第24話 一体、滅獅子とは何か
黄龍はうんざりした顔をして口を開いた。
「正直、里長でさえ全貌を把握してないのは問題があると思う。同じ鉄を踏まないためになぜ知ろうとしなかったのか。」
「黄龍はここで答え合わせをしたいというのですか?」
「さすが緑龍は話が早い。俺は情報共有を希望する。緑獅子の里を一番に知る緑龍の話を聞きたいが、緑龍はどうだ?」
それを聞いた緑龍はゆっくりと口を開けた。
「⋯⋯良いでしょう。皆さんに協力いたします。瑛真くん、滅獅子または滅獅子の大戦と呼ばれる忍の大戦は10年前に起こりました。当時は赤獅子の里、青獅子の里、緑獅子の里に加え影無しの里、これが最有力の里だった。
時はほとんど同じくし伊万里の父親である緑獅子の里長・緑獅子殿と諒の父親である青獅子の里長・青獅子殿が何者かに殺されたことによって問題が起きます。緑獅子と青獅子の者は里長を殺せるだけの力があるのは赤獅子しかいないと赤獅子を批難しました。赤獅子は、やっていないの一点張りでした。」
「それで緑獅子と青獅子の連合で赤獅子と戦い始めたってわけか。」
黄龍は口を挟む。
「いえ、始めは赤獅子と青獅子の戦いでした。ご存知の通り赤獅子は武闘派の者が多いため戦いは激化しました。そのうち青獅子も疑心暗鬼になり、自分の里以外は敵だとみなして戦うようになります。攻撃されるものは全て攻撃し返すと言った感じです。」
「それで忍の世界を全部巻き込む大戦に繋がったんですね。」
霜月がそう言うと頷き、緑龍は話を続ける。
「そうです。結果として緑獅子はほぼ壊滅、大戦での力の代償に私は両目を失いました。赤獅子の里長・赤獅子殿も大戦で亡くなり里長がいなくなった里を解体して能力に合う里として今の形である赤龍、黄龍、緑龍、白龍の里として新しく里長を据えて今の形になりました。影無しの里長だった先代陽炎殿のおかげで今の里の形になったのです。
壊滅状態にあった緑獅子では影無しの里の先代陽炎殿のおかげで大戦によって怪我したものを介抱する場所が作られました。里問わず治療をするために協力してくれた者が今の緑龍の里の者です。」
「赤獅子からは赤龍と青獅子からは黄龍と白龍、緑獅子からは緑龍の里長になるものを選出したということですね。」
黄龍は口を開いたが、納得してない声音だった。
「しかし俺は緑獅子と青獅子は連合だと聞いていだが、今の話だと緑獅子は戦いに入っていなかったのに大戦の後半で緑獅子だけが壊滅に追いやられたんだよな。それって何か変だよな。」
「えぇ、たしかに変でした。赤獅子ほどの武闘派ではなく結界、防御を得意とする私たち緑獅子が後に狙われた。とにかく凄い数の忍びが攻めてきたんです。」
「凄い数の忍びが攻めてきたか。赤獅子と青獅子の死者数は多いはずなのに赤獅子と青獅子は全員で緑獅子を攻めたのか?」
霜月は片眉を上げて聞いた。
「赤獅子と青獅子が戦った後に全員が緑獅子を敵にしたと言うことでしょうか?それも変な話ですね。緑獅子にはそれほど狙うものがあったのでしょうか?」
霜月はピンとひらめいた。
「一つお願いがあるのですが、会ってほしい者が一人おります。ここに呼んでもよろしいでしょうか?」
「その者は⋯⋯?」
「瞬です。」
緑龍と黄龍は首を傾げた。
瑛真は部屋から出て呼びに行った。
部屋には霜月、緑龍、黄龍の三人になった。
「瞬は先代陽炎・秋実先生の孫です。先の大戦で両親を失った瞬を秋実先生が面倒をみていました。」
緑龍と黄龍が霜月を意外そうな顔で見た。
「そうか、白狼として面識があるのか。」
黄龍は霜月に言ったが霜月は閉口している。
「まさか瞬に白狼であることを隠しているのか?」
黄龍は呆れてため息をついた。
「はぁお前、霜月と名乗るから変だなと思っていたが瞬に隠していたなんて馬鹿者!取り返しのつかない事になるぞ。」
黄龍は釘を刺す。
霜月は痛みを感じているような目をして冷ややかに言った。
「私は秋実先生を刺しています。その事実は変わらない。もう取り返しはつかないんです。」
黄龍はこれ見よがしに大きなため息をついた。霜月は平然を取り繕うとこう伝えた。
「実は瞬は秋実先生の暗器の力を引き継いでいるようです。」
「何?秋実の暗器だと?」
「はい、それは他人の記憶を見ることが出来る力です。」
それを聞いた緑龍と黄龍は息を呑んだ。
「この話を聞いたからには瞬に協力してください。⋯⋯一つだけ、見られたくない記憶はご自分の暗器の力を使えば見えなくなりますので適宜使ってください。」
霜月は真面目な顔で二人に伝えた。そして黄龍はこう言葉を漏らした。
「食えないやつだな。」
霜月は食えないのは黄龍、あなたもですよと心の中で罵った。
そして瞬が呼ばれてやってきた。少し息が上がっているようで肩を上下させている。走ってきたのだろう。
「あの、失礼します⋯⋯」
瞬は恐る恐る部屋へ入ってきた。霜月は瞬を見ると黄龍を紹介した。
「こちらは黄龍の里長・黄龍殿だ。」
「俺は⋯⋯黒兎の里の瞬です。お初にお目にかかります。」
「瞬、突然だけど滅獅子の大戦については何か知ってるかな?」
瞬は霜月の方を見て困っている。
「知っている、見ていることは全部話して良いよ。」
霜月はそう答えた。その返答で禁句とされた話題に触れるのが大丈夫なことと、瞬は見た記憶についても伝えて良いことが分かった。
「滅獅子については当時5歳だった俺にはあまり記憶がありません。その後大戦について赤獅子、青獅子、緑獅子が解体され赤龍、黄龍、緑龍、白龍の里が出来上がったことくらいしか教えられていませんでした。しかし白龍の里の諒の父親と緑龍の里の伊万里ちゃんの父親が大戦で殺されたことを知りました。」
「瞬、ありがとう。黒獅子の里について話していた時に滅獅子の二の舞いにならないように滅獅子について情報共有をしていたところなんだ。君が記憶で見たものも教えてほしいということなんだ。」
霜月がそう説明した後、緑龍と黄龍は先ほど話した内容を瞬にも話した。
すると黄龍が瞬に手を上下にひらひらと振り声をかけた。
「瞬、俺の手を取れ!」
瞬は霜月をちらりと見ると霜月は頷いた。それを見ると瞬は黄龍に近づき両手で差し出された手を掴んだ。瞬は思わず目を閉じる。
しばらくすると瞬が頭をクラクラさせながら手を離した。
そして緑龍が口を開いた。
「瞬くん、落ち着いたら僕の手も握ってね。」
「はい。」
瞬は三度深呼吸をしてから緑龍の方に近づき両手で緑龍の手を掴んだ。また瞬は目をつぶる。途中で咳き込んでしまった。
霜月は里を壊滅状態にされた緑龍の記憶は見るのも辛いのかと推測した。瞬は長いこと緑龍の手を握っていた。
そっと手を離すと長い沈黙に入ってしまった。
瞬の頭の中には白龍、赤龍、黄龍、緑龍の記憶が入っている。4大里の記憶があれば、滅獅子の大戦について全貌がわかるかもしれないと霜月は思った。
ようやく瞬は深呼吸を始め落ち着いてきた。瞬は目を開けた。すると皆が瞬を見ている。瞬が口を開くのを待っているのだ。
しかし瞬は明らかに困っている様子だった。何かが瞬の頭の中にあるのだ。皆を見たり下を向いたり口ごもっていた。
しばらくすると瞬は決意したようで口を開いた。
「同じ人が二人いる⋯⋯?」
霜月、黄龍は目を丸くした。緑龍は口を少し開けた。
「瞬、それはどういうことかな?」
霜月は瞬に聞いたが瞬はどう説明するべきか困っていた。
その様子に緑龍は穏やかに伝える。
「瞬、ありのまま話してくれて良いよ。それについて何かを言って咎めることはないからね。」
「ありがとうございます。
⋯⋯赤龍殿、黄龍殿、白龍殿の記憶に出てきた多くの忍が大戦で殺されました。殺された、看取った記憶は見たんです。
しかし⋯⋯緑龍殿の記憶の中でまた戦っていたんです。何か辻褄が合わないんです。」
「時系列から言えば緑龍の緑獅子の里の戦いは最後のはずだ。緑龍、そうだろう?」
「そうだね、僕が戦ったのが最後のはずだよ。」
霜月は話をまとめた。
「⋯⋯瞬の話が本当なら緑龍殿たちは死んでいるはずの人間と戦ったと言うことなのか?」
「先代赤龍殿は赤獅子の里長ですよね?例えば先代赤龍殿は赤龍殿が看取っているんですが、緑龍殿の記憶では先陣をきって戦っています⋯⋯。」
瞬がそう言うと皆を口を開かず閉口してしまった。
「そう言われてみればそんなに強くなかったかも。」
緑龍はポロッと呟いた。その言葉に皆が緑龍を見る。
「里長になる人ってそれなりに強い。武闘派の里長なら僕が勝てるわけないんだ。それなのに勝った。普段の力よりもかなり少ない力だったように思えた。」
誰も口を開かない。思い当たる答えが何も無いのだ。結局話し合った結果、死んだように見えて実は死んでいなかった、人が限定的に生き返ったの二案しか出なかった。
「やっと滅獅子の真相がわかると思ったのに、この件は宿題だな。それはそうと緑龍。」
黄龍は懐から紙を緑龍に差し出した。
「遅くなってすまない。緑龍、尊助の札だ。これからはお互いの協力関係にある。」
「黄龍、ありがたく頂戴いたします。」
緑龍は黄龍から受け取った。そこで黄龍は瞬を見てこう伝えた。
「本当は瞬にも渡したいところだが用意がない。今度黄龍の里にも来てくれ!
⋯⋯霜月⋯⋯いや、何でもない。」
「緑龍殿、黄龍殿、ご協力ありがとうございました。これからも瞬のことよろしくお願いいたします。」
霜月は真剣な目をして二人にそう伝えた。
(解決のためとはいえ里長全員の記憶は貴重すぎる情報だ。天秤にかけられない。忍全体を巻き込んで瞬を守るしかなくなったな。
霜月白狼はどこまで考えて動いているんだ。自分のことを瞬に話していない割にしっかり瞬の守りを固めてきやがる。これだから食えないやつは困る。)と黄龍は思った。
そして黄龍は帰っていった。緑龍は二人の方を向くとこう言った。
「瞬くん、僕からの尊助の札は帰りに渡したいから後で準備しておくよ。
それから霜月くん、今日はここに泊まっていきなさい。さっきの情報のお礼に結界を張ってあげるから今日の夜だけは何も考えずに寝なさい。」
お読み頂きありがとうございます!
次回は諒とお父さんとの最期のシーンが出て来ます。どんな会話をしているんでしょうか?
次回の作者イチオシの台詞↓
「霜月くん、これは君のお茶だ。どれくらい淹れれば効くか分からないから僕が直接入れたよ。橘、霜月くんに渡して。」




