやつしか出来ない難しい技なんだけど、10秒間力を溜めて相手に掛けると術者の想像する地獄に送り込まれて苦痛で死ぬって技だ。もちろん、霜月の冗談だから大丈夫だよ」


 瑛真は話に割り込んでよいのか迷いながら橙次の方へ近づくとお辞儀した。


「霜月さんにお世話になっています瑛真です。よろしくお願いします」


 それを見た橙次は立ち上がって瑛真に勢いよく近づくと両手でガシッと握手をした。


「瑛真、俺は橙次だ。お前は礼儀正しくて好きだ!よろしくな」

「うっす、橙次さんそれはそうと俺たちこれから食事なんです⋯⋯。そろそろ食べないと冷めちゃう」


 瑛真はちらりと霜月を見た。おそらく霜月に持ってきた食事のことを気にしているのだろう。すると霜月は橙次に声をかけた。


「そうだった。橙次の漫才に付き合っている暇はなかった。橙次、食べたかったら瑛真によく頼んでね」

「瑛真、俺にも飯を用意してくれないか?代金の代わりに手合せはどうだ?」


 橙次はニコッと笑ってそう提案した。瑛真が答える前に霜月はこう付け加える。


「橙次は九位だ。もうすぐ八傑になる。実力は十分だよ」

「えっ橙次さんってチョー強い人じゃん」

「だろ?」


 諒は目を丸くして橙次の方を見た。霜月にそう紹介されて橙次は皆を見ると得意げな顔をした。そして瞬は嬉しそうにこう伝えた。


「橙次さん、俺も手合せお願いします。代わりに何かしますよ」

「霜月の仲間だ。好きなだけ手合せしてやる。⋯⋯それに霜月の羨ましそうな顔が見れるならそれだけでお釣りが来る」


 橙次はしたり顔をして瞬にこう返すと当然、霜月は不満な顔をした。それを聞いた瑛真はニカッと笑った。


「俺もぜひお願いします。それから並べるので皆も橙次さんも先に食べていてください。後で自分の分を持ってきます」


 瞬と諒は食事に歓声をあげている。瑛真はおかゆと副菜二品が入った盆を霜月の元へ持ってきた。


 瑛真は霜月を覗き込んで聞く。


「霜月さんは自分で食べれるか?」

「瑛真、ありがとう。もう自分で食べれるよ」


「二人は台車から自分の分取ってくれよな。橙次さんはそこに座っててください。今俺が並べますんで。その後俺は追加で一人分取ってくる」


 瑛真は瞬と諒を見ながら伝えた後、橙次にこう伝えながら台車から食事を下ろしていく。それを見た橙次が瑛真に近づいた。


「それなら俺と一緒にもう一人分の運ばないか?そっちのほうが早い」

「そうしましょうか。じゃあ冷めちゃうから先に食べてて」


「瑛真が戻るまで食べない」


「霜月さんだめだ。怪我人なんだから温かいうちに食べてくれよ。せっかく作った俺の気持ちも汲んでくれないか?」

「⋯⋯ごめんね、分かった。用意してくれてありがとう」


 そのやり取りを見ると瞬と諒はお互い見合わせて笑った。瑛真を安心させるために霜月はすぐにおかゆに口を付けた。それを見た瑛真は満足そうに橙次を連れて病室を出て行った。

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