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第20話 瞬の決闘

瞬は決闘当日の朝だというのにムスッとしている。諒は瞬がすごく機嫌が悪そうに見えたので聞いてみると霜月が夢に出てきてうなされていたらしい。瞬は夢の中で急所という言葉にうなされたかと思えば夢の最後に霜月が出てきた。今日で夢を見るような熟睡は終わらせてやると息を巻いていた。

霜月はちらりと瞬を見る。顔色も良好、調子は悪くなさそうだ。



赤龍の里に降りてみると里の端にある木に囲まれた広場に決闘場が出来ていた。高継ももう到着している。瞬と高継は視線を交差させた。高継は少し口角を上げて落ち着いた様子でこちらを見ている。

瞬の姿を見た里の者たちは瞬に寄ってくると囲んで声をかけた。

そこへ赤龍がやってきた。



「瞬は人気者だな。」



赤龍は瞬の真後ろに立っていた。

一気に静けさが漂う。里の者は邪魔にならない位置へ移動していった。

赤龍の元へ瞬、高継、霜月、諒、瑛真が円になるように集まった。諒はだてまきを抱っこしている。

赤龍は揃ったことを確認すると里の者たちの方へ顔を向け声量のある声で決闘の説明を始めた。



「皆の者、今日は瞬と瑛真がそれぞれ決闘をする。

瞬が勝てば瑛真に脱里を許可する。

瞬が負ければ霜月は里へ来る。」



低いがよく通る声で赤龍は言った。

それを聞いた里の者から歓声が上がる。



「なんだ?霜月はそんなに人気なのか。

決闘のルールは武器無し。勝敗は相手が戦闘不能または棄権により決定する。何か質問は?」



霜月は手を挙げる。赤龍は視線を寄こす。



「決闘が終わってからの追加条件、追加交渉はしないと約束してください。」



赤龍は気に食わないという顔をしたがきっぱり言った。



「霜月は何を企んでいるのか⋯⋯。分かった、決闘が終わってからの追加条件、追加交渉はしない。この赤龍、二言はしない。」



霜月は会釈した。

赤龍は手を前に出し両者の準備を促す。



瞬と高継は決闘場の真ん中に向かい合って立った。

赤龍は大きく息を吸い込むと勢いよく言った。




「両者、はじめぃ!!」




高継はボクサースタイルで構える。

瞬は前に飛び出す。

ジャブ、ジャブ、フック後ろに下がる。

高継もジャブ、ワンツー。お互い技量を探り合う攻撃が始まった。力也の言う通り高継はキレイな攻撃フォームだった。

高継がミドルキックを出す。瞬は軽くいなす。高継がキックに出した右足を戻して地面に付く直前に瞬は真っすぐ右手を前に出す。

脱力、脱力、脱力

高継の胸に当たるギリギリまで粘ってから

収縮、掌底突き。



ドゴン!!高継は後ろにふっ飛ばされた。そのまま瞬も追う。高継は追ってきた瞬がストレートを繰り出すのを見て上からフックを合わせる。それを見た瞬は素早く拳を引っ込め後ろに下がる。その後も高継はガードばかりで攻めて来ない。焦れた瞬は思わず右脚のミドルキックを出す。



脱力から収縮!瞬は訓練の成果を出していた。タイミングよく当たる。高継はガードする。

瞬はガードされた足に違和感を感じる。

足を地面に戻した瞬間、今までより段違いの早さでがボディーブローを下から瞬にねじ込む。みぞおちにキレイに食い込み瞬は30センチほど地面から足が浮き地面に崩れ落ちる。

崩れ落ちる瞬間に高継は瞬の胸に蹴りを入れた。瞬は後ろに吹っ飛ぶとそのまま木と木の間の草むらに突っ込んだ。瞬は何が起きているのか分からなかった。



霜月は思わず身を乗り出す。

今、高継の身体が瞬間的に大きくなった気がした。



瞬はできる限り深呼吸して息を整えた。今までと高継の威力が全然違った。瞬は腕で顔ガードをすると戻ってきた。高継は涼しい顔をしている。

瞬は高継に踏み込んでストレートを出す。高継のみぞおちにはキレイに入った⋯⋯はずだった。



何かがおかしい。手応えがない。



高継は勢いを付けると左フックを瞬の脇腹に出す。瞬はガードする。するとガードの上から拳が当たるが瞬はふっ飛ばされた。拳が当たる瞬間腕の筋肉が盛り上がったのだ。その時霜月から声が投げかけられる。



「瞬、気をつけろ!相手は身体強化の力を使ってるぞ。」

「高継!瞬に身体強化を見せてやれ!」



赤龍は怒鳴る。霜月は赤龍を睨むと赤龍はにやにやしている。武器は無しだが暗器は良いのか、どんな理屈だと霜月は心の中で叫んだ。

高継はぐっと力を入れると全身の筋肉が盛り上がり筋肉隆々になった。瞬はたじろぐ。



「これじゃあ護堂と同じ、いや護堂を超える筋肉だぞ!」



力也は声を上げる。力也の焦り具合から高継の暗器を知らなかったようだと霜月は判断した。

瞬は変な汗をかいてきた。急所を狙おうにも相手のスピードが上がり攻撃をガードするので精一杯だった。

気を抜けばガードの上からの攻撃でふっ飛ばさせる。ガードしている腕もところどころ変色している。相手の隙を見てボディーブロー、ストレートを入れてもびくともしない。高継からストレートパンチが来る。ガードを下げたいけど下げられない。瞬は拳を固く握り顔からガードを下げない。

絶対に防御はしないと!

高継のパンチが瞬の腕に直撃する。ふっ飛ばされたが腰を落としてなんとか踏ん張る。



防御⋯⋯最大の防御で攻撃。

瞬はハッとした。

"基礎がきっちりしていて模範的な動きをする"、力也の言葉が思い出される。

模範的と言うことは予想したところに確実に来ると言うことだ。



「高継さんよぉ、俺と遊んでくれるのは嬉しいんだがそろそろキメくれてもいいんだぜ?」



瞬が挑発する。高継は片側の口角を上げる。



「確かに一方的過ぎて、これじゃあ弱い者いじめだな。」



再度、高継はぎゅっと筋肉を絞り上げると瞬の方にものすごいスピードでやってるきた。




一発で決めないと、二度目は通用しない。




瞬は構える。瞬はガードを下ろしてパンチを誘う。高継は誘いに乗ってきた。



高継が踏み込んだ。



(よく見ろ。目をそらすな。)



右パンチがくる。


瞬に恐怖が押し寄せる。






それでもギリギリまでパンチを引き付けてから、上体を出来る限り右に倒して首と肩の隙間にパンチが通るように避ける。


瞬の右手のパンチが高継の顔に直撃する。




カウンターパンチ!!!




高継は崩れ落ちる。

膝をついてそのままのうつ伏せで倒れる。静寂が流る。



瞬は肩で息している。




やった!倒したぞ!




瞬は霜月の方に振り返る。



霜月と目が合う。



瞬は口を開く。

霜月も口を開いた。



「瞬!まだ終わっていない!!!」



霜月が怒鳴った。

瞬は振り返る。

高継が意識を取り戻したようで少し動いている。



こんな時はどうしたら良いんだ? このまま後頭部を叩いて決めるか?



瞬は動けなかった。



とにかく動くしかないと思い直し瞬は膝を地面につこうとする。

高継はすでに手をついて片膝ついていた。



「ダメだ!瞬、もう遅い!相手を追うな、相手が立ち上がるのを待て!」



霜月はまた怒鳴る。

瞬はピクッと反応して後ろに下がった。

高継は顔を押さえながら立ち上がる。



高継の様子を見た赤龍は歯ぎしりした。



「あいつ、燕を使ったな?」



霜月は赤龍の方を鋭い目で見ると尋問する。



「つばめ⋯⋯一体それは何です?」

「一時的な興奮剤だ。アドレナリンが身体中に溢れ、脳のリミッターが無くなる。その感覚は飛ぶ燕のような開放感と高揚感から燕と呼ばれる。」



赤龍は霜月を苦い顔をして見ると問いかける。



「⋯⋯決闘を止めるか?」



霜月は周りを見た。

誰もが勝敗を楽しみに決闘を見ている。今止めればこちらが悪役になってしまう。

霜月は赤龍に投げかけた。



「赤龍殿はどうお考えですか?」

「もちろん、本来なら良しとはしないが今回はタイミングが悪い。様子を見てもいいか?

まずくなったら止めに入るから霜月も準備をしておけ。」



霜月は赤龍を見て頷いた。二人は構えながら瞬と高継の決闘を見続ける。

もどかしい⋯⋯今はただ瞬を見ているしかなかった。

霜月はさっきより拳を強く握った。



瞬は立ち上がる高継を見つめて呟いた。



「バケモンかよ。」



瞬は困っていた。

切り札のカウンターパンチはもう使えない。

打つ手がない。


高継が立って手を開いたり閉じたり身体が動くことを確認するとこちらに向かってきた。次は急所だ。しかし顎にパンチをかすめてもびくともしない。ガードしようにもガードし続けた身体は限界に近い。キックも入れないと厳しいか。

瞬は迷った。そのうちにまた高継から攻撃が来る。脇腹に激痛が来る。



このままだと肋骨も折れる。



瞬は前を見る。高継は苦しそうな素振りもない。

急に瞬に恐怖が襲ってきた。

⋯⋯本当に殺されるかもしれない。



その時脇を押さえて膝を少し曲げた瞬の首の部分に高継の腕がぐるりと巻かれようとしている。



瞬は目を見開いた。



毎晩霜月に絞め倒された1ヶ月。

今の瞬はこの流れを熟知している。



これはヘッドロック!



瞬は下を向きながら目を見開く。

一瞬意識が遠のいた。

まずいこの感覚意識が無くなるやつ!

真っ暗な海の中で藁をも掴む勢いでもがく。手がちぎれるほど足が石になるくらい瞬は動かした。



うおぉぉぉぉ!!!



高継は瞬の首の部分にぐるりと腕を巻き、後は両腕でグッと絞めるだけになった。高継がグッ絞める直前瞬は脱力した。

その瞬間筋肉が小さくなり元に戻った。

瞬の意識が戻って来る。

がばっと顔を上げた。後頭部に衝撃が来る。



高継が驚く間もなく、瞬の後頭部が勢いよく高継の顔面に直撃した。

瞬は身体を捻って下から高継を確認するとどうやら自分の後頭部が高継に直撃していた。瞬はチャンスだと思った。

高継の頭を両手で掴む。高継の虚ろな目と瞬の目が合う。



瞬は思い切り頭突きした。

ゴン!!



ドサッ、高継は崩れ落ちた。



「やめい!!!」



赤龍が怒鳴る。辺りに赤龍の声が響いた。

その声が無くなると同時に、しんと辺りは静かになった。



「勝者は瞬!!」



赤龍は大声で伝える。瞬は高継が気になって振り返る。高継の筋肉は元に戻っていた。瞬はほっとひと息つくと振り向き皆を見た。

霜月は瞬と目が合うとニコリとした。



「瞬、良くやったね。⋯⋯君の頭突きは痛い。」



霜月は以前瞬から受けた頭突きを思い出しているのだろう、おでこを触りながら言った。霜月を見た瞬はニカッと笑った。



「だろ?」



スッ、赤龍は瞬に近づくと頭を垂れた。

瞬は目の前の光景に衝撃が走った。



「高継が燕と言う薬剤を使ったことを赤龍として詫びる。」



瞬は混乱して霜月を見た。

そこへ霜月が助け舟を出す。



「瞬のストレートがキマったのに高継が立ち上がっただろ?アドレナリンが身体中に溢れ、脳のリミッターが無くなる一時的な効果をもたらす薬を使っていたんだ。

赤龍の里の決闘では薬はズルと見なすんだ。

それから赤龍殿、瑛真の決闘の前に瞬の手当を先にしてもよろしいでしょうか?おそらく全身あざだらけです。」



霜月は赤龍の方を向くと許可を求めた。

赤龍は頷くとこう怒鳴った。



「瑛真の決闘は1時間後とする!」



だてまきは諒の腕から降りると瞬の足元に絡みついた。



【おまけの後日談】


瞬が高継に頭突きで勝ったことは里の誰もが知っていた。その話になると瞬は皆にこう言った。



「俺が霜月さんにちゃんと当たった攻撃が頭突きなんだ。あの時ここで使うしかないって確信したんだ。」



そこに霜月が通りかかる。瞬の背後でぼそりと呟いた。



「瞬の頭突きは痛いよ。」



瞬はじとっと霜月を見るとこう言い返した。



「頭突き食らわせたら霜月さんマジギレして膝蹴りを俺の顔に食らわせようとしてきたじゃん。」

「僕が涙と鼻水垂らしながら止めに入ったもんね。」



そこへ諒がこう付け加えた。

それを聞いた赤龍の里の者たちは口々に瞬の新しい通り名で呼んだ。



“頭突きの瞬”と。

お読み頂きありがとうございます!

次回は瑛真の決意ですね。格上の相手とはどうやって闘うんでしょうね?

次回の作者にすみイチオシの台詞↓

「一樹は瑛真の親父・蘇芳すおうの一番弟子だ。瑛真にとっては兄弟子になる。はっきりいって力量は瑛真より格上だ。」

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