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【過去編 白狼の記憶】第5話目 初めての任務(後編)

春樹は強い目を向けた。



「俺は秋実殿の補佐役だ。このままじゃ秋実殿は全力を出せない。だから聞く。白狼が整理しなくてはならない事だが感情を逃がす場所が必要なんだ。このことは秋実殿にも瞬にも言わないからここで感情を出していってくれ。今お前は何を感じている?何に囚われている?」



白狼は口を開けたがまたすぐに閉じた。

少し唇が震えている。



「僕は⋯⋯秋実先生と瞬と一緒にいたい。⋯⋯捨てられたくないんです。⋯⋯いらないって言われたくない。使えない⋯⋯お前じゃ任務にならないって言われたくない⋯⋯秋実先生をがっかりさせたくない⋯⋯。ここにしか僕の居場所はないんです。」



春樹は予想とは全く違ったことを白狼が話し始めたので目を見開いた。なぜなら初めて任務をこなした者のほとんどは任務に対して恐い、二度と殺りたくないと恐怖を感じる。しかし白狼は秋実を失望させてしまったのではないかと言う事に恐怖を感じていた。里が壊滅したとは聞いていたが、どんな経験をしたら殺す恐怖を上回ることがあるのだろうか。春樹がそう考えていると白狼は訴えるように春樹の顔を見て言葉をこぼした。



「秋実先生が必要だと感じてくれるならなんだってやります。⋯⋯昨日任務を失敗した時⋯⋯冷たい⋯がっかりした目をしていた。その顔が頭から⋯⋯ずっと離れなくて⋯⋯。秋実先生にもう一度会って同じ目をされたら⋯怖い⋯⋯僕は⋯⋯生きていけない。」



白狼の目から大粒の涙がぼたぼたと落ちてくる。泣いている少年は年相応に見えた。

白狼が泣いているのを目ざとく見つけた瞬が大声を出しながらこっちに走ってくる。



「あー!白狼!!」

「白狼ー!!!」



その奥から秋実が走ってくる。春樹は瞬と秋実を見て呆れていた。瞬は白狼が座っている木の枝がある木に登ろうと躍起になっている。それを見た春樹と白狼は下に降りた。すると白狼は急いで袖で涙を拭いている。瞬は春樹と白狼の間に割って入った。その瞬の行動に白狼は目を丸くした。



「白狼に何をしたんだ?春樹殿だって許さないぞ!!」



そうしていると秋実もやっきてた。春樹は瞬から視線を外して秋実を見た。



「秋実殿もやっぱり来たんじゃないですか。」

「白狼!許してくれ!!」



秋実は白狼の目の前までやってくると勢いよく頭を下げた。それを見ると白狼は慌てた。



「あっ秋実先生、頭を上げて下さい!先生に謝られるようなことは何もしてないです。」

「無理強いはもうしない!白狼に嫌われたら俺は生きていけない!」



白狼は秋実を見た。白狼の目からはさっき拭いたはずの涙が頬を伝ってとめどなく流れている。秋実は白狼の涙を見てギョッとしている。白狼の涙を見た瞬が心配して聞いている。



「じいちゃん何かしたの?白狼どこか痛い?」

「待て、泣かないでくれ⋯⋯俺はどーしたらいいんだ?」

「秋実先生は僕にがっかりしたんじゃないんですか?任務に失敗して、やってはいけないことばかりしたので⋯。」

「がっかりなんてとんでもない。白狼、お前はとても筋がいい。俺はいつも感心しているんだぞ。昨日のは俺が行き過ぎたことをしたんだ。初めての任務ならあれで十分だったんだよ。」



不安で胸がいっぱいの白狼は涙をこぼしながらすがるように秋実に聞く。



「秋実先生、僕はここにいてもいいんですか?」

「白狼が嫌だと言わない限り俺たちとずっといてほしい。⋯⋯これで伝わるか?」



秋実は屈むと白狼を力強く抱きしめた。白狼は秋実の胸に顔を押し付けると嗚咽を漏らして泣き始めた。震える手でギュッと秋実の襟元を掴む。そこに瞬は後ろから白狼にしがみついた。春樹は秋実の横へ来ると小声でこう伝えた。



「落ち着いたら昼餉を用意しているので食べに来てください。」




夕陽が姿を消して夜が顔を出した。

白狼は瞬が寝ると秋実を探して家の外に出るとそこに秋実がたたずんでいた。

今夜は月が顔を出している。



「秋実先生、また任務に連れて行ってください。」



白狼はさっぱりした顔を秋実に向けた。

秋実は白狼の顔を見続けた。真面目な顔をしている。



「分かった。だが無理はするな!⋯⋯それから白狼、お前に一つお願いがある。」

「はい、何でしょうか?」

「⋯⋯その、もう二度と陽炎殿などと呼ばないでくれ。俺は白狼からはずっと秋実先生と呼ばれたい。」



そう言いながら秋実は少し頬に赤みがさしている。それを見た白狼は微笑んだ。



「⋯⋯ふふ、分かりました、秋実先生。」




それから毎週のように秋実は任務に連れて行った。白狼は自分から任務を行わせてほしいと言っては任務をこなしていた。白狼は秋実の笑顔が見たかったのだ。任務が終わる度に褒めてくれる瞬間は白狼にとってかけがえのないものだった。秋実は任務が終わる度に春樹の家へと出掛けて、白狼の任務について細やかに⋯⋯いや、長々と説明していくのを春樹が疎んでいたのを白狼は知らない。



ある日、白狼は春樹の家に来ていた。戸を開けた春樹は外をキョロキョロと見た。



「白狼一人で来たのか?」

「はい、ちょっと相談したいことがあります。」



春樹は白狼を部屋の中へ引き入れた。それを見た夕霧が腰を浮かす。それを見た白狼は夕霧に声をかけた。



「突然すみません。長い話ではありませんのでおかないなく。」



白狼は春樹を真っ直ぐ見た。



「あの、成人の儀式をしたいのですが、どのように行うのですか?」

「あぁ、成人の儀式か。身内一人か他人を三人殺すってやつだな。」

「僕は他人を三人殺めます。日にち、人など指定はありますか?」



あまりにも淡々とそして事務的な確認をするような物言いに春樹は茶も飲んでいないのにむせて咳をした。



「ゴホッゴホッ白狼は凄いな⋯⋯。それ秋実殿にも相談したのか?」

「⋯いえ、先生に言ったら止められそうな気がしたのでまだ言っていません。」



白狼は首を横に振った。

白狼の言葉を聞いた春樹は首を上下に振り賛成すると一息ついてこう切り出した。



「正直、秋実殿の任務にお前はついていってると聞くが、実際は任務を一人で遂行している。俺は成人と認めて良いと思っているんだ。秋実殿も含めて周りと相談していいか?それから理由も聞いていいか?」

「先生の役に立ちたくて⋯⋯喜んでほしいんです。」



白狼は俯きがちに照れながら言った。こんな内容じゃなければ微笑ましい光景だったのだろう。

春樹は少し目線を外して考えると白狼を見た。



「そうだ、この前のこともあるし白狼もついてこい。秋実殿とひと悶着したくないし、当事者がいたほうが齟齬そごが少ない。」



そして二人は秋実の家に近づくと秋実は家の外に出ていた。秋実は春樹と歩く白狼を見た。



「これは⋯⋯どういう組み合わせだ?」

「それはこれからお話します。竹信たけのぶげんも含めて話したいです。」



それを聞いた秋実は納得はしていないような顔だったが頷いた。

そして二人を呼ぶと春樹の家に集まった。夕霧はお茶を置いている。秋実、竹信、源はお互いの顔を見ている。そこへ春樹が口を開いた。



「ご足労感謝する。今日は白狼の成人の儀式について相談がある。」

「白狼の成人の儀式だと??俺は聞いていない!」



それを聞いた秋実は立ち上がった。

秋実を見た竹信と源は呆れた顔になった。



「秋実殿、それは身内でやってください。」

「春樹、早く話を進めろ。」

「はい、進めます。知っての通り白狼は現在秋実殿について任務に出ています。任務で何人殺った?」



春樹は白狼に顔を向けた。皆は白狼を見る。



「四人です。」



竹信と源はそれを聞いて頷いている。

春樹が話を続ける。



「成人には他人を三人だ。十分内容は満たしていると思います。しかし秋実殿と俺との話し合いで決めるのは道理が合わないと思いまして、可能であれば次の任務を白狼がこなすのをこのメンバーで見届けるのはどうでしょうか?」

「賛成だ。」

「俺も賛成だ。この目で見れば異論は無い。」



春樹は秋実を見た。



「ぐぬぅ⋯⋯それでいい。」



春樹は白狼を見た。



「白狼、成人の儀式は次の任務で秋実殿、竹信殿、源殿、春樹で見届けることによって行う。良いな?」

「はい!」



話し合いによって明後日に行う事になった。

次回:【過去編 白狼の記憶】第6話目 成人の儀式(前編)は1/11(土)の掲載予定です。明日はお休みなので夜の掲載にします。

次回は白狼の任務です。初めての任務では失敗に終わりましたがどのように行うのでしょうか?⋯それだけで終わるといいですね⋯。

次回の作者にすみイチオシの台詞↓

(今までで一番強い殺気だ。まずい、気配が近づいてくるな。これは倒せない、隙をついて逃げるしかないぞ。⋯さっきの感覚を思い出すんだ。相手を殺して秋実先生のところへ帰るんだ!)

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