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【過去編 白狼の記憶(最終話)】第25話目 白狼、八傑になる(後編)

【過去編】は一話目に繋がる白狼の過去についてのお話です。

「地獄牢」


「やめ!!!」


 加藤の叫び声が聞こえる。

 すぐに加藤は土の壁を橙次の前に作り出した。


 一方、白狼は網の中で膝をつき、下を向いて泣いていた。


 土の壁がボロボロと崩れた。


 橙次は尻もちをついている。


 白狼の様子に橙次は目をカッと開いて見ている。いつもと様子が違うと橙次は感じていた。


 そして白狼の周りから網がなくなった。

 橙次が白狼に近づくと、目の前にいる白狼は小さな少年のように下を向いて肩を震わせている。それを見た橙次は白狼に手を伸ばした。そこへ加藤は橙次を見てこう告げる。


「あのまま、地獄牢を受けたら橙次殿は霜月殿の想像する地獄の中で痛みを受けながら死んでいた。よって橙次殿の棄権とみなし、勝者は霜月殿とする」


 橙次は手を引っ込めると口を開いたがぎゅっと閉めると頷いた。


 加藤は白狼に近づいた。


「約束は果たした。橙次殿にも勝つために使うつもりだったことと私に止めるよう依頼したことをちゃんと伝えたほうがいいぞ」


 白狼は下を向いたまま動かなかった。加藤の言葉は白狼の耳に届いていなかったのだ。


(また大切な人に手をかけようとしてしまった⋯⋯先生⋯⋯僕はなんて罪深いのでしょう。大切な人のそばにいようとすればするほど周りが傷ついていく⋯⋯)


 白狼は地面を何度も叩いた。手から血が出た。そんなことを気にせず叩き続けた。


「先生⋯⋯先生⋯⋯」


 自分の中でようやく落ち着いたはずの気持ちが自分の中で急に膨らんで外へ出てくる。


 それを見た橙次は白狼の目の前でしゃがむと血まみれになった手を取った。


 白狼は顔を上げると少年のような傷ついた顔をした。目は涙で濡れていた。


 すがるような顔で橙次を見る。


「秋実先生⋯⋯」


 そう言った後、白狼ははっと我に返る。


 そして橙次の姿が目に入ると、白狼は気まずそうに目を伏せる。


「⋯⋯橙次⋯⋯ごめん⋯⋯」

「霜月、こっちを見ろ」


 そう促されて白狼はゆっくり顔を上げる。

 白狼が橙次を見ると穏やかな顔をしていた。


「お前が意味もない攻撃をしないのは知っている。頭がキレることも知ってんだ。これも想定内だったんだろ。勝敗は出た。それはもういい」


 橙次は不満そうな顔に変わった。


「そんなことより、ちゃんと先生のこととか迎えに行きたいやつの話俺にしてくれねーか?それで許してやる」

「それなら許されなくていい」


 白狼は視線を外した。いつもの調子に戻りつつあった。白狼の態度を見た橙次は怒りをあらわにして怒鳴った。


「お前なぁ、そういうところダメだって言ってるんだ! 突っ走りすぎた!」

「そうやって僕を引っ張り戻して欲しいんだ。僕は止まれないから。橙次にしか出来ないんだ。頼むよ⋯⋯」


 白狼は悲しそうな顔をしているが口元は微笑んでいた。橙次は口を尖らせたが穏やかな雰囲気に戻っていった。


「くそっ、そのうちちゃんと話せよ」


 白狼は笑顔で言った。


「死ぬまでに話すよ」

「お前なぁ!」



 ■



 その5日後に厳橿いつかし殿の側近が亡くなり八傑の席が開いた。白狼は10位から9位へ繰り上がった。


 それから少し時が流れて白狼が齢19になった春、転機が訪れた。


 白狼はある人影を追って影屋敷の左殿へと急いだ。そして左殿の入り口から入ると白狼は声をかけた。


「恭一郎殿!」


 白狼は駆け寄る。

 恭一郎は穏やかに微笑んだ。


「霜月久しぶりだね。そして八傑おめでとう」

「どういうことですか?」


 白狼は的を射ない顔をしている。

 恭一郎は白狼を見つめた。


 少し間があって恭一郎は口を開いた。


「阿道殿が亡くなった。周りにはあまり知られていないことだから、私が表へ出ることになった。先程、影屋敷からは除名をしてきたところだよ。後は影屋敷から出るだけだ」


 白狼はなんと声をかけるべきか迷った。だてまきは肩に乗ったまま静かにしている。


「⋯⋯ご愁傷さまでした⋯⋯」

「霜月、僕の側近になる気はあるかい?」


 白狼は時が止まったかのように固まった。

 そして恐る恐る口を開く。


「大変ありがたいご提案ですが、八傑になったらある人を迎えに行くことになっているんです。それが終わったら表で会っていただけますか?」


 それを聞くと恭一郎は口角を上げた。


「あぁ霜月、余は表で待っているぞ」


 白狼は片膝ついてお辞儀した。左殿から恭一郎の気配がなくなった。そして白狼は立ち上がった。すると受付の男が白狼に話しかけた。


「白狼殿、八傑おめでとうございます。登録ともろもろの説明をしてもよろしいでしょうか?」


 白狼は受付の男について行った。登録と説明、支度金、家屋の支給など色々とやることをこなした。夕方になると新しい家へと帰った。




 部屋の中へ入ると、しんとしている。






 ダダダ、うるさい足音が近づいてくる。

 部屋の戸が勢いよく開いた。


「霜月! 俺に内緒で家を構えるとはどういう事だ! 飯食いに行くぞ!」



 前言撤回、橙次のおかげで今日もうるさい。



 白狼はこれからのことを考えた。

 それから数日間情報収集をすると色々と状況が分かってきた。


 瞬について、瞬は暗殺の瞬として影なしの里で活躍していることが分かった。


 さて、何をどうしようか⋯⋯

 白狼は腕組みをする。


 懐から懐かしい紙を取り出した。だてまきは横でその紙を見ている。


 白狼が成人して白龍の里に行った時、秋実、白龍、春樹、白狼で諒の人相絵を描いた。

 白狼はその紙を見て微笑む。白龍からもらった諒の絵だった。


 白龍は絵心がないと言って嘆きその絵を見て秋実は大笑いしていた。その時秋実は白狼に自分の人相絵を描いてくれと言ったが断っていた。


「本当に秋実先生を描かなくて良かった。弱点になるところだった」


 白龍の描いた諒の絵をしばらく見ていた。

 昨日遠くから幼子から成長した諒の姿を見たがこの絵と同じく一つに髪を結っていた。

 白狼は眉間に皺を寄せた。


「これで諒って分かるかなぁ?」

「にゃーん」


 白狼はだてまきを見た。


「だてまき、それはどっちの”にゃーん”?」


 白狼は何度も色々な計画を立てた。その度に矛盾点を無くすため改善をしてきた。


 調べていくうちに白龍の里の中で玄磨げんまというものが諒にちょっかいを出していることが分かった。


 特にその取り巻きである剛とその手下が諒を執拗に付け回して攻撃しているようだ。


(よし、それを利用しよう)


 問題は瞬だ。


「暗殺しているのに守り人とかやってくれるかな?」

「にゃーん」


 白狼はだてまきを見た。


「だてまき、それはどっちの”にゃーん”?」



 夜になると布団を敷いて横になった。計画はちゃんと立てた。


 明日はとうとうその計画を実行するのだ。


「緊張するなぁ」


 瞬に会ったら平然を保てるだろうか?

 白狼は思わずだてまきに話しかける。


「瞬に会っても冷静になれるかな?」

「にゃーん」


 白狼はそれを聞くと呆れたように笑った。



 次の日、影屋敷の家を出た。


 大通りをだてまきと歩いていると影屋敷の空間の出入口に橙次が立っていた。


「ようやく迎えたい人に会いに行くのか」

「あぁ」


 白狼の手は震えていた。

 橙次は白狼の様子を盗み見ると白狼の背中を思いっきりバン!と叩いた。


「いっ!」


 橙次は意地悪そう笑っていた。


「八傑にもなった霜月様がそんな弱気でどうするだ?」

「はは、そうだ。ようやくここまで来たんだ⋯⋯橙次しばらく会えない。次は僕から会いに行くよ」

「あぁ、迎えに行って戻ってきたらちゃんと紹介しろよ」


 すると白狼は橙次に背を向けた。


「これは独り言なんだけど、秋実先生は僕の育ての親で僕の世界そのものだった。そこに置いてきた先生の孫を迎えに行くんだよ。

 ⋯⋯でも俺は秋実先生を刺した⋯⋯矛盾しているだろう。それでも彼を守りたいんだ」


「これは俺も独り言なんだがな、霜月とのあの勝負の時に絶対俺を殺そうとしてたんだと思うんだよ。だから今度は俺の方が強くなって霜月をねじ伏せてやるんだ。そしたらその口から無理矢理話を聞かせてもらおうと思う」


 橙次は怒ったように言っていたが終わりになるにつれて声が揺らいでいた。白狼はこの時橙次が泣いていたことを知らない。


 白狼は振り返らず前に歩いていく。


「望むところだよ。次も全力でやろう」


 白狼は目頭を押さえた。

 後ろからだてまきがついてくる。


 白狼とだてまきは影屋敷の空間から出た。

過去編をお読み頂きありがとうございます。

次回:【過去編 白狼の記憶 終了記念の座談会】は1/31(金)の掲載予定です。

次回は皆が好き勝手に話をしています。瞬は何の話になってそんな呼び方してるんでしょうかね?

次回の作者にすみイチオシの台詞↓

瞬「⋯⋯白狼兄さん」


2/1より【表の大戦おおいくさ編】へ入っていきます。


ここまで読んでいただきありがとうございます。お話は後半に入っていきます。

『続きを読んでもいいかな』と思ったら、

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