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第29話−1 公式対戦(前編)

諒は朝からムスッといていた。

諒はその顔のまま霜月を見る。



「霜月さん、なんで瞬がいないの?」

「はあ⋯⋯なんで僕のせいだと思うの?」



霜月は、少し嫌な顔が見え隠れしたが、すぐに笑顔を貼り付けて問う。

それを聞いて瑛真が霜月の後ろにスッとやってきて口を開く。



「夜中、霜月さんが瞬に渡した手紙のせいだろ?」



それを聞いた霜月は勢いよく瑛真の方に振り返る。

瑛真の気配さえも気が付かなかったなんて本当に僕はどうかしてるなと反省した。

それを聞いた諒は霜月に意外そうに聞いた。



「えっそうなの?」

「瑛真、その通りだよ。

以前、影無しの里の陽炎殿が言っていた瞬のじいちゃんの手紙だ。それを瞬に渡した。」

「ふーん、そっかぁ。」



諒は納得したようだ。

霜月は瑛真の方を向くと首を傾げた。



「瑛真、君は僕の味方だったんじゃないの?」

「俺は霜月さんも諒も瞬も、皆の味方なの!」

「そんなぁ、諒みたいなこと言わないでよ。」



それを聞いた諒は霜月に笑顔で口を横に広げながら瑛真に目配せした。



「いーだ!ね!瑛真。」

「なぁ、諒!」



瑛真は諒と目が合うと嬉しそうに言った。

それを見た霜月は悲しそうに伝えた。



「あ!僕がいない間に何かあったんだね。」






1日、



2日、





3日⋯⋯




日にちはどんどん過ぎていく。



瞬に手紙を渡してから瞬が姿を見せない。霜月と諒と瑛真は毎日影屋敷の空間と表を行き来していた。

夕餉で諒は思わず言葉をこぼす。



「瞬はどこ行っちゃったのかなぁ。」



流石の霜月も返せる言葉がない。とにかく瞬を手当たり次第探すしかなかった。



「今日までに里長の全員と会ったが何もつかめなかった。夕餉の後、僕は瞬に行ったことありそうなところをしらみつぶしに見てくる。二人は夕餉を食べたら寝てくれ。」



そう言った霜月の口はへの字に曲げていた。

もう公式対戦日は明日に控えているのだ。対戦者がいない場合、長月の不戦勝となる。霜月は心ここにあらずで手を動かしていた。



「霜月さん、焦げてる。」



諒が横から言った。霜月はその声に我に返る。そして手もとから焦げた匂いが漂ってくる。夕餉の準備をしていた霜月は上の空で夕餉の魚を焦がしてしまった。



「あっ⋯⋯悪い。」



諒はいつもと違う様子の霜月をちらっと見るとおずっと問いかける。



「霜月さん、瞬を探すのに動き回って連日寝てないんでしょ?

今日だけはお茶飲んで欲しいんだけど⋯⋯。」



霜月はそれが睡眠導入剤であることは言わなくても分かっていた。霜月は自分のミスで対戦日を予定よりもずっと早い1週間後に設定されたことを悔やんで寝る間も惜しんで瞬を探していた。霜月はそろりと諒を見ると諒の目は本気だった。

それを見て霜月は力なく口を開く。



「それだけは⋯⋯勘弁してくれ。」



霜月は毎日忍の里と里を行き来しては瞬を探していた。

戻ってくるのも夜遅く、夜が明けるような時間に帰ってくるのだ。

おそらくほとんど寝ていない。

諒はあるものを作って霜月の目の前には置いた。



「じゃあこれだけは食べてね!」



霜月は目をパチパチさせると、指を差した。



「諒くん、これは何かな?」

「それは諒特製の滋養強壮だんご。生姜とか桂皮とか色々入ってる。食べるだけでも少しは元気になると思うよ。」



霜月は思わず部屋の出口を見た。霜月の動きを見て瑛真がスッと立って出口へ移動する。退路も絶たれてしまった。



「それを食べ終わるまではここから出さないよ。」



諒は真面目な顔を霜月へ向ける。

霜月は疲労も溜まっていたので抗う力も無く、しょんぼりしながらそのだんごをもそもそと食べ始めた。

霜月は食べ終わる頃に立とうとしたが上手く立てずにへたり込んでしまった。身体の力が上手く入らない。

身体の異変に気がついた霜月は諒を睨みつけた。



「諒、何を入れたんだ?」

「即効性の全身に効く痺れ薬、血流促進と強力な睡眠導入剤。

後でちゃんと怒られるから今日はもう寝て。」



諒の目は霜月を心配していた。

霜月は座ることも出来なくなってうつぶせになった。



「くそ⋯。あと⋯で⋯⋯。」



すぐに霜月は静かになった。その様子を見ていた瑛真は慌てて霜月を覗き込んだ。霜月はうつ伏せになったまま動かなかった。

しばらくすると寝息が聞こえてきた。

寝ていることを確認すると瑛真は諒の方へ焦った顔を向けた。



「諒、薬入れすぎたんじゃないか?」

「僕もそう思う。」



諒も目を白黒させて瑛真に助けを求めた。

その後、瑛真は霜月を布団の上に寝かせると出かける支度をした。

事前に諒との打ち合わせ通り、霜月を寝かせた後は諒は留守番、瑛真は瞬を探しに見回りに行くことにしたのだ。

諒は瑛真を心配そうな目で見ている。



「瑛真、本当に大丈夫?」

「大丈夫!それより霜月さんを頼んだぜ。」



瑛真は諒に笑顔を向けた。

そして瑛真はそっと家を出ると音もなく走り出した。暗器の力を足に使って風のように駆けていった。




霜月は目を開けた。すでに周りが明るい。

同時にがばっと起きると目の前にいた諒を押し倒した。

諒は抵抗もせずコロンと後ろに倒れた。

霜月は部屋の明るさから夜が明けたことが分かると諒にそのまま顔を近づけてすごむ。



「諒くん、おかげさまでよぉく眠れたよ。心の準備は出来てるかな?」

「うん、大丈夫だよ。」



霜月の脅しにも動じずに諒は静かに抵抗もせず視線を横に向けた。

この反応からして瞬は帰ってきていないんだなと霜月は感じた。

諒からスッと離れて時間を確認すると立ち上がり居住まいを正した。



「時間だ、行くしかないか。」



家の玄関がうるさい。バタバタと走る音が聞こえる。



勢いよく入ってきたのは瑛真だった。

そして諒と瑛真はお互い期待した顔をしたが二人とも目が合うと期待外れだったことが分かった。

瑛真は息を整えながら部屋の中を探る。



「行けるところまでいろんな里を探したけどいなかった。ここにも帰ってないんだよな?」

「⋯⋯うん。」



それを聞いた諒がしょんぼりしながら下を向いた。

霜月は諒と瑛真を順番に見た。



「瞬はいないがもう時間だ。影屋敷の闘技場に行かなくてはならない。

悪いが瑛真、代わりに戦ってくれるか?」



それを聞いた諒は話に割って入る。



「待って、僕が戦うよ!瑛真は夜中探して今帰ってきたところで疲れてるもん。」

「そうしたいのはやまやまなんだが長月は雷を使う。刃である諒の方が相性が悪い。

瑛真の力ならまだ炎か風か戦い方があると思うんだ。」



霜月は二人に説明した。

瑛真はそれを聞くとキュッと口を閉じてか

ら開けると霜月を見た。



「やります!」



霜月は違う弟子を戦いに出すこと以外代案が思いつかなかった。



霜月、諒、瑛真は影屋敷の闘技場についた。影屋敷の左殿から山の方へ向かったところにある。闘技場と言っても屋外で木や草も生えている。赤龍の里の決闘場に似ていた。

影屋敷の審判が四方にいるのが見える。長月はもう闘技場について待っていた。長月の隣に小柄な人物が二人いる。おそらく長月の弟子だろう。長月は霜月を見つけると口角を上げて声をかけた。



「霜月、仕上がりはどうだ?」

「内緒です。」



霜月は笑顔を貼り付けた。

長月は瑛真と諒を交互に見た。



「それでどっちが瞬だ?」

「実はどちらでもないんです。」

「えっ?どういうことだ?」



長月は目を丸くした。



その時遠くから声がした気がした。



すると霜月はお辞儀をして口を開いた。



「誠に申し訳ありませんが⋯⋯」



霜月の言葉は大声にかき消される。



「霜月さんはどこだー??」



諒と瑛真はそれを聞くと大声で瞬を呼ぶ。



「瞬ーーー!!!」

「瞬、ここだー!!!」



すぐに瞬が走ってやってきた。

瞬は霜月を見つけると長月を一瞥して、長月の前までやってくるとがばっと頭を下げた。



「遅くなってすみません!瞬です!」

「⋯⋯思ったより元気な子じゃねえか。というかデカいな。」



長月は霜月の方を見た。

霜月は長月にニッコリすると瞬を紹介した。



「私の弟子の瞬です。」

「それは今聞いた。」


まもなく公式対戦が始まる。

お読み頂きありがとうございます!

次回は公式対戦が始まりますね。次回は何かと言うとこと一文に尽きます。

霜月は長月がなぜ中立派を貫き、期限間際まで仕える御方を決めないのか不思議だったが合点がいった。

次回の作者にすみイチオシの台詞↓

「死の衝撃」

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