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第23話 黒獅子の里の洗脳

諒は呆れて二人に近づく。真っ赤な顔をした瞬と伊万里が近づいてきた諒に気がつくとホッと息を撫で下ろした。



「荷物落っことしちゃったの?伊万里ちゃんも瞬も大丈夫?」



諒はぶっきらぼうに聞く。諒は二人に怪我もないから大丈夫だなんて事は目に見えていたけどそう聞くしかなかった。伊万里ちゃんはすでにロマンスの海でおぼれそうだった。

瞬が諒に近づいてコソッと言った。



「諒、どうしよう。俺、伊万里ちゃんの手を触って伊万里ちゃんの記憶見ちゃった。絶対嫌だよな?気を悪くしたよな?」

「そういう問題じゃないよ。瞬の鈍感。」



諒はどこから突っ込んでよいやら分からなかった。伊万里ちゃんが瞬に一目惚れしたのは明らかだった。しかし当の本人である瞬も伊万里ちゃんを気に入ったはずなのに本人がその気持ちに無自覚なのだ。それを言葉で伝えるのは無粋だと諒は思っているのでヤキモキした。

しかも瞬は手を握ったことより記憶を見てしまった方を気にしている。伊万里には一つも伝わってないのだ。



「そうか?俺は人の気配とかちゃんと感じるから鈍感ではないと思う。」



瞬は大真面目に答える。それを聞いて諒は何を言ってるんだと思った。この時ほど霜月と話したくなった時はないと諒は感じた。

そして諒は瞬に強めに伝えた。



「もう!とにかく大丈夫なの!早く荷物運んで!」

「なんか諒、冷たくないか?」

「これ見たら誰だってそうなるの!」



諒はそう言うと荷物を一緒に集めた。集めた後もどちらが持つかお互いが自分が持つと言い張り決まらない。



「半分ずつ持てば?」



そこで諒がしびれを切らして提案してようやく二人は倉庫に向かった。諒はどっと疲れた。




緑龍の家では緑龍、霜月と瑛真で話をしていた。霜月は緑龍に尋ねた。



「緑龍殿、このあとお耳に入れたい話があるのですがよろしいでしょうか?瑛真も関係していることです。」

「僕だけへの話かな?それとも黄龍にも関係あるのかな?」



緑龍は口を開いた。すると戸が開いて橘が聞いた。



「緑龍殿、黄龍殿が参られましたがいかがいたしましょうか?」

「そのまま通してくれるかな。」



程なくして黄龍の里長・黄龍が入ってきた。

そこで緑龍は結界、霜月は幻術をそれぞれ緑龍の家の周りにかけた。

そして霜月と瑛真は立ち上がる。黄龍は二人を見ると、緑龍が紹介する。



「黒兎の霜月くんと瑛真くんだよ。」



霜月はスッと黄龍の目の前に来ると挨拶をした。



「黒兎の里の霜月です。⋯⋯黄龍殿とお目通りが叶いましたこと心より嬉しく存じ上げます。」



霜月と黄龍はしばらくの間視線を交差させた。黄龍はポツリと呟いた。



「⋯⋯でかくなったな。」



瑛真もその隣に来ると挨拶した。



「黄龍殿、黒兎の里の瑛真です。」



黄龍は身長は高いものの筋肉はキュッと締まって少し細身である。狐目の彼が率いる黄龍の里はいわゆるスパイ、情報収集に長けている。彼の表情からは真意は読み取れないのだ。そして黄龍は口を開いた。



「緑龍の結界に幻術までかけてあるから何事かと思ったけど、影屋敷の霜月に会えるとは思ってなかった。瑛真も無事に脱里は出来たのか?」



それを聞いた瑛真は驚いて霜月を見る。霜月は瑛真と目が合うと頷いた。黄龍の前で隠し事をしても仕方がない。こちらのカードを出して黄龍から一枚でも多くカードを引き抜きたい。

霜月は一枚目のカードを見せる。



「瑛真は昨日、正式に赤龍の里から脱里の許可を得ました。彼は暗器・炎風の力を開放しました。先代赤龍のような炎風獅子を使います。」

「ほぉ、炎風獅子か!その暗器を持っていて赤龍はよく脱里を許可したな。」

「瑛真は、とある影武者に自分の父親である蘇芳すおう殿の仇討ちをするために脱里をしました。」

「⋯⋯と言うことはやつの目星はもうついているのか?」



それを聞いて黄龍は問う。霜月は瑛真を見た。瑛真は自分の手の甲を黄龍に向けてもう一つの手の人差し指で上から下になぞるとこう説明した。



「手の甲に大きな刀傷を持っている男です。」

「蘇芳殿が仇に付けた傷です。おそらく影屋敷の者かと推測します。」

「そうか、影屋敷の者か。」



黄龍は瑛真と霜月を見ると一息ついた。

そこへ緑龍は口を開いた。



「霜月くん、僕と黄龍に話があるんだよね?始めていいよ。」



霜月は二人を見るとこう尋ねた。



「黒獅子の里についてです。黄龍殿はどこまでご存知でしょうか?」



黄龍は少し考えるとこう答える。



「黒獅子の里に関連した行方不明はきっちり数字は取っていないが60名は超える。あぁ、そのうちの10名くらいは霜月が戻したんだったな。」

「はい、私が12名のうち4名始末、8名を帰還させています。」

「黒獅子の里は場所の特定はされておらず、迷いの森と呼ばれるあたりだと言われている。里長の黒獅子については身元不明。しかし忍の者ではないと推測されることから、俺は影屋敷の者だと推測する。」



黄龍がそう説明すると霜月はこう問う。



「里長の黒獅子が忍の者で無いというのは?」

「お前のほうがよく知ってるだろ?まぁ幻術の巧妙さから俺と同等以上の力を持った者だと黄龍の里の者と検証した。

霜月、追加情報で補足しろ。」



黄龍はニヤリとして返す。霜月はやっぱり食えない人だと思った。



「黒獅子の里の周りには巧妙な幻術がかけられていました。その幻術については私たちが体験済みです。もともと普通の森だったところに幻術をかけることによって入り込んでしまった者は外に出られなくなる、いわば迷いの森と呼ばれる場所となった。ここにいる瑛真は黒獅子の里からの帰還者です。瑛真は黒獅子について説明してくれるかな?」



霜月は瑛真にバトンを渡す。それを聞くと瑛真はスッと背筋を伸ばして緑龍と黄龍の方へ顔を向けた。



「俺と三人の赤龍の仲間は任務の帰りにたまたま近くを通ったんです。そしたらその迷いの森で迷ってしまって、そこで会った人が黒獅子の里の者だと言って一晩泊めさせてもらうのに案内された建物に入りました。大きな建物は三つありました。一つ目は寝起きするところ、二つ目は訓練するところ、三つ目は集会を行うところ。」



瑛真は時折視線を上や下へと向けて思い出しながら話す。



「俺の仲間は10から13歳くらいの小さい者が多かった。次の日集会があるというのでお礼ついでについて行ったんです。そうすると多分50人くらいはいたと思います。そこで黒獅子⋯⋯大きな羽織をして頭の上から布をかぶって般若のお面をつけていました。背は170センチくらいはありそうでした。その集会でこの里はどの里の出身でも誰でも受け入れると強調していました。そして暗器であれば解放を手伝ってもらえる。そうやって自分の力を伸ばせる最高の環境だと言っていました。強くなればなるほど自分(黒獅子)に近づける。」

「黒獅子に近づける⋯⋯」



霜月は言葉を溢した。瑛真は霜月の方を見て頷くと話を続けた。



「ここで一番強い者のみ自分の本当の姿を見ることが出来る。こう自分のお面を指していたので素顔のことだと思います。この話を聞いた時自分は高揚していたんです。自分なら出来るかもしれない。

でも⋯⋯」



瑛真はそこで霜月、緑龍、黄龍を見てこう訴える。



「周りを見ると周りの奴らは黒獅子に心酔しているような心此処にあらずって顔で食い入るように頰を高揚させて見ていたんです。その時自分も同じ顔をしているんじゃないかって思ったらゾッとしたんです。」



瑛真は下を向いた。



「集会が終わるまでこんなに長いと感じた時はありませんでした。常に己の心をも強くする、そして強く有ることと赤龍の里では教わりました。他人に植え付けられて、それがあたかも自分の考えのように話すこの空間が怖かった。拳で戦わなくてもこうやって支配出来るものなのかと実感しました。」



瑛真の身体は思い出したのか震えてる。



「それに気がついてからあの般若のお面がずっとこちらを見ているような気がして集会が終わると俺は駆け出していました。走っても走っても出口がない⋯⋯。集会に行ったのはその一回きりです。」



瑛真は一息つくと少し落ち着いたように話を続けた。



「訓練の時は良かったんです。自分より強い者も多かったし手合いをして指導もしてもらえる。でも出口がないんじゃ親父の仇討ちの為に強くなりたいのに何のために強くなるのかって思って俺は困りました。

そこで瞬に会ったんです。懐かしいちゃんと自分の瞳をもった人にようやく会えたって嬉しくなった。」



霜月は瑛真の肩にポンと手を置いた。



「ありがとう、よく話してくれたね。

私たちは瑛真に会う前に黒獅子の里の近くで白龍の里の者に会いました。彼らも黒獅子の里の者となり洗脳状態にあった。しきりに黒獅子のことを褒めていました。

⋯⋯私が洗脳して上書きしましたが。」




それを聞くと黄龍と緑龍はきょとんとした。



「あはは、霜月は幻術使いだったな。」

「いや、霜月くんは幻術使ってないんじゃないかな?」



緑龍は口角を上げて口を挟んだ。そう言った緑龍を黄龍はじっと見た。すると霜月はにこりとするとこう返した。



「緑龍殿は本当に鋭い。洗脳に幻術は必要ありませんでした。四人しかいなかったので2日間みっちり洗脳しましたよ。今ごろは洗脳も無くなっていることだと思います。」


瑛真は霜月の話を聞いて緊張して背筋をピンとしている。

黄龍は不満そうな顔をしている。



「全くお前は恐ろしいやつだな⋯⋯補足説明感謝する。しかしそんな様子じゃ黒獅子の里に行った者は使い物にならないな。」

「里長会議もすぐに開けないし、脱里の者に目を光らすくらいしかないかな。

それにそろそろこの国の表で一番大きな戦いが来る。」



緑龍も口を開いた。霜月はそれを聞くと黄龍の方を見た。

黄龍は霜月にカードを見せた。



「おそらくはじめに動くのは五百蔵いおろい本人の軍と阿道軍との全面対戦だと噂されている。もともと五百蔵は阿道の臣下だったから謀反ってわけだ。それもあって俺たちは呑気に里を離れられないってわけだ。」



霜月は遠くを見て考えた。

そこへ緑龍がポツリと言った。



「同じタイミングで黒獅子の里が反旗を翻さないと言いけどね。」

「まさか」


霜月と黄龍は強い口調で言った。

それを見た瑛真は何の話か全然分からなかった。霜月は恐る恐る口を開いた。



滅獅子めつじしの二の舞を起こそうとしている⋯⋯のでしょうか?」

「その線は考えていなかったな⋯⋯脱里した若い忍でも暗器もいて指導して強くすればそこそこの戦力になるぞ。ただ意図が分かんないな。」



黄龍は苦そうな顔をして首を傾げた。

すると瑛真が聞いた。



「滅獅子⋯⋯?」

「忍の間ではあれだけ大きな出来事だったがそれを口にするのは禁句とした。全貌が分からないようにするためにはお互いの情報共有をせずに禁句と言う形で闇に葬ったんだ。」



黄龍は吐き捨てるように言った。

お読み頂きありがとうございます!

次回は滅獅子について全貌を探ります。

次回の作者にすみイチオシの台詞↓

「同じ人が二人いる⋯⋯?」

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