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【過去編 白狼の記憶】第15話目 秋実の最期(前編)

【過去編】は一話目に繋がる白狼の過去についてのお話です。

 春樹は里へ帰ると竹信と源を招集した。春樹は断ったが白狼は秋実の代わりに任務につくと申し出たのだ。

 そのことも含めて話し合い任務の調整を始めた。



 次の日春樹は白狼を家へと呼んだ。それを確認すると白狼は部屋へ入ると幻術をかけた。

 そして春樹は白狼を見ると話し始めた。



「秋実殿には事前に伝えた。白狼は秋実殿の体調が変わらない間、少し任務を増やすことにした。一応形ではまだ秋実殿が陽炎だが、実際の采配は俺に一任された。これは里の決定だ。⋯⋯もし秋実殿に何かある場合は最優先でそっちに当たってくれ。その時はすぐに俺に連絡しろ。俺がいない場合は竹信か源に相談しろ。」



 白狼は頷いた。そして白狼は口を開けて横を向いたが春樹の方へ顔を向けなおした。



「あの⋯⋯僕が聞くことではないかもしれませんが、春樹殿は大丈夫ですか?」



 春樹は真っ直ぐ白狼を見た。



「大丈夫じゃない。」



 春樹は白狼を見続けている。



「俺も秋実殿には返せないほど世話になっている。それに人間として尊敬し慕っている。正直、俺は秋実殿の病について告白した時、お前の素直な反応に救われていたんだ。悲しいのは、この胸に穴が空いたような大きな喪失感は俺だけじゃないんだなって。実は大人の方がずるいんだぞ。虚勢を張って見せかけているんだ。」



 白狼は目を見開いて聞いていたが聞き終わる頃には表情を緩めて笑った。



「ふふっ、本当に春樹殿がいてくれて良かったです。春樹殿ほどの人格者はいませんから。先生もそうだと強く賛成すると思いますよ。」

「ふん、俺は凡庸なだけだ。それに悟に胸を張って父親だと言える存在になりたいんだ。」



 春樹は口をへの字に曲げながら胸を張った。

 それから白狼は任務に出掛けることが多くなった。昼間は春樹か夕霧が瞬をみてくれる間に仮眠を取ることも多くなった。しかし変わったのはそれだけだった。夜に任務には出て昼間は仮眠をしても、秋実は近くにいる。瞬もいつもと変わらず山で走って薪を集めて帰って来て、ご飯を食べてお風呂に入る。



 そんな日々が続いていたある夜のことだった。今は夜中なのだろう、闇が辺りを支配している頃、秋実は咳き込んだ。それを聞いて白狼は慌てて近くに寄った。そして幻術をかけると秋実の様子をみる。秋実の手が少し震えていた。その様子を見た白狼は秋実に小声で話しかけた。



「先生、白湯さゆを持ってきましょうか?」

「⋯⋯悪い、頼む。」



(最近先生は咳が増えてきたな⋯⋯。)



 朝餉が終わると瞬と共に春樹の家へ出掛けた。瞬は春樹を見ると不満そうに言った。



「じいちゃんは朝から出掛けるんだって。」

「そうか、それは残念だな。瞬、悪いが悟の面倒を見てくれるか?白狼と話があるんだ。」



 春樹は白狼をちらりと確認した。瞬は頷くと隣の部屋に走っていった。そして白狼は瞬が部屋からいなくなるのを確認すると幻術をかけた。春樹は白狼を見つめている。そこで白狼は話し始めた。



「夜中に先生の咳が増えてきました。」



 それを聞いて春樹は腕組みした。



「そうか⋯⋯食事の方はどうだ?」

「⋯⋯外で食べていなければ、少し量が減っています。」

「分かった。任務は少し減らして秋実殿の方に集中してほしい。⋯⋯お前は大丈夫か?」

「分かりました。私は大丈夫⋯⋯じゃないです。」



 春樹は優しい目で白狼を見た。



「正直によく言ったな。そうしたらここで泣いていけ。胸を貸そうか?」



 春樹はそう言うと両手を広げる。

 白狼は慌てて右手を前に出して春樹を制した。



「ちょっ、ちょっと待ってください。そんな言われたからって泣けません。」

「⋯⋯分かった。秋実殿の前で笑顔でいたいなら出来るだけここで感情を出していけ。どうしようもない時はいつでもいいからここへ来ていいからな。」



 白狼の返答に春樹は不満そうな顔をした。

 白狼は春樹の気づかいに心の中に温かいものが流れ込んでくるような感覚がした。



「分かりました。その時は遠慮なく来ます。」

「いいぞ。白狼、よく言った。」



 春樹は嬉しそうに笑った。




 それから秋実の容態は落ち着いていたので、瞬は白狼と過ごせる時間が出来て嬉しそうだった。



「白狼、僕ね木登り上手くなったんだよ。それからこの前ね、春樹殿から薪割りを教えてもらったんだよ。だから今度から薪割りの半分は僕がするよ。」

「瞬はすごいな。帰ったら秋実先生に報告しよう。」



 白狼は瞬の頭を撫でると嬉しそうに笑った。その後、瞬は斧を使って薪を割り始めた。薪が集まって白狼は空を見ながら言った。



「瞬、そろそろ帰ろう。」

「うん!」



 二人は薪をそれぞれ背負うと山を降りた。家に帰ると秋実が座っていた。しかし様子が変だ。秋実は布を握りしめて白狼を見ている。瞬は秋実を見つけると上機嫌で声をかけた。



「あっじいちゃんが帰ってる! おかえり!」

「おう。俺の方が早かったな。」


 秋実は我に返り慌てて瞬を見ると少し弱々しい笑顔を向けた。

 すると瞬は玄関に置いた薪を持ってくきて嬉しそうに秋実に見せた。



「見て! これ僕が割ったんだよ。春樹殿に教えてもらったの。」

「瞬はもうそんなことが出来るようになったんだな⋯⋯すごいな。」

「今度白狼にご飯の準備も教えてもらう! もっとじいちゃんを驚かせてあげる。白狼いいでしょ?」

「そうだね。瞬、悪いけど薪を置きに行ってもらってもいいかな? 薪は一人で焚べられそう?」



 瞬は下を向いた。どうやら薪の焚べ方を思い出しているらしかった。



「うん、やってみる。」

「では瞬に任務をつかす。薪を焚べよ。」

「はっ!」



 瞬は元気よく返事をして走って部屋を出ていった。瞬が部屋を出たのを確認すると白狼は急いで幻術をかけて秋実に近づいた。



「先生どうしましたか?」



 秋実は居心地が悪そうに下を見た。足をどけると畳に血痕がついていた。

 白狼は畳を見るとすぐに秋実の顔を観察した。目の焦点も合っている。顔色は少し血の気が引いているがすごく悪いわけではない。白狼は胸に込み上げてくるものをぎゅっと押し込んで平然と伝える。



「これくらい、なんてことありません。座布団を置いておきましょう。後で掃除します。」

「白狼、悪いな。」



 秋実は弱々しい顔を見せた。白狼は真っ直ぐ秋実を見た。白狼は強い目をしている。先生には少しでも心穏やかにいてもらいたい。



「先生が謝ることは何もありません。僕が勝手にやっているだけです。白湯は要りますか? 夜は粥の方がいいですよね?」

「ありがとう、白湯をもらう。夜は粥で頼む。」

「分かりました。それから瞬には腹に怪我を負ったと説明してもいいでしょうか? それなら粥も自然に出せると思うんですが⋯⋯。」



 白狼はニッコリと笑顔を返して提案した。

 秋実はコクリと頷いた。



 瞬が薪を焚べて戻ってくると、白狼は瞬に秋実は腹に怪我を負っていることを説明した。瞬はびっくりしていたが秋実を見て頷いていた。ご飯が終わると瞬は食器を率先して片付けていた。その間に白狼は白湯を秋実に出して聞いた。



「この後は布団を敷きますが何か要りますか?」

「いや、今は落ち着いている。今日は早く横になる。」



 夜も更けて白狼は瞬が寝たのを確認した後、秋実の元へ近づくと小声で声をかけた。



「念の為、春樹殿に報告して参ります。すぐに帰ってきますので先生は寝てて下さい。」



 白狼は立ち上がろうと腰を浮かせた。すると秋実は上体を上げて白狼の方へ顔を向けた。そして秋実は瞬が寝ていることを確認すると口を開いた。



「白狼⋯⋯辛くないか?」



 それを聞いて白狼は目を見開いた。そして白狼は自分と秋実の周りに幻術をかけた。白狼は秋実の目の前に座り直して真剣な顔を向けると、こう尋ねた。



「どういうことですか?」

「その⋯⋯俺の看病はお前の負担になっていないか?」



 それを聞いた白狼は感情が爆発したように目の前が一瞬真っ白になった。心の中のグツグツと煮たような熱いものがせり上がってくるのを、ぎゅっと押し込むように拳を力一杯握ると秋実を見た。



「秋実先生と一緒に居られるのに辛いことなんてありません。僕は秋実先生と少しでも長くいられるなら何だってやります。秋実先生の瞳が閉じる最期の1秒まで共にいる権利は誰にも渡しません!」



 白狼は真正面に秋実を見据えた。白狼を見る秋実の目は細かく左右に揺れた後、秋実は下を向いた。少し間を置いて、ポツリと言葉をこぼし始めた。その声は上ずっていた。



「はぁ⋯⋯、俺もジジイになったな。」



 涙が畳の上に落ちる。



「⋯⋯俺は嬉しいんだ。白狼に会えて⋯⋯俺はお前のことを息子のように思っている。滅獅子の大戦でかけるを失って小さな瞬だけが残って心配で不安だったんだ。⋯⋯そんな時、お前に会えて不安が吹き飛んだんだ。」



 秋実は涙を流しながら白狼を見る。



「毎日がこんなに楽しいものだと思わなかった。お前は俺に会って救われたって思ってるかもしれないが、救われたのは俺の方なんだ。」



 それを見た白狼の目からも大粒の涙がこぼれる。秋実は白狼を見て顔をクシャクシャにして笑った。



「今日だけは春樹に怒られるかもしれないが、語り明かさないか?」

「先生、僕も春樹殿に一緒に怒られます。それと春樹殿に報告に行くのは明日にします。今夜は先生の話たくさん聞きたいです。」

「俺もお前の話をたくさん聞きたい。」



 秋実と白狼は夜が白んでくるまで口を閉じることはなかった。

悲しい内容なので夜の投稿予定です⋯。泣きながら書きました。

次回は白狼が隠し続けた秘密の理由など白狼の核心の部分が描かれています。

次回の作者にすみイチオシの台詞↓

「僕がこの手で貴方を黄泉の世界へ送りたいのです。瞬には形だけそうとってほしい。僕が秋実先生のすべてを背負いたいのです。」

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