【過去編 白狼の記憶】第21話目 白狼、影屋敷の一員となる(後編)
【過去編】は一話目に繋がる白狼の過去についてのお話です。
次の朝、白狼は仕度を終えてだてまきを肩に乗せて宿を出ると橙次が待っていた。
白狼はあからさまに嫌そうな顔を向けた。
「げ」
「俺はお前のこと気になっているんだ。放っておいてもついていくからな」
白狼は口を尖らせた。
「それなら橙次の情報提供してよ」
橙次は片眉上げた。それを見た白狼は付け加える。
「戦闘スタイル、攻撃の長所、短所、橙次が影屋敷で目指すところとか」
白狼は橙次を見た。橙次は考えている。
「俺は粘着系の力を持っているんだ。戦闘は木の幹も足で登れるから横、上からの攻撃に強い。代わりに重たい攻撃は弱いかな。回避は得意だけど、決定打といった攻撃があまりない」
「そんなにベラベラ話して大丈夫?危機感とかないの?」
「年下なのに本当に遠慮がねーな!霜月に話したことは手合いを見ればすぐに分かることだ。隠してこそこそ戦うほど弱くねーよ」
(何でもかんでも話すところは少し秋実先生に似てるかも)
白狼はそう思うと口元を緩めた。
橙次は白狼が微笑むのを見逃さなかった。
そのまま橙次は白狼の顔を覗き込む。
「おっ?気を許してくれたか?」
「まだまだ。これから洗いざらい橙次のこと話してもらうからね」
白狼は少し口角を上げた。
そうして話しながら歩いていると白狼は影屋敷の左殿にたどり着いた。
すると橙次はそこで立ち止まった。白狼は振り返って橙次を見る。
「どうしたの?」
橙次は気まずそうな顔を向けた。
「いや、ここで待ってたほうがいいかなと思って。順位も出るだろ?」
「橙次の気づかい遅くない?それに隠してこそこそする気ないし」
(さっきのお返しだ。)
それを聞いた橙次が噴き出した。そして白狼は受付に橙次と一緒に行った。受付は別の男に変わっていた。
「昨日影屋敷に一の登録した霜月白狼です。審査員の加藤殿と手合わせしました。今日順位を出してくださると聞いております」
それを聞くと男は心当たりがあるのか白狼をまじまじと見ると一礼した。
「あっ加藤殿と手合わせした霜月殿ですか。少々お待ちください」
男は受付の奥へと入っていった。しばらくすると別の男も一緒に受付に戻ってきた。
「よければ別室でご説明いたします」
ちらりと橙次を見た。白狼はそれを見ると口を開いた。
「橙次も同席で構いません」
それを聞くと男たちは頷き廊下を進み始めた。
廊下の右手にある部屋へ通されると部屋の外から小さな木箱を持った男が入ってきた。受付の男は一礼すると部屋の外へ出ていった。
白狼たちは部屋の真ん中に座った。
木箱を持った男は白狼の目の前に座った。
「霜月白狼殿、受付の鈴木でございます。本日は加藤殿の手合わせから実力を考慮し順頭を割り当てましたのでお伝えいたします。順位は199位となります」
「えっ?」
それを聞いた橙次が声を上げた。鈴木は橙次の方を見る。橙次は気まずそうに口に手を当てた。
「すみません。いきなり199位だなんて聞いたことなくて⋯⋯」
鈴木も橙次と同じなのか深く頷いた。
「前例もありませんでしたしかなり意見が割れました。なお加藤殿は150位くらいでも良いとおっしゃいましたが、実力があればすぐに上がるだろうという意見にまとましましたので結果的に199位となりました」
白狼は二人のやり取りを見るに異例のことであると肌で感じた。
「順位が200位を切るとトーナメントからポイント制に変わります。ひと月で一番ポイントが多かった人から順位がつきます。しかし190位と150位の方のポイントも同数だと同じ強さと判断するのも平等ではないので、例えば190位の方は150位の方と比べる時はポイントの8割で見るといったように計算して比較します」
「確かにそうですね。190位から160位の人が戦って勝つのと150位から120位の人の勝つのでは強さが違いますね」
「はい、それに199位から100位までの方は共通する武闘会もありますので、そこにいらっしゃる橙次殿に聞くのが良いと思われます」
「おう霜月、何でも聞けよ」
橙次は嬉しそうに白狼を見ると口を開いた白狼は頷いた。それを見た鈴木は今度は木箱を白狼の目の前に置いた。
「順位によって準備金といった形で金銭が支給されます。こちらは199位までにもらえる準備金です。このまま全額お持ちいただいてもよろしいですし、一部影屋敷預かりにしても大丈夫です」
「橙次、1ヶ月に平均して使う金銭はどのくらいだろうか?」
白狼は橙次の方を見た。
それを聞いた橙次は木箱の中を覗いて金銭を取り出して白狼の目の前に置いた。
「贅沢しなきゃこれくらいかな」
それを見た白狼は橙次が置いた金銭の3倍木箱から取り出した。
「木箱の中の金銭は影屋敷預かりとしてください」
橙次は白狼を見ている。白狼は橙次を見ると説明した。
「僕はまだここに来たばかりだ。服もないし色々と調達する必要がある。それにだてまきもいるから少し多めに持っておかないとね⋯⋯橙次とも一緒に飯も食べるでしょ?」
「おう、一緒に飯か。いいな! ただ、飯くらい俺に払わせろよな」
それを聞いた橙次は目をキラキラさせた。白狼はそっぽを向いていった。
「じゃあ僕は湯屋くらいは出すよ。対等でいたいからね」
話が終わって受付に戻ってきた。左殿に恭一郎が入ってくるのが見えた。白狼は走って恭一郎に近寄る。
「恭一郎殿!」
「霜月。元気だな」
恭一郎は白狼の方へ顔を向けた。
いつのまにかだてまきは恭一郎の足元にいた。
「にゃーん」
「それとだてまき」
白狼は下から恭一郎を見上げた。
「恭一郎殿、昨日、審査員の加藤殿に手合わせしていただいて199位となりました。もっと強くなりましたらぜひ手合いをお願いいたします」
「いきなり199位か。すごいな。もっと強くなったら手合わせをしよう」
恭一郎はニコッとする。
そう話していると恭一郎の後ろから声が上がる。
「恭一郎殿、どなたですか?」
大柄の男と恭一郎と背丈がそう変わらない男が立っていた。
恭一郎は白狼を見ると2人を紹介した。
「こっちの大きいのは八角、こっちは一心。この少年は秋実殿の弟子の霜月。昨日影屋敷に登録したんだ。順位は199位。審査員の加藤殿と手合わせをしたようだよ」
白狼は八角に頭を下げた。
「昨日恭一郎殿に影屋敷へ付き添いいただきました霜月です」
「八角だ。恭一郎殿から話は聞いている。これからの成長を期待している」
八角は白狼をじっと見る。
白狼は八角にお辞儀をすると一心の方を向く。
「霜月です。よろしくお願いいたします」
「一心だ。あの加藤殿が暗器の力を使ったという話で持ちきりだよ。強くなったら俺とも手合わせしよう」
恭一郎は一心の方を向いて目を大きく開いた。
「そうか、加藤殿が暗器の力を使ったのか。少なくとも早く2桁の順位に上がっておいで」
「はい、精進いたします」
白狼は頭を下げた。
挨拶が終わると恭一郎たち一行は左殿の奥へと消えていった。橙次は白狼に駆け寄ると肩を組んで顔を近づけてきた。
「ちょっとどういう事だ? あの八傑の内の三人! しかも恭一郎殿は次の天下人の最有力候補だぞ」
「育ての親が恭一郎殿に縁があった。それで影屋敷まで案内してもらった」
橙次は一瞬固まった。
「お前、本当に型破りだな」
「にゃーん」
だてまきが返事した。
それを聞いて二人は笑った。
次回は本編にも登場したあの人も出て来ます。それにしても白狼は生き急いでいますね⋯。
次回の作者イチオシの台詞↓
「お前負けたら99位からやり直しだぞ。」




