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第1話-2 通り名・暗殺の瞬は刀の少年・諒と出会う(後編)

 近くにさびれた神社があり、その境内の縁側で瞬は懐から拳ほどの葉で包まれた握り飯を取り出した。それを諒の方に見せる。諒はすぐに手を瞬の方に差し出しそれを受け取った。


「ありがとう、いただきます」


 諒は急いで葉をめくって空気と一緒に飲み込むように握り飯を頬張った。口いっぱいに握り飯を詰め込んだ。


「おいしい!」


 頬に握り飯を詰め込んだまま、嬉しそうに言った。いや、正確には諒の口の中は握り飯でいっぱいだったのでそう言ったのだと瞬は解釈した。


 瞬には諒に対してたくさんの疑問がうかんだ。まず聞くことはこれだ。



「諒⋯⋯お前忍だろ?」

「そうだよ」

「俺が言うのもあれだけど、人から貰ったものをなんの警戒もせずに食べて大丈夫なのか?さすがにお前みたいな幼子おさなごでも知ってるだろ?」


 瞬は幼子を諭すような口調だった。それを聞いた諒は少し呆れ顔になりながら説明を始める。


「はぁ、さっき会った時僕は君とぶつかってあんなに無防備だったのに攻撃もしないで手を貸してくれた。それに握り飯からは毒の匂いもなかったし、変な味もしなかった。僕をどうにかしようと思うならその機会はたくさんあった。でもしなかったでしょ?それが答えだよ」

「そうか。ちゃんと考えてるんだな」


 瞬は目を丸くして感心していた。諒は瞬と目が合うと少し口角を上げた。そして瞬の目を覗き込む。


「ねぇ白龍の里って知ってる?僕はそこから逃げてきたんだ。あのさ、瞬は暗器あんきって知ってる?暗いうつわって書くんだ」

「⋯⋯話は聞いたことがある。超自然現象を扱える力を持った人がいる。そしてものすごく強いらしい」


 その言葉に諒は少し目を伏せたが、瞬は気が付かなかった。


 諒の肩に結わえていた紐を引っ張ってほどいた。腕の1.5倍の長さがある袖は肩に留めていた紐を外したことによってだらんと袖が伸びる。髪を結わえていた紐も取ると髪がストンと落ちた。長くなった袖から刃物のようなものが突き出した。腕から先が刃に変わったようだ。


 瞬は幻を見たときと同じくらい目を丸くして諒を見つめていた。


「暗器・トウ


 その後、諒は元の姿に戻ると、瞬の隣に座り直した。


「暗器は里にとってとても重要なんだ。すごく強いから里の人たちは大事にする。暗器は普通その時代に一人生まれることがほとんどなの。でも二人生まれることもある。そうすると能力は二人に分散されるんだ。

 分散されるっているのは半分じゃないんだ。多く持つ方と少なく持つ方に分かれることもある。そしたら、少なく持つ方はいらない」


 まるで自分に言い聞かせるように言った。つかの間の沈黙が流れる。


 今度は瞬が口を開いた。



暗鬼あんきって知ってるか?暗い鬼って書くんだ」

「知ってるよ、見たことないけど暗殺の鬼。もし暗殺の瞬に会ったら一瞬で死ぬんだよ」


 諒は少し恐い顔をして言った。

 意味ありげに瞬は少し沈黙した。


「⋯⋯今のところお前は死んでない」

「えっ嘘でしょ? ⋯⋯もしかして⋯⋯」


 また瞬からつかの間の沈黙があり、そしてさも真剣な顔を諒へ向けた。


 そしてゆっくりと頷く。


 諒は今度ばかりはさっと青ざめたような顔でこう聞いた。


「本当に暗殺の瞬なの?」

「依頼はきている」


 瞬は百面相をする諒に心の中で盛大に笑った。取り繕おうとしたが笑みは口の端から現れニヤニヤしてしまった。


「おっと悪い。諒があんまりにもいい反応をするもんだから怖がらせちまったな。今証明は出来ないが俺は暗殺の瞬だ。

 だが依頼は暗殺じゃない⋯⋯お前の守人もりびとだ」

「えっ?守人?」


「俺はお前がこの絵と同じ人物であるか100回くらい心の中で何度も問いただした」


 そして瞬は髪留めの飾りから小さい紙を取り出し、それを広げて諒に見せた。


 なんとも言えない独特な筆使いは諒に似ているような似ていないような絵だった。


 諒はまじまじと紙を覗き込んでいる。諒は鼻から蒸気を出すようにシューと音を立てて出すと、その紙を瞬の胸元に乱暴に返して真正面から瞬を見てきっぱり言った。


「違うと思う」


 そこに木の上に止まっているらしいカラスが二回カーカーと瞬の代わりに返事をした。


「カラスがそうだって返事してるぞ」

「絶対にしてない」


 瞬は森の奥の方を見た。こちらに向かう複数の気配を感じる。


「諒、俺は人を守るということは分からない。だがお前の敵である白龍の追っ手を見つけ次第始末することは出来る」


 諒にも瞬が大真面目に言っていることは分かる。諒は口をぎゅっと閉め、もう一度あけると勢いよく言った。しかし声が少しうわずっていた。


「僕は⋯⋯僕自身が戦わなくちゃならないんだ。それがけじめってやつでしょ?」


 そう強がった諒の手は震えていた。


 それを見た瞬は初めて一人で暗殺の任務をした時の事を思い出していた。 心の中で何度も大丈夫だと言い聞かせても薄っぺらい言葉に感じて安心することは出来なかった。


 いくら準備して用意周到にしても落ち着かず、ターゲットが怪我でもしていれば良いのにと都合の良いことを願った。


 どんなに居心地が悪くても通らなければ行けない道。逃げ出したいと思う反面、逃げることは出来ないこともわかっていた。


 そんな不器用で小心な昔の自分を諒に重ねていた。


 どんなに孤独で大変な道でも諒が自分で進まなければならない試練なのかもしれない。


 瞬はそう考えていると、諒は気配のあった森の奥をみつめた。そして諒は暗器になると気配がある方へ向かっていった。瞬は距離を取りながら邪魔にならないようについて行った。


 相手は三人いるようだ。

 諒のもとへ早く着いた一人と交戦を始めた。諒の動きは良かった。相手がクイナを右から諒の足の方へ投げると左手刀ひだりしゅとうで軽くいなし右手刀みぎしゅとうで相手の腹部の端から端へ弧を描くように切る。


 相手は後ろに軽々と飛ぶと短剣に右手をかける。諒はそのまま遠心力で身体を回転させ背中を相手に近づけるように動く。


 右手刀が相手の腹部に触れるくらい近づくと相手が短剣を引き抜く前に左手刀を相手の腹部にねじ込む。


 相手からはくぐもった苦しそうな声が聞こえてきた。諒は左手刀を相手からは引き抜きながら相手の背中側へくるりと回る。左の方から手裏剣が飛んできたが一人目の敵を盾にして防いだ。


 次は二人目の敵だ。


 そして近くの木に向かって走り暗器を解除し両手でその木にガシッと飛び移ると器用に登っていく。


 相手が諒の飛び移った木の方に手裏剣を投げる。飛んでいった手裏剣はキィーンキンと金属音を立てて弾かれ下に落ちてくる。それと同時に諒の方から手裏剣が相手に飛んでいく。木の上でガサゴソ音がしている。二人は攻防しているようだ。


 ちょっとすると相手が地面へと降りた直後に諒も降りてきてそのまま相手の肩に乗りちょうど肩車のようになると両手を刀に変化させ、左右の手刀を相手の首の前で交差させると首を掻っ切るように手前に勢いよく引き切る。


 遠くの木から息を殺して見ていた瞬は別の方角から来ている敵を始末しに行った。


「なかなかやるじゃねーか。そしたらこっちに向かっている奴は始末しとくか」

初めまして二角にすみゆうです。

読んでいただきありがとうございます。


もし「続きを読んでも良いよ」という方がいましたら、ブクマの追加と広告の下の【☆☆☆☆☆】に星★〜★★★★★をいれていただけると作者にすみは泣いて喜びます!

応援どうぞよろしくお願いします!


次回は瞬と諒がそれぞれ戦いを続けます。しかし謎の男がやってきて⋯どうなってしまうのでしょうか?

次回の作者にすみイチオシの台詞↓

「僕を殺しに来たんだね。」

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