表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/137

第30話 諒、影武者になる

瞬が目を覚ますと霜月、諒、瑛真、だてまきが覗き込んでいた、身体がうまく動かない。



「瞬!」



諒と瑛真は同時に言うとお互いの顔を見て嬉しそうに笑った。霜月は瞬の顔を覗き込んでいた。白狼として影無しの里に来ていた頃のような優しい目をしてこう伝える。



「戻ってきてくれて本当にありがとう。」

「諒のおかげだぞ!」

「にゃーん」



瑛真は瞬に顔を近づけるとニコッとして言った。長月から”死の衝撃”を受けて心臓が止まったこと、それを蘇生してくれたこと、長月が瞬から受けた白龍の猛毒で死にかけたことなど倒れていた間の話を聞いた。瞬は諒の方に手を出した。それを見て諒は瞬の手を握る。すると瞬はニコッとして言葉をこぼす。



「諒の手あったけえな。

諒、いつもありがとうな。」



諒は思わず目が潤んで握った瞬の手に顔を埋めた。瞬は霜月と瑛真の方を向くとそれぞれ感謝の言葉を伝えた。



「助けてくれてありがとう。」



しばらくして身体が動けるようになると霜月たちは長月の病室へと向かった。病室を開けると双子の女の子・朝陽と夕陽がいた。二人は霜月たちを見る。瞬は長月を見た。朝陽と夕陽の手を借りて起き上がった。そして長月は諒を見た。



「諒、助かった。礼を言う。」



長月は深々とお辞儀した。諒は長月に近づくと顔色や身体に視線を移して聞いた。



「身体の痺れや痛みはありませんか?」

「わはは、諒は医者みたいなことを聞くんだな。身体は大丈夫だ。」



そこへ霜月は長月を見て口を開いた。



「今回の結果は加藤殿から聞いたと思いますが、公式対戦は引き分けということで支配権の移譲はありません。」

「異論はない。」



長月はその後も霜月を見ている。霜月と目が合うと口角を上げた。



「霜月、支配権を移譲したい。」

「⋯⋯それはどういうことでしょうか?」



長月の言葉に霜月は目を見開いて言葉に詰まりながら聞いた。長月は咳払いをすると説明を始めた。



「公式対戦は勝敗によって支配権を奪い合う。そして今回、両者は死にかけたから結果は引き分けだ。

しかし俺は諒の行動に感銘したんだ。朝陽と夕陽から諒は瞬より優先して俺に解毒の処置をしてくれたと聞いた。

瞬の方が大事だろうに状況を素早く判断してすべての可能性の大きい方に賭けてくれた、その仲間思いな姿に心を動かされたんだ。そしてその諒が信頼を寄せる仲間たちなら俺はこの先の未来を託したい。

だから、支配権は移譲しようと思うが、どうだ?」



そして長月は霜月に手を出してきた。

霜月はじっとその手を見ている。

そして口角を上げて長月を見ると自分の手も差し出して二人は握手した。

そして霜月は長月を見ながら大きな口を開けた。



「謹んでお受けいたします!」



そして霜月は瞬、諒、瑛真を見た。



「霜月さんやったね。」



皆は口々にそう言った。



影屋敷から出て大通りを軽い足取りで歩くと家に帰ってきた。霜月は家の中に、入ると立ち止まって瞬にこう伝えた。



「瞬、対戦は見事だった。まさか諒からあんな物を仕入れてるとは思いもしなかった。」

「瞬に渡したのは随分前だったからどの毒か確信はなかったけど当たってよかった。」

「はは、諒はすごいんだ。諒がいなかったら惨敗だった。」



瞬はそう言うと諒の方を見た。諒は顔を赤くすると下を向いて照れていた。



「瞬が無事でホントに良かった。」

「諒、今回の手柄は君がたててくれた。君のおかげで長月から支配権を獲得できた。そして瞬と長月を救ってくれたこと重ねて礼を言う。諒、ありがとう。」



諒は霜月の方を見て柔らかな笑顔を見せた。



「へへ、僕役に立てた?」



霜月は手を諒に近づけると、瞬が諒の頭をクシャクシャに撫でた。



「僕も諒を撫でたかったな。」



霜月は悲しそうに言った。

その後、霜月は瑛真の方を向くと笑顔で伝えた。



「瑛真も今回は瞬を夜通し探したり、心臓が止まった瞬に声をかけを続けてくれたりして仲間を助けてくれてにありがとう。」

「へへっ。」



皆は夕餉をとって片付け終わると、丸くなるように座った。霜月から話があるようだ。霜月は口を開く。



「少し前に打診してた影武者の件なんだけど先方から返事が来た。

諒、君に影武者を任せてもいいだろうか?」

「うん、僕やるよ。」



諒はまっすぐした目で言う。それを聞いた霜月は説明を始めた。



桐生きりゅう家の嫡男の白若しろわかと呼ばれる14歳の男の子がいる。名の通り透き通った肌は陶器のように白かったため幼名白若と命名された。諒とは年齢や背丈も近いから影武者に苦労はしないと思うよ。」



諒はそれを聞くとコクリと頷いた。



「阿道殿と五百蔵いおろい殿の遠縁の家柄だよ。立ち位置的には中立派なんだ。来週顔合わせを行うから詳しいことはそれまでに頭に入れておいてね。」



霜月はそう言うと基本的な勢力図、家柄、家族構成、基本的な礼儀作法、言葉遣いなどを諒に教え始めた。

そして最後に霜月は付け加えた。



「細かいところは桐生家に教育係を用意してもらうから安心してね。」



桐生家及び白若との顔合わせの当日となった。霜月に連れられて影屋敷の左殿に瞬と諒と瑛真は来た。

影屋敷の受付を右に通り過ぎると廊下を道なりに進み分かれ道で右に折れる。道なりに進んだ四番目の部屋に入った。瑛真は一番に終わったので受付の近くで待っていた。



「瑛真」



そう後ろから声をかけられて瑛真は振り返ると真っ黒に染まった髪を一つに結っている家柄が良さそうな男の子と髪を整えた着物を来た男の人が立っていた。



「諒と誰だ?」



瑛真は思わず聞いた。男はむすっとして答える。



「瞬だ、分かるだろ?」

「ふふっ瑛真、わかんないよね?」



諒は無邪気に笑いながらそう言っていると後ろからまた男の人がやってきた。髪をあげて黒くしている。着物を着ている姿は武士そのものだ。



「⋯⋯霜月さんですか?」



瑛真は自信なさげに聞いた。男は顔を変えずに瑛真を見ている。



「ふふっ瑛真、わかんないよね?」

「瑛真はあまり変わらなくて安心したよ。」



霜月は瑛真にニコリとして言うと瞬と諒も頷いていた。



「どういうことだよ?」



瑛真は皆の顔をじろじろ見て聞いた。



霜月、瞬、諒、瑛真は影屋敷の町を出て表の世界へ出てきた。出ていくと籠が来ていた。



「今日はお召し物が汚れないように籠で行くからね。」



霜月はそう説明した。籠に乗るのは初めてで籠が泊まると瞬と諒は慌てて外に出てきた。そして二人は背中やら肩やらを触っている。どうやら身体を痛めたようだ。瑛真は意外にも普通の顔をしていた。

その様子を見た諒は瑛真に聞いた。



「瑛真は身体大丈夫なの?痛くないの?」

「こういうのは割と大丈夫だな。」



瑛真が平然と言うと瞬と諒は大きな声を上げた。



「すごい!」



籠はどこかの城の裏手に来ていた。おそらく桐生城だろう。桐生の従者のような男が人目を避けながら隠し通路で城の中へ通してくれた。そして広間に連れてくると男は頭を下げた。



「ここでお待ちください。」



そして男は出て行った。広間の四隅にはそれぞれ武士が控えている。霜月、諒、瞬、瑛真の順に座った。四人は背筋を伸ばしながら正座していた。しばらくすると多くの歩く人の足音が聞こえていた。各々が座ると真ん中に座った男が口を開いた。



「遠路はるばるご苦労。」



霜月はお辞儀をすると目の前の男に挨拶をした。



「桐生様、もったいないお言葉でございます。影屋敷の黒兎所属の霜月でございます。本日は白若様の影武者の顔合わせをしたく参上いたしました。この時間が有意義なものになるよう願っております。」

「白若こちらへ来なさい。」



桐生は奥に座っていた男の子を手招きするとそう声をかけた。白若は桐生の隣に座った。白若と呼ばれるだけあって諒と同じく白い肌に黒い髪の毛のコントラストがはっきりしている。柔らかい印象だ。



「白若でございます。本日はお越しいただきありがとうございます。」



白若は口上を述べた。霜月は諒に目配せした。諒は霜月を見ると桐生の方を向き口上を述べた。



「影屋敷の黒兎所属の諒でございます。本日は顔合わせの機会を賜りましたこと御礼申し上げます。」

「諒と言ったか。白若とよく似ておる。白い肌に黒髪、柔らかな印象。今後白若の影武者として心身ともに白若に仕えてくれ。」



桐生は諒に口角を上げて言った。そして桐生は瞬を見た。霜月は瞬に目配せをした。瞬は霜月を見ると桐生の方へ向き口上を述べた。。



「影屋敷の黒兎所属の瞬と申します。本日は顔合わせの席を設けていただきありがとうございます。」

「ほお、身体つきがしっかりしていて中々見目の良い従者だな。若いが芯がしっかりしている。白若に付けたいくらいだ。」



桐生は瞬を見続けながら顎に手を当てると満足そうに言った。桐生は瞬が気に入ったらしい。瞬が口を開くのを霜月は横目で見ながら、瞬が答える前に先回りした。



「もったいなきお言葉、心より感謝いたします。この者には白若様だけではなく諒と共に表と影屋敷を行き来する身でございます。必要がありましたら任務として承ります。その際はお申し付けくださいませ。」



そして瑛真は瞬と同じ口上を述べた。



「影屋敷の黒兎所属の瑛真と申します。本日は顔合わせの席を設けていただきありがとうございます。」



桐生はじっと瑛真を見ている。視線を感じて瑛真も桐生を見た。しかし瑛真は桐生に見続けられてムズムズした。そうしていると桐生は口を開いた。



「瑛真と言ったか。其の方の目を見ていると戦場で一緒に戦ってくれた獅子のような忍を思い出すな。首飾りをしている者だった。戦場で命を落としたが、惜しい男だったよ。」



瑛真は目を見開いた。そしてそれを聞くと首飾りを首から外して桐生に見せた。



「首飾りはこのような物でしょうか?」

「ほお、其の方も持っているのか!⋯⋯もしや同じ忍の出身なのか?」



桐生は首飾りを見ると身を乗り出して瑛真に聞く。すると瑛真は感情を押し殺して静かに口を開いた。



「その者はおそらく私の父でございます。」

「なんとそうであったか!⋯⋯私はあの者をいたくかっていておったのだ。瑛真、其の方に希望があればどんな待遇でも処す。」



瑛真は深々とお辞儀をすると桐生にきっぱりと言った。



「父のことをかってくださり誠にありがとうございます。私はその父を討った仇を討つ野望がございます。それが終わるまでは所属を変える気がございません。」

「そうか、残念だな。何か口添えが必要なら何でも言うが良い!」



桐生はそう言うと立ち上がった。そして桐生の横に座っていたものに目を向ける。



「後の細かい話は井川に任せる。それでは。」



そう言うと桐生は退席した。井川と呼ばれた男は桐生に返事をすると深々と頭を下げた。

その後、井川より今後の教育やスケジュールについて聞くと内容や日程の調整などを行った。それが終わると白若は諒を手招きすると口を開いた。



「諒、これから頼みます。瞬と瑛真、私と諒のことを頼みます。」

「これからどうぞよろしくお願いいたします。」



諒は膝をついて返事した。それを聞いた瞬と瑛真も膝をつきこう答えた。



「私の命に代えてもお守りいたします。」



白若はホワッと笑った。笑った顔は諒に似ていた。



城からまた籠に乗った。一度休憩をするのに籠から出るとげっそりした瞬が音を上げた。



「霜月さん、こっから走って帰ってもいいか?もう籠は無理だ。従者だからいいだろう?」

「たしかに従者だから籠じゃなくても良いんだけどね、服を一切汚さなければ走って帰っても良いよ。」



霜月はニコッと笑うと無理難題を提示した。


お読み頂きありがとうございます!

次回は本編であまり説明を入れられなかった影屋敷についてあれこれ説明します。本編でもこの後も影屋敷の組織について話があるので読んでいただくと、さらにわかりやすいと思います。

次回の作者にすみイチオシの台詞↓

「それは鯉おじさんだ。あまり口に出さないほうが身のためらしいぞ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ