第27-6話(番外編) 鈴音の傷(1)
※このお話は諒目線で書かれています
霜月は影屋敷について話す中で鄧骨の話を始めた。
「鄧骨は残酷なことが好きで、殺し方も殺す相手の悲鳴が絶えないと聞く。その死体は獣に噛み殺されたような血にまみれて全身傷だらけの状態が多い」
諒や皆は霜月を見ていた。霜月の目には怒りがこもっていた。諒はそのまま霜月を見続けた。すると霜月は諒の視線に気がついて諒を見た。二人はじっと見つめ合った後、諒は霜月の目を探るように見ながらゆっくりと口を開いた。
「気を悪くしたらごめんね。もしかして霜月さんの大切な人も鄧骨にやられたの?」
それを聞くと霜月の目が泳ぐ。霜月は諒、瞬、瑛真を見回してふうと息をついた。諒は霜月がわかりやすい反応をしたことを自分で気がついたように見えた。
「⋯⋯そうだ。殺されてはいないが⋯⋯」
瞬、諒、瑛真は続きを持つように霜月を見る。
霜月はそれに気がつくと片眉を少し上げて沈黙した。おそらく続きの言葉を言おうか迷っているのだと諒は感じた。
霜月は一呼吸すると重たい口を開いた。
「鄧骨は気に入った女に言い寄ったがきっぱり断られて腹いせに⋯⋯」
霜月は指を揃えた手を上から下へ動かしながら話を続ける。
「彼女の背中に深い刀傷をつけた」
おそらく背中の上部から腰の方まで切りつけたということだろう。諒はそれを真剣に見続けた後、こう尋ねた。
「殺したい?」
「必ず息の根を止める」
霜月は諒を見る。燃えるような目だった。それを見て諒は悟った。
(この話はおそらく鈴音さんの話だ。鄧骨を自分の手で殺したいくらい憎んでいる。それくらい鈴音さんのことを大事に思っているんだな。)
そして諒は瞬と瑛真の方をちらりと見た。
(人の恋路に口出すのはやりたくないけど、瞬と瑛真がこのこと知っていたほうがいいよな。⋯⋯でもこの話が絶対鈴音さんのことだっていう確証もないしなぁ⋯⋯)
諒ははかりかねて霜月をまた見た。霜月も諒を見る。また諒は霜月を見続けた。諒はえいやあっと口を開いた。
「それって鈴音さ⋯むぐっ!!」
霜月に途中で口を塞がれた。それを聞いた瑛真は声をあげる。
「鈴音さんってさっき会った人だよね?」
「えっ?そうなのか?」
それを聞いた瞬は皆をキョロキョロ見ながら聞いてきた。すると霜月は諒だけを見ており、諒を塞いた手で押すと諒は床に押し倒された。少し痛かったが自業自得だったのでそのままなすがままにされた。
ググッ、霜月の手に力が入る。意外と力が強い。それほどまでに動揺しているようだ。
「諒、俺は気を悪くした」
霜月は完全に怒っている様子だ。諒は霜月の手を両手で掴むと苦しそうにバタバタと足を動かした。諒は心から反省した。そしてどうやったらこの場が収まるのか必死で頭を巡らせている。すると瞬が霜月の背中側の服を引っ張る。
「霜月さん、ごめん。聞かれたくない話を聞いた」
「くそっ!」
瞬が霜月にそう言うと霜月は諒から手を離すと吐き捨てるようにそう言って顔を腕で隠して部屋を出ていこうとした。それを見た諒は正攻法を取るしかなかったので飛び上がって謝った。
「霜月さん、ごめんね。僕の好きな人は楓なんだ!楓に一目惚れしたんだ。
今日初めて会ったのにまだ彼女のことが頭から離れない⋯⋯」
霜月はピタッと立ち止まった。諒は顔を赤くしながら伝えると霜月はゆっくり振り返った。諒は心の中で深く反省していたか仲間に自分の意中の相手のことを伝えるほど恥ずかしいことはないと感じていた。そして霜月の目には視線を下に落として頰を赤くした少年が目に入った。
「僕の好きな人も言ったからおあいこじゃダメ?」
その少年は霜月を見る。それを見た霜月はその場にしゃがんで顔を両腕で隠しながらぶっきらぼうに言った。
「これじゃあ俺だけ取り乱してカッコ悪いじゃん⋯⋯」
「皆の想い人を聞いちゃってごめん!俺の好きな人は緑龍の里の伊万里ちゃんなんだ!」
それを見た瞬は慌てて言った。そして瞬は照れた。
落ち着いた様子で諒、瑛真、霜月は瞬の方をみると皆は同時に言った。
「⋯⋯それは知ってる」
「なんでだ??」
瞬は一人だけ、皆を見ながら動揺して声を上げた。
一連の出来事を見て瑛真はぼそっと言った。
「俺も好きなやつ出来たら報告するわ。⋯⋯いや、いるっちゃぁいるけど叶わないから⋯⋯」
「瑛真、無理すんな」
それを聞いた皆は瑛真の肩に手を置きそれぞれ頷いた。諒は何とか場が収まったことに安堵していた。すると瞬が諒の方を見てこう尋ねた。
「そういえば諒、楓さんって誰だ?」
「鈴音さんの同僚。今度瞬にも会わせるね」
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次回は霜月が長月の元へ交渉しに行きます。まぁ、そんな猛者との交渉は一筋縄ではいかないですよね。
次回の作者イチオシの台詞↓
「長月と交渉しきれなかった僕のせいだ。」




