第34話 瞬とトカゲの戦い
霜月は瞬、諒、瑛真を見るとこう言った。
「すぐに出かけるよ。黒獅子の里の反乱が起きてる。」
「霜月さん、多分黒獅子の里長・黒獅子は滅獅子の大戦を起こした黒幕だよ。」
霜月は振り返って諒を見ると首を傾げて尋ねた。
「滅獅子の大戦の黒幕?誰かが引き起こしたっていうのか?」
「そうだよ。僕の父さん、青獅子の里長・青獅子は誰かに殺されたんじゃない。父さんは病で死んだんだ。おそらく緑獅子の里長、伊万里ちゃんのお父さんもそうなんじゃないかな。この前僕は父さんの最期の会話を思い出したんだ。」
霜月と瑛真は諒を見つめていた。
支度が整うと霜月たちは影屋敷の空間から表に出た。霜月は先頭を走る。
「今は迷いの森とされる影無しの里の南、白龍の里の東が黒獅子の里だ。とにかく向かおう。」
瞬は霜月に聞く。
「任務は殲滅か?」
「そうだ。もう洗脳もかなり経つ。引き戻すのは無理だと思う。反乱分子を叩くしかない。
今回は総当たり戦だ。片っ端から行こう。」
「他の里の人と間違えたらどうする?」
「黒獅子の里の者は洗脳が強い。おそらく黒獅子の者かと聞けば答えてくれる。答えない場合は黒獅子を非難すればいい。必ず相手は否定してくるはずだ。黒獅子は素晴らしいって。」
霜月はそう答えると諒と瑛真は頷いた。そこへ瞬が先に行ってしまう。
「僕たちも瞬について急ごう。」
瞬は急いだ。心に感じるものは無いが煩わしいものは取り除きたい。瞬は向こうから気配を感じる。手裏剣を勢いよく投げると遠くで金属音がした。瞬は相手の姿が見えた。そうすると手裏剣が前から飛んでくる。それを瞬は弾く。今度は横から相手が飛び出した。右に避けるとミドルキックを出す。相手に当たる。左からクナイが飛んでくる。瞬は短剣で弾くと木の上に登った。
とにかく人数が多い。
「切雨」
諒の声がする。相手の悲鳴が聞こえる。
「炎風獅子」
今度は瑛真の声がする。右手に炎と風の獅子が見える。
霜月が瞬の横にスッとくる。こう忠告した。
「総力戦だ。全員を自分で相手にする必要はない。」
「そうか。俺は奥へ進む。」
霜月は悲しい目をしていたが瞬は気が付かなかった。
瞬は奥に進むと他とは違う気配を感じた。
(気配が違う。手練れか。)
瞬の脇腹に衝撃がくる。瞬は衝撃を抑えるためにそのまま吹っ飛んだ。くるりと回ると木の上に登った。手裏剣に紐をつけて投げる。手応えが無い。紐を勢いよく引く。金属音がする。瞬は音もなく90度右へ移動した。クナイを勢いよく投げたまま相手に近づく。相手の間合いにすぐ入ると深く踏み込んで相手のパンチを避けたままジャブを相手の腹に食い込ませる。
そして瞬はすぐに距離を取る。相手が回し蹴りで距離を取るのを防ぐ。そこで瞬はガードした。すると相手が迫る。距離取ろうと足を踏み込む。しかし足が動かない。相手がストレートパンチを繰り出した。瞬はブリッジして避けた後、無効化してそのままハイキックを相手に食らわす。
ドッ!!相手も瞬が動くことを予想していなかったので直撃する。そのまま短剣を右手に持ち相手の急所を狙う。相手が左腕を前に出す。瞬は構わず腕ごと切る。
手応えが無い。たしかに短剣は何かに刺さった。
泥?短剣が何かに刺さったままになる。瞬は短剣から手を離した。
相手がキックを正面に突き出して瞬のみぞおちに直撃する。そのまま瞬は後ろに下がる。
相手が口を開いた。
「うわーきっつ。いきなり強いのと会っちゃったわけ?」
「黒獅子の者か?」
「そうだよ。俺はトカゲ。まぁ呼称だけど。」
瞬は相手に近づく。トカゲは175センチくらいで筋肉が少し盛り上がっている。トカゲは瞬を上から下まで瞬を見ると声を上げた。
「デカッ!」
「俺は暗殺の瞬。」
瞬は口を開いた。忍の里の戦いだ。自己紹介はこちらの方が都合は良いだろうと感じた。それを聞いたトカゲは目を丸くした。
「暗鬼、暗殺の瞬か。有名人じゃん。てか本当に存在したんだ。」
トカゲはぺろっと舌を出した。
「せっかくだしガッツリ遊ぼうぜ。」
トカゲはにやりと口角を上げたそう告げた。瞬はトカゲの足元の短剣を蹴り上げると右手に持った。トカゲは泥を瞬の右手にかけた。泥は固まった。左手で大きい針のような物を握りトカゲの腹になぞるように食い込ませる。
「つっ!」
トカゲが声を上げる。少しだけ刺さったようだ。瞬は固まった右手をハンマーのように振り回す。トカゲが避ける。足元も泥で仕掛けてくるが足は無効化する。
「ちょっちょっ!何なの?固まった手をぶん回してくるとか怖すぎ!しかも足元に術が使えないのなんなの?」
トカゲは混乱していた。
「じゃあさ、こんなのどうかな?」
トカゲは言うと前に突き出した右手を空中で握る動作をした。
「いっ!」
瞬は右手に痛みを感じて泥を無効化する。固まったところが棘のように内側が変形したのだ。瞬の右手は棘が刺さったように数え切れないほどの赤い斑点になり血が滲む。思わず短剣を取りこぼした。それを見たトカゲは呟いた。
「やっぱり術を解けるのは足だけじゃないんじゃん。
こんな能力あったら絶対黒獅子様に重用されるのにな。」
瞬はトカゲを一瞥しながら短剣を拾った。短剣の先に人差し指を引っ掛けるとくるくると回しながら足を踏み込んだ。トカゲは泥を飛ばしてくる。短剣で防いで深く踏み込んで左手を地面につけると右脚でローキックを出した。
「何っ!?」
ローキックを出した右脚がトカゲにくっついたのだ。トカゲは瞬のキックかがトカゲの脚についた瞬間脚の表面に泥で覆ってそのまま固めて攻撃の威力を殺したのだ。瞬はそのままバランスを崩して倒れる。そのタイミングを見計らってトカゲは瞬に馬乗りになる。トカゲはこう尋ねる。
「ねえ、瞬は何のために戦ってるの?」
「何でそんなこと答えなきゃいけないんだ?」
「答えられないんだ?」
「そんなことはない。何のためって強くなるために戦っている。」
瞬は自分の足をトカゲの下から引き出そうとしている。
しかし瞬の答えにトカゲは納得していない。
「強くなってどうするのさ。」
「それは⋯⋯この国で一番強くなるんだ。」
瞬が口を開くとトカゲはなおも聞く。
「一番になったらどうするの?」
「一番になったらこの国を平和にするんだ。」
瞬はそう答えた。口に出してみるとなんだか以前より薄っぺらいものに感じた。それを聞いてもトカゲは不満そうだ。
「平和になっちゃったら強くなる意味ないじゃん。」
「平和になったら⋯⋯大切な人と⋯⋯」
目の前には浮かぶのは諒や瑛真、霜月さん⋯⋯。
いや、霜月を頭から追い出そうとする。
(あいつは俺を裏切ったんだ!)
心の中でそう叫ぶ。
ドコン!瞬の左頬に衝撃がくる。まだ足はトカゲの身体の下だ。トカゲの力は強くて足が抜けない。瞬は顔を両腕でガードするしかなかった。
「大切な人と、どうするの?」
「⋯⋯大切な人と生きていく。」
瞬は言ったが霜月を頭から追い出すので精一杯だった。トカゲは余裕のなくなっていく瞬を見て愉快になった。そしてトドメを刺すようにこう聞いた。
「それさ、ホントに向こうも大切に思ってるの?」
バチン!右の頰にも衝撃がくる。瞬は両腕のガードを再度固める。トカゲはガードの上からパンチを浴びせ続ける。瞬はガードをするしかなかった。
トカゲの問いには答えられなかった。大切だと思っていた霜月に裏切られた。それを本当に大切な人だって言えるのだろうか。もしかするとこの先、諒や瑛真にだって裏切られることがあるかもしれない⋯。
瞬の両腕はみるみる赤くなっていく。瞬は腕が痛いのか心が痛いのかも分からなくなっていた。瞬はそのイライラをぶつける。
「くそっ!」
「可哀想な瞬。大切な人に裏切られちゃったの?」
トカゲはその様子を見て畳みかけた。瞬は一瞬の隙を見逃さなかった。足を勢いよく引き抜くと思いきりトカゲの腹に足を食い込ませた。するとトカゲが吹っ飛んだ。そして瞬が立ち上がる。トカゲは地面に背中をつけたがすぐにスッと身軽に飛び起きると瞬に熱のこもった言葉を投げかけた。
「そんな不確かな繋がりよりも俺たちにつかないか?黒獅子の里の者はずっと黒獅子様についていく。黒獅子様は絶対に裏切らない!」
トカゲは瞬に近づくと掌底突きを瞬のみぞおちに当て、当たる瞬間に泥のトゲを食らわせた。瞬は思わず痛みで下を向いて両膝ついた。すぐに少し顔を上げてトカゲの様子を見ると、両手に大量の泥をまとって瞬に突き出しこう言った。
「泥地獄」
瞬は巨大な泥の中に閉じ込められた。
巨大な泥の塊を見ながらトカゲは嬉しそうに笑いながら、こう言葉をこぼした。
「暗鬼って言うけど、割と人の心持ってんじゃん。」
トカゲは身体に違和感がし始めた。しかし何か分からない。次第に身体に力が入らなくなってくる。
ドゴン!巨大な泥団子は二つに割れた。全身小さな傷はあるが無効化である程度防いだのだろう。瞬はトカゲを見つけると助走をつける。獲物を見つけたその目は鬼そのものだ。右手を思い切り引いてトカゲの顔に拳をめり込ませた。トカゲは瞬のパンチを正面からくらって後ろに勢いよく倒れ込んだ。しかしトカゲはそのまま起き上がれない。
「遅効性の痺れ薬。」
瞬はトカゲの真後ろにやってくると倒れているトカゲの上体を起こして、トカゲの首に後ろから手を回すと右手に握った短剣をトカゲの喉元で勢いよく引き切った。すると鮮血が宙を舞った。瞬はトカゲから手を離すと地面に顔ごと打ち付けて動かなくなった。そして瞬は立ち尽くしていた。
しばらくすると静かに立ち去った。
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次回は諒が戦います!どんな暗器の力の者と戦うんでしょうか?
次回の作者イチオシの台詞↓
「ラッキー。刃か!相性抜群!」




