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【過去編 白狼の記憶】第7話目 成人の儀式(中編)

【過去編】は一話目に繋がる白狼の過去についてのお話です。

白狼は身体が震えて上手く動けなかったが、まだ相手が見えないので形だけでもと思い、覚悟して構えた。



「あっやっぱりか。」



奥から声がすると、その気配からぱっと殺気がなくなった。木の奥から顔を出したのは秋実だった。



「白狼大丈夫か?」



秋実を見た白狼は棒立ちになった。身体は震えたままだったが、目を見開いて言葉をこぼす。



「先生!⋯⋯本物ですか?」

「そうだ。」



秋実はコクリと頷いた。それを見た白狼は全身から力が抜けていく。次第に震えは止まり始めた。秋実は周りを見て近くで地面に突っ伏してコト切れている人を確認すると、肺の奥から息を吐いた。



「はぁ、良かった。標的には仲間がいたようで俺たちも三人仕留めたが気になって俺がこっちに来てみたがもう一人いたのか。白狼、ちゃんと仕留められて偉いぞ。」



秋実は白狼の頭を撫でた。そこへ春樹、竹信、源がやってきた。三人は白狼が仕留めた二人を見ている。



「こっちにも一人来てたみたいですね。」



春樹の言葉を聞いて源は口を開いた。



「予想したよりも標的の仲間は強かったぞ。その仲間を含めて二人も殺せば十分だろ。」



それを聞いた竹信は頷いた。



「一人は首で仕留めて、もう一人はきれいに胸に一発か。文句のつけようがないな。」



秋実は口を閉じている。何かを考えているような様子で白狼の方を見た。



「白狼、お前何かしたか?」



突然秋実は白狼に聞いた。しかし白狼は質問の意図が分からず首を傾げる。



「えっ何かとは何でしょうか?」



秋実は周りを探すように見渡して白狼の目を見る。



「えっと、相手の動きが止まったり苦しんだりと変になったり、景色が歪んだりしたりとか⋯⋯。」



白狼は目を見開いて聞いていた。そして白狼は目を閉じて先ほどの感覚を呼び起こす。



(秋実先生が気にしている。それなら先生に見せてあげたい。さっきの感覚を思い出すんだ⋯。)



手を皆のいない方へ向けると最後に行ったことを再現しようとした。

皆は白狼の手の先を見る。すると景色が歪み始める。



(よし!うまくいった。)



秋実を除いた三人は驚いている。秋実はじっとそれを見ていた。



「白狼、よくやった。もういいぞ。」



秋実は白狼に声をかけながら白狼に近づいて屈むと、両手を白狼の肩にぼんと置いて三人をしたり顔で見た。



「見ただろう?白狼は幻術を使える。」

「幻術まで使えるなんて恐ろしい子ですね。それはそうと皆さん白狼の成人の儀式は承認いただけましたか?」

「もちろんだ。」

「承認しない理由がない。成人だ。」



春樹は呆れて笑っている。

竹信と源はそれぞれ頷くと帰っていった。

春樹は白狼を呼び寄せると声をおとして話した。



「おめでとう、白狼。これで君は里の成人だ。君は技術も正確だし、幻術が使えるとなるとますます強くなる。しかしいくら強くなっても相手を人として扱い、尊ぶことを忘れないでほしい。」



春樹は真剣な目をしている。白狼は春樹の目を見て頷いた。



「分かりました。」



白狼は家に帰ると汚れたところを水できれいに洗うと服を着替えて暗い部屋に入っていった。部屋には布団が敷いてあって真ん中の布団で瞬が寝ているのを確認すると白狼は横の布団に横になると、瞬をそっと抱き寄せて眠りについた。成人の儀式も終わり成人と認められた白狼は、その日を境に目に見えてめきめきと力をつけていった。秋実と春樹に任務を回してもらうとどんどん任務をこなした。

そんなある日秋実は口を開いた。



「春樹、俺は白狼と出掛ける。瞬を頼んだぞ。」



それを聞くと春樹はじとっとした目で秋実を見る。



「そう言うのは事前に言ってくださいよ。どこへ行くんですか?」

「白狼も成人したしお披露目に龍堂りゅうどうに会ってくる!」

「うわ、見せびらかしに行くんですか?白龍殿呆れますよ。」



秋実は何か思いついた顔をした。



「春樹も来るか?」

「今回は遠慮します。」

「えー、そんなこと言うなよ!」




春樹はムスッとしている。結局春樹は秋実に無理矢理連れてこられたのだ。

秋実と白狼と春樹は白龍の里の目の前にやって来た。すると誰かが走って来る。その誰かを見て秋実は手を上げて大声を出す。



たつみ!久しぶりだなぁ。」



たつみは周りをキョロキョロ見ながらやって来た。



「秋実殿!あれっ?今日は⋯⋯。」

「悪い、連絡が遅くなった。龍堂はいるか?」



たつみの表情が一瞬曇った。それを見た春樹は頭を深々と下げた。



たつみ殿、ご面倒をおかけします。」

「あっいえ⋯⋯。確認して参ります。」



秋実は何も黄にしていない素振りをしている。そこへ春樹が文句を言った。



「ほら、たつみ殿も困ってたじゃないですか。」

「カラスを飛ばした。⋯⋯鳩も飛ばしたぞ。ほら、カラスが飛んでいるだろ?」

「今、空を飛んでるって事は事前に連絡出来てないってことですよ。もう、気ままに予定を決めすぎるんです。白龍殿も怒りますよ。」

「はっはっはっ、そうだろうなぁ。」



白狼は二人のやり取りを横目に里の中をうかがっていた。白龍の里は影なしの里と随分違っていた。山道も景色もよく危ない道も少なかった。また植物が豊かに生え自然がキラキラと輝いているようだった。普段任務は夜に行うので、昼間の明るさに白狼は目が眩しかった。



しばらくしてたつみが戻ってくると少し疲れた顔をしていた。そしてたつみの案内で白龍の家に通されると一つの部屋の前でたつみは立ち止まった。そこでたつみは両膝を床に着いた。



「白龍殿、陽炎殿たちをお連れしました。」

「中まで案内しろ。」



中から声がする。その声に従ってたつみは部屋の中へ入っていく。そうすると一人の中年の男が座っていた。身体も秋実、春樹と同様にがっしりとしている。春樹より少し年上のように見える。中に座っている男は秋実に何か言いたげな顔をしているが、秋実があっけらかんとしている。



「龍堂!久しぶりだな。連絡が直前になって悪かったなぁ。」

「秋実!連絡が直前って今空にカラスが飛んでいるじゃないか!」

「春樹がいてどうしてこうなった?」



叱責された春樹は勢いよく頭を下げた。秋実は悪びれもなく謝っている。



「悪い悪い!鳩も飛ばしたはずなんだがまだ着いていないかな?それに春樹は無理矢理連れてきたんだ。こいつを責めるな。」



白龍は呆れてふうとひと息つくとたつみに向かって声をかけた。



「茶を用意しろ。」

「俺は酒でも構わない。そのつもりで来た。」



春樹は勢いよく秋実を見た。

それを聞いた白龍はため息を大きくついた。



「酒は後だ。一応用件があるんだろう?」



秋実は白狼を見ると、ぐいっと白狼の肩を引き寄せて白龍に見せた。



「そうだ!龍堂、滅獅子の大戦時に気にかけてた少年がいたのを覚えているか?白狼だ!」



白龍は白狼を見た。白狼は白龍と目が合うと探るような目をしていた。秋実の力が緩むと白狼は正座をし直して居住まいを正した。そして白龍を真っ直ぐ見ると口を開いた。



「影なしの里でお世話になっております白狼と申します。先日、成人の儀式を終えて一人前と成りました。これから何かの機会がありましたらご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします。」



白狼は深々と頭を下げた。白狼の挨拶を見て白龍は手を顎につけて口角を上げている。



「ほう、もう成人となったか。若いのに賢い子だな。」

「まだ齢9だ。筋がいいから何でもすぐに覚える。頭も賢い。」

「なんと、まだ年端もいかぬ子どもだったとは驚いた。」



秋実は嬉しそうに腕組みをして頭を大きく上下に振っている。それを聞いた白狼は口元を緩めた。秋実に褒められて嬉しかったのだ。



「⋯⋯そういうことならはじめに酒を入れるか?白狼は形だけにしよう。」

次回は10年前の白龍殿とのやりとりが続きます。それにあの人も登場します。こんな形で会っていたんですね。

次回の作者にすみイチオシの台詞↓

「俺はあの時に決めたのさ。思ったことは何でも口にする。誰が何を言っても後悔したくない。」

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