第38話 霜月の容態【おまけ】
【おまけの病室談】です
「好きな人が目の前にいるんだもん。俺だってドキドキしてるんだよ?」
そう言った後、霜月は鈴音の胸に顔を埋めた。
(わー!!!)
鈴音は混乱した。
しどろもどろに声をあげる。
「はっ白狼?まだ傷がくっついてもいないのに⋯⋯」
鈴音は顔を真っ赤にしながら霜月を見ると霜月は気を失っていた。鈴音はよく考えたら霜月の顔がすごく熱いのに気がついた。そっと横に寝かせると息を苦しそうにしながら汗をかいている。鈴音は水で濡らした布を霜月のおでこに乗せる。
しばらく鈴音は霜月の顔を見ながら目が覚めるのを待つことにした。時折、瞬と諒と瑛真は病室の前を通るのに鈴音は気が付いた。おそらく霜月の様子を気にしているのだろう。
三人と目が合うと鈴音は頷いた。
「んっ⋯⋯ふう⋯⋯鈴音?」
霜月は苦しそうな声をあげて薄目を開ける。霜月の目は高熱に冒され潤んでいる。鈴音は思わず霜月の手を握る。
「白狼起きた?」
「うん」
瞬と諒と瑛真は病室の中を覗いている。
「今、薬を持ってくるから待っててね」
「なんの薬?」
ゼーゼー息をしながら霜月は聞く。鈴音は説明を始めた。
「何って解熱と鎮痛、消炎、血流促進、殺菌、睡眠導入剤⋯⋯」
突然、霜月は鈴音の手を引っ張る。
「睡眠導入剤は飲まない」
「飲まないとうまく寝れなかったら回復に響くわ」
「鈴音が手を握ってて。それでちゃんと寝るから」
それを聞くと鈴音は目を丸くした。その後鈴音は愛おしそうに微笑んだ。
(小さな子どもみたいで可愛い。)
「ふふ、分かったわ。他の薬を持ってくるわ」
鈴音は薬を持ってくると病室の外から覗いている三人に声をかけた。
「病室に入っても大丈夫よ」
三人は病室に入ってくると霜月を覗きこむ。霜月の呼吸は高熱で荒く目を閉じていることのほうが多い。鈴音は部屋の端で薬を準備している。瞬は霜月に声をかけた。
「霜月さん、頑張って」
その声に反応して霜月は目を開ける。霜月の目は潤んでいる。霜月は瞬を見ると手を伸ばす。瞬は思わず手を握る。霜月は安心したのか目をつむる。そしてうわ言のように言葉をこぼした。
「瞬、もうどこにも行かないで⋯⋯」
「霜月さん、もうどこにも行かないよ」
瞬は霜月に顔を近づける。
瞬は不覚にも霜月を諒と重ねてしまった。
(霜月さん、諒みたいでかわいい。)
鈴音が薬の準備を終えると霜月に近づいてきた。三人は鈴音が通れるように道を開ける。鈴音は霜月に近づくと小さな子どもに言うような言い方をした。
「白狼、お薬よ」
「それ、何で飲むの?」
霜月は少し目を開けて薬を見るとこう聞いた。
鈴音はキョトンとして答える。
「何って白湯で飲むのよ?」
「嫌だ、瑛真のお茶がいい」
霜月は顔をプイッと反対に背けるとポツリと言った。鈴音は思わず声を漏らす。
「えっ?」
「瑛真が一番美味しくお茶を淹れてくれる。入れるのが丁寧なんだ。薬はおいしくないからせめておいしいお茶で飲みたい」
それを聞いた病室にいる霜月を除いた全員が我慢できなくなり笑いを噛み殺した。瑛真は急いでお茶を入れに病室を出ると嬉しくて口角をあげた。諒がスッと瞬に近づくとこっそり瞬に告げる。
「ねえ、霜月さん小さな子どもみたいだね」
「あぁ、今しか見れないぞ」
しばらくすると瑛真がお茶とともに戻ってきた。霜月はまた少し目をつむっていたが近づくとゆっくりと目を開けた。
「霜月さん、俺がお茶淹れたよ」
「瑛真ありがとう」
熱のせいか霜月の目は潤んでいる。瑛真は霜月にお茶をねだられたことを思い出して少し照れた。それを見た諒が霜月に近づくとニッコリとして言った。
「霜月さん、僕が飲ませてあげる」
「いい。鈴音に飲ませてもらう」
霜月はプイッと顔を背けた。諒は目を見開いて霜月を見ている。二人のやりとりを見て鈴音は慌てて霜月にこう聞いた。
「白狼、諒くんでもいいんじゃない?」
「だって諒はこんなに年下なのになぜか張り合っちゃうんだ。僕が大人気なくなっちゃうから嫌なの」
霜月はちらりと諒を見るとそっぽ向いて不満そうに言う。それを聞いた全員が笑いを噛み殺す。鈴音が我慢できなくなり大きな口を開けで笑い始めた。
「あはは、もうだめ。お腹痛い。ふふ」
瞬、諒、瑛真は鈴音の言葉を聞いて笑い始めた。霜月は口を尖らせている。
「何にも面白くない」
「高熱の白狼っていいわね」
鈴音は思わず言葉をこぼした。それを聞いた瞬、諒、瑛真は頭を激しく上下に振って賛成した。それから霜月が高熱の間、鈴音、瞬、諒、瑛真は暇をみつけては霜月の病室にやってきたのだった。
さて、過去編が終わりようやく本編も再開です!
次回:第39話-1 頭を無くした胴体の行き先(橙次乱入編)掲載予定です。
次回は過去編に出てきた橙次がようやく登場します。ただしうるさいのでイチオシの台詞も省略させてもらいます。
次回の作者イチオシの台詞↓
「霜月、お前から会いに来るって言うからこっちはずっと待ってたのに全然来ないじゃん。それで鈴音に聞いてみたらお前が死にかけてるから⋯(以下略)」




