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第22話 瑛真の脱里

瑛真は目を覚ました。目の前には兄弟子七人が瑛真を覗き込んでいた。



「瑛真!」



皆が瑛真に声をかけた。

一樹が瑛真の顔を覗き込んで声をかける。



「怪我はないか?」

「一樹さん、どこも大丈夫っす。」

「良かった。こいつらは毎日お前の手合いに行くし、俺だけ仲間外れかと思ったら対戦者が俺なんだもん、ビックリした。でも強くなってて俺すげー嬉しい。」



一樹は満面の笑みで瑛真を見ていた。

他の兄弟子が口を開いた。



「一樹は蘇芳すおう先生が亡くなってから瑛真のことを一番に気にしてたんだ。その気持ちは汲んでやってくれ。」



瑛真はその言葉を聞くとがばっと起き上がり一樹を見た。一樹は真面目な顔をして瑛真の正面で片膝をついた。



「瑛真、俺たちも蘇芳先生の弟子だ。先生の仇を取りたい気持ちは同じだ。

瑛真、お前に俺たちの願いを託しても良いか?」



他の兄弟子も次々と片膝つく。各々が自分の赤龍の首飾りを首から外すと手に握り瑛真の正面に突き出した。

赤龍の里では一番伝統的な依頼方法だ。



「蘇芳先生の赤龍の首飾りを必ず取ってきてくれ!」



瑛真は自分の赤龍の首飾りを首から外す。そして片膝をつく。

そして瑛真は皆の目を見て大きな声で宣言する。



「瑛真、必ず親父の赤龍の首飾りを取り返してやります!!」



そして八人は拳をぶつけた。



遠くからその様子を見ていた諒は声を上げる。



「かっこいいー!!」

「痺れるよな!!」

「にゃーん。」

「おっ?だてまきは武闘派なのか?」

「ふふ、猫パンチとかするのかな?」



瞬と諒はお互い見合わせて笑った。

霜月は頃合いをみて瑛真に声をかけた。



「瑛真、赤龍殿にお目通りするよ。」



一行は再び赤龍の家につくと部屋に通される。すでに赤龍は部屋の中で待っていた。



「入れ!」



赤龍は大きな口を開ける。赤龍は瑛真を見ると自分の膝の前に手を出して、目の前に座るよう促した。

霜月、瞬、諒と力也は瑛真の後ろに並んで座る。



「瑛真、赤龍の里より脱里を許可する。」

「はい!!」



瑛真は大きな声で返事する。



「ただし」



赤龍は再び大きな口を開ける。

霜月が刺すような目線で赤龍を見た。



「赤龍の首飾りはそのままとする。また希望があればいつでも里に戻ることを許可する。」



瑛真はぽかんとした。



「えっあの⋯⋯」

「蘇芳の仇を討ったら報告しに来るんだろう?違う用事でも良い。

いつでも里を出入りして良いと言っている。赤龍の小さき獅子よ、必ず会いに来い!」



霜月は満足そうに目をつむった。瞬は口を横に開けて喜んだ。

瑛真と赤龍は首飾りを外すと拳に持ち、お互い拳を合わせた。



赤龍は次に瞬を呼んだ。

瞬は赤龍の近くに座る。



「高継との戦い見事だった。こんなことなら瞬を里に入れる条件にすれば良かった。」



赤龍は瞬ににやりとしながら言った。



「俺は霜月さんのものです。どこへも行きません!」



瞬はすかさず言い切った。

少し沈黙が流れる。

そこへ瞬をちらりと見て諒は助け舟を出す。



「瞬、言い方!赤龍殿が勘違いしちゃう。」



霜月は下を向いている。力也も腕を口元に当てている。瞬は諒の方を振り向き赤龍の方に向き直ると口を尖らせて言い直した。



「⋯⋯俺は霜月さんに命を拾われた身。この命を持って霜月さんに恩を返します。なので赤龍の里へは入りません。」



赤龍は大きな口を開けて笑う。



「はっはっはっ、悪かった、冗談だ。実はすでに白龍から瞬と諒は勧誘するなと釘を刺されているんだ。それにしても面白いやつだな。」



赤龍は懐から紙を取り出した。一行はその紙に釘付けになる。



「見たことあるか?尊助の札だ。瞬、受け取れ。」

「えっ尊助の札ですか?もちろん何かは知っていますが⋯⋯」

「俺は先代陽炎殿⋯⋯秋実殿には恩がある。実は兄弟喧嘩を収めてもらったことがあるんだ。それに高継の燕の件もあるしな。」



瞬は躊躇していると霜月が口を開いた。



「瞬、受け取れ。君がもらうべきものだよ。」



瞬は片膝を床につき、赤龍の持っている札に手を伸ばす。



「ありがたく頂戴いたします!」



札を掴むと赤龍の目を真っ直ぐ見て感謝すると受け取った。




赤龍の家を後にして里の出口に向かった。出口に着くと力也は口を開いた。



「いろいろとありがとうな。こちらも身になることが多かった。里の者の士気も一段と高くなった。またいつでも来てくれ。」



瑛真と力也は首飾りを外すと拳にもち、他の者は拳を作り、皆で拳を合わせた。



赤龍の里から離れると瞬は口を開いた。



「霜月さん次はどこに向かってるんだ?」

「緑龍の里だよ。」



先ほど赤龍との瑛真と瞬の話が終わると霜月は少し大きめの布の袋から赤龍に薬を渡していた。赤龍への緑龍からの薬の量は少ない。赤龍は礼を言っていた。



「さっき霜月さんが赤龍殿に渡していたのは薬だよな?」

「そうだよ。もともと赤龍の交渉に使う予定だったけど使わなかったから恩を売っといた。」



霜月はちらりと諒の方を見るとこう続けた。



「影の功労者はこっちだけどね。」

「諒?」

「瞬は玄磨に使った痺れ薬の話を覚えてる?」

「あぁ、遅効性のやつだろ。諒は痺れ薬に詳しかったもんな。」



瞬の言葉を聞いて諒は嬉しそうにする。

霜月はこう付け加える。



「白龍の里は毒の方が価値を置いているが、治療においては痺れ薬、つまり怪我した患部を麻痺させたりする効果のほうが大事なんだ。諒は里で一番痺れ薬に詳しい。」

「諒ってすげーやつなんだな!」



瑛真がそう言うと瞬も同意した。そして諒は照れたように笑うとこう説明した。



「へへっ、里に現存している痺れ薬の情報と里の周りに自生している薬草の検証をして情報を集めているよ。里の周りの薬草については白龍⋯⋯おじいちゃんの許可を得て白龍と緑龍の両里の情報交換って形で緑龍の里に渡しているよ。向こうからは薬草による怪我の様子また治療の報告なんかが共有されてる。」



緑龍の里に使う山道では白龍の里とはまた違った自然豊かな景色が広がっていた。瞬たちは緑龍の里につくと入口で少し待った。

すると一人の男が走ってくる。その男は近づいてくると声をかけた。



「諒殿!霜月殿!」

「橘さん!」



諒はその男に声をかけた。橘は瞬と瑛真を見た。そこで霜月は二人を紹介した。

その後、程なくして緑龍の家に通された。

家の中に空気が通っていて瞬は他のどの里よりも穏やかに感じた。皆は部屋に通されると、瞬は部屋を探っている。だてまきは霜月の隣に座った。

そこへ緑龍が部屋に入ってきた。緑龍は口を開いた。



「諒くん、霜月くん。それから⋯⋯」



瞬は口を開いた。



「瞬です。」



緑龍は瞬の方を向く。瑛真も口を開いた。



「瑛真です。」



緑龍は瑛真の方を向いた。

瞬はあれっ?と思った。

緑龍は瞬の方を向いて口を開いた。



「瞬くん、僕は目が見えない。その代わりに気配で分かるから安心して。

⋯⋯そちらの小さいお客さんは?」

「にゃーん。」



だてまきは少し遅れて部屋の中へ入ってくると緑龍の隣に座ると丸くなった。



「だてまきです。」

「にゃん。」

「ふふ、はじめまして。」



霜月はちらっと緑龍を見ると緑龍は霜月の方へ顔を向けて口を開いた。



「霜月くん僕の力を説明して良いよ。君たちは気配で敵ではないとわかるから。」

「承知しました。瞬と瑛真、緑龍殿は完全結界と言って緑龍殿が解除するまでどんな攻撃を当てても壊れない結界をお使いになる。」

「何かあれば里の範囲くらいなら僕が死ぬまで完全結界を張れる。今は白龍の里、赤龍の里、それから影なしの里の尊助の札を持っているから危機的状況になれば助けを求められる。」



緑龍は付け加えた。

霜月は意外な顔をした。



「赤龍の里もですか?」

「さっき赤龍が来ていたよ。そうだ、瑛真くんは赤龍の里出身だったね。」

「はい、そうです。」

「影なしの里もですか?」



瞬は聞いた。



「⋯⋯おそらく影なしの里はどの里にも尊助の札を出しているよ。」



瞬は意外に思った。他の里から恐れられる存在なのに何かあれば助けるのか⋯⋯。



緑龍は諒に向かって笑顔で言った。



「そうだ、諒くんこの前植えた薬草育ってきたから伊万里のところに行って様子をみてもらえるかい?早く薬効を試したい。」

「交配の組み合わせも新しいのを試したいですね。」



瞬は諒が緑龍と話しているところを見ていた。諒のやつ、すごい成長してるんだなと感心した。

諒は霜月の方を見るとこう聞いた。



「霜月さん、僕は伊万里ちゃんのところに行ってくるね。瞬も連れて行って良い?」

「うん、行っておいで。」



霜月は笑顔で答えた。そして諒は瞬の腕を掴む。



「瞬、行こう。」

「おっおう。」



瞬はそう答えると諒に連れられていった。

緑龍の家の外に出ると里の端のほうに向かって歩いた。諒は経緯を説明した。



伊万里いまりちゃんっていう女の子がいるんだけど薬草育てるのが上手いんだ。それでね僕が瞬の話ばっかりしてるから、今度会ってみたいなって言ってたよ。だから、瞬は一緒にお手伝いしてね。」

「諒、俺の話ってなんだよ?」

「いっ色々は色々なの!」



諒はきっぱり言った。

里の端のほうに来ると薬草畑が段々になっていた。山の斜面に作っているようだった。諒は手を振って呼んだ。



「伊万里ちゃーん」



二人は伊万里に近づいた。伊万里も諒と同じくらいの身長で小さかった。まつ毛が長くて目がクリっとしていて可愛らしい女の子だ。長い髪を背中の真ん中辺りでゆったりと一つに結わえている。



「諒くん」



伊万里がそう言うと瞬を見た。

諒は胸を張って瞬を紹介する。



「伊万里ちゃんに話してた瞬だよ。」

「あなたが瞬さまなのね。」


伊万里はそれを聞くとぱあっと喜びひまわりのような笑顔で瞬の方へ口を開いた。

瞬はいつも諒にやるように屈んで目線を一緒にすると嬉しそうに言う。



「伊万里ちゃんか!可愛いな!!」

「諒くんの話していた瞬さまはこんなに素敵な殿方だったのですね。」



まぁと伊万里は声を上げると両手を口元に持っていった。伊万里は可愛いと言われて照れているようだ。目を伏せがちにちらっと瞬の方を見た。

瞬はコロコロと表情が変わる伊万里の事をじぃっと見ている。諒も可愛い方だがその可愛さは全然違う。だてまきとは違うが癒されるなぁと考えていると諒は口を尖らせてこう言う。



「瞬、見すぎ。」

「ふふ、照れますわ。」

「あぁ!悪い。」



しかし諒は伊万里の反応からまんざらではないのを感じていた。諒は伊万里の後ろに荷物があるのを見て確認する。



「伊万里ちゃんこれからそれ運ぶの?」

「えぇ、一度倉庫にしまって来るわ。諒くんはここで薬草を見ていてくれるかしら?」



伊万里は後ろをちらっと見ると伝える。



「それなら瞬も連れてって!

荷物は持たせなくてもいいから話し相手くらいになると思う!」



諒はニコッとして言った。諒は霜月さんと同じくらいしたたかな笑みが出来たと思った。瞬は諒の言葉を聞いてきょとっとしている。

そして伊万里が荷物を持とうとする。


「じゃぁ瞬さま、一緒に行きましょう」

「俺が持つよ!」



瞬は手伝いをかって出る。

すると伊万里は大きな荷物を片手でひょいっと持つと瞬に顔を向けた。



「私の力は身体強化なんです。こんな怪力女可愛くないですよね。」



伊万里は下を見ながらうんざりしていた。瞬は諒が身体が小さくても努力して成長している姿を目の当たりにしていた。こういうのはきちんと伝えるべきだと思うと瞬は真面目な顔をして伊万里の瞳をじっと見た。



「伊万里ちゃんは自分の使える力を正しく使ってる。それが何の悪いことなんだ?俺は伊万里ちゃんをすごいと思うよ。」



瞬は伊万里の瞳を見続けていると瞬の奥底を覗いてくるような心が透かされる気がして慌てて目を逸らしてこう呟いた。



「それに伊万里ちゃんの笑顔はひまわりみたいで俺は⋯⋯好きだな。」



伊万里は真っ赤になって持っていた箱を落としてしまったが、瞬に見られていなくて良かったと思った。

バササ、伊万里が荷物を落とした。

瞬はハッと顔を上げて伊万里を見る。伊万里は慌てて膝をつき荷物を集めている。伊万里の顔は赤かったので、瞬は荷物が当たったのか心配になって近づいた。



「顔赤いけど荷物当たった?」



伊万里は横にブンブン顔をふる。

瞬も荷物を集める。同じ荷物に二人の手が伸びる。先に荷物を触ったのは瞬だった。それを見た伊万里はすんでのところで手を止めた。

しかし瞬はなぜか自分でもわからなかったが動きが止まった伊万里の手を反対の手で握った。

伊万里が目を見開いて瞬を見た。瞬は思わず伊万里の記憶が流れ込んできた。伊万里の過去を見て瞬は真剣な顔で目の前にいる伊万里を見てしまった。

すると伊万里は顔を逸らして言葉をこぼした。



「瞬さま、お手をお外しになって下さい⋯⋯。このままでは心臓が爆発してしまいます⋯⋯。」



しばらくして記憶を見ていた瞬の感覚が今に戻ってきた。あわてて瞬はパッと手を離すと伊万里に平謝りを始めた。



「本当にごめん!!」



遠くで見ていた諒は呆れていた。



「瞬は本当に気がついてないんだ?伊万里ちゃんも大変だな。」

お読み頂きありがとうございます!

次回は唯一の黒獅子の里経験者の瑛真が黒獅子の里について語ります!

次回の作者にすみイチオシの台詞↓

「黒獅子⋯⋯大きな羽織をして頭の上から布をかぶって般若のお面をつけていました。」

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