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第37話 霜月の秘密

少年は一瞬目を丸くして自分の手を見ると右手は見まみれになっていた。自分の手を見た後、霜月を見ながら嬉しそうな顔にな声を上げた。



「あはっ!白狼に当たった!君は僕の二番目のお気に入りだよ。瞬も欲しかったけど、白狼が先に手に入った。先に死者の大軍に加えよう。」

「⋯⋯死者の大軍?」

「そう!僕のコレクションだよ!」



少年は身を乗り出すように瞬に嬉しそうに伝える。そのまま何かを考えたのか瞬を眺めると少年は瞬の背中側まで歩いて立ち止まった。少年は無邪気に瞬にこう言った。



「そうだな、せっかくだからお気に入りを並べようかな。瞬こっちに振り返って僕を正面に見て!死んだ白狼と瞬を並べたいんだ!安心して、すぐに白狼の下へ送って上げるから!」



瞬はゆっくり振り返る。圧倒的な力の差に本能的に身体が固くなる。そして何も考えられなかった。あんなに強い霜月がいとも簡単にやられてしまった。それに自分も同じ目に合わせると言っている。今まで出会ったどんな人とも違う。いや、どんな生き物、存在よりもおぞましい⋯。



瞬はぼうっと目の前を見ていた。すると視界の端で少年がまた手を大きな骸骨に変化させている。どんな抗いもこの者の目の前には無いに等しい、そう感じた。

その時複数の人の声が近くで聞こえた。



「おい!」



ザッザッザッ、諒、瑛真、白龍、陽炎、赤龍、黄龍、緑龍、力也、一樹、烏斗、玄磨など忍の里長をはじめ瞬たちが会ったたくさんの忍が集まっていた。その様子を見て少年は鬱陶しそうな顔をして忍たちに不満そうに言う。



「今良いところなんだけど。」



諒と瑛真は瞬と霜月を見て叫ぶ。



「瞬!霜月さん!」



少年は欲しいものを取り上げられた子どものように口を尖らせてこう呟いている。



「瞬も欲しいのになぁ。」



そこへ諒が叫ぶように少年に尋ねる。



「君は誰なんだ?」

「僕?僕はね、黒獅子だよ。諒はもう影屋敷の人間だから洒落頭しゃれこうべと言った方が分かるかな?」



少年は不満そうに顔を声にする方へ向けたが、その声が諒のものであると分かるとにっこりしながらこう伝えた。その名前を聞いた諒はポツリと言う。



洒落頭しゃれこうべ⋯⋯」

「諒、もっと僕の名前を呼んで!」



諒に自分の名前を呼ばれた少年は嬉しそうに頰を高揚させて諒にねだる。それを見た諒はサッと恐怖を含んだ目になった。諒の反応を見た洒落頭しゃれこうべは目を細めてうっとりしながらこうこぼす。



「あぁ、諒のその目すごく良いよ。早く君もコレクションに欲しいなぁ。」



少年はゆっくりと視線を動かし瑛真をちらりと見る。瑛真は少年と目が合うとピクッっと反応した。少年は嬉しそうに瑛真を見ながらゆっくり口角をあげると瑛真に向けて手を前に出した。

それを見て忍たちは構える。

少年は手を止めると冷やかな目で忍たちを見た。



「もう、瞬たちも欲しかったのに君たち邪魔だなぁ。」



そう不満そうに言ったが少年はちらりと霜月の方を見ると満足そうな顔をした。



「まぁ今日は白狼だけで我慢するか。後で白狼が屍になったら会いにくるよ。」



そう言って少年は姿を消した。





少年の姿がいなくなると急いで諒は霜月の方へ駆けていく。霜月はぐったり地面に突っ伏している。霜月の横でしゃがんで様子を見ると諒は顔を上げて大声で聞く。



「誰か大きな布ときれいな布を持っていませんか?」

「橘、持っていきなさい。」



すぐに緑龍の声がした。橘が返事をすると丸々に太った風呂敷を持って諒の元にやってきた。中には布が何枚か入っており何かの液体や薬草が入っている。布を広げると霜月の横に敷いた。きれいな布を背中側の貫通した箇所に当てると大きな布へ霜月をそっと仰向けに寝かせた。中を覗くと血が溢れていて傷の状態が確認できない。

諒は顔を上げると大きな声で言う。



「ここでは布を当てて止血を試みるしかできない。まずはある程度止血してから場所を移動しないと。」

「それなら白龍の里が一番近い。運ぶぞ!」



白龍が大声で言う。諒がお腹側にも布を当てると霜月の名を何度も呼んだ。瞬も泣きそうな顔で何度も霜月の名を呼んだ。



何度か呼ぶと霜月は目を開いた。

身体に力が入らない。霜月は死を覚悟した。たがこれが最期なら瞬に絶対に伝えないといけない。

霜月は横たわったまま手を挙げる。



「瞬、手を握れ⋯⋯」



その言葉に促されるまま瞬は霜月の手を取る。霜月の記憶が流れてくる。いくつもの情景にじいちゃんがいる。霜月の経験した温かな記憶、悲しい記憶、楽しい記憶その全力で生きてきた、そんな生き様が目の前に広がった。やっぱり霜月さんにとってもじいちゃんは大切な人だったんだ。瞬はこらえきれずに涙をポタポタと流す。



霜月は息を整えゆっくりと話し始めた。



「瞬、俺はお前に伝えなきゃいけないことがある。最期だから聞け。

俺にとって先代陽炎⋯秋実先生は育ての親であり師だった。滅獅子の大戦で壊滅した里で残った唯一の生存者だった俺は幻術で隠れていただけだったんだ。おそらくあのまま里から離れても里を壊滅させた殺戮兵器と勘違いされ腫れ物扱いになるところだったんだ。

⋯⋯瞬、それが何を意味するか知っているか?里に属さない者は運良くて乞食、ひどいと人の扱いをされない。当時9歳だった俺は生きる術なんて何も知らなかった。つまり死ぬしかなかったんだ。」



霜月は苦しそうに顔を歪ませながら続ける。



「⋯⋯それを秋実先生は朝起きるとお早うと言い、温かい飯を出してくれて、明日も早いぞと言って隣で寝てくれた。訓練もつけてくれた。俺を強くしてくれた。自分の足で立てるようにしてくれた。そのことが俺にとってどんなに温かく心が嬉しさで苦しいくらい満たされていると思ったことは無い。」



瞬は霜月から目を離せない。霜月は苦しそうな顔をするがありったけの力をふりしぼっているようだった。



「秋実先生の最期の願い。⋯⋯あの人は病にかかっていた。終末はいつも瞬、君のことを憂いでいたよ。君も暗器として目覚めるかもしれない。この忍の世界に8歳の子を置いていくのはあまりにも心許ない。だから君を一人前と認められるようにしようと計画したんだ。

コトが切れる日、君が帰ってくる頃に合わせて秋実先生を⋯⋯刺した。

⋯⋯そして部屋の外へ出るのが間に合わなかった僕は⋯幻術で気配を殺して⋯⋯君が秋実先生の最期を見届けるまで⋯⋯隠れていた⋯⋯。」



一息つくと霜月はこう付け加えた。霜月の声は枯れていた。うわ言のように言葉がこぼれてくる。



霜月の言葉を聞いて諒は瞬の生い立ちを聞いた時のある言葉を思い出していた。



”影なしの里では一人前になるためにやることがある。それは身内を一人殺すか他人を三人殺す。他人は里の外の者でも表の者でも良い。⋯⋯俺はじいちゃんの死ぬ直前に居合わせてじいちゃんの死を身内を一人殺すこととして認めてもらった。”



霜月が秋実を刺したのは、瞬を一人前として認められるようにするためだったんだ。諒は今の話しぶりだけでも瞬のじいちゃんが大切だったのだと分かったのだ。その人を刺すと決めて実行するのはどれほど想像も出来ないほど苦しくて悲しい決断だったのだろうか。おそらく瞬も同じことを感じているだろうと諒は思った。



「俺が秋実先生を⋯⋯殺したことには変わらない。瞬、本当にごめん。罪は受ける。」



初めてだった。霜月さんの目には涙が溢れている。その無防備な姿は年相応に見えた。霜月は自分に会う前からずっとその罪の意識を背負っていたのだろう。瞬は自分がなんて勘違いをしていたんだと心にある想いが湧き出した。



「なんであんたはそんな大事なことを隠してたんだ!俺は⋯⋯俺はじいちゃんが大事だったけど白狼のことも大事なんだよ。大切にしたいんだよ。白狼だってじいちゃんのことなにより大切だったんじゃん!

じいちゃんが死ぬ最期の一時まで寄り添ってくれた。俺のことを考えてじいちゃんを送ってくれた。

白狼はじいちゃんの最期を救ってくれたんだ!」



二人の感情は互いに爆発してぶつかり合った。



沈黙が流れる。



ぶつかり合った言葉が少しずつ二人に馴染むようなゆっくり時間が過ぎていく。



「霜月さん、俺だって貴方を守りたい。違う方へ行くなら俺が行きたい方へ引っ張っていくからな!」



瞬は霜月にそう伝えた。

霜月は口をパクパクさせる。霜月は言葉が出ないようだ。瞬は必死に霜月の胸にすがりつく。



「いやだ、霜月さん!」



瞬は霜月にしがみついていると遠くから声が聞こえた。



「霜月、死なせないわよ!」



鈴音と知らない男が立っていた。男は背中に大きな荷物を持って立っていた。その荷物の上にはだてまきが乗っていた。鈴音の肩は大きく上下に動いている。



だてまきは霜月の方へ駆け寄ってくる。



「これじゃあ移動してたら間に合わない。ここでやるしかないわ!橙次さん、荷物を広げてください。」



鈴音は隣の男にそう声をかける。背中にから荷物を下ろすと板を並べ始めたその上にきれいな布を敷く。諒は鈴音に近づく。



「鈴音さん、僕も手伝います。」

「里からきれいな針ときれいな水、石鹸、消毒液、痺れ薬なども持ってきてます。手伝わせて下さい。」


橘も鈴音に近づくと言った。瑛真も近づいて伝える。



「俺も炎と風が使えます。何か役にたたせてください。」



烏斗からとは声をあげる。



「体力のある方、白龍の里に荷物を取りに行きます。ついてきてください!」



玄磨、力也、赤龍などが烏斗についていく。



「念の為に結界を張りますね。」



緑龍は言って結界を張った。


霜月の怪我の状態は深刻だ。内臓の損傷も大きい。丁寧に、しかし迅速に行わないと間に合わない。瑛真は鈴音の縫うタイミングを見て風で患部から血を飛ばす。諒も縫いやすいように接合面を少し切って整える。橘は血を布で拭ったり、諒が切り取った不要な細胞組織を体内から取り除いたりしている。

そうしている内に白龍の里から追加の荷物が来て荷解にほどきされる。



瞬は霜月の手を握ることしか出来なかった。



カラン、傷はすべてが縫われた。



霜月はなんとか影屋敷の左殿の病室に運ばれた。瞬、鈴音、諒、瑛真が病室にいる。

橙次は部屋の外から様子を伺っている。

忍の者はここへは入れないため、霜月の目が覚めたら伝書鳥を飛ばすことにしてなんとか帰ってもらった。



瞬はこんなに時間が長く感じたのは初めてだった。真っ暗な海の中を泳いでいるように孤独で苦しく先が見えない恐怖を感じ続けた。瞬は霜月を見続ける。





霜月は目を覚まさない。

読んでくださりありがとうございます!

ここで影屋敷登録編は終わりになります。

さて、霜月はどうなっちゃうんでしょうね⋯。


そんな霜月の過去編が次回からはじまります。

次回より【過去編 白狼の記憶】を全10話(分割)+白狼の記憶・座談会を挟みます。今回の過去編では第1話に繋がるお話をお送りします。この過去編の後、続けて1話目から2巡目を読んでいただくと、だからこんなリアクションしてるのかといったシーンを散りばめています。

次回:【過去編 白狼の記憶】第1話目-1 秋実(あきさね)との出会い(前編)は1/6(月)の掲載予定です。

次回は9歳の白狼が主人公です。

次回の作者にすみイチオシの台詞↓

「これから大事な儀式を行う。」


また、過去編が終わりましたら、第38話を掲載するので引き続きお付き合いください。


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