第35 話-1 諒と輝の戦い
諒は切雨を降らせた。瑛真が”炎獅子”と言うのが聞こえたが少し遠いようだ。このままではばらばらになってしまう。瑛真の声のする方へ向かった。諒は周りをキョロキョロしながら移動する。
瑛真はいない。
霜月もいない。
しかし何かの気配がする。諒はサッと木の上に身を隠し暗器で布を切った。人影が見える。
「群矢」
諒は布を刃に変化させ刃を飛ばす。飛ばした刃にビリビリと雷が当たる。
まずい。
雷とは相性が最悪だ。すると人影は声を発した。
「ラッキー。刃か!相性抜群!」
諒は逃げようと後ろに足を引く。そこへ人影は雷の玉を上に投げた。諒は逃げる時間もなくその玉を見上げた。すると辺りがカッと明るくなる。そしてその人影はこちらを見た。諒はその人影を見ていると諒の方へ手を向けた。諒が木の枝から離れた瞬間、声がする。
「流れ星」
諒に降ってきた細かい雷の玉はお互いが触れ合うとバチバチと反発した。
諒に直撃する。
「ぐあぁー!!」
諒は痛みに叫び声を上げて、そのまま地面にドサッと落ちた。すると人影が近づいてくると容姿がはっきりと見えた。少し長い髪をフワフワさせた170センチくらいの細身の青年が立っていた。青年は倒れた諒を見下ろした。
「あれ?こんなに小さい子なの?弱いものいじめみたいで僕は嫌だなぁ。」
動けるようになると諒は飛び起きて片膝ついて構えた。それを見ていた青年は諒に尋ねる。
「僕は輝。君は?」
「⋯⋯諒。」
「諒、僕と君の相性が最悪って分かってるよね?黒獅子に下るなら戦いはしない。勝負は目に見えてるもん。僕と黒獅子の仲間になろう?」
輝は諒の目の前でしゃがむと手を伸ばしてくる。諒は後ろに軽々と飛ぶ。輝はがっかりした。
「そんなに警戒しなくても良いのに。じゃあ戦うけどダメだって思ったらすぐに言ってね。」
「戦って僕が勝つ!黒獅子には下らないよ!」
諒は口を大きく開けて宣言した。輝は口角を上げて右手をゆっくり上げると諒にこう言った。
「僕はね、懐かない猫を無理矢理手懐けるのが好きなんだ。」
諒は木に上ると暗器で切った布を刃に変えて飛ばした。輝は気がつくと雷を飛ばしてきた。刃に当たってもそのまま諒に雷は当たった。
「あがっ!」
諒は木から落ちた。それを見た輝は焦れて言う。
「手を刃に変えるだけじゃなくて雷は飛んできたものの先まで攻撃出来るから飛ばした刃の先にいる君に当てるのは簡単なんだ。これでわかってくれた?」
刃を飛ばしてもダメなのか。
諒はぐるりと輝の周りを十分な距離をとって回った。それを見た輝が笑う。
「ははっ警戒してるんだ?」
諒は暗器を封印せざるを得なかった。
ふむ、どう戦う?
諒はもう一度なんとか木に登った。長月と瞬の対戦を思い出していた。暗器の力は頼れないから痺れ薬と毒で対抗しよう。武器はすべて雷に反応するから⋯⋯。輝が雷の玉を打ち上げる。
「諒、隠れてもすぐに見つかっちゃうよ。」
諒は木から降りると木の棒を持っていた。輝はそれを見て笑う。
「たしかに木だと雷は反応しないけど殺傷能力無いよ?」
諒は剣のような動きで輝に目がけて振り回した。輝は軽々と避けていく。諒は遠い間合いをとって木の枝を輝の肩から腰へ対角線に動かした。木の枝は輝に届かない。諒は木の枝の先に暗器で切った布を挟んでいた。布は刃に変わり輝を切りつける。
すると輝の頬を刃が撫でていった。そして輝は思わず後ろによろける。諒はそのタイミングで輝と間合いを詰める。しかし輝はの動きのほうが速かった。雷の玉を飛ばしてきたのだ。そして諒は木の棒でガードするが虚しく木の棒は折れて諒に直撃した。
「ぐあ!!」
鋭い痛みに耐えきれず諒は叫びながら倒れた。倒れたまま諒は暗器で布を複数切って飛ばした。
「群矢」
輝はビリビリっと雷を轟かせて刃の威力を殺した。複数に対してはこちらに攻撃できないようだ。しかし雷で刃の威力を殺すとこによってガードはできるようだ。
(これならどうだ?)
諒はあることを試した。
「嵐刃」
諒がそう言うと輝の周りをに落ちていた細かい布が刃に変わり輝の周りを舞う。その舞った刃は全身に細かい傷を作る。輝は全身を身をよじって見た後、腕についた細かい傷を嫌そうに見ると大股で諒に近づいた。輝は倒れた諒を髪の毛を引っ張り無理矢理起こすと腹に膝蹴りを入れた。諒は蹴りが入った瞬間息が止まり、痛みに地面へ崩れ落ちた。
「諒、勝てないのにそういう痛いことしないよ?」
輝は子どもに怒るように諌める。輝の両手には雷の玉が出来ていた。小さな玉を諒の方に放り投げる諒から1mほどはなれたところに円になるように全方位の上から雷が一気に落ちる。一瞬ではあったが雷の牢屋みたいだった。それを見ると殺される恐怖で諒は動けなかった。そこで輝は諒が恐怖を感じている顔を見て満足した。
「ふふ、ほら怖いでしょ?戦いやめる?」
輝は諒の近くに来てしゃがむと諒を見ながら首を傾げて聞いてくる。すると諒はキッと輝を睨む。しかし諒の身体は全身震えていた。
「僕は諦めが悪いのは好きじゃないよ?」
その様子を見て輝はそう言い放つと、イライラしながら乱雑に雷の玉を飛ばしてくる。諒は当たらないように避けるしかなかった。木の背後になんとか隠れると布に丸い布の玉のようなものをつけたものを用意した。諒はそれを持つと輝の見えるところに駆け出した。それを輝の方に投げつけると刃に変わって飛んでいく。
しかし輝の頭の上を飛んでいってしまう。飛んでいった刃は木の幹に刺さる。丸い布がくっついているので木に飾り付けをしているようだ。諒はぐるぐる回ってそれを飛ばした。周りの木にたくさん丸い布がついた刃がくっついた。輝はそのことを気にも留めない。
反対の手では粉を地面に巻く。火がよく燃えるための粉だ。
「諒怖いのかな?全然当たってないよ?」
輝は笑っている。諒は円をかくように走り一周すると立ち止まった。そして諒は輝を見て好戦的な目を向けた。
「ここからは我慢比べだよ。」
諒がそう言うと火をつけた木の棒を落とした。すると円になるように炎が広がる。諒と輝は炎の円の中で対峙した。
そう言って諒は円になるように炎をつけた。諒と輝は炎の円の中にいたが、その様子を見て輝は不満そうに言う。
「雷使いには炎もあまり効かないのは知らないの?」
炎からは次第に白煙がたち始めた。煙が立ち始めるのを確認した諒は口を開いた。
「この白煙は痺れ薬だよ。免疫はつかない。痺れ薬に耐えたほうが倒せる。」
「わかった、その前に倒しちゃおうね。」
それを聞いた輝の顔は真剣になった。先ほどのような手加減して様子を見ていた時とは違う。輝が本気になったことを感じて諒は恐怖の海に溺れていた。もう逃げるところがないのだ。輝は雷の玉を作り投げた。そして諒は泥団子のようなものを輝に投げる。そうすると泥の中から無数の刃が飛ぶ。そのうちの一枚の刃が輝の身体をかすめる。輝の身体から血がピュッと飛んだ。輝は構えると容赦なく雷を上から諒に落とした。すると諒は倒れた。なんとか手を震わせながら立ち上がる。
「⋯嵐刃」
無数の刃が宙を舞う。
「流れ星」
刃にも雷が反応して諒は全身を雷で撃たれた。
「あぁぁあ!!!」
また諒は痛みにありったけの力で叫ぶと地面へと倒れた。手を地面につけるが手も身体も震えて力が入らない。耐性がつかなくても痺れ薬には身体が慣れている方だと思っていた。しかし輝に痺れ薬が効く前に僕がやられてしまう。そこへ輝は薬の効果を感じ始めたようで手を見て開いたり握ったりした。
「なるほどね、痺れてきた。早く終わらせよう。」
そう言いながら輝は諒を見た。
諒の攻撃は輝の全身に細かい傷を作ったがどれも致命傷にはならなかった。輝は諒に近づくと諒の目の前で聞いた。
「最後のチャンスだよ。諒、戦いをやめるかい?」
諒の周りには大きな布が落ちている。よく見れば輪のように落ちていたのだが輝は気が付かなかった。そして輝がその輪に入るのを諒は見ると輝の方に手を伸ばす。
「刃牢」
諒はそう叫ぶと輝と諒の周りに大きな刃が立ち並び壁を作った。輝はきょとんとする。
「これで僕が攻撃したら諒は即死だよね?」
倒れたままの諒は足をたたみ輝を見た。そのまま視線を上にもっていく。先程木にたくさんつけた布の丸い玉に炎が届き燃え始めていた。そして二人がいる刃牢にも何が落ちてくる。布の中に仕込まれていたものが布が燃えたことによって出てきているのだ。
諒は正座のように足を畳んでうつ伏せになって顔を隠し亀のようになった。輝がその様子を見ていたがいきなり雨のように何かが降り注いでくる。
その時、輝が上を見た。
「なんだ?」
そう言った瞬間、輝の身体にその液体が付着した。
「がぁぁあ!!!」
輝の全身に激痛が走る。周りが燃えれば燃えるほど、諒の仕込んだ物が雨のように降り注いでくる。輝は痛みに身をよじろうとしているが全身の至る所が痛いようで叫ぶことしか出来ないようだ。諒は亀のようになってその液体を防いでいたが、擦りむいたところもあったのでその液体が当たって激痛がするのを耐える。
「特に傷や粘膜に当たると激痛を感じる毒。その激痛は気を失うほど痛い。傷が多ければ激痛が原因で死ぬほどの劇薬。」
輝の叫び声は声が出なくなっても諒の耳には輝がコトが切れるまで、叫び声が続いたように感じた。
今年も最後まて読んでくださりありがとうございます!
明日の1/1元旦は新年のご挨拶+おまけの小話を掲載するのでよろしくお願いします!
次回の進行は瑛真に任せました。本編では見られないような瑛真のツッコミが見れます。
次回の作者イチオシの台詞↓
瑛真「どいつもこいつも俺頼みじゃねーか!」
本編予告: 第35 話-2 瑛真と斗吾の戦いは1/2(木)お昼ごろ掲載予定です。
本編次回は瑛真の知り合いが出て来ます。えっ知り合いと戦うの?
次回の作者イチオシの台詞↓
「でも斗吾さんもご存知でしょ?赤龍の男が自分を曲げないってことくらい。」




