第35 話-2 瑛真と斗吾の戦い
瑛真は少し遠くで諒が”切雨”と言うのが聞こえた。少し遠いな。上の方を見ていると霜月と瞬がいるのを見つけると、とりあえずあっちに合流するかと思ってそちらの方へ向かった。
「あいつらはえーな!」
しかし追った先にはもう誰もいなかった。そしたら諒がいた方にいくかと思いそっちに向かっていた。
「おっと懐かしい顔だな。」
横からいきなり誰かが出てきた。その誰かを見て瑛真は目を丸くした。
「⋯⋯斗吾⋯⋯さんか?」
瑛真は目の前に出てきた男にそう尋ねた。斗吾は一樹と同い年の赤龍の里の者だった。5年前に一樹と仲違いして里から脱里していたのだ。当時は一樹より斗吾の方が強かった。斗吾は瑛真を見るとこう尋ねる。
「そうだよ。君は瑛真だよね?」
「そうだ。」
「じゃあさっさと始めようか。」
元赤龍の忍だ。とにかく対戦重視。
「瑛真の実力をみたいな。」
斗吾は両手に巨大な炎を作ると早速それを瑛真の方へ放った。
「炎波」
巨大な炎は津波のように瑛真に迫ってきた。
「防風林」
瑛真は風で壁を作る。しかし斗吾の炎は威力があったので瑛真の風はかき消されそうになった。瑛真はなんとか耐えると、斗吾はじっと瑛真をみた。
「へぇ、瑛真も暗器なんだ。いつ力の解放をしたんだ?」
「解放して数ヶ月です。」
それを聞いた斗吾の顔はぱあっと明るくなりこう提案した。
「じゃあ俺のほうが暗器は先輩なわけだ。暗器は炎風だろう?俺もなんだ。能力は俺のほうがよく知ってる。今回は戦いを止めて黒獅子の里に入らないか?二人いれば新しいことが出来そうだ。」
たしかに瑛真は同じ能力の者が二人いることに利があると思った。しかし同じ赤龍の里だったら良かったのにという思いがふと頭をよぎった。瑛真は暗器としての経験不足は決定的に不利であることは分かっていた。だからといって尻尾を巻いて相手の言うことを聞くことは出来なかった。瑛真は好戦的な目で斗吾を見た。
「提案ありがとうございます。でも斗吾さんもご存知でしょ?赤龍の男が自分を曲げないってことくらい。」
「はぁ、そこは曲げてほしいよ。負けたら何も残らないよ?」
「簡単です。勝てばいいんだから。」
「そうか、交渉は決裂だね。残念だよ。」
それを聞いた斗吾は怖い目をしてこう言うと、足を踏み切って一気に瑛真の目の前に来た。
ストレートパンチ。瑛真は腰を落として腕をクロスさせるとパンチをガードした。
ドゴン!!瑛真は十メートルくらい後に吹っ飛んだ。腰を落として倒れないように耐えたので地面には両足の跡が十メートル続いている。そして木に激突した。
「があっ!」
瑛真の腕はボロボロになっていた。斗吾との力差は圧倒的だった。
どう戦おうか?瑛真は必死で頭に思考を巡らせた。まずは初心にかえろう。とにかく防御が一番だ。その次にカウンター。そして風の力を使って動きの速さを上げよう。そう決めた瑛真は斗吾の方を見ながら、足に風の力を溜める。そして瑛真は風の力で飛ぶように踏み切ると斗吾の右斜上に飛ぶ。そのから身体を捻じるように捻って力を溜めて顔めがけてキックをした。
ドン!当たったが威力はイマイチだった。斗吾は瑛真を見てニヤッとする。
「へぇ風を加速と打撃の威力強化に使うのか!良い考えだな。」
斗吾は感心していた。瑛真は斗吾から距離を取ると深く踏み込んで足を狙いに行く。左足を後ろで強く踏み込んで左足に炎風を巻きつけた。
ローキック!
斗吾は3メートル程地面の上を滑る。しかしすぐに斗吾は一瞬で間合いを詰めてボディブローを瑛真の腹にねじ込む。瑛真の腹に直撃すると痛みのあまり身体を前に縮めて悶絶する。
「炎風壁」
瑛真は身をかがめたまま、壁を作って斗吾と距離を取る。そして風の玉を6つ作り輪になるように位置取ると斗吾の方へ飛ばす。その直後にそれに炎を乗せる。炎は空気を求めて移動する。風の玉が速ければ速いほど炎は速く移動する。最後に玉は一つになり大きな炎は斗吾に当たった。炎がぼおっと燃えた後、煙が辺りを舞う。斗吾の方から大きな風の柱がすごい勢いで飛んでくる。その炎が乗っかり物凄い速さでこちらに向かってくる。
出来るだけ速く炎風壁を斗吾と自分の間に何枚も壁を作る。斗吾の攻撃が来る前にこちらも拳に炎獅子を溜める。ゴン!ゴン!!ゴン!!!壁は物凄い衝撃とともに壊されていく。巨大な炎の塊は瑛真の目の前まで来た。
「炎獅子」
炎獅子と炎の塊の根比べだった。しかし炎獅子は炎の塊におされている。瑛真は粘るがこのままではもたないと感じた。それならと瑛真はギリギリまで粘ってから、風で出来るだけ自分を後に吹っ飛ばした。それでも炎の塊に包まれた。
「ごほごほ。」
瑛真は腕で咳き込んでいる口を覆いながら立ち上がると服がぼろぼろになっていた。瑛真は斗吾を見ると斗吾の服も先程の瑛真の攻撃で焦げていた。そして斗吾は嬉しそうに瑛真に伝えてくる。
「瑛真、攻撃の発想が良いね!思わず真似しちゃった。」
斗吾は瑛真の攻撃をすぐさま自分の攻撃に加えるだけじゃなく威力を増していた。同じ攻撃は二度は当たらないと確信した。しかも油断をすると自分よりはるかに威力のある攻撃として自分に返ってくる。もう至る所が斗吾の攻撃によって痛みを感じていた。
斗吾の隙をつかないと致命傷は与えられない。そこで瑛真は先ほどの煙をみて使い方によっては隙を作れるかもしれないと考えていた。視界を悪くして陽動して隙を作る。斗吾にはそう何度も使えるとは思えない。おそらく通用するのははじめの一回だけだ。慎重にやらないといけない。
それにもう斗吾の攻撃を何回も耐えられそうにない。そう考えていると斗吾は瑛真に近づいてくる。そこで瑛真は深く踏み込む上に飛ぶと木の上に登った。地形を確認すると瑛真は木と木の間の5メートルほどに炎のカーテンを作り瑛真と斗吾は炎のカーテン越しに立った。瑛真は風の玉を作り密度を濃くしていく。苦しい。極限まで風の玉の密度を濃くした。
そして瑛真は強く踏み込む。斗吾は警戒した。瑛真の攻撃はどこからどんな攻撃が来るか分からない。威力は強くないが発想は斗吾の想像をはるかに超えていたのだ。油断すると隙をやられる。斗吾はそう考えながら瑛真が走ってくるのが見えた。それを見て斗吾は右手に炎獅子を溜め始めた。どんどん大きくなる。そして先に攻撃したのは斗吾だった。斗吾は右手を瑛真に向けて炎獅子を放つ。
「炎獅子」
正面に来た瑛真に直撃した。しかしするりと炎獅子は瑛真をすり抜けていった。目を丸くした斗吾はこう声を上げた。
「幻?」
その正体は炎で見えづらくして人型の炎を瑛真に見せかけたのだった。
瑛真が上から斗吾目がけて玉を出す。すると斗吾は顔を上へ向け瑛真を見ながら避ける。
(まずい、気づかれるのが早かった!)
瑛真は焦って無理矢理に軌道修正をして斗吾の左腕に風の玉を当てる瞬間目一杯炎の力を込める。風の玉は密度が濃いため斗吾の腕にあたっても簡単に消えない。そこに炎が加わる。
「があああ!!!」
斗吾は激痛を感じた。
風の玉は炎と一緒に瑛真の手から消えてなくなった。瑛真の攻撃で斗吾の左腕の肉がえぐれた。そのまま瑛真は時間を置かず、ちょうど瑛真と斗吾が内側に来るように炎の柱を作りその内側に風の柱を作った。酸素が一気に薄くなり呼吸がほとんどできない。
斗吾は右手で炎の玉を作ると瑛真に向けた。瑛真は左手を前に出して風を出してガードする。瑛真の右手にはまた風の玉を作り始めた。空気も薄い中お互いに攻撃を受けた身体はボロボロになり力もそんなに残っていない。いわゆる根比べだ。やっと斗吾は空気がほとんど無いのに気がついた。
「が⋯⋯息が⋯⋯、。」
左腕の負傷もあり斗吾は苦しそうな顔をした。瑛真は息とめなら負けないと思ったが斗吾の炎が強くて左手だけでは防ぎきれなくなっていた。そして左手で炎も混ぜる。すると息が出来ない空間で身体中が悲鳴を上げ始めた。瑛真はもう力の出しすぎで感覚がなくなっていた。
斗吾はこの根比べが負ければ死ぬことは分かっていた。斗吾の視線の先では瑛真の右手の風の玉は大きくなっていった。瑛真は必死に頭の中で隙を作ることだけを考えていた。しかし何も思いつかない。このままだと二人共討ち死にだ。
(右手を斗吾に当てるためにはどうしたらいい??)
瑛真は右肩を風で押して当てる事を考えた。失敗すると斗吾と根比べしている左手が吹っ飛ぶかもしれない。
一か八か試すしかない!
瑛真は斗吾を強い目で見た。そして瑛真は自分の首飾りの紐を切った。赤龍の首飾りが宙を舞う。斗吾が一瞬首飾りを見た瞬間、瑛真は自分の右肩の後ろから力いっぱい風で押し出すと身体がぐるんと90度回った。瑛真の右手にある風の玉は斗吾の胸に届いた。瑛真はそのまま斗吾の胸に風の玉を押し当てる。そこへ炎を流し込む。
「うおぉぉぉ!!!」
瑛真は腹の底から力を流し込む。苦しくて思わず唇を噛む。すると瑛真の唇の端から血がつーと伝え落ちた。しかし瑛真はもう力が出なかった。もう炎がもたない。
斗吾は脱力した。
瑛真もそのまま崩れ落ちた。瑛真と斗吾の周りにあった柱は消え去り横たわった二人だけがいた。
少しすると瑛真は目を覚ました。
目の前には兄弟子七人が瑛真を覗き込んでいた。
「瑛真!」
皆が瑛真に声をかける。
(あれっ?これまでもなかったか?これは夢なのか?)
そう瑛真は不思議に思った。
「瑛真は目が覚めたか?」
力也が声をかけた。瑛真は力也を見ると呟いた。
「夢⋯⋯じゃない?」
「瑛真!」
「あっ一樹⋯⋯さん」
(一樹さんが出てきた。やっぱり夢かもしれない。)
瑛真はそう思い直した。
そこへ赤龍が瑛真を覗き込んだ。瑛真は赤龍を見ると目を丸くした。赤龍は瑛真に口角を上げてこう伝える。
「よく斗吾に勝ったな!瑛真、強くなったな。」
「俺⋯⋯生きてる??」
瑛真は口を大きく開いたが身体が動かなかった。
一樹が瑛真の手を握る。瑛真は仰向けになったまま顔を横にして手の中を見た。何かが握られている。
斗吾に隙を作るために切った赤龍の首飾りだ。一樹は優しい眼差しを瑛真の方に向けて、こう告げた。
「後で直そうな。」
読んでくださりありがとうございます!
次回は洒落頭がついに瞬と接触します。どうなっちゃうのでしょう?
次回の作者イチオシの台詞↓
「どうやって殺してほしい?」




