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【過去編 白狼の記憶】第3話目 初めての任務(前編)

【過去編】は一話目に繋がる白狼の過去についてのお話です。

白狼は忍の服に着替えるとクナイや手裏剣、短剣などを確認している。それが終わるとしっかりと装着して外へ出た。外では秋実が待っていた。

そして秋実は白狼を見ると顎で促した。



「説明は移動ながら行う。」



今朝、白狼は秋実から影なしの里について説明を受けていた。影なしの里では他の里のはぐれ者を処分する。ここで言うはぐれ者とは任務を遂行せずに逃げ出した者や勝手に里を離れるなどの未許可の脱里者の事を指す。秋実の息子・かけるが里長をしていたが先の大戦で亡くなってから秋実がまた里長をしているらしい。大戦で疲れ果てた者が未許可の脱里を行う者が増えてきたみたいだ。



「今日の任務の標的は自分の里から遠ざかり続けている。向こうの里から依頼がいているから処分の対象だ。処分はなるべく手数を減らしたほうが良い。気配を消して後から短剣で首を狙うのが一番良い。白狼はまだ小柄だから標的と揉めると危ないから注意しろ。」



白狼は頷いた。



(これから僕は任務を行う。)



基本的に任務は一人前となった者が行う。白狼は一人前ではないので秋実についてきたのだ。



「一人前ではないからといってもこれは任務だ。心してかかるように。」



秋実は念を押す。そして秋実は白狼に近づくと後から指を差した。



「標的の気配はあっちの方だ。ここからは一人で行け。俺は近くで見ている。」



白狼は秋実の指の先を見た。

白狼は自分の心臓が変な動きをしているのを感じた。音を立てないように木から木へ移動していく。そしてこれからすることを頭で復唱する。



(標的の後ろから首筋を短剣で掻っ切る。)



目を凝らすと人影が見える。



ドクン、白狼の心臓は跳ね上がった。胸がドクドクと前に震える。高鳴る胸をぎゅっと押し込んで白狼は平然を装い近づいていく。段々と自分の身体が自分の物では無いように感覚がバラけていく。まるで人形になったように体の動かし方が分からなくなっていく。



(相手に気づかれないように手数は少なく⋯⋯)



相手の近くまで来た。まだ相手は白狼に気がついていない。白狼は急に熱くなってきた。汗が噴き出るのに手は震えている。そして白狼は下唇を思い切り噛んだ。



(痛い!ちゃんと感覚はあるな。)



唇から血が滲む。

その勢いで何も考えずに相手に接近した。



(首!首筋を狙え!)



白狼は首に向けて短剣を伸ばす。相手が気がついたように後ろを振り返る。短剣から相手の首は少し離れた。何とか首に短剣を滑らす。手には鶏のもも肉を切るような表面を刃が滑る感覚がした。



(浅い!次はどこを狙えば⋯⋯)



相手と目が合うと声を漏らした。



「ぐっ!⋯くそっ」



首の傷は浅かった。白狼の目は泳いでいる。

相手も短剣を持って構える。



(急所?胸か?長期戦を考えて腹か?)



白狼の手は震えていた。すると相手は短剣を前に突き出した。白狼は身体を半転させて何とか避ける。そして白狼は腕に切りつける。肉を切る感触が手に伝わる。相手はそのまま腕を横に動かして白狼の顔にぶつける。そのまま相手は体当たりをして白狼は地面に押し倒された。



(まずい、身体の大きい相手に上を取られたら倒す以前に回避が出来ない。)



相手は腕から血を流しながら短剣を白狼の喉元へ構える。

白狼は目を見開いた。白狼は近くで何かを刃物が刺すような音を聞いた。相手の手から短剣が離れると首の横に落ちてきた。その後相手の身体が白狼の身体に重くのしかかる。



(くっ苦しい⋯⋯)



相手の身体がゴロっと横に動いた。そうすると白狼の視界に秋実の姿が入ってきた。立ちながら白狼を見下ろしてくる。白狼は動揺していたので秋実の顔まではよく見えなかった。しかし慌てて謝った。



「あっ⋯⋯秋実先生、すみません。」



白狼は急いで立ち上がろうとした。身体がまだ震えている事に気がついた。気づかれまいと何とか立ち上がる。すると秋実は冷ややかな目で見ていた。いつもの優しい秋実とは違う雰囲気に白狼はのまれた。秋実は固い声で聞いてくる。



「任務は失敗だ。どこがダメだった?」



その言葉に白狼は下を向いて考えた。心臓が変な鳴り方をしているようだ。そして思ったことを口に出した。



「⋯⋯初手の首を切るのが浅かったです。切る前に相手に気配を感じ取られました。」

「それから?」



秋実の問いに白狼は全身が恐怖で固まった。

怖くて秋実の顔を見れない。視線を下に落としたまま続けて答える。



「それから⋯⋯相手と揉めました。」

「違う。」



それを聞いた白狼の目は泳いだ。血が逆流してきたかのように身体だけではなく、声も上手く出せない。なんと答えれば良いのだろうか⋯。

すると突然秋実は白狼の顎に手を当てると無理矢理白狼の顔を上げて自分の目を見させた。



「相手が武器を構えた。相手と真正面に構えた。あんな震える手で仕留められると思っているのか?」



秋実は白狼の顎から手を引いた。

白狼は力なく座り込む。

秋実は倒れた相手に合掌すると抱き起こした。



「死人を使うのはあまり良くないが実践しろ。こいつの首を掻っ切れ。」



白狼は足が震えていたが、なんとか立ち上がって短剣を構えた。

秋実は相手の首筋に指をさす。



「ここが頸動脈。これを真っ二つにするように勢いよく切れ。」



相手の横へ回る。短剣を相手の首の横に付けるように構えると首を掻っ切った。白狼は今度こそ肉を切る感覚がはっきりあった。



「そんなんじゃ相手は死なない。もっと力を込めて引け。」



(これでも足りないのか⋯⋯。怖い⋯⋯もう触りたくない⋯⋯。)



白狼は口をギュッと閉めて構えた。



短剣を首元で引く。



「もう一度!」



震える手を押さえ込むようにきつく短剣を握りしめると勢いよく引いた。秋実は傷口を見つめている。



「まぁそれくらいでいいだろう。ついでに胸も仕留めろ。胸には肋骨があるから避けるように刃を横にして体重を乗せて刺すんだ。」

「はい。」

「それから唇を噛むのはやめろ。傷口を作ることは自分の弱点を作るようなものだ。相手からどんな攻撃を受けるか分からぬ。」

「はい。」



白狼は短剣の血を払うと相手の胸元に刃を横にして突き立てた。体重を乗せて刺す。

白狼の手に肉に刺す感覚が伝わる。



「力が弱い。」



白狼はありったけの力で短剣を握った。

そして白狼は自分の心臓を突く想像をして短剣を突き立てた。



(自分の心とともに潰れてしまえばいい⋯⋯。)



白狼は自分が横たわっている想像をした。そして横たわっている小さくて力のない自分の胸に思い切り剣を食い込ませた。相手の身体から血が飛び散ったが白狼は気にならなかった。秋実は白狼の動きを見て頷いた。



「今のは良かった。」



白狼はようやく頬についた血に気が付いて、それを手の甲で拭った。




それが終わると秋実と白狼は家に戻ってきた。

すると白狼は立ち止まった。そしてこうきっぱりと言った。



「先生⋯⋯このままでは僕は家に入れません。瞬に見せられません。」



白狼は自分の服を見た。相手の血が体中、特に上体に飛び散っている。秋実は白狼を一瞥した。



「分かった。服を持ってくるからここで待ってろ。」



秋実は家の中へ消えた。

白狼は空を見上げた。

それは月の無い闇に包まれた夜空だった。

次回も白狼の心は揺れ動いていますね⋯。

次回の作者にすみイチオシの台詞↓

「今お前は何を感じている?何に囚われている?」

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