【過去編 白狼の記憶】第19話目 白狼、影屋敷へ行く(後編)
【過去編】は一話目に繋がる白狼の過去についてのお話です。
影屋敷の空間にきっちり入ると恭一郎は振り返った。
「影屋敷の空間へようこそ。もう幻術はいらぬ。説明しながら行こう。あの目の前に見えるのが影屋敷。その左殿で登録が出来る」
白狼は幻術を解くと町並みを見ていた。恭一郎が目配せする。白狼は恭一郎の横を歩く。
「影屋敷の組織の説明は受けたか?」
「いえ、秋実先生から説明を受ける時間はありませんでした」
「そうか、影屋敷は影武者を担う組織だ。まず影屋敷の一員になる登録が必要となる。
影屋敷は力量制だ。強いものが評価される。その他影屋敷の依頼など組織のためになる行為をすると評価される。その評価は順位で分かるから自分の順位を気にするといい。上位八人は八傑と呼ばれる。私も2年前に八傑に入った。霜月も目指すといい。順位が上がると準備金も出るし仲間の登録もできる」
二人は程なくして左殿にやって来た。
白狼は恭一郎について入る。恭一郎は入り口から入って近くに受付と書かれた場所があった。恭一郎は男に声をかけた。
「恭一郎殿、どういったご用件でしょうか?」
「あそこの者を登録したい」
「かしこまりました。恭一郎殿の所属でよろしいでしょうか?」
恭一郎はそれを聞くと振り返った。白狼に近づいてくる。
「そうだった。霜月、其の方は私の所属と一の登録どちらが良いか? 私はどちらでも良い」
白狼は真っ直ぐ恭一郎を見た。
「私は迎えたい者がおります。一の登録でもよろしいでしょうか?」
白狼は懐から紙を出すと受付の男に見せた。
「影なしの里の先代陽炎・秋実先生からの依頼状です」
男はそれを受け取ると後ろに確認しに行った。しばらくして登録は問題なくできる旨聞かされた。
受付の男に呼ばれると白狼は恭一郎にお辞儀した。
「恭一郎殿、色々とありがとうございました」
恭一郎は手を上げた。
「私はまだここらへんにいるから必要があれば声をかけなさい。早く強くなってね。そしたら私の側近として受け入れてもいい」
恭一郎はそう言うと左殿を出ていった。
その後白狼は受付の男に呼ばれて後ろについていくと一つの部屋に通された。
部屋の中ほどに男が座っており、その男の前に一枚の紙が置いてあった。
その男は白狼と目が合うと手で上の前に座るように促した。白狼は部屋に入るとだてまきが後ろからついてくる。その男はだてまきをじっと見た。
「⋯⋯猫?」
白狼はその声に慌ててだてまきを説明した。
「はい、私の猫です。だてまきといいます」
「にゃん!」
その男は受付の男を見ると声をかけた。
「前例がありません。前田殿、確認お願いします」
前田と呼ばれた受付の男はお辞儀すると廊下を急いで引き換えした。
「私は登録室の及川と申します。先に霜月殿の登録をいたしましょう。
紙の真ん中に名前をお書きください。前の所属、忍の場合は里の名前を右側にお書き下さい。所属名は左側に書きますが今回はまだありませんので空けておいて下さい。
真ん中の名前の下は血判を押しますので少し空けて置いてください」
白狼は頷くと筆を手に取り書いた。それが終わると及川は小刀を手に持った。
「これから血判を行います。霜月殿、手をお出しください」
及川は白狼は手を下から支えると親指の腹にスッと刃を撫でる。表面からプクッと血が出てきた。白狼は自分の名の下にその親指を押し当てる。それが終わると及川は自分の人差し指の腹をスッと切り指でその紙の上に真横に何かを書いた。
白狼は登録を終えると前田が返ってきた。及川の隣に座ると困った顔をしていた。
「確認をしてまいりましたが、前例で一件鳥を携えた者がいたようです。その鳥は戦闘にも役にようでしたので、一の登録では仲間の登録はできませんが、特例として登録いたしました。霜月殿の猫も戦いますか?」
白狼はだてまきを見た。だてまきはこちらに顔を向けたがどう見ても戦えそうな顔をしていない。
「私の付属品ということでは難しいでしょうか?それか戦闘に向けて訓練をするという条件ではどうでしょうか?」
だてまきは白狼の首から降りると及川に近づいて元気よく鳴いた。
「にゃん!」
うーん、しまらない
「⋯⋯あらゆる可能性を考えて⋯⋯だてまき殿が霜月殿の手伝いをするということにして特例で登録しましょう。前田殿、それでよろしいですね」
及川は前田を見ると、前田は紙を及川渡した。及川は白狼とだてまきを見ると自分の目の前に紙を置いて白狼を見た。
「⋯⋯だてまき殿の私の代筆でよろしいでしょうか?」
「はい、お願いします」
「旧所属は影無しの里です。名前はひらがなで”だてまき”でお願いします」
及川はそれを聞くとさらさらと書き始めた。白狼は紙を見ると一番上に”代筆 影屋敷 登録室 及川”と書かれていた。
及川は筆を置いた。及川は前田の方へ顔を近づけると聞いた。
「前田殿、鳥の血判はどうしたのか?」
「さすがに動物を傷つけると化膿の心配がある。墨を足に塗って判として押したようです」
及川と前田はだてまきを見る。
「だてまき殿⋯⋯足をお願いします」
白狼はだてまきを抱えた。白狼は右手でだてまきの右足を持つと硯の中へ突っ込んだ。
そのまま右足を普段なら血判を押す部分へ押し付ける。その後白狼は別の余った紙片で右足を拭いてやった。
及川は白狼の時と同じく自分の人差し指の腹をスッと切り指でその紙の上に真横に何かを書いた。それを前田の顔を見るとそっと渡した。
「前田殿、確認してきてください」
「霜月殿⋯⋯だてまき殿、確認が終わるまで私と共に待機してください」
しばらくして前田が戻ってくるとこう伝えた。
「及川殿、霜月殿と⋯⋯だてまき殿の登録は受理されました」
「にゃん」
部屋の全員がほっと息を撫でおろした。
次回は鈴音との初対面や新しいキャラも登場します。
次回の作者イチオシの台詞↓
「僕は霜月。今日影屋敷にやってきたんだ。治療・治癒室に行けば君に会えるの?」




