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【過去編 白狼の記憶】第12話目 秋実の告白(前編)

【過去編】は一話目に繋がる白狼の過去についてのお話です。

秋実は竹信、げん、春樹、白狼を春樹の家へ集めた。



「白狼、念のため幻術を家の周りに張ってくれ。」



白狼は秋実を見て頷くと幻術を張った。秋実は皆をゆっくり見渡した。皆は何の招集が分からず秋実が口を開くのを待っている。しかし秋実は腕を組むと下を向いた。



沈黙が流れる。



ゆっくり顔を上げると真剣な顔をした。



「皆に伝えることがある。俺は病に犯されている。長くて3年、早くて半年くらいかもしれない。」



白狼は時が止まったような気がした。この後、何を言われているのか全く頭に入ってこなくなった。



皆が白狼を見た。幻術が解かれてしまったようだ。秋実は白狼を見つめている。焦点があっていない。秋実は白狼に近づいた。両手で白狼の頬を押さえる。



「白狼落ち着け、俺はまだ目の前にいるぞ。」



秋実が白狼を見つめる。反応がないので、あきらめて他の者を見た。



「白狼へは俺から後で伝える。今日集まってもらったのは俺の後継者についてだ。」



源が口を挟んだ。



「待て、病については確かなのか?」

「これは身体の感覚の問題だが、内臓の動きが良くないように感じていた。そして緑龍に問診してもらったがやはり内臓のようだ。寿命は人それぞれだから明確なことは言えぬが、この任務を続けいれば長くはないだろう。」



秋実は白狼を一瞥して春樹を見た。



「白狼が希望すればまた違うかもしれないが、今のところ次の陽炎は春樹を指名したい。竹信、源、異論はあるか?」



竹信と源がそれぞれ口を開いた。



「俺はない。任務に集中したい。」

「俺もない。取りまとめは春樹が一番適任だと思う。」



秋実は二人を見て頷いた後、春樹を見た。



「分かった。では暫定で春樹を指名するが、春樹はどうだ?」

「仰せのままに。」



春樹は深々と頭を下げた。

竹信と源は部屋から出て行った。そして秋実と春樹は白狼を見ている。



「まずいな、想像を超える重症だぞ。」

「私だって今びっくりしてるんですから⋯⋯白狼にとって秋実殿の存在はあまりにも大きすぎたんですよ。言わないほうが良かったんじゃないですか?」

「俺がいきなりいなくなってからこんなんになっても俺は知らないぞ?」

「失礼しました、それは困ります。白狼は少し任務から外した方がいいですね。」



秋実は白狼を見た。ぼうっとどこかを見ているような焦点の合っていないような顔をしている。秋実は困った顔をして春樹を見た。



「春樹、白狼は明日の朝まで持つと思うか?」

「⋯⋯こればっかりはどうにも分かりません。」

「分かった。これから白龍の里へ行くぞ。瞬は夕霧に任せてもいいか?」



秋実は白狼をおんぶして山で春樹と待ち合わせすることにした。白龍の里へはカラスをやったが、また白龍に怒られそうだ。


しばらく待っていると春樹がやって来た。



「帰りに団子を買って帰ると言ったら瞬は喜んでたぞ。」

「春樹、助かった。」



白狼からは反応がないので秋実と春樹は白龍の里を目指して移動し始めた。秋実は白狼を背負っているので木には登らず山道を走る。それに添うように春樹も横を走る。しばらく移動していると秋実の背中から声がした。



「先生?」



秋実は急いで白狼を背中から下ろして顔を見るとぎょっとした。滝が上から下に流れるようにとても自然と涙が頬を伝って落ちていく。白狼は秋実を見ると秋実の胸に顔を押しつけた。



「先生⋯⋯先生⋯⋯。」



白狼は子どものように泣き始めた。秋実は白狼の背中を擦りながら落ち着くまでしばらく待った。少し落ち着いてきたように感じられたので、秋実は白狼を自分の胸から離すと白狼の顔を覗き込んだ。



「ここから一緒に来れるか?」

「はい」



白狼の小さな声が聞こえた。しばらく三人で夜道を移動していると小さな声が聞こえた。



「あっ」



白狼が地面から盛り上がった木の枝に足を引っかけた。それを見た秋実は顔を歪めて驚いた。



「夜道は慣れているはずなのに⋯⋯。」



春樹は何も言わずに白狼に肩を貸した。

そして白狼に聞く。


「行けるか?」

「⋯はい」



白狼は返事をしたもののいつもの覇気は全くない。その様子を見た春樹は秋実の方を見る。



「ちょっと歩いていきましょう。」



少し歩くと白狼が遅れ始めた。それを見た春樹は一番後ろにつく。白狼は秋実に手を伸ばしたが途中で手を引っ込めた。そしてその手を顔に持ってくると嗚咽が聞こえた。



「ごめんなさい⋯んぐっ⋯ぐすっ⋯⋯ごめん⋯なさい⋯⋯。」



秋実は白狼の方に振り返った。屈んで白狼を正面に見た。



「やっぱりおぶっていってもいいか?」

「先生、ごめんなさい⋯⋯。」

「謝らなくていい。俺が好きでやってるんだ。」



白狼は秋実の首に腕を回すとぎゅっと握った。そして秋実と春樹はお互いを見ると頷いた。



夜遅くになって、ようやく白龍の里につくと入り口にたつみが待っていた。春樹がホッとしたような声で言った。



「カラスが間に合いましたね。」

「あぁ。」



たつみが三人を見ると目を丸くした。

秋実が白狼をおぶっている姿に釘付けになった。



「⋯⋯一体どうしたんですか?」

「とにかく龍堂りゅうどうに会わせてくれ。」



たつみは口を閉じると白龍の家へと急いだ。白龍はこんな時間の訪問だったので家の前まで様子を見に来ていた。すると白龍も秋実と白狼を見るとギョッとした。



「とにかく入れ。話は中で聞く。」



部屋に入ると秋実は白狼を下ろした。白狼は隠しもしないで涙でぐちゃぐちゃの顔で放心している。白龍は白狼を見たが直接は聞かず秋実を見た。

しかし珍しく秋実が口を開けたが周りを見ている。



「どこから説明したらいいんだ⋯⋯。龍堂⋯⋯。」



秋実も少し泣きそうな顔をして白龍を見た。



「俺、死ぬんだ。」

「は?」



白龍は目を丸くした。春樹はそれを見て口を開いたが声は出せずに閉じた。



「俺、内臓に病があって死ぬんだ。長ければ3年くらい、短ければ半年くらい。まぁ寿命だから分からないが長くはない。」



白龍は秋実を見つめていたが白狼を見た後、春樹を見た。



「それから後継者は春樹を指名する。これは里の意見だ。竹信と源も賛成した。」



白龍は口を開いたが言葉にならない。

白龍は白狼をもう一度見た。



「凡庸な事しか聞けないがそれは本当なんだな。」

「あぁ。」



秋実は真剣な顔で頷いた。

次回も皆の心が乱れていきますね。白狼は大丈夫なんでしょうか?

次回の作者にすみイチオシの台詞↓

「先生、置いていかないで!僕⋯⋯僕ちゃんとやります。大丈夫だから⋯⋯ごめんなさい⋯⋯ごめんなさ⋯い。」

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